魔剣を渡そう
第八十八話 魔剣を渡そう
「ええとですね、これがシリンダーです。中にピストンが入っています。蒸気でピストンを押してやるんですよ。ピストンは押されると、クランクロッドによって回転運動に変わる訳です。ピストンが押され切ったら、ピストンを戻さないと駄目ですね。今度はピストンの下から蒸気を入れ、上からは蒸気を抜きます。これを繰り返すと、蒸気で回転運動を作れるんです。これが蒸気機関ですね」
エリヤスエーミルとマーヤレーナは神妙な顔で聞いている。
「でですね、難しいのは蒸気を入れる口をピストンの上下で切り替えるんですが、ピストンの上に切り替えるスライド式の弁を付けて、回転軸で駆動させるんです。これで一カ所での蒸気でずっと回してられます。肝心の蒸気ですが、鉄の容器の中で火を焚いて、鉄の管を暖めると蒸気になります。使い終わった蒸気は捨てるか、回収して水で冷やします。水で冷やした方が効率がいいんです」
「エージさんの話を聞くと原理はわかりましたが・・・作るのは大変そうですね」
「蒸気機関のピストンは今でも作れますよ。でもボイラーが作れないですね。鉄の管をどうやって作ろうかと、考えています」
「蒸気機関で馬車を動かし、船を動かす・・・」
「ええ。機織を蒸気機関でバリバリ動かし、製粉もバリバリ出来ます。今はボイラーが作れませんので、難しいですね。只ですね」
「ただ?」
「魔法で風を送ると、ボイラーが要らないと思うんですよ。そのうち作りたいと考えていますね。ロキ当たりに風の魔法を使って貰えば、大量輸送も可能になりますよ」
「なるほど・・・」
「さらに」
「さらに?」
「最初に目指すのは繊維産業でしょう。蒸気機関で機織りを自動化します。すると大量に生産できて、安くなるのですね。安い織物を王国に売りつけてお金を稼ぐ。次に鉄鋼製品を生産し、売りつける。これが成功したら経済を支配できます。経済植民地ですよ。こうなるともう頭が上がりません」
「経済植民地・・・」
「やり過ぎると色々な弊害があるかと思います。既存の手造りは壊滅するでしょう。国で面倒をみる仕組みもいるでしょう。産業を興して人を呼び、娯楽を起こして楽しませる。美味しい食事と酒で楽しんで貰う。恐らく、国の発展はこんな感じじゃないかと思うんですよ」
「エージ殿は相変わらずだな。エリヤスエーミル様、話半分の方がいいですぞ」
いつの間にかミセコール卿がいた。話を聞いていたのだろうか。お付きの騎士は二人だ。
「あ、ミセコール卿。良いところへ。ビールの増産が出来そうなんです。材料を見に行きませんか」
「おお、ビールか。王国のせいでなかなか発注できなくてすまん。案内を頼む」
ビールは生産した全量をミセコール卿へ販売することになっている。一応話を通しておこう。
「ええ。では俺のダンジョンに案内します」
「む? ダンジョン?」
「コニーエディ、エージさんはフィールド型のダンジョンを個人所有しているのですよ」
「まま、どうぞ。ゲル、タオルも持って来てね」
俺はダンジョンの五階層に移動する。
「こ、これがダンジョン?」
ミセコール卿は非常に驚いている。目の前に見えているのはどう見ても宿だ。ダンジョン要素は全く無い。
「コニーエディ、あの建物が温泉宿です。我らがお世話に成っているところですよ。あ、ヴァイシュララナ!」
グリフォンのヴァイシュララナとドュリタラーシュトラが走って近づいてくる。
「グ、グリフォン!」
ミセコール卿は身構えるが、グリフォンが二人に甘えている風景を見て驚いている。
「俺の従魔なんですけど、二人に取られちゃいましたよ」
ミセコール卿は驚いて目を見開いている。
「コニーエディ、頭を撫でてやって」
ミセコール卿が手を出すと、ドュリタラーシュトラが「クェェ!」と鳴いた。ミセコール卿はびっくりして手を引っ込めた。
「クェックェ」
「コニーエディ、笑われてますよ。どうです? 完璧な用心棒を付けて貰いましたよ」
「は、はい」
四階層と三階層はスルーした。二階層がビールの原料、ホップ畑だ。おお、ホップ畑がかなり拡張されている。傍らにはハーブ畑もある。水田もあるな。流石ロキだ。
「あ、エージ君、どう? ホップ増えたでしょう。ビールをじゃんじゃん造っていいよ。ルーさんの魔法でどんどん育つから。あ、団長様、お疲れ様です。ルーさん、こちら騎士団長のミセコール卿ですよ」
ルーは騎士団長に挨拶をする。
「エルフ? 違う。銀髪だからハイエルフじゃないか? 絶滅したと聞いたが」
「ええ。流石ミセコール卿。ロキ、大樽二つ分のホップを頼む。採れたらビールを造る。ミセコール卿、温泉宿で朗読会を行おうと思うんですよ。ビールとパンとチキンも売ろうかと思います」
「朗読会か。ふむ。すまんが最初は当家のパーティで行いたい。ビールを最初に紹介する、という立場は譲れないのでな。朗読会か、うん、面白い。ビールとパン、チキン、料理をお願いしたい」
「コニーエディ、それ全部頼むということですよ。私とマーヤはここから出られないので、父上と行って下さい。十日後とかで良いのじゃないですか」
お、ビールパーティ再び。今度は出張だね。
「畏まりました。十日後ですね。マーヤレーナ様、これから新作料理を作って行きますので、出来ましたらご意見をお願いします」
「私が最初に食べるのか。わかった。楽しみにしていよう」
なんとトマトが手に入ったのだ。楽しみにして欲しい。
我々は五階層の温泉に戻り、多目的広場に集まる。トーレが魔剣三振りを持ってくる。
「団長、ワイヴァーンアックス商会からの献上品です。一降り目は炎の剣。大公にお納め下さい。二振り目は斬鬼の剣。団長、お納めください」
ミセコール卿はトーレから二振りの剣を渡される。
「ミセコール卿、炎の剣は飾りの剣です。実戦では使えないので、儀式なんかで使って貰う用途です。剣がめらめらと燃えて非常にかっこいいですが、常に焼き鈍し状態ですので実戦で使ったら折れるか曲がるでしょうね。ミセコール卿の斬鬼の剣はオーガ等、鬼に効果があるようです」
「いいのか? 魔剣じゃないか」
俺はにやりとして剣の柄を取り出す。握ると魔力の剣が飛び出す。
「俺のは青の魔剣です」
エリヤスエーミルも魔剣、いや魔法のナイフを抜く。刃が青白く光る。
「私のは退魔のナイフ。病魔を寄せ付けないそうです。マーヤは遠目の剣。敵意がある者が来たら鞘が光ります。トーレは風の魔剣。小さな竜巻をおこします」
エリヤスエーミルがにやにやしながら説明してくれる。
「コニーエディ、皆貰ったからコニーエディと父上にも受け取って欲しい」
マーヤレーナもコニーエディに魔剣を見せる。
コニーエディは炎の魔剣を抜いた。刀身から炎が噴き出し、めらめらと燃える。
「凄い。何でも斬れそうだ・・・」
「イエ、使っちゃ駄目ですって。鑑賞用ですって」
俺が言うと皆笑った。
「わかりました。しかと、大公にお渡しいたします」
「さ、ダンジョン名物の温泉で汗を流して下さい。お付きの騎士様も、どうぞどうぞ。今はオープン前ですので特別に無料です」
俺はエルランドを呼び、ミセコール卿一行を案内して貰う。自慢の温泉を楽しんで欲しい。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
本日からキャンプに行ってきます。
更新は少し日にちがあきます。
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