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ドワーフと話そう

第八十七話 ドワーフと話そう


 今日はドワーフに来て貰って、ゲルと一緒に鉄砲の話をしている。フレヤとガッコフルーグにも来て貰った。ドワーフ長老と、中年と思しきドワーフ五人である。後ろでエリヤスエーミルとマーヤレーナが話を聞いている。


 「作りたいのは、銃と呼ばれる兵器です。筒の中に火薬を入れ、鉛か真鍮の弾を入れ、後ろから火を付けると火薬が爆発して勢いよく弾が飛び出します。で、こちらが試作した火薬です。火を付けると・・・燃えましたね」


 俺は火薬に火を付け、燃やしてみる。ドワーフはおおっと声を上げる。


 「火薬は狭い所で火を付けると、燃焼したガスが行く所を無くしてもの凄い圧力になります。弾は圧力に押されて飛び出ていく訳です」


 「成る程、原理はわかった。細かな仕組みを頼む」


 ドワーフは興味を持って聞いてくれる。エリヤスエーミルも本気で聞いている。


 「筒の後ろ側はボルトで固定です。ここが一つの技術課題です。専用の道具を作る必要があります。筒の後ろに火皿を付け、火薬を置きます。この場所に筒側にも隙間を空け、火薬を置きます。何かで火皿の火薬に火を付けると、筒の隙間を通って火が走り、筒内部の火薬に火を付けると弾が飛びでる仕掛けです」


 「ふむふむ」


 エリヤスエーミルが一生懸命メモしている。ドワーフは一切メモらない。


 「課題の二つ目が筒に開ける穴の大きさ、三つ目が火を付ける方法。基本的には火を付けた縄で行きたいです。で、形はこんな感じ。引き金を引くと火縄が落ちて、火皿の火薬を燃やすという方法です。ここま出来ると、マスケット銃と呼んでいる銃になります」


 「ふーん、引き金で火縄が動くからくりがいるのか」


 「次の課題はライフリングです。筒の内部にこういう溝を付けると弾が回転し、命中精度が上がり貫通力も上がります。金属鎧だって楽々貫通します。こうですね、溝は硬い工具で削るのですが、九十度回転しながら削って行けばいいですよね。歯車を使って削りながら回す機構を作らないと駄目ですね」


 「うむ、わかった。早速研究を始める。筒は鉄だろう。鋳込む必要があるぞ。どうする。引き金のからくりは銅でもいいな?」


 「ええ、銅で構いません。でも板バネが必要です。バネは鉄ですね。鋳込むには反射炉を作ろうかと思います。まずはマスケットs銃の開発を行いたいと思っています」


 「ご長老様、メモを」


 エリヤスエーミルがドワーフにメモを渡している。偉い。


 「相済まぬ、御嫡子殿。で、反射炉とは何だ?」


 俺は反射炉を絵に描いて説明する。L字型の炉で、L字の縦線が煙突だ。横線が炉で、先端に石炭を焚き、石炭の向こうに溶かす金属を置く。炉の内部はアーチ構造になっており、熱が反射して中に入れた金属が溶ける仕組みである。金属が溶けたら排出孔から流れ出て、そのまま鋳込む。


 「これだと鉄も楽々溶けますよ」


 「むむむ・・・大きい物も出来るではないか」


 「ええ。先ほどの銃より大きい大砲も作れますね」


 「ふむ。まずは製作前に今日みたいに打ち合わせをしていこう。三日に一回でどうだ?」


 「わかりました。で、例のプロジェクトなんですが」


 「うむ。結構難しくてな、叩いて板にしようとは思ってるのだが、なにぶん大きいので、ロウ付けに苦労しそうでな」


 「そうですよね・・・了解です。進展有れば」


 「エージ、来たわよ」


 ゲルに言われて後ろを見ると、ヘンリッキと奥さんのメリヌ、セリーリアがエリヤスエーミルに挨拶をしていた。


 「ご長老、紹介するのじゃ。ガレンドールで大店のグエルターク商会の副会頭ご一家じゃ」


 ヘンリッキが近づくと長老は立ってヘンリッキと握手をする。


 「紹介にあずかり、恐縮。ガヅソーと申す。実は王国に入れなくなって、困っていたのだ。よろしく頼む。そうだな、まずは品物を見て頂こうか。さ、ドワーフの都へどうぞ」


 ドワーフ達とグエルターク商会の面々はダンジョンの五階層経由で地都へ行った。エリヤスエーミルが苦笑している。


 「国境も無いも同然ですね。関所を置かないと駄目かもしれませんね」


 俺はどきりとする。確かに五階層に関所を置いた方が良いかも。


 「そうですね、五階層に関所を設けますか? 非常に説明しづらいですが」


 「とりあえずはいいです。ミコドールは国境などありませんから」


 「さて、ゲルは反射炉は理解出来た?」


 「う、うん。なんとなく」


 「じゃあ外に行こう」


 「なんじゃなんじゃ?」


 「なんかするのね」


 ガッコフルーグとフレヤも付いて来る。で、反射炉は耐火煉瓦で築炉しなければな・・・俺の家は白っぽい石で出来ている。これでいいんじゃないかな・・・


 「ゲル、俺の家の石を鑑定できるかい」


 「まってね・・・壁、だね」


 「石の種類というか、石を作っている成分だけど」


 「うううん? 難しい事言うのね・・・待ってね・・・大半はケイセキだって。ケイセキって何?」


 珪石か。多分大丈夫だろ。耐火煉瓦も高度な専門知識が必要な分野だ。しかし俺は良くわからない。珪石煉瓦は千五百度は大丈夫な気がする。


 「よし、七階層に行って反射炉を作ろう、行こうぜゲル。炉の材料はこの石でいいよ」


 「うちの魔法で、だよね・・・」


 「うん。もちろん」


 俺達はダンジョンの五階層に移動し、六階層に降りる。六階層は赤茶けた土と黒い砂が広がっていた。


 「驚いた。赤い土は鉄鋼石だよ。黒い砂は砂鉄だね。鉄が作りたい放題だ」


 「エージさん、赤い土と黒い砂、どちらも鉄なんですか?」


 エリヤスエーミルがしっかりと付いてきている。


 「そうですね。両方とも鉄が作れます。けど鉄鉱石から鉄を取り出すには溶鉱炉という特別な炉が必要で、鉄も大量に出来てしまいます。今回みたいな少量なら砂鉄をたたらで取り出した方が早いですね」


 「でもこんなに鉄を使わないでしょう?」


 「え? エリヤスエーミル様、使いますよ? 国の強さは、鉄の生産量ですよ。鉄で蒸気機関をつくるのが長期的な目標です。蒸気機関が出来ると、船を蒸気機関で動かしたり、馬車を蒸気機関で動かせます。機織機も蒸気機関で動かせるでしょうね」


 「エージ君、何言っているの?」


 「フレヤさん、蒸気機関と言う物を作ると、デカイ馬車を作って、一度に三百人位をガレンドールからラグスドールまで一日で運べると思いますよ。船だって五百人乗れる船に成りますよ。火矢を打たれても鉄で作れば燃えないですし」


 「戻ったら教えて貰えないですか?」


 「エリヤスエーミル様、良いですよ。気を取り直して七階層に行こう!」


 七階層は真っ平らな草原が広がっていた。七階層の出入り口階段から離れた所の草をゲルの魔法で刈ってもらう。俺は地面に炉の大きさを描いていく。


 「ゲル、この大きさで頼むよ。細かい所は後で修正できる?」


 「うん、いいよ。炉の形はさっきのドワーフさんとの話の通りね」


 ゲルは呪文を唱えると、地面から構造物が草みたいに生えてきた。


 「おお!」


 「おお!」


 エリヤスエーミルが声を上げる。俺も揚げてしまった。美しいL字型の炉。流石ゲル、普通は耐火煉瓦を積み上げて築炉するのだけど、一個の煉瓦で出来ている。継ぎ目なしだ。流石だ。石炭を入れる口もあるし、横に鉄を入れる口もある。石炭を入れる口から中に入ると、ろの天井も美しく弧を描いている。


 反射炉は恐らく、煉瓦を暖め、煉瓦からの輻射熱で材料を溶かす物だと思われる。上手に熱が反射するように、鉄を置く場所を中心に弧を描くように、成っている。いいぞ。


 外に出ると、溶けた鉄が出る穴が無かった。ゲルに開けて貰う。ちょっと上にノロを出す穴も開ける。鉄以外の不純物がノロだ。ノロは軽いから溶けた鉄の上に溜まるんだ。その上に四角い穴を開ける。作業用の穴だね。


 「うわー。魔法ですか? 一気に出来ましたよ!」


 エリヤスエーミルが驚いている。


 「ほー。これで鉄を溶かすんだね?」


 フレヤも反射炉を見上げている。


 「兄者、これからは鉄の時代のような気がする」


 マーヤレーナは炉を見上げて呟いた。


 「そうですね、その通りですね。マーヤレーナ様。今日で神話の時代が終わり、鉄の時代になったんです。人間の時代が幕を開けたんです」


 俺は高らかに言い放った。


 「そっかー。うちらの時代は終わりなんだね。そしてエージは今も神話の時代だと思っているんだね」


 ゲルも反射炉を見上げる。神話の時代を終わらせるのに神の力を使ったのは何かの皮肉かも知れないし、俺のエゴなのかも知れない。


 「俺のいた世界は神々をあっという間に滅ぼして閉まったけど、こちらの世界は共存した世界にしたい。そう思っているんだ」


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