届け物をしよう
第八十五話 届け物をしよう
久しぶりに自分の家で朝を食べている。メンバーは、俺、ゲル、フレヤ、ガッコフルーグ、フレヤの弟子のテクラだ。ロキ達農業部隊は独自で食事をするように言ってある。エルランド一家は宿で食事だ。ミーアミーサも宿で暮らしている。
「ね、エージ、今日妖精さんの所に行かない? ほら、あの宝珠を渡さないと」
「あ? ああ、妖精の結界石だっけ」
俺は言われて思い出した。確かに返しに行かないと。握ると姿が消える宝珠。Sランクのパーティが妖精の島から盗んだと思われる。
「前に行った妖精の島? またムルプとカプルーフを貰ってくるの?」
フレアはエージに向かって難しい顔をする。ムルプは胡椒で、カプルーフは唐辛子の事だ。エリクサーの材料らしい。ゲルの血とは違うエリクサーなのだろうか。胡椒と唐辛子を使ったエリクサー、間違い無くカレーだろう。
「よし、妖精からまたスパイスを貰ってこよう」
「フフフ、駄目よエージ、そんなこと考えちゃ」
「フレアも行ってきたらどうじゃ? 小さな飛龍がいたじゃろう。宝石に封印されている奴じゃ」
ガッコフルーグはフレアに言うが、フレアは首を振った。
「駄目よ、ゲルちゃんを怖がって出てこないわよ」
「大丈夫ですよ、うちらペガサスで飛びますから。バーニクとバーサシはペガサスなんですよ」
「あ、ああ。ペガサスだったんだ。まぁあんたらなら驚かないよ。じゃあ大丈夫か。ガッコ、行くよ」
「ワシは行かんぞ。飛ぶのは嫌じゃ。テクラ、お主が行け」
「もう。空でワイヴァーンから落ちたからって、ねぇ」
「え、あの話が全く見えないのですが。多分私の頭が悪い訳じゃ無いですよね」
テクラは話が理解出来ないようだ。
「わかった。ガッコは留守を頼むよ。じゃあ行くよ」
俺達が外に出ると、フレアは懐から青白い宝石を取り出すと、宝石からエメラルド色のワイヴァーンが現れた。現れたがすぐに宝石に戻り、地面に落ちた。
「殺すぞテメェ」
フレヤがドスのきいた声を出すと再びワイヴァーンが現れた。ワイヴァーンはちらりとゲルを見た。すまないが我慢して欲しい。
「ほれ、テクラも乗りな。Aクラス相当になったら従魔を得ないと駄目だね。飛べるのにしなよ」
フレヤとテクラはワイヴァーンの背にくくりつけられている鞍に座る。俺とゲルがペガサスに乗ると、ペガサスは半透明の翼を出現させた。
「おお、エージ君かっこいい・・・」
フレヤは感想を述べる。
「攻撃力が無いのでワイヴァーンの方が良いですよ! よし、ゲル案内して!」
「ウフフ。バーサシさん、飛ぼうか」
ゲルが優しく声を掛けると、バーサシは羽ばたいて飛び立った。俺とフレヤ、テクラ組が後に続く。
俺達は大海原を飛ぶ。今日も天気は良く、海が青い。イルカが飛び跳ねている。先頭を行く。
「キャー飛んでる! 飛んでる!」
テクラが大きな声を出している。楽しそうだ。顔が笑っている。良いことだ。
「テクラ! 左に見える街がルコドールだ! 右に見える街がキキコだよ! そして海の向こうに見える島が妖精の島だ!」
「ゲル! もう少しゆっくり! 高度も落とせ!」
テクラが寒そうにしている。もう少し厚着をすれば良かったようだ。
俺達は海上から十メートル上空を飛行する。速さは時速六十キロくらいか。魚の群れを見たり、カモメと競争したり、快適な飛行を続けると島が見えてきた。
「ほら、大きな木が見えるだろ、世界樹だ!」
俺が正しくは世界樹ではなく、巨大なメタセコイヤの木を指差すと、フレヤとテクラは驚きの声を上げる。
「凄い!」
テクラはフレヤの肩を右手で叩きながら左指で世界樹を指差す。フレヤは嫌そうな顔をしている。テクラは落ち着いて欲しい。
ゲルは一度海岸に着陸した。皆も後に続く。
「ゲルちゃん、こんな所に島があったかしら・・・ああそうか、結界石で見えなかったのね・・・」
フレヤは首を左右に振って、島を見まわしている。
「じゃ、妖精さんに会いに行くよ! 世界樹の上にいるの! 付いてきて!」
ゲルは一気に高度を上げる。
「うわー。凄い太い! 硬いパン何個分かしら!」
テクラは意味不明な例えをしている。言いたいことはわかるけど。
カモメのコロニーに近づくと一斉に飛び立った。凄い数だ。空がカモメで覆われる。カモメのコロニーの上は妖精の住処である。ゲルは上昇を止める。地上は凄く遠い。
「ブリットマイ! 結界石を持ってきたよ!」
ゲルが叫ぶと木の枝という枝から妖精が一斉に顔を出した。もの凄い数の妖精だ。妖精は小さな翼のある人型と思っていたが、細長い者、ボールみたいに丸い者、翼のある者、無い者、蛇っぽい者、色々な形がある。
「白龍さん!」
ブリットマイが現れた。ブリットマイは人型有翼の妖精だ。フワフワと飛んでくる。大きさは三十センチくらい。
「竜騎士さまも!」
俺は懐から革袋を取り出すと、ちらりと結界石を見せる。
「皆さん、こちらへどうぞ! ささ、どうぞ!」
ブリットマイが両手を挙げると、太い枝が曲がり、世界樹に通路が出来る。
「フフフ、ありがと、ブリットマイちゃん。みんな、行こう!」
おお、世界樹の中に入るのな。メタセコイヤの木なのだけど妖精が住んでいるくらいだから魔力が籠もっているみたいだ。
俺達は世界樹の中に着陸した。広い空間だった。木の葉の壁に囲まれた、木漏れ日の落ちる空間。体育館くらいだ。俺とゲルは枝にペガサスの手綱を結び付ける。ペガサスは世界樹の葉の匂いを嗅ぐと、むしゃむしゃと食べ始めた。
「こら、駄目だよ!」
ゲルは止めようとするが、ペガサスは美味しそうに食べている。
「白龍さん、いいですよ。それよりもこちらへ」
フレヤはワイヴァーンを宝石の中に収納していた。俺達は人間大の全てが銀色というか、白色に輝く妖精に気が付いた。ロングヘアーで美しい女性だ。俺は結界石を女性に渡した。
女性はぽろぽろと涙をこぼした。恭しく奥に運ぶ。奥は木の枝で出来た祭壇だ。人の大きさの水晶が安置されていた。
「うそ・・・おばちゃん?」
「うん。結界石が盗まれてからは祖母が石の代わりをしていたの。でも悲しまないで。ちょっとだけ早かっただけだから。私たち木の妖精は死ぬときに結晶になるの。結晶の集まりが結界石なんだ。ママが今の妖精女王、マイリン」
妖精女王マイリンは水晶の結晶の上に結界石を置くと、砕けて消えて行った。妖精達が一斉に歓声を上げた。結界石の帰還を喜んでいるのだろう。
水晶は砕けて消えたと思っていたが、拳骨ほどのかけらだけが残っていた。マイリンはゲルに水晶のかけらを渡そうとした。
「うちじゃなくて、テクラさんにお願いできないかな」
ゲルはテクラを指差す。
「・・・そうね。白龍に渡しても仕方ないわね」
マイリンはテクラに水晶のかけらを渡す。テクラは手の中の水晶を眺める。
「凄い魔力だわ・・・今なら魔法が使えそう」
どうやらゲルは魔力が不足しているテクラに渡してあげたかったようだ。
妖精女王が俺の両手を握って見つめてくる。俺はどきりとする。
「竜騎士さま、お礼をできるものはここには何も無いのです。お礼としてわらわの体で・・・」
マイリンはちらりとゲルを見る。
「わ、わ、わ、お礼なんて要らないですから」
ゲルが割り込んでくる。
「フフフ・・・冗談よ。わらわはカークーラ様のもの。でも困ったわね。ブリットマイ、あなたが白龍の従魔になりなさい。それくらいしか・・・」
「すみませんが、畑を見せて貰ってもいいですか・・・」
俺は左手に広がっている畑と水田を指差す。
「もしかして、始まりの賢者カークーラ・コーキーの妻、妖精女王マイリン・・・天空のエリクサー畑・・・ここが・・・」
テクラは呆然と立っている。
「エリクサー畑?」
俺はテクラに質問する。
「エージ君、始まりの賢者は魔法を体系化した功労者なのだけど、生涯をエリクサーの研究に当てたのよ。放浪の賢者とも言われているわね。ここだったんだ・・・」
フレヤも感慨深かげである。なるほど。




