洞窟を開放しよう
第七十七話 洞窟を開放しよう
「ガッコさん、あの二人は放っておいて、とりあえず洞窟を開放しましょう」
「そうじゃな、エージ。ゲルとロキは大丈夫かの?」
「うわー。ここがドワーフの地都かぁ。流石ドワーフよね。鍛冶場が沢山あるよ。エルフの都と違うねぇ」
ロキは男と思われていることを忘れ、街並みを見ている。ドワーフの仕事は火を使い、煙が多く出るのだろう。仕事場はテラスと呼ばれる谷間にあるようだ。居住区が地下なのだろう。
「ガッコフルーグ! 久しぶりじゃ。それにしても魔物を退治して・・・モグモグ・・・くれた・・・モグモグ・・・のだな。恩に・・・モグモグ・・・きるぞ!」
髭の生えたドワーフが手に持ったチキンを食べながら来た。年寄りっぽい。というか、髭が長いとか白髪だとか、よく見たら若そうだ位にしか区別が付かない。ロキが男に間違われるのもわかる。全く区別が付かない。参ったな。ドワーフは人間よりも身長が低いが、ガッチリした体型をしていて力持ちだ。恐らく、矮小化した人類だと思う。
動物は、狭い面積の中で生活すると、小型の動物は大きめに、大きめの動物は小さめになる。これを矮小化という。たしかマダガスカルかどっかで小人のようだとか言われた原人が見つかったはずだ。お、ドワーフの女の人がいる。皆胸がデカイ。横幅も凄い。髭は無い。
「長老、久しぶりじゃの。作戦の立案はこっちのエージじゃ。作戦の実行は魔法使いのゲルじゃ。我がワイヴァーンアックス商会の最強の夫婦じゃな」
「ほう、お前さん商会持ちか。ワイヴァーンアックスはお前さんの二つ名だろ」
「うむ。エージは我が商会の主任醸造家じゃ」
あたりが静かになる。
「主任、醸造家?」
「我が商会では紅茶と酒を造ろうと思っておる。まだ試作段階を超えないのじゃがな。ゲル、小さい樽をもってきたじゃろう?」
余ったビールをゲルが収納している。二十リットルくらいの樽だ。あらかじめザックに入れておいた。樽を取り出すとみんなの注目は樽に集まる。
「え? どうしたの?」
ヤバイ。皆の目がヤバイ。ドワーフは酒が好きすぎる。テラスに居るドワーフの目が樽に注がれ、ゲルは動揺している。これは早めに処理するに限るな。
「長老さま、お土産のビールという新しい酒です。エールに似ていますが、エールを超える酒です」
俺はさっさと長老と呼ばれたドワーフに樽を渡すと、皆は諦めた顔になった。流石に長老の酒を奪う事はしないようだ。
「済まぬ、エージ殿。ところで入口の洞窟がダンジョン化して魔物が爆発湧出したのだろう? 終わったと聞いたのだが?」
「ええ、終わりました。しかし内部は毒で満たされているため、魔法で吹き飛ばします。念の為、住民全員の待避をお願いします。終わったら我らで対処したいと思います。監視に何人か付けてください」
長老はちらりとガッコフルーグを見る。
「うむ。長老、ついてくるのじゃ。このコボルドで毒だと言うのを見せるから、よく見るのじゃ」
ガッコフルーグはコボルドを小脇に抱えて洞窟に入る。洞窟は一本道で、降りだ。しばらく歩くと突然広い景色が現れた。
広い空間だった。天井が光っている。魔法なのか? 広場の中央に大きな建物がある。広場の壁はかなり高い。壁が住居になっている。四層だ。敦煌の莫高窟を思い浮かべて欲しい。壁に穴が開けられ、ドアが付けられて住居になっている。
なるほど、新たに住居を増やすことができないのか。
「わぁ。地下なのに空がある!」
ロキは感心している。
「この地都はな、大昔に女神様に賜ったと聞いておる。外と同じように朝になると天井が明るくなるのじゃ。さ、こっちじゃぞ」
ガッコフルーグは大きな扉を指差した。布で目張りをされている。
「じゃぁ少しあけて見るかの」
ガッコフルーグはドアを少し開けると、コボルドの頭を突っこむ。コボルドがあっという間に死んでしまった。ガッコフルーグは慌てて扉を閉める。
「ガッコフルーグ、わかった。洞窟内は毒なのだな? おい、皆は避難だ」
長老は同じく長老のドワーフに避難を指示している。人があらかたいなくなると、俺はロキに風魔法の準備をして貰う。
「ロキ、ドアを開けたら思いっきり風をぶち込め。半日くらいお願い」
「ええ? 半日も?」
「頼む。見ただろう? 毒の抜き漏れがあったらばたばたと死ぬからね。因みにスタンピートをこの毒で防いだんだよ」
「えええ? スタンピート? ここダンジョン化したの?」
「ロキちゃん、魔物がどんどん沸いてきたんだけど、どんどん死んで行くの。凄かったよ」
「へぇ。そっか。わかった。頑張るよ」
ロキは呪文を唱え始める。巨大な魔方陣が地面に浮かぶ。凄い大きい魔方陣だ。魔力だけならゲル並じゃないのだろうか?
「ガッコさん、開けてください」
ガッコフルーグが開けると同時にロキが大量の風を送る。
半日と言ったのには根拠がある。有毒物質や可燃性ガスが充満している場合、安全になるには充満している体積の四倍から六倍の気体で置換してやる必要があるのだ。結構な時間がかかるのだよ。
よく見るとロキの発する嵐が洞窟から漏れている。全部入りきらないようだ。圧力が足りないな。仕方ないか。圧力といってもわからないだろう。
しかし、ロキの魔法は凄い。轟音を上げて洞窟内をパージしてくれている。ドワーフたちも集まって来た。長老は大事そうに樽を抱えて見物している。二時間も経っただろうか。
「エージ君、魔力が切れそう。止めるよ」
「大丈夫。ロキちゃん。ウフフこれで姉妹みたいなものね」
ゲルがロキに肩に手を当て、魔力を流し始める。
「おおお? 魔力を・・・」
「長老さま、ご安心ください。ロキは女ですから問題ないです」
「おお? 女だったのか・・・まぁいいよ。しかし凄いな。こんなに風が起こせるものなのか」
長老が感心しているなか、昼頃に風を送るのを止めた。もう良いだろう。
「ゲル、一酸化炭素はあるかい」
「ないわ」
「酸素はどう?」
「そうね、二割が酸素」
ゲルの鑑定結果だ。今回で空気の鑑定も出来る様になっている。流石ゲル。
「よし、では中に入りますか」
俺とゲルは先頭で入って行く。ゲルが魔法で灯りを灯してくれる。かなり大きい洞窟だった。馬車が十分に通る事ができる。すれ違いも可能だろう。
ん? 何か踏んだぞ。俺は手に取ると、赤い宝石と錆びた剣や棍棒、骨などだ。
「魔石ね。すごい量ね」
「へぇ。魔石か。俺は要らないけど、いる?」
「要らないわよ。王国しか使わないんじゃない?」
ゲルが首を振る。
「少し貰っておいた方がいいよ。魔道具に使えると思うよ。わぁ、やっぱりダンジョン産の魔石はいいね」
ロキが魔石を持って光に透かしている。
「ああ、エージやっぱり魔石ほしいね。全部貰う」
ゲルが魔石をザックに仕舞い始めた。
「駄目じゃ! 洞窟の中の物はエージ殿の物じゃ! 恥を知れ!」
長老が若い(多分)ドワーフを叱り飛ばしていた。
「長老様、珍しいアイテムや魔石は貰いますけど、棍棒は薪にでも、錆びた剣は材料になりませんか?」
「そう言って貰うと助かるのだが、良いのか?」
「ええ。ただ魔石を拾って貰いたいなと」
「うむ。わかった。おい、若い衆を全部集めて魔石を拾え。盗んだら追放だぞ! 心して拾え!」
付いてきたドワーフたちは散って行った。
俺達はどんどん先へ歩いて行く。魔石の量が凄い。
「凄い魔石の量だな。あれ、これドラゴンの鱗じゃないか。牙も残っているぞ」
俺は赤い大きな鱗を集める。四十枚はあるだろうか。人の頭ほどの魔石もあった。ドラゴンの魔石か。
「亜龍の鱗だよ。ドラゴンじゃないよ。でも貴重だね」
ゲルは亜龍の魔石と鱗を収納する。剣が六振りほど落ちていた。
「魔剣だよ。持って帰ろう。まぁ魔力がないと使えないんだけどね」
魔剣が六本も。ゲルは簡単に言うけど、大変な事だ。
ん? あったぞ・・・
「ね、エージあれ」
ゲルも気が付いたようだ。間違い無い、醸し石だ。三つもある。
「醸し石だ・・・やった・・・」
「うそ!」
「なんじゃと!」
魔剣でも魔石でも亜龍の鱗でも反応しなかったロキとガッコフルーグが声を上げて俺の手の中の白い石を見る。
「よくやった、エアドール殿。お主はやる男だと思っていたのじゃ」
俺はにやりとする。これで酒を沢山造れる!
「やったわね。最高よ」
ガッコフルーグもロキも喜んでいる。ワイヴァーンアックス商会には魔石も魔剣も不要だ。必要なのは醸し石。かつて腐れ石と言われて投げ捨てられる石だ。
よく見ると亜龍が死んでいた場所は広場になっている。
「ここが中心部ね・・・」
ゲルが壁に手を当てると、ずぶずぶとめり込んでいく。ゲルが手を抜くと、掌大の巨大な瑪瑙を持っていた。
「ダンジョンコアよ。誰かが無理矢理埋め込んだんだみたいだね。所有者をエージに、管理者はうちにしたよ」
「そうだよね。このダンジョンをどうするか考えないとね。俺はダンジョンを二つも持つのか。ここは遠くてちょっとね」
「このダンジョンとミコドールのダンジョンを繋くよ。そして繋いだ道だけ残してダンジョンをやめるから、良いよね?」
ゲルは簡単に言い放つが、ゲルは女神みたいな存在だから出来るのだろう。
「あはは。ゲルちゃんもだんだんエージ君に似てきたね。簡単にとんでもない事を言うしさ」
「・・・嘘?」
「ううん。行動がそっくりよ。流石にお似合い夫婦だわ。世界最凶の夫婦ね。もちろん最凶の凶は悪い方の字よ」
「俺はそんなに変人なのか・・・」
「褒めているのじゃ。仕方ないじゃろ」
「うちも変人・・・」
ゲルは絶句して凍り付いている。
「・・・これからもよろしくな、ゲル」
「う、うん・・・」
なにか釈然としない。
すこしタイトルを変えてみました。
もしかしたら又変えるかもしれません。




