プロポーズ
海から二人で帰宅した。先生は早めに帰宅していて目が合ったが……そらしてしまった。とても顔向けできない。本命がいるのに、本命のそっくりさんと疑似恋愛をしたなんて。
「恭介、彼女できないのか?」
普通に何事もなかったかのように、リクトは話しかけた。それも結構な核心をつく質問だ。
「作らないだけだって」
先生は私の部屋で、リクトが寝てしまって以来、私たち二人に対して無視オーラをかもしだしていたが……今日は普通に話していた。機嫌直ったかな? 大人の対応をしているだけかな。
「恭介、カレンのこと好きなんだろ?」
「はぁ? なんでそうなる? あいつのどこに魅力を感じろというんだ?」
先生は相変わらず私を褒めない。
「美少女でかわいい子が同居していたら、普通好きになるだろ」
「俺は大人だし、こいつの担任だぞ」
「俺、カレンちゃんに惚れた。もらってもいいか?」
「……担任としては校則に反するから反対だ」
「じゃあ、いとことしては?」
「女癖が悪そうないとこを推薦できない」
相変わらず先生はストレートな甘いことは言わない。相手に毒舌を吐きつつ、遠回しに反対している。
「カレンちゃん、ここにいる間だけ彼女になってよ」
「それは……できないよ……」
「あんなことした仲なのに……?」
まさか先生の前で、そんなことを言うなんて――頬が赤くなる。
「あんなこと?」
険しい顔になる先生。
「恭介には秘密だよ。ひと夏の恋なんだから」
リクトは悪びれた様子もなくシャワーを浴びに行ってしまった。
二人だけの空間――気まずいな――
「あいつと何かあったのか?」
先程の一言が気になったらしく、久しぶりに私に話しかけてきた。
「何もないけど……海に行っただけだよ」
テレビを観ていた先生だったが、もう番組内容は眼中にないようだった。
「ごめんなさい」
とても悪いことをしてしまったような気がして謝ってみた。
「リクトは女慣れした遊び人だぞ。あいつの口からは適当な嘘が飛び出すから注意しておくんだな。好きという言葉を100人には言ってるタイプだぞ」
「リクト君の元彼女が先生を好きになって別れたって本当?」
「あいつの彼女に会ったことはないがな」
「そうなの?」
先生は正直者だ。嘘はつかない。ということは、嘘をついているのはリクト?
「おまえは男慣れしていないし、すぐ騙されるから……心配だ」
先生が私を心配してくれている。でも、リクトの言葉、どこまでが本当でどこまでが嘘なんだろう? リクトはわからない……。
「卒業したらちゃんと俺と付き合え。欲求不満をリクトにぶつけるなよ」
「はい」
笑顔で答える。今の先生からの愛の告白ってことだよね。先生と……。いよいよあんなことやらこんなことやら……期待は膨らんだ。
「よだれ、流すなよ」
相変わらずの、毒舌つっこみが先生との心の距離を縮めた。でも……リクトは百戦練磨だ。軽くてチャラい本能のままに生きているような男だ。
翌日、昼間はリクトとやっぱり二人きりで――自分の部屋で宿題をしていると、リクトが背後からぎゅっとハグしてきた。突然のことで私は動揺した。
「大好きだよ、カレンちゃん」
そのまま彼の力で押し倒された。
「遊び人なんでしょ? 元カノの話は嘘って聞いたんだから」
「元カノじゃないけど、昔から俺が好きになる女の人は恭介を好きになるんだよね……カレンちゃんもそうでしょ? 恭介が本命で、俺なんて代わりでしかない」
本心を突かれてドキッとした。カレンが床に寝ている状態で、リクトが床ドン状態だった。家に誰もいない。これは、まずい……。
「大丈夫、優しくするから」
リクトはカレンの体に触れた。リクトは女性の扱いに慣れているのか動揺した様子もない。どうしよう――困惑していた。
「はい、そこまで」
突然、先生の声が聞こえた。
「リクトの考えていることくらいお見通しなんだよ。今日は早めに帰宅したんだ。今は夏休みで仕事、あんまりないしな」
「……恭介」
驚き顔のリクト。
「俺はカレンが好きだから……同意のうえで……」
リクトが釈明する。
「同意だと? こいつは俺に惚れているんだ。お前ごときで満足するはずがないだろ?」
恭介のドSモードが入る。鬼だ。
「そうだよな? カレン……俺のことが大好きなんだよな?」
目が笑っていないが口元だけ笑いながらカレンに問いただす先生。
「はい」
私は素直にそれに答えた。
「俺の嫁になる予定の人なんだ。親戚になるんだから失礼なことをするなよ」
あいかわらず目が笑っていない。
って――それって結婚するってこと? 嫁って言ったよね? プロポーズっていうこと――?
「今日からしばらく夏休みとったから、恋人ごっこはおしまいだ」
ガン飛ばしている先生は正直怖い。
「わかったよ。カレンちゃんとはいい友達でいたいから、悪かった。ごめん」
「よし、いい子だ。ちゃんと謝って仲直りだな」
「恭介、カレンちゃんと結婚するつもりなのか?」
「そうだけど……問題あるか?」
先生はカレンを見る。
「ないです」
カレンは何ともあっさり結婚の承諾をしたのだった。




