表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/35

カレン視点 先生とリクトと

 あれ以来、先生は口をきいてくれないし目も合わせない。リクトと何もなかったとしても、一緒に一晩いたという事実が嫌だったのかもしれない。本当に眠っていただけで何もないのに……。ああ見えて先生は子供っぽいところがあり、やきもち焼きだ。私にあまり好きだと言わない割には私が他の男の人と仲良くするとあからさまに不機嫌になる。先生もおじさんもおばさんも仕事だ。私とリクトは、夏休み。つまり二人きり。

 

「映画でも見に行かない?」

 リクトは、自然に誘ってきた。

「実はさ、観たい映画があるんだけどさー」

 

 本当に映画が見たいのだろう。そして、何となく誘ったという気楽さがリクトからは感じられる。この人は重くない。気軽に友達を誘う姿勢が気に入った。

 

「いいよ、映画私も観たい」

 

 実は、彼氏がいたことのない私はデートは人生初だ。デートではなく、二人で映画を観に行くだけなのだが――映画を男性と二人きり観ること自体人生初なのだ。リクトは先生に似ている。顔立ちとか背格好とか。だから高校時代の先生と一緒に歩いているような気持になるのだ。

 

 私はきっと錯覚していたのだ。先生は普段ストレートに愛情を表現しないけれど、リクトは「好きだ」とか「かわいい」と簡単に口に出す。何となく先生が言ってくれているような気がしていた。顔が似ているせいなのかもしれない。何もない事実に対して執拗に無視する先生の態度も少しむかつく……。もう少し理解してくれればいいのに……。

 

 リクトは明るく面白い。一緒に居ると楽しい。さりげない気くばりが、高校生なのに自然にできる男だ。たとえば、私が車道を歩いているとさりげなく車道側を歩いてくれている。重いものや荷物は率先して持ってくれる。先生にはない女性に対しての器用さを感じる男だ。しかも、リクトの愛情表現はストレートで心地いい。

 

「おまえみたいな変態……」

 とか間違っても先生のようなツンデレモードは見せない。


 

「こんなにかわいい女の子とデートできるなんて、幸せ者だな」

 このようなセリフを恥ずかしげもなく出し惜しみすることもなく、リクトは私に投げかける。先生だったら、そんなセリフは死んでも言わないだろう。先生の場合、口に出して言うわけないだろ! 表情から想像しろ! という俺様的なところがある。Mなところを持ち合わせている私にとっては、そのような態度も萌え要素なのだが。

 リクトはさりげない優しさとノリが軽いので、正直こちらも気が楽だ。重い愛はここにはない。

 

 映画を見て、喫茶店でジュースを飲む。そんな気楽な昼下がり……。思えば、先生とデートするとしても変装が必要だったり、周りの目を気にしすぎたり、あまりいいことはない。一緒にいることは、ハイリスクなのだ。普段はいい意味でも悪い意味でもドキドキだったが、今日は気楽この上ない。私がリクト君にあまり恋愛感情がないからなのか? 禁断の愛ではないから? なのかもしれない。

 

「夏の想い出づくりに明日は海でも行かない?」

「……うん」

 

 少し考えてから、返事をした。

 夏らしい楽しい思い出ができるのか……先生以外との夏の思い出が……。17歳の夏は最初で最後だ。先生との夏の想い出は、花火大会での想い出がある。しかし、最近は先生のことが好きすぎて――少し頭を冷さないと、そう思っていた。

 

 リクトは、そろそろのどが渇いただろうという絶妙なタイミングで、お茶を買ってくるような気が利く男の子だ。きっと彼女が片手では数えきれないほどたくさんいたのだろう。

 

「リクト君は彼女たくさんいたでしょ?」

「なに? カレンちゃん、俺に興味持ってくれた?」

 受け答えが慣れている。17歳にして女性をうまく掌で転がす。

「優しくて面白いから……きっとモテるでしょ?」

「もしかして、恭介に俺が似ているから気になってるとか?」

 

 鋭い……どうして私が先生のこと好きだということがわかるのだろう?

 

「カレンちゃん、真っ直ぐだからわかりやすいよね。恭介も、わかりやすよな。絶対カレンちゃんのこと大好きだろ」 

 第三者から大好きだろ、なんて見破られるとは……不器用な先生だ。

 

「ここにいる間は少しは俺につきあって、ひと夏の想い出づくり手伝ってくれよな?」

「私が手伝えることなら……」

「じゃあ、手を出して。恋人ごっこ」

 

 にこっと笑いながら、ぎゅっとカレンの手を握る。恋人ごっこで帰宅?

 

「え……。先生に見られたら……うち男女交際禁止だし……」

「じゃあ、1分だけ」

 

 手をつないでいる時間はものすごく長くて……かといって、手を離すのも悪いような気がして、1分だけなら……少し経つとすっと手を離す。

 

「想い出づくりに協力ありがとう。高校生の恋愛って感じでいいだろ?」

「そうだね。私には普通の恋愛の経験ってないから」

「普通って? 恭介かぁ?」

「……違うけど」

「俺と普通の恋しちゃう?」

 

 リクトは真面目な顔で私を見つめた。リクトは私が先生を好きなことを知っているけれど、ひと夏の想い出を作りたいらしい。先生はやきもち焼きだ。しかも愛情表現がとっても下手だ。相変わらず帰宅後も、先生はすごくむかついてますオーラ全開だ。

 

 私もやましいことはないのだが……声をかけても無視されるから、放っておこうと思った。相変わらずリクトは、甘えた声で話しかけてくる。

 

「好きな人いないの?」

 リクトに聞いてみた。

「どうかな?」

 うまくはぐらかされたような気がする。

 その後は、映画館の映画が面白かったとか無難な話を振ってくる。普通の同世代の男の子とデートしたことはないから新鮮だった。

 

 次の日は、海に行った。電車に乗って――車ではないあたりが高校生らしい。私も、楽しい夏休みを過ごしたいと思っていた。先生と行くことはできないから。先生は仕事も忙しいし……。砂浜を素足で歩く。砂浜は太陽の熱で熱かった。

 

「水着持ってこなかったの?」

「うん……学校の水着しかもっていないから」

「カレンちゃんのスクール水着見てみたかったあ」

 

 あいかわらず表現がストレートな明るい男子だ。手を引かれて岩場に座りながら海水に足を入れた。リクトが肩をよせた。慣れている。そのままキスされた……。

 

「……え……?」

 不意打ちだ。スピードが速すぎて拒否するチャンスもない。

 

 白いワンピースが青空の下、風になびく。海の解放感が、リクトにこんなことをさせたのだろうか? 私の先生への気持ちを知っているのに?

 

「私……先生のこと好きなんだ」

 ちゃんとリクトに伝えた。

「わかってるって。じゃあ俺のこと、恭介だと思ってよ。似てるでしょ?」

 

 たしかに似ている。高校時代の先生と一緒にいるかのようなタイムスリップしたような気持になって舞い上がっていたのは事実だ。優しいツンデレのデレだけの先生がいる。同じ歳ならいいなとずっと思っていた。ある意味願いがかなったような錯覚に陥っていた。

 

「でもね……私のこと好きって言ってくれないんだ。好きだという意思表示はされたことはあるんだけどね……」 

「恭介は、愛情表現下手だよな」

「先生の気持ちわかっていて、私にキスしたの?」

「あいつやきもち焼きだからな……カレンちゃんかわいいし」

「俺の初彼女を恭介に紹介したことがあって……その女、恭介のことが好きになったから別れてっていわれてさ」

「先生もてるね……でもリクト君、顔立ちは似てるからね」

「その女と別れることになってさ……最初は嫌がらせのつもりでカレンちゃんに近づいたのはあったんだけど……でもマジでカレンちゃんのこと好きになったな」

「なにそれ?」

「俺は大好きだよ。カレンちゃんは普通にいい子だと思うし、超かわいいし」

「愛が重すぎるかもしれないよ」

「俺ならカレンちゃんに甘い言葉を投げかけて優しくできるけど……少し考えておいてよ」

 

 先生そっくりの顔に優しい愛の告白をされてうれしい自分がいた。彼の肩に寄りかかってみる。青空と入道雲とセミの声が夏らしさを醸し出していた。

 

 傍から見たらカップルだろう。でも、彼は私の中では恭介先生の代わりなのだ。リクトには悪いが、それ以上になるとは思ってはいない。それは確定している事実だった。

 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ