オトタクの陰謀
「オトナの100円ショップにいってきまーす」
カレンが、行きつけの近所の100円ショップへ出かけたようだ。アニメオタク男が若干心配だが……。店長のおばさんもいるし……大丈夫だよな?
「いらっしゃいませー」
オトタクが店番をしていた。
「オトタクさん、こんにちは」
「カレンちゃん、こんにちは」
「最近のおすすめってありますか?」
「100円の肩こり解消グッズがおすすめだよ」
「でも、あんまり肩こりしないほうなんで……」
「これね、美顔器としても使えるんだよね。マッサージ効果が抜群でさ。小顔効果もあるから、ためしてみない?」
(ふふふ……パートのおばちゃんにレジは任せて、カレンちゃんを僕の部屋に招くのだ)
「休憩入ります」
これが社長ジュニアオトタクの特権。正しくは、店長の息子だがな。
「新製品だし、このマッサージ器の効果試したくて……ちょっとお茶でも飲んでいってよ」
「え……? 店長さんは?」
「今、出かけていてすぐ帰ると思うけど――」
(今日は夜までママは帰宅しないんだよね)
「お茶、どうぞ」
「いただきます」
「このバイブの振動すごく疲れに効くんだって。ちょっと肩に当ててみるよ」
「え……?」
「どう?」
カレンちゃんは僕のことが好きだからな、絶対二人きりの状況喜んでいるよな。
「別に……肩こってないし」
「じゃあ、背中ね」
僕との時間、楽しんでるんだよなカレンちゃん。
カレンは異常な視線と空気を感じて、なんだか気持ちが悪いから、早く帰りたいと思った。しかし、なかなかタイミングがつかめない。
何……? 背中から腰……お尻のほうまで――? オトタクの奴、マッサージ器を当ててきたよ……? 目的が違うような……帰らなきゃ。
あれ……足がしびれて、立てない……。しかもこのオタク男どんどん胸のほうまで―――バイブを当ててくる……。怖い……!!!! 叫びたいけど 声が出ない……助けて――――!!!!!!!!
カレン、ピンチ!!! どうしたらいいの?
そのころ店内では、オトキョンが先生を見つけて声をかけていた。
「恭介先生、何やっているの?」
「いや……ちょっと買い物に……」
ってカレンを探しに来ただけだけど。
「せっかくだから、お茶でも飲んでいってよ」
兄妹揃って同じセリフを言うあたり、似ているのは否定できない。
「オトタク兄さんは?」
「おかしいわね。今日、店にいるはずなんだけど」
「ちょっと家にあがらせてもらっていいかな?」
何となく第六勘が働いた。
「もう、私の部屋に入ってもOKよ」
「……」
オトキョンの部屋には入らなくていいけど、まずはカレンを探さなきゃ。
「おにいちゃん? いないの?」
電動マッサージ器が……怖い……これ犯罪だよね。助けて!!! 先生!!!!
ブイーン、ブイーンー、静かな部屋に音だけが鳴り響く。電動マッサージ器がこんなに怖い凶器になるとは……。
「カレンちゃんが、僕のこと好きなの知ってるよ」
オトタクがうるっとした瞳を見開いて、カレンにささやく。
好きじゃないっつーの!! カレンは心では叫んだが、怖くて声にならない。
「こーいう行為も、一緒に楽しみたいと思ってるんだよね。カレンちゃんも同じ気持ちだよね」
そんなこと、思ってないって!! やっぱり声にならない。
「お兄ちゃん、どこ?」
「まずい、妹だ。鍵かけるね」
「あれ? お兄ちゃんの部屋、鍵かかってる」
「オトタク!! 野咲カレン、いるんだろ?」
俺は大きな声で怒鳴る。
「カレンさんはいませんよ」
焦るオトタク。
「鍵、開けてくれないか?」
恭介がドアをたたく。
「今、ちょっとだめです……」
(こんな場面見られたら通報される……しかもあの人怖そうだし)
「ちょっとお兄ちゃん、先生がきてくれてるんだから挨拶してよね」
「先生!! 助けて!!!」
カレンがなんとか、必死で声を出した。
俺は、その瞬間ドアを蹴破った。俺の破壊力は半端ない。ケンカで培ったキック力はそこらへんの男なんかとは比べ物にならない。カレンのことが心配になった俺は、火事場のくそ力という力が備わっていたのかもしれない。
そこには手足を100円ショップの手錠で拘束されそうになっているカレンが座っていた。まだ未遂だったが用意された道具と、マッサージ器を体中にあてるオトタク。
「大丈夫か?」
俺は、すぐさまカレンにかけよった。そして、オトタクを一撃で気絶させた。力技は任せろ。俺の得意分野がここで役立つとはな。人生何がどこで役立つかはわからないものだ。カレンを無事保護した。カレンは泣いていた……。オトキョンは兄の危険な一面を目の当たりにして、立ちすくんだ。
♢♢♢
カレンを連れて俺は帰宅した。オトタク本人は、付き合っているとか同意の上と主張していたが、一応、未遂だったので、警察には連絡しなかった。警察沙汰になると、カレンも気の毒だし、生徒であるオトキョンも気の毒だという理由もあった。
俺の渾身の殴りと蹴りで絞めておいたが……あの男にカレンを二度と近づけたくない。オトキョンはそれ以来、俺のところには近づかなくなった。自宅に戻った際、カレンは、俺の胸で泣いた。
マッサージ器を当てられただけでなんとか済んだのだが、あのまま俺たちが行かなかったら――どうされていたのか? 考えただけで恐ろしい。カレンは震えていた。子ウサギのように……。俺は抱きしめて、ただ寄り添った。
カレンには、トラウマが残るだろう。彼女には、せめて女子高校生の間だけでも、男性を避けて生きてほしいと思った。俺も彼女に容易に近づくことは、辞めよう。イチ保護者として付き合おう、そう思った。だから俺は付き合いを解消する決心をした。落ち着いたら、彼女に話そう。
付き合うことを一時停止しようって……。
あれから数日経って、俺はカレンに別れを告げる決意をした。彼女の明るさは最近めっきりなく心配だったが――両思いで付き合っている状態で同居というのは、やっぱり良くないと思ったんだ。あれだけ色々あった後で、こんなことをいうのも正直悩む。嫌いになったわけではないが、俺はこの先カレンと何もせず、同居する自信がなかったんだと思う。
これ以上、尽くしてくれる彼女に、怖い思いをさせたくない。俺だってオトタクと大差ないのだ。ただの男だ。彼女はきっと男自体、嫌になっているだろう。もう、あんな涙は見たくない。
「カレン、別れよう」
俺は告げる。一時停止という意味のつもりだった。カレンならば、別れたくないと涙目で訴えてくる可能性も考えた。
「はじめてカレンって呼んでくれたね。……了解」
カレンはあっけなく受け入れた。
それが一時停止だということも確認のないまま――永遠の別れのように、すんなりと。理由も聞かないのか? あんなに仲のよかった俺たちが……。
もしかしたら、男が嫌になったのかもしれない。俺は嫌われていたんだと自己嫌悪に陥った。これでよかったんだ。俺はたちは元の生活に戻る――それだけだ。




