スタンピートを阻止しよう
第七十五話 スタンピートを阻止しよう
「これがトロール・・・デカイ」
「トロールがどうして麓まで・・・」
俺は単純な感想を述べたが、ドワーフの感想は違うようだ。トロールは腹を食いちぎられていた。身長二百五十センチはあるだろうか? 腕が長く、足が短い。ナックルウォークで歩くようだ。薄茶色の体毛だ。
「トロールはこの辺では出ないんですか?」
俺はドワーフに聞いてみる。
「山奥にいて、滅多に姿を見せないのですが・・・我々の洞窟にも大挙して魔物が現れ、対応に苦慮しております。あ、申し遅れました。私はベリグフーグ。地都に住むドワーフです。トロールを倒していただきありがとうございます。グリフォンを従魔にするとは、名の知れたテイマーなのでしょうか」
髭面で年がわからない。言葉は若そうだ。
「ヴァイシュララナ、方付け頼む。さ、テントへどうぞ。俺はドワーフの都へ行く途中です。エージと申します。こちらは妻のゲルです」
俺とドワーフのベリグフーグは焚き火を囲んで椅子に座る。ゲルは奥ゆかしく立っていると、ヴァイシュララナがが来て、背に座った。
「我々の地都へおいでですか。ご用はなんでしょう?」
ベリグフーグは俺に尋ねてくる。
「ガレンドールで商いをしているんですが、業務拡大の為にドワーフを雇いたくてですね」
俺は差し障りない内容のみ話をする。サラリーマンに戻った感じだ。なんだか懐かしい。
「そうですか・・・でも・・・」
「ん? どうかしましたか?」
「いやですね、私も地都へ帰りたいのですが、魔物が多くて戻れないのです。あのガリク山の麓にトンネルがあるのですが、魔物に占拠されてですね・・・」
「我々の出番ですね。行ってきますよ」
ヴァイシュララナが口を挟む。
「わ! 喋った!」
「こら、驚いているだろ。まぁ頼むよ。強い魔物がいたら戻って来いよ」
「お任せあれ。ドュリタラーシュトラ、行くぞ」
二頭のグリフォンは羽ばたいて飛んでった。大丈夫かな? あいつら強いし、問題ないか。
「ベリグフーグさん、先ほどから地都と言われていますが、ドルゴグゲークは地下にあるのですか? ドワーフの都はドルゴグゲーグだって、うちのガッコフルーグから聞いていましてね」
「ガッコフルーグさん? ああ、お知り合いですか?」
「ええ、ガッコフルーグが商会を設立しまして、ワイヴァーンアックス商会って言うんですよ。ほら、あの人Aランク冒険者で強いですからね。二つ名を商会名にしたんですよ。最近身を固めましてねですね、奥方はAランク魔法使いの爆炎の人形のフレアですね」
「え! あの人冒険者だったのですか! 不器用ガッコおじさんが! しかも結婚ですか!」
そうか・・・鍛冶仕事は出来なかったのか・・・
「Aランク冒険者だから、大陸では結構な有名人ですよ」
「ね、おじさんって言ったよね。もしかして親戚?」
ゲルがベリグフーグに話しかける。
「うわぁ、凄いべっぴんさんだ。びっくりした。おじさんは十九番目の子供で、私の父は八番目の子供ですから、親戚には違いないんですが、どちらかと言うと数が多くて同じ一族と言う感じですね」
「ええ! そんなに子供がいたら地下の街がいっぱいになっちゃうよ!」
ゲルが驚いている。確かに、地下都市は発展が難しい。
「大丈夫です。街に残るのは優秀な鍛冶だけで、鍛冶が出来ない者、雇われなかったものは地下都市を出て行くんです。魔物も多くて、戦いで命を落とす者も多いんです」
なるほどと、話を聞いていたらグリフォンが戻ってきた。二頭とも無事だ。良かった。
「どうだ?」
「ご主人様、やっかいですね。洞窟は一本道なのですが、もの凄く長いんです。そして、ダンジョン化していますね。魔物が溢れ出そうです。まずいですよ」
「そうか。どんな魔物がいた?」
「大蜘蛛やゴブリン、オークは良いにしても、メデューサがうようよしていましたので戻って来ました」
「メデューサ・・・睨まれたら石に?」
「ええ。そうです」
「そ、そんな・・・」
ベリグフーグは絶句している。そうだろうな。洞窟だとゲルが本気を出せないし、少し相手が悪い。ふむ・・・
「どうするの?」
「ベリグフーグさん、ドルゴグゲークはダンジョンになった洞窟以外に出入り口は有りませんか?」
「ガリク山のテラスに出る洞窟もありまして、山にある焼き場、窯場に行けるんです」
「わかりました。洞窟の出入り口を塞ぎ、魔法の火の玉をバンバン撃ちます。酸欠を発生させて魔物を一網打尽にしましょう」
「サンケツ?」
ゲルが不思議そうな顔をしている。ベリグフーグは全く理解していない感じだ。
「生き物はね、息をするでしょう。空気を吸って、吐いて。あ、ヴァイシュララナ、お前も息をするよな?」
「しますよ、ご主人様」
「良かった。この空気はね、八割が窒素というガスなんだけど、二割が酸素というガスなんだ。我々は酸素を吸って、食べ物から摂取した炭素を燃やして生きているんだ。火も同じで、炭素を燃やして火に成るのだけど、同じく酸素を使うんだ。火の玉をバンバン打って、酸素を欠乏させると生き物は生きて行けない」
「ふーん。ようするに火の玉で窒息させるのね?」
「そう! 流石ゲル。で、ベリグフーグさんはテラスからドルゴグゲークに戻ってもらえないですか?出入り口を完全に塞いで貰いたいんです。目張りもしてください。出来れば手伝いも連れて来て欲しい」
「行けませんよ?」
「大丈夫です。ヴァイシュララナ、ベリグフーグさんを乗せてお使いに行ってきてくれ。ドュリタラーシュトラと一緒にね」
「は! お任せあれ!」
「え? 私が乗るんですか?」
「さ、早く乗ってください。我々はペガサスで先に洞窟へ向かいます。さ、行った行った」
ベリグフーグは恐る恐るヴァイシュララナに乗ると、一気に加速して飛んで行った。
「大丈夫かしら? 悲鳴を上げてたけど」
「さ、行くよ」
俺達はテントを畳むと、ペガサスに乗って空を飛んだ。夕刻の中、小一時間も乗ると、洞窟の入口が見えてきた。いや洞窟か? 壁面に掘られた巨大な城壁だ。
「エージ! 魔物が溢れている! ゴブリンがうようよしてるよ!」
下を見ると、俺達に威嚇をしてきている。メデューサは居ないようだ。
「よし、殲滅してくれ」
「うん」
ゲルが返事をすると、魔物がばたばたと倒れていく。俺達は地上へ降り立つと、棍棒を構えたゴブリンや大蜘蛛が大挙して襲いかかってくる。
ゲルは魔物の敵意を検知し、敵意のある者には窒息させて殺してしまう魔法だ。神の怒りと名付けた。かっこいいだろ?
オークとオーガが二十体やってくるが、ばたばたと倒れていく。外にいる魔物が居なくなったので、ゲルは入口に向けて火の玉を放った。三発ほど打ち込むと静かになった。
俺達は中に入ると、焼け焦げた魔物で埋まっていた。肉が焦げる嫌な匂い。俺は慌てて正面のドアを閉める。
「これで一安心。しかし酷いな」
「魔力が溢れているよ。思ったより深刻だよ」
「よし、扉を少し開けるから、火の玉を打ち込んでくれ」
「うん」
「開けるぞ」
俺は分厚いドアを少し開ける。
「ウガァァァ!」
魔物の毛むくじゃらの手が伸びて、俺を掴もうとする。俺は体全体で必死に扉を押さえる。ゲルが火の玉を打ち込むと静かになった。肉が焼ける匂いが充満する。
「ゲル、どんどん打ち込め」
ゲルは頷くと火の玉を打ち続ける。
「おーい、大丈夫か! 酷い魔物の数だ! こんなに・・・」
ベリグフーグは絶句して立ち止まってしまった。ドワーフが二人いる。手伝いを連れてきてくれたのだ。
「よし、手が入る隙間だけ残して隙間を埋める! 石を積み上げて泥で隙間を埋めるぞ!」
俺は大きく叫んだ。作戦開始だ。




