下着が洗面所に落ちていたら
【恭介の場合】
別れた状況で同居というのは、正直辛い。気まずいにもほどがある。俺は、一時停止のつもりだったのに、あいつは……永遠に別れるつもりなのか?
それは、突然だった。風呂に入ろうと洗面所に行くと、カレンの使用済みパンツが落ちていたのだ。パンツというのはズボンではなく、下着のパンティーのほうだ。ここは洗面所で洗濯機に入れるときに、何かの拍子に落ちたのだろう。俺はどうするべきだ?
①見て見ぬふりをする ← つまり無視
②拾って洗濯機に入れてあげる ← さりげない優しさ
③触ったりすりすりしたり、においを嗅ぐ ← 変態か
俺は良心の呵責の中、どうしたらいいのか考え込んでしまった。
別れてから、逆にパンツ1枚、ブラジャー1枚に反応してしまう。洗濯物として干してあったりしても以前より視線の先は……カレンの下着だったりする。
人間というものは、手に入らないもののほうが崇高で素敵なものに見えるのかもしれない。もう俺のものではない、カレン。別れようと言い出したのは、俺自身だ。俺自身、これ以上何かやらかすような気がしたから、別れたのだ。担任の生徒と俺の体が一体化したら、法律的にもアウトで……社会的にも教育者的にもアウトで……でも、こんな元ヤンの教師なんぞに好きだと言ってくれたカレンの気持ちがうれしくて……。
パンツ1枚で何、感傷にひたってるんだよ。俺は、つい、かわいい薄ピンクのパンツを拾って握り締める。このパンツの持ち主が、俺に対して愛していてくれた事実がうれしくて……でも……今は、もう付き合っていなくて……。
なんだか……少し泣けてきた。涙腺もろくなってる。やばいな……。使用済みだけあってぬくもりが残っているような感じがした。それは、カレンの愛情とかそういう気持ちのような気がしていて……。
パンツを握り締めて、何泣いてるんだ……。俺は、そのパンツを少しの間鑑賞して、洗濯機に入れた。うん。俺は間違っていない。道徳的には正しいことをしたんだ。
【カレンの場合】
それは 洗面所での出来事だった。美少女カレンが浴室に入ると、先生の使用済みトランクスが落ちていたのだ。多分、洗濯機の中に入れるときに落としたのかもしれない。カレンは考えた。
①見て見ぬふりをする ← つまり無視
②拾って洗濯機に入れてあげる ← さりげない優しさ
③触ったりすりすりしたりにおいを嗅ぐさらにキス ← 変態か
カレンは、良心の呵責の中、どうしたらいいのか考え込んでしまった。
別れてから、パンツ1枚に反応してしまう。洗濯物として干してあったりしても、以前より視線の先は……先生の下着だったりする。人間というものは、手に入らないもののほうが、崇高で素敵なものに見えるのかもしれない。やっぱり……私のこと、先生は嫌になったんだろうな。きっと冷めたんだと思う。使用済みだけあってぬくもりが残っているような感じがした。それは、先生の愛情とかそういう気持ちのような気がしていて……。
でも使用済みのトランクスをこんなに近くで拝めるときはそうそうない。誰も見てないし……。せっかくだから、汗のにおいを感じてみよう。すりすりしてトランクスにキスをしてみた。先生=トランクス、でもないのに。
そんなとき、先生が入ってきた。見られた?! どうしよう?!! さらに嫌われる……!!
「何してんだ? 俺のトランクスに」
先生はあきれ顔だった。私の顔は真っ赤になっていたと思う。
「違うの。ここにトランクスが落ちていて、拾って洗濯機に入れようと思って……」
「今、キスしてたよな? 俺のトランクスに……」
ドン引きされている……キモイって思われている。
「キスなんて、してないよ。見間違いだよ」
絶対ここで認めるわけにはいかない。
「変態」
先生は笑いながらからかうそぶりを見せた。
「ちがいます」
「ド変態の間違いだったな」
「先生、私が変態だから嫌いになった?」
「嫌いじゃないけど……」
「でも、別れようって……」
「俺、男としてオトタクと何も変わらないなぁって思って。おまえの心に傷が残るようなことしたくないし……卒業するまでは一時停止っていう意味で」
【恭介視点 仲直り】
唖然とする美少女。そして、トランクスを握り締めて――美少女は涙を流した。
「よかった、嫌われていなかった……」
「泣くなよ……俺の下着を握り締めて……」
これじゃさっきの俺となんら変わりないじゃないか……。カレンはどうやら嫌われたと勘違いしていたようだった。違う。俺はカレンのことは大好きだ。でも、恥ずかしがり屋の俺は言葉では言わない。
相変わらず俺の使用済みトランクスを握り締めたまま、涙を拭いている。それ、ハンカチじゃないから……と突っ込みたかったが――俺のためなんかに泣いてくれた彼女が愛しくて、誤解が解けたことのほうが俺にとっては大事なことであった。そして、案外似た者同士だということは、俺だけが知っていることだった。カレンは、カレンのパンツを握り締めてさっきまで泣いていた、俺のことを知らないのだから。パンツを握り締めて泣く人間は、そうそういないだろう。
「変態じゃなければカレンじゃないだろ?」
「なによそれ? いつのまにかカレン呼びになってるし」
「あ……」
なるべく野咲って呼ぼうと思っていたけど、心の中でカレンっていつも呼んでいたから、癖になっていたようだ。
「とりあえず、トランクス、洗濯機にいれておこうか」
俺は冷静になって指示してみた。
「はい」
カレンの笑顔は久しぶりだった。俺のほうが カレンから嫌われたのかもしれないと思っていた。あの時、あんなことしなければ……とか、うだうだ考えていた。でも、カレンは俺のことを今でも好きでいてくれた。
「私、先生になら、何されても平気だよ。全然嫌じゃないよ。でも、卒業までお預けにするね」
にこりとして彼女は去る。
あんなこと言われたら、男としてうれしいに決まってる。何されても平気って……。いろんな想像してしまうじゃないか……。俺はカレンとずっと一緒に居たい。
そして洗濯物の中に、彼女のピンクのレースのブラジャーを見つけた俺はつい、このブラジャーを身に着けたカレンを想像してしまった。悲しいかな、男の性。




