アニオタのオトタク
僕はオトナの100円ショップの店長の息子。音名タクヤ。通称オトタクと呼ばれている。
背は低めでちょっとぽっちゃり、眼鏡がトレードマークさ。今どきのファッションよりアニメグッズにお金を注ぐのが、僕の流儀さ。僕の夢はママが開店した100円ショップにてアニメキャラのグッズを100円で売るんだ。「全国初アニメ100均」として、リニューアルオープンさせることだ。だからあえて僕の名字もショップの名前に入れたのさ。それを見据えてHPのデザインや商品の受注は全部僕が任されている。
はっきり言って僕は、リア充だと思う。彼女がいるのかって? いるさ……。僕の彼女はアイドル戦隊の真ん中にいる、アニメ美少女キャラだ。イメージカラーはレッドで、その辺の二次元の女子なんて相手にならないほど、かわいい。
僕は、リアルの女性は苦手だ。二次元の女子のほうが夢があるではないか。アニメキャラは裏切らない。排泄物は出さない。若いまま年を取らない。においも臭くない。三次元(現実の人間)の女は生々しいうえ、汚いと感じる。三次元女は悪口を言いうし、いじめたりもする。二次元女(アニメ女)は悪口も言わないし、いじめない。差別なく、ほほ笑んでくれる。だから、二次元最高!!! 人間のアイドルは裏がありそうで苦手だが、アニメの女の子だけは心が許せる。
ママには悪いが一生独身でいいと思う。恋人や結婚なんて無縁でいい。それよりもアニメキャラのグッズにお金を注いだり、動画を見ていたほうが、ずっと人生に潤いがある。さっき自己紹介した男性は、いわゆるリア充なんだろう。でも、僕はそれに負けないくらいリア充だ。
さぁ、次はどんな商品を入荷しようかな。アイドル戦隊のファン仲間とのSNSも楽しいし……。今日は録画した深夜アニメでも観て、仕事の疲れを癒そう。
♢♢♢
オトナの100円ショップの常務取締役は多忙な日々さ。店長であり社長は僕のママだけどね。
僕は次期社長というわけだが、アイドル戦隊が大好きだ。美少女が戦うアニメさ。僕の夢はアニメグッズを100円で売るという、素敵な野望の持ち主だ。ゆくゆくはアニメグッズのショップを全国展開して、声優を呼んで、イベントをしたり、サイン会をしたり……原作者を呼んでのトークショーもいいな。
夢は膨らむばかりの夢男さ。僕は、現実の女性に興味はない。アイドル戦隊のアニメキャラにしか興味はないのだ。
戦っているときのスカートの裾がひらりっていうのが、いつも たまらない僕。つまりパンチラだが、ひらりと呼んでいる。だってパンチラなんて夢ちゃんに失礼だろ? ひらりって言ったほうが夢ちゃんだって、うれしいはずだ。
目の前で、春風がふいた。春一番くらいの強い風だ……。目の前にアイドル戦隊レッドの赤井夢ちゃんがいたんだ。嘘じゃない。本当さ。
赤井夢ちゃんのスカートの裾が風でひらりと舞ったのさ。夢ちゃんは二次元から三次元に来たらしい。僕に会うためにここへやってきたんだ。
夢ちゃんと目が合った。運命の出会いというやつかもしれない。
「はじめまして、オトタクです」
ついあだ名で、自己紹介してしまった。ネーミングセンス、かっこいいだろ?
「こんにちは」
彼女は微笑む。なんと、声も同じだ。
「あら? カレンちゃんじゃない?」
うちのママが夢ちゃんと知り合いだったのか? カレンとか呼んでいたが……。
「こんにちは音名さん」
彼女は清純で素直で美しい。
「うちの息子のタクヤです。よろしくね」
ママったらきっと僕のお嫁さん候補として、この子を選んでくれたんだな。見る目あるじゃないか。
「僕はここの社長ジュニアで、ゆくゆくは全国展開考えているんで」
ちょっとかっこいいイケメン風に野望を話す僕。惚れたんじゃないか? 絶対この子僕のこと好きになったな。
僕は眼鏡の真ん中を押し上げながらズボンを腰まできっちり上げてみる。だって、腰ばきなんて、かっこわるいだろ? やっぱり、シャツはズボンにきちんと入れないと、おなかが冷えるしな。
アニメグッズ100円ショップの全国展開のためにはよき配偶者が必要ってわけで、うちのママがカレンちゃんを引き合わせてくれたんだ。
そう信じて疑わないオトタクだった。カレンはただ、買い物に来ただけなのだが……。オトタクの頭の中は自分中心で回っているようだ。究極のポジティブ主義なのだ。
そういえばカレンちゃん、僕のことをみて、ほほ笑んでくれていたよな。僕の大好きなアニメキャラの赤井夢ちゃんもいつも僕にほほ笑んでくれるんだよな。やっぱり、僕って人気あるよな。
前々から思っていたけれど、僕って超イケてるんじゃないか? カレンちゃんは僕の笑顔にイチコロだし。
僕のファッションセンスはいい線いっていると思う。服にお金はかけてないけれど、服装なんかイケメン芸能人みたいだし。チェックのシャツ、着こなせるのって、正直僕とあの有名芸能人くらいじゃないか。
僕の場合は、シャツはズボンに入れる派だけどね。やっぱりウェストのベルトが見えたほうが、僕としてはかっこいいと思うんだ。根本的に間違ってるとは思っていない。ぽっちゃり男子も結構人気あるっていうしさ。色白って七難隠すっていうけど、僕、美肌には超自信あるんだ。
カレンちゃんのひらり(パンチラ)よかったなぁ。僕はパンチラなんて低俗な呼び方はしないんだ。ひらりのほうがアニメの赤井夢ちゃんだって、三次元のカレンちゃんだって喜ぶだろ? 女心をわしづかみにできる男、オトタク。今日も女子高校生の客が僕のほうをみて、なにやら騒いでいるな。きっと僕のこと素敵とか、言ってるんじゃないだろうか?
実際……女子高生の会話――
「なに、あのキモイ男」
「さっき、レジで見たとき鼻毛出てたよ」
「ちょっとあれは無理だわ」
俺のことかっこいいとか言ってもムダだぞ。僕には、既に両思いの女子がいるんで。ふふふふふ……。
♢♢♢
「カレンさん、こんにちは」
最近よくカレンさんが僕の店にやってくる。わかるよ、僕に会いたいんだな。今日は思い切って、カレンさんにアニメの話をしてみよう。きっと彼女は僕に話しかけてもらえるチャンスを待っているはずだ。
きっと運命なんだよ。君がアイドル戦隊赤井夢ちゃんに似ているのも。僕と出会ってしまったことも。初対面がスカートひらり、だったことも……。全ては神様のお導きってやつさ……。
僕とカレンさんが付き合うための偶然という名の必然さ。ちょっとかっこつけながら、物思いにふける僕、いいじゃないか。
ドキドキドキドキーー胸が高鳴るぞ。初恋にして初恋人、いや、初嫁だ。
「カレンさんアイドル戦隊っていうアニメ、ご存知ですか?」
もちろんご存知ですよね。運命なんだから。
「知ってますよ。深夜アニメの女性が戦うお話ですよね」
やっぱり運命だ。彼女は赤井夢ちゃんの生まれ変わりなんだ。生まれ変わりと言っても赤井夢ちゃんは死んではいないけれど。
「どんなアニメが好きですか?」
思い切って聞いてみる。
「少女漫画とか結構読みますけどね。アニメだとアイドル戦隊は、わりと見てますよ」
運命だ!!!!!
「やっぱり赤井夢ちゃんが悪い男どもを、やっつけるところがいいですよね」
「私もそのシーン好きなんです」
あまりの感動で涙が流れそうだよ。僕は夢ちゃんの王子様になるしかないんだな。思い切って聞いてみるぞ。
「彼氏いたりしますか?」
「いませんよ。うち、校則厳しいから」
(両思いの彼はいますけど、付き合っている未満だし)
やった!! やっぱり僕のお姫様だ。
その時……不穏な影がカレンに迫っていた。
オトタクの妹、音名京香。カレンと同じ女子高に通う同級生だ。
「あの娘、最近私の恭介先生と仲がいいのよね。許せない!!」
見た目はオトタクそっくりの勘違い女子高生、登場です。




