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エリクサーみたいな物をつくろう

第八十六話 エリクサーみたいな物をつくろう


 「どうぞ、ご覧になって。あの人の事を知っている方がいて嬉しいですわ。あの人はね、集めた材料をここで育てていたの。今でも育て続けているわ。あの人は、集めた材料を不思議な名前で呼んだのよ。元々住んでいた国の呼び方ですって。ここが胡椒、ここが唐辛子。タイム、パプリカ、山椒、スターアーニス、クミン、ターメリック、セージ、こっちがクローブが採れる木、こっちの木の皮はシナモンよ。あとはトマト。水田には長い米しかないって。短いのが好きだって言っていたのに」


 「・・・始まりの賢者は転生魂ですね?」


 俺はマイリンに訊ねる。


 「ええ。どうしてわかったの?」


 「俺も転生魂ですから。そして、カークーラ・コーキーでは無く、カワクラコウキじゃないですか、正しくは」


 「あら、あら、正解よ」


 「成る程・・・」


 「エージ君、何が成る程なのよ」


 フレヤが詰め寄ってくる。


 「エリクサーの研究じゃ無いですよ。多分、カークーラにとってエリクサーなものを研究していたんです、多分」


 「そうね、エリクサーのようなものっていっていたわ」


 「エージ君、どういう事よ? とんち見たいな言い方は止めてよ」


 「俺も、カークーラも、日本という国から来ました。俺達が好きな食べ物、カレーを作ろうとしたんですよ。俺もカレーが食べたい。こちらの勝手な希望で呼ばれて、故郷を懐かしんで研究したんでしょう。わかります、あ、女王様、麹はありませんか」


 「コウジですよね・・・数百年探したけど有りませんでした。わらわと二人で、世界中を探したんです。ミソとショウユとか言っていましたよ。懐かしいです。じめじめしたところや薄暗い所を一杯回りましたよ」


 「やっぱり無いのか。あれは突然変異だしな・・・生命を生み出すような技だよね・・・あ、あ、そうか」


 「ね、エージ。コウジって何?」


 「ゲル、大麦を発酵させるとエールやビールになるだろ。麹で大豆を発酵させると味噌や醤油という調味料を作ることが出来るんだ。お米で酒も出来るよ。カレーは国民食だったけど、本当の古里の味は味噌と醤油なんだ。カークーラが本当に欲したのは味噌と醤油だね」


 「ね、龍騎士様、エリクサーのようなものを作っていただけないかしら。カークーラは黄色い変なスープしか作れなかったの」


 「いいですよ。大事なスパイスが抜けてましたね。これではカレーは作れないんです」


 「ええ! そんな!」


 マイリンは思わず叫ぶ。


 「大丈夫です。うちの裏山で採れましたよ。コリアンダーです。カレーってターメリックのイメージが強いのですが、実は八割はタコリアンダーなのです。カレーを作るのは結構難しいのですよ。作った事が無い人はわからないんですよ。かなり難しいし、食べた事がある人でもスパイスからカレーを作るのは難しいんです」


 俺は断言する。カレーはインドの料理で、日本料理の要素が全く無い、全く別系統の食べ物だ。俺も十年以上カレーを研究してようやく作れるようになったのだ。普段市販のルーから作っていた人にはスパイスから絶対に作れない。本当だぜ。


 「ああ、足りませんでしたか・・・じゃあ数百年分の収穫を渡すわね。白龍、手を貸して」


 マイリンとゲルは両手を繋ぐ。


 「わ、わ、わ、す、凄い量よ。うそうそ、どうするのこんなに」


 「思い出で育てているので、一切使わないのよ。貰ってね。これからも作るから。苗木や種もあげるわね」


 どうやらマイリンの収納からゲルの収納に直接送り込んでいるみたいだ。


 「よし、じゃあ作ろう。ゲル、コリアンダー、シナモン、クローブ、クミン、ターメリック、胡椒、唐辛子、塩、菜種油、ニンニク、ショウガ、パプリカを出してくれ。マッシャーも」


 マッシャーとはスパイスを棒で潰す鉢である。俺はクミンは半分、ターメリック胡椒、唐辛子は全部粉末にする。小皿にそれぞれ小分けする。


 「ゲル、お米と鍋、水は・・・」


 ゲルはお米を鍋に入れて俺に渡してくれた。タイ米みたいだ。これは仕方ないね。マイリンが魔法で水を出してくれたので研いで、水に浸水させておく。


 ニンニクとショウガをすり下ろし、鶏肉と玉葱を出して貰って切っていく。


 玉葱を切ったところで妖精は遠巻きになった。ん? もしかして香辛料系は妖精は苦手じゃないのか?


 ゲルに簡易竃をつくって貰い、火の玉で米を炊く。心持ち弱火、ピンポン玉程度に小さくして貰う。ぐつぐつと煮えて、蓋から吹き零れて、次第に湯気が出なくなる。ちりちりと音が聞こえた時点でしばらく置いておく。


 さて、カレーだ。鍋に多め、一センチくらいの油を入れる。多いだろ? インド料理だし油は多くなるのよ。


 まずはシナモンを大きなホールのまま炒める。ホールって、粉にしていない状態のスパイスな。


 次にクローブ、最後にクミンのホールを炒め、香りを油に移す。タンパリングっていうんだ。うつったら取り除いて、玉葱を炒める。茶色くなるまでね。ニンニクとショウガを入れる。


 いよいよスパイスを入れて炒める。ターメリックは一、コリアンダーは三の割合だ。残りの胡椒、唐辛子、クミンは適量だ。少なめでいい。カレーの匂いが広がる。


 「結構臭いね・・・」


 ゲルは鼻を摘む真似をする。見まわすと妖精達が遠巻きで眺めている。


 「女王様、大丈夫ですか?」


 マイリンはコクコクと頷く。


 「ママ、結界を張っているの?」


 ブリットマイがくすりと笑うと、マイリンはブリットマイに手をかざす。ブリットマイはギャっと言って逃げて行った。ブリットマイも結界を張っていたのだろう。母親に解除されたようだ。


 鍋にトマトを入れて潰し、炒める。トマトは細長い、イタリアで見るタイプだ。素晴らしい。トマトがあれば料理のレパートリーが広がる。本当に、世界中を旅してきたんだろうな。凄い。


 トマトは煮る時間で酸味と甘みが変化する。煮ると酸味が減り、甘みが増えるのだ。カレーなどは少し煮て、甘みを出した方がいい。


 次に鶏肉を入れ、塩を入れる。味を見ながら、唐辛子、胡椒、塩で味を調え、小麦粉を溶いてとろみを付ける。本当は小麦粉でとろみを付けると水分が分離してしまうんだよね。出来れば少量の片栗粉を混ぜると、お店で売っているルーのようになるんだけど、材料の馬鈴薯が無いよね。残念。


 よし、出来た。俺は皿にご飯とカレーを盛りつけ、皆に渡す。マイリンには一口分を渡した。


 皆が注目するので、最初の一口を頂く。うん、うん。カレー。カレー屋で食べるカレーだ。旨い。旨い。うん、旨い。俺は思わず涙が出て来た。最早帰ることが出来ない日本を思い浮かべてしまった。鳴海さん、俺がいなくて図面作成困っていないかな・・・


 「エージ・・・」


 ゲルは、俺が泣き始めたのを見て、心配している。


 「あ、ごめん。つい古里を思い出しちゃって」


 「わらわも食べるわ。ブリットマイ、半分食べなさい。お父さんが死ぬほど食べたかったのよ」


 ブリットマイとマイリンは鼻を摘んで一口だけ食べた。一口分のカレーを二人で分けるのか・・・


 「ママ、辛い辛い!」


 「ブリットマイ、お水頂戴お水」


 妖精親子は二人とも辛そうである。妖精にはカレー、香辛料の強い物は難しいようだ。


 ゲル、フレヤ、テクラは普通に食べている。


 「うんうん、今まで食べたこと無いね。刺激的だよ」


 フレヤが言うと、ゲルとテクラは頷いていた。


 食べ終わったら、食器も鍋もゲルに収納して帰ってきた。帰るとき、妖精が皆手を振ってくれた。ブリットマイは又来てねと言ってくれた。


 空を飛んで、振り返ると島は見あたらなかった。結界石の効果で見えなくなっているに違いない。


 家に帰ると、温泉のホールにみんなを集めた。


 「エージ君どうしたの?」


 代表してロキが俺に説明を求めてくる。


 「聞いて驚くな。放浪の賢者カークーラが求めていたエリクサーのようなものを再現した。凄いだろ」


 遠くから話を聞いていたエリヤスエーミルも興味を惹かれたのか、話しに入って来た。マーヤレーナとミーアミーサも一緒だ。


 「凄いですね。エリクサーを再現ですか」


 「エリヤスエーミル様、エリクサーじゃありません。カークーラが食べたかった、彼の故郷の人気料理です。自分にとってエリクサーみたいなもの、と言ったそうですよ。カークーラの奥さんが言っていたので間違いないです」


 「エージさん、カークーラは大妖精マイリンとの放浪譚が有名・・・もしかして会って来たのですか?」


 俺はにやりと笑う。


 「兄者、この人に驚いても無駄だ。常識で考えるな」


 マーヤレーナの発言で皆が笑い始める。そこ笑う所じゃ無いのだけど。


 「ほう、じゃあ頂くとするかのう。出来ているんじゃろ?」


 ゲルが鍋を二つ出すと、一つ盛りつけた。見よう見まねでモーラが皆の分を盛りつけてくれる。


 子供のノーラにはは辛すぎるので、水飴をかけた。大丈夫かな?


 「じゃあ食べるかのう。これがエリクサーか」


 「ガッコさん、正しくはカレーと言います。今日はオーソドックスなチキンカレーです。具材を変えると色々なカレーになりますよ」


 フレヤもテクラも俺も、カレーを貰う。お代わりをしたくなるよね。


 「刺激的な味だね。エリクサーってこんな味なんだ」


 ロキの発言で、皆が苦い顔をする。ゲルの血が一番エリクサーに近い事を皆が知っている。体験したロニヤは苦笑していた。


 「フー。汗が出ますね。なんだろ、お代わりを欲しくなります」


 「エリヤスエーミル様、お味はいかがです? 大賢者が探し求めてなしえなかった味ですよ」


 「そう言われると感慨深いですね。フレヤさんみたいに魔法使いの方はどんな感じなのですか?」


 エリヤスエーミルがフレヤに質問する。


 「そうねぇ。大賢者の魔法は収納したり、乾燥させたり、生育を早めたり、水を振らせたり、戦闘に関係無い呪文が多いよねぇ。やっぱりどう見ても畑仕事用の魔法よねぇ。一番高度な魔法は雑草を抜く魔法よね。雑草と雑草じゃないという区分けが難しいのよ。何に使うんだろうと思っていたけど、カレーが食べたかったのね」


 「ロキちゃん、苗や植えれる種ももらったのでお願いするね」


 「うん。いいよ。で、カレーが次の目玉なのね」


 「うーん、どうかなぁ。癖があるでしょう、カレー。俺は大好きなんだけど。ノーラ、辛くない?」


 ノーラは美味しそうに食べていた。良かった。


 「エージさん、僕は又食べたいです」


 エリヤスエーミルがお代わりを貰っている。


 「エリヤスエーミル様が言うのであれば構いませんが・・・」


 滞在二日目にしてエリヤスエーミルがみんなと馴染んでいるのが気になる。

本日二話目です。

多数の方に拙作をお読み頂いています。

本当にありがとうございます。


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