魔剣を試そう
第八十四話 魔剣を試そう
夕食はワイヴァーンアックス商会特製のパン、ハーブチキン、鶏ガラスープのポトフ。エリヤスエーミルの口に入れるのは庶民的過ぎる気がするが、仕方が無い。うちの限界だ。急な話だったしね。
エリヤスエーミルとマーヤレーナは美味しそうに食べてくれる。エリヤスエーミルは護衛の騎士達も一緒に食事を取るよう指示、岸さんは申し訳なさそうに食べている。本当は警備の為に、食事など出来ないし、一緒するなど不敬であるためだ。ミーアミーサはテーブルの端で静かに食べている。
こっちは一緒に摂ってくれるとありがたい。
「エージさん、これが噂に聞いていたチキンですね」
「剣聖殿、チキンもパンも美味しい。このパンの柔らかさは食べたことが無い」
エリヤスエーミルもマーヤレーナも喜んでくれて結構である。
「エリヤスエーミル様、パンにチキンを挟むと、戦斧物語で食べていたサンドイッチになりますね」
騎士達から「あっ」という声が聞こえてくる。
「みんな、エージさんは戦斧物語の著者ですよ。凄いでしょう」
なにが凄いのかわからないが、騎士達がおおと声を上げている。
「トーレが皆に読んで聴かせているんです。皆の文字の学習に使わせて頂いています」
「ありがとうございます。騎士様、お疲れでしょうから特製の葡萄酒をどうぞ。グエルターク商会から誰にも売るなと言われているので、少しだけですが」
エリヤスエーミルとマーヤレーナはお酒は早い気がするが、モーラに頼んで皆に出して貰った。
「ワイヴァーンアックス商会は紅茶だけではないのか・・・あ、そあうか。ビールも造っていると聞いたな」
マーヤレーナは少しづつ飲んでいる。エリヤスエーミルも口を付けたが、騎士達は困っていた。
「ああ、護衛がありましたね。ご安心ください。護衛はこちらで引き受けますので、どうぞ、葡萄酒を飲んでください。エルランドさん、ヴァイシュララナ、ドュリタラーシュトラを」
エルランドは外に出ると、二頭のグリフォンを連れてきた。
「グ、グリフォン!」
「あ、大丈夫です。俺の従魔ですから」
俺は頭を擦り付けてくる二頭の頭を撫でる。
「グリフォンが猫みたいに・・・流石エージさん」
エリヤスエーミルが感心すると、騎士達も同意している。
「ヴァイシュララナはエリヤスエーミル様、ドュリタラーシュトラはマーヤレーナ様の護衛を頼む。四十日間だ」
「畏まりました」
ヴァイシュララナはエリヤスエーミルの横に行くと頭を下げる。
「ご主人様より護衛を申しつけられました。よろしくお願いいたします」
マーヤレーナの横ではドュリタラーシュトラが「クェェ!」と鳴いている。
「ヴァイシュララナと言いましたか、よろしくお願いします。話せるのですね」
エリヤスエーミルは既に頭をなで始めた。剛胆だな。怖くないのだろうか。
「エリヤスエーミル様、ヴァイシュララナは魔物に詳しいですので、何でも聴いて下さい。ヴァイシュララナ、ドュリタラーシュトラ、五階層なら背に乗せて飛んであげて」
「と、飛べるのか?」
マーヤレーナがドュリタラーシュトラの頭をなでながら訊ねる。
「クェェ」
「乗ってもいいと?」
「クェェ」
「すまんな。乗る」
既に会話している・・・凄いな。
マーヤレーナはドュリタラーシュトラの背に乗ると外に飛び出していった。
「マーヤ、待ちなさい!」
エリヤスエーミルもヴァイシュララナの背に乗ると外に出ていった。騎士達は慌てて外に出る。上空では二頭のグリフォンがゆっくりと空を飛んでいる。二人は笑顔だ。良かった。
「トーレ様、警備は万全です。どうぞ、ここにいる間はゆっくりなさって下さい。温泉しか有りませんが」
「う、うむ。では我々ものんびりさせて貰うとするぞ。その前に部下達の教育をだな」
騎士達がどきりとする。
「ヴァイシュララナ! ドュリタラーシュトラ! 戻っておいで!」
俺が叫ぶとグリフォンは戻って来た。エリヤスエーミルとマーヤレーナは満面の笑顔でグリフォンから降りた。エリヤスエーミルはヴァイシュララナの頭を撫で、マーヤレーナはドュリタラーシュトラの頭を抱いている。
「クェェェ!」
ドュリタラーシュトラは嬉しそうだ。もしかしたらこの二頭は俺の従魔では無くなるかもしれないね。
「凄い! 飛んだ! 飛んだ!」
マーヤレーナが走って俺の所へやってくる。確か十三歳のはずだ。年相応の笑顔にほっこりする。
「おーい、エージ君、準備できたよ」
フレヤとガッコフルーグが二人で剣を持って現れた。
「エリヤスエーミル様、マーヤレーナ様、御献上いたしたいものがございますので、先ほどのテーブルまでお願いします」
「いや、これほどの歓待を受けてこれ以上何かをしていただくのは・・・」
「事情があってダンジョンを攻略したのですが、魔剣が六振り出たのですよ。あまり強力でもないのでお守り程度に持っていてくださればいいかと」
「ま、魔剣・・・」
トーレがゴクリと唾を飲む。
フレヤとガッコフルーグが魔剣を並べている。皆が食い入る様に魔剣を見る。
「この剣は風の魔剣。小さな竜巻を起こすことができるね。竜巻で牽制してという使い方だね。二つ目は炎の剣。魔力を流すと剣に炎が纏うけど、炎があったからって別に切れ味が増すことは無いし、かっこいいだけだね。三つ目が退魔のナイフ。魔力を流すと悪いものや病気が寄ってこない。お守りだね。四つ目が遠目の剣。これは珍しいよ。正しくは魔剣じゃなくて鞘に魔法が掛かっているよ。悪しき者が来たら鞘が青白く光る。これは便利だと思うよね。五つ目は珍しいよ。青の魔剣。本当の魔剣だ。魔力で刀身を形作る。残念だけど魔法使いにしか使えないね。魔石じゃあとても魔力が追いつかないんだ。六つめ目は斬鬼の剣。コボルド、オーク、オーガに効果が高そうだね」
フレヤは一気に説明する。
「どうぞ、お好きな魔剣を」
俺は剣を取るよう促す。
「遠慮無く頂く。私は遠目の剣。これがあれば曲者がすぐにわかる。兄を守れる」
マーヤレーナは遠目の剣を取った。フレヤが懐から魔石を取り出し、鞘に嵌めた。嵌めた一瞬、鞘が光った。
「光った・・・」
マーヤレーナは剣を抜く。結構短い。短剣の部類に入るだろう。
「さ、エリヤスエーミル様も」
「では、私は退魔のナイフを。近々、ラグスドールは直轄にしようと思っています。代官として私が入ります。これがあれば少しは気が楽でしょう」
フレヤは魔石をナイフの柄に嵌める。魔石を使って、魔力が無い人間でも使えるように細工をしてもらったのだ。流石フレアである。魔道具師と言ってもいい腕前である。
「そのナイフは凄いですよ。ペストも大丈夫です」
ゲルが言い放つ。それは凄い。
エリヤスエーミルがナイフを引き抜くと、青白く、微かに光っている。
「魔石の魔力が無くなったら、光らないからね。気を付けなよ。多分十年は大丈夫だよ。あと予備の魔石。三つづつ渡しておくよ」
「トーレ様とミセコール卿、ガレンドール公にも剣をお願いします。トーレ様は風の魔剣、ミセコール卿は斬鬼の剣でしょうか。風の魔剣は使い勝手がよさそうです。では俺は青の魔剣を貰いましょう。魔力はゲルから貰うというずるが出来ますから。じゃあこの魔剣はゲルに渡すよ」
俺は青の魔剣を手に取り、腰の魔剣をゲルに渡す。刀身が虹色に光る魔剣だ。虹色に光ると何が良いのかはわからない。青の魔剣は剣の柄しかない。完全にビームサーベルだ。かっこいいし、武器を所持していると思われない。
フレヤは残り三振りの魔剣に魔石を嵌めている。フレヤはトーレに魔石が詰まった巾着袋を渡した。
「鉄に炎が纏うと鉄は弱くなるから、炎の魔剣は本当に飾りですので」
俺はトーレに注意点を話す。炎の魔剣は何の為に作ったのだろう。
「凄い・・・私の退魔のナイフは刀身が見えるように鞘を作り直します。トーレの剣は実践で使えそうですね」
「トーレ様、エリヤスエーミル様とマーヤレーナ様を魔剣でお守り下さい」
「うむ。エージ殿任せたえ。魔剣に誓って、お守りいたす」
トーレは剣を眺めながら息巻いている。
「あ、エリヤスエーミル様。これからワイヴァーンアックス商会の商品をじゃんじゃん買って頂ければいいですから、気にしないで下さい」
「ふふふ。成る程。すこし試せないか? 悪意を持った者などいないか・・・む? 光った・・・外か」
マーヤレーナは外を見る。
「今、外にオークを呼びました」
「ゲル、済まないね。ダンジョンマスターのゲルがオークを呼びましたので、トーレ様、竜巻を当ててから斬って見て下さい。多分口に出して願えば竜巻は出るかと」
「うむ!」
トーレは外に飛び出す。
「竜巻よ! 出でよ!」
トーレが叫んで剣を振ると、オーク目がけて人の大きさ大の竜巻が走っていった。オークは竜巻でバランスを崩した。トーレは隙を見逃さず、オークの首を刎ねる。オークの死体は消えて無くなった。
「すばらしい。エージさん、ありがとう。大公家はビールをじゃんじゃん買いますのでよろしくお願いします」
エリヤスエーミルが嬉しそうに声を上げる。
「で、俺の魔剣は・・・」
俺は魔剣の柄を軽く握る。刀身は現れない。強く握ると現れた。青白く光る魔力の剣だ。俺は軽く握り、魔剣を振った時だけ強く握った。おお、これはいい。ほぼ不意打ちじゃないか。
「エージさんの魔剣は反則じゃないですか。しかも魔力をゲルさんから貰うなんて」
「エリヤスエーミル様、エージ殿が一番強いと言うことです」
トーレはしみじみと言い放つと、マーヤレーナは楽しそうに笑った。




