ダンジョンを繋ごう
第七十八話 ダンジョンを繋ごう
俺達は洞窟を突き抜け、ガリク山の洞窟入口に出た。メルガーが暇そうに立っていた。
俺は長老と話しながら地都へ向かって歩き出した。
「ふむ。金属加工をするからドワーフを雇いたいと。まぁそうだろうね。で、王国とラグスドールは恐ろしい疫病が蔓延していて入れないと。まぁ希望者がいれば連れて行ってもらって構わないが、ガレンドールまでいけないだろ。とにかく魔石だね。樽に三十杯だ。どうする?」
「すみませんが地都の入口付近において貰えます? あとここはダンジョンになっていますが、誰か魔力が沢山ある人がいればかんり権限を渡すのでダンジョンマスターになって貰えます?」
俺の問いに長老は首を振る。
「ドワーフに魔力のある者などいない。君が管理してくれ」
一応話はついた。じゃぁダンジョンを繋げてガレンドールに帰るか。
「エージ、これから繋ぐけど、魔石を全部使うから皆さんに並んで貰って」
ゲルの声で三十人のドワーフが列になった。皆樽を抱えている。
「ゲル、五階層に繋いでくれ」
ゲルは頷くと左手に二個のダンジョンコアを持ち、壁に当てた。呪文を唱えると、壁に魔方陣が浮かび上がる。ゲルは呪文を唱えながら樽の中に右手を入れ、魔石に手を触れる。魔石は魔力を吸い取られ、あっという間に灰になった。ゲルは手を抜くと次の樽を持ってこさせた。ゲルはどんどんと魔石を消費していく。残り二樽で魔石を使うのを止め、右手も壁に当てた。呪文の声は益々大きくなり、魔方陣も眩しいくらいに輝いた。
「ダンジョン保有者エージの名においてガリク山のダンジョンとミコドールのダンジョン五階層に通路を造り給え!」
ゲルの声が大きく響くと、魔方陣が消えて大きな扉が現れた。
「ふう、繋がったよ。あとは・・・」
瑪瑙のダンジョンコアを両手で持ち、呪文を唱え始めた。ダンジョンコアが砕け、塵になって消えて行った。
「エージ、ガリク山のダンジョンは廃したよ。元通りのただの通路に戻ったからね」
俺は頷くと、扉を開ける。うんうん、硫黄の匂いがしてくる。
「長老さま、実はですね、ミコドールにダンジョンを持っていまして、この洞窟とミコドールのダンジョンを繋げました。今日は疲れたので一度帰ります。明日、お話しに来ますね」
「なぬ? 繋がった?」
「あ、いつでも閉じれますから。とりあえずお世話になりました。明日来ます」
「う、うむ」
動揺している長老を置いて、俺、ゲル、ガッコフルーグ、ロキ、ペガサス、グリフォンは通路を歩く。グリフォンの背に樽を乗せている。すごい量の魔石だ。とりあえず持って帰ろう。
一分位歩くと明るい場所に出た。ミコドールのダンジョン五階層、温泉のフロアだ。硫黄も採れる。
「ね、どうして五階層なの?」
「ほら、ラグスドールのモーナさんに温泉宿を経営して貰おうかなって思ってね。温泉に入って疲れを取って、ビールを飲んで貰ってお金を毟り取る計算だ」
「え?」
ゲルとロキは驚いている。リゾートダンジョンフロアだぞ。温泉いいじゃぁないか。
俺達は魔石を持ってようやっと家に帰ってきた。
「ただいま!」
「あ、おかえりなさいまし。エージさん」
「お帰りー」
ラグスドールで宿泊した宿の親子、モーラとノーラが迎えてくれた。
「エージ君、どうだった? うわ、何その魔石。非常識な量ね。金貨二万枚分くらいい?」
フレヤが俺の革の鎧を着ている。嬉しそうだ。
俺はなんだか疲れてテーブルに座った。
「エージさん、とりあえずこれをお飲みになって。一番目は女神様にお供えしまたわよ」
モーラがグラスを二個持ってきた。赤い葡萄酒と白い葡萄酒だ。出来たのか。皆の目が俺に注がれている。
「最初はエージ君が飲んで」
「フレヤさん・・・じゃあ味見します」
最初に赤葡萄酒のグラスを傾けて戻すと、山なりにグラスの壁面が濡れる。色はちょうどいい赤色。発酵も適度だ。しばらく山の形を保ち、ゆっくりと落ちていく。うん、葡萄酒の糖分は問題なさそうだ。グラスを回して香りを嗅ぐ。うん、豊かな香り。なかなかだと思う。
皆は不思議そうに俺を見る。一口飲む。本当は吐き出すのだがそのまま飲んだ。やはりデキャンタリングが要るな。俺はもう一つグラスを持って来て貰うと、赤い葡萄酒を注ぐ事で空気に触れさせ、酸化させる。うん、香りが少し甘い香りに変わった。俺はそのまま普通に頂いた。旨い。旨いが、少し物足りない。なんだろう。葡萄の種類と畑だろうな。
「うん、なかなかです。ダンジョンの三階層に葡萄を植えて葡萄酒にしたらもっと美味しくなると思う」
「おお、流石主任醸造家じゃな。何をしておったのじゃ?」
俺は皆にテイスティングの説明をする。
「特に赤は一度空気に触れさせてから飲むんです。容器に移して、空気に触れると葡萄酒が変化します。香りと味が変わるんです。変化を楽しみながら飲んでもいいし、変貸せてから飲んでも良いですよね」
「・・・細かいのう。グッと飲めばいいじゃろ」
「駄目ですよ。ガッコさん。お客さんはそれで構いませんが、我々は大陸最高の葡萄酒を作ります。作り手は最高でなくてはいけません。ガッコさんは酒造の最高責任者ですよ」
「むむむ、その通りじゃ。ワシも学びながら飲むようにしないとな。じゃぁ次は白じゃ」
俺は頷くと同じようにテイスティングをした。思ったより甘くない。スッキリした味なのは間違い無い。旨いは旨いが、もう少し甘くしたかった。この時代は甘味が少ないから、甘い方が受けると思うんだ。白は甘い方が高級と言われるからね。
「うん、美味しいです。もう少し甘くしたかったのですが、これはこれでいいかな」
「良し、皆で一杯づつ頂くかの。既に売れているから飲み干す訳にはいかんのが辛いのう」
「まずはガッコから飲みなよ」
「いいのか? フレヤ。じゃあ頂くぞい」
「はい、どーぞー。赤い方でーす」
モーラの娘ノーラがグラスを持ってくる。
「おいしいの?」
「はっはっは。ノーラはまだ駄目じゃよ」
「えー」
抗議するノーラの頭を撫でながら、ガッコは一気に飲み干した。
「ほう、今までで一番の葡萄酒じゃ」
「次は白い方でーす。黄色いよねー」
「これか・・・ワシが飲みたくて果たせなかった白い葡萄酒」
「ぷ。ガッコあんたまだ戦斧物語を引きずっているの?」
フレヤさんが笑う。
「白と言うより、確かに黄金色じゃな。白葡萄酒が作れるとはのう。地都の連中に知れたらあっという間に飲み干されてしまうのう」
やはりドワーフらしく、一気に飲み干した。
「ほう、甘めの味なんじゃな。赤とは全く別物じゃ。酒精は同じくらいなんじゃな。エアドール殿、旨いぞい」
「ガッコ、少しは香りを嗅ぐとかさ・・・」
「ドワーフに無理じゃわい」
ゲル、ロキ、あとモーラが一杯ずつ味わった。モーラは凄く恐縮していた。
「エージ君、美味しいよ? これ以上の葡萄酒は多分無いよ? 白い方は私好みよ」
「ロキ、甘いな。この葡萄酒の葡萄はどっかから買って来たものだ。どのくらい手間を掛けて育てたのか、どういう品種で葡萄酒に適した品種だったのか、とかわからないよね。ロキが育てた葡萄ならもっと美味しくなると思うけど?」
「え? 私?」
ロキが責任の重さにびっくりしている。
「ガッコさん、葡萄の種類や発酵させる温度でも味が変わるんですよ。これから葡萄の苗を数種類仕入れて色々作りましょう。白ワインですけど葡萄が黴びた状態で仕込むと貴腐葡萄酒といってめっちゃ甘い葡萄酒に成るのですよ。出来ればチャレンジしたいですよね。あと、葡萄の品種改良もしましょう」
「アハハ。ロキちゃんの手に全部掛かっているのね」
ゲルが笑うとみんなが笑った。ようやっと、ガレンドールに帰ってきた気がした。




