ドワーフの洞窟を目指そう
第七十四話 ドワーフの洞窟を目指そう
俺は砂浜に座り、海を眺めている。焚き火をしながらパンを囓る。硬い。俺達は海岸線を北上し、ドワーフの洞窟を目指している。明日からは西の山脈を目指す予定だ。ある程度飛ぶか、全て歩くか迷っている。
「あ、そうだゲル」
「なに?」
沈み行く夕陽を眺めていたゲルが俺の方を向く。夕陽がゲルを美しく飾ってくれる。
「もしかしてフレアさんって、ゲルと同じように収納する魔法を持っているんじゃないかなって」
「うん、あるよ」
「手紙を書くからさ、フレアさんの収納に入り込んで手紙を届けてよ」
「ええ? 怒られるよ?」
出来るんだ。流石白龍だ。
「いいから。二頭のペガサスを従魔にしました、大きめの轡と鞍を送って欲しい、と」
「ああ、バニークに鞍を付けるのね。もう」
俺はゲルに手紙を渡す。ゲルは懐にしまう。
「送ったよ」
「返事来るかな?」
二人で紅茶を飲みながら夕陽を眺めている。ペガサスは草を喰み、グリフォンは砂浜で昼寝をしていた。
「あっあっあっ気持悪い気持悪い」
ゲルが懐から羊皮紙を取り出した。
「返信が来たよ。グリフォンが着たからびっくりした、バカヤローって書いてある。うちの収納空間に潜り込まれたから凄い気持悪い」
「そうだろうな」
「あとね、鞍は送って上げるけど、チキンを揚げろと書いてあるね」
「チキン?」
「あっあっあっなんか着た気持悪い」
ゲルは懐から油の入った鍋とハーブ、捌かれた鶏肉を取り出した。慌てて仮設の家に戻る。
俺はチキンをハーブに塗し、チキンを揚げていく。うん、良い匂いだ。
「チキンを揚げようとしたのかな? エージって味付けが上手いよね。真似できないんだ」
「そうか?」
「そうよ。恐らくみんな誰も出来なかったんだよ。あの味はエージしか出せないから」
確かに、味付けは塩以外に無いので、味を付ける、という概念から難しいのだろう。
「よし、揚がったぞ・・・ん? ヴァイシュララナ、ドュリタラーシュトラ、お前達も食べたいのか?」
いつの間にかドアの外で、箱座りしているグリフォンがいた。喰わしても大丈夫なのか?
山のように揚げた三羽分のハーブチキンから、少しグリフォンに上げると美味しそうに食べていた。
二人で食べるハーブチキンを残し、大半をフレアさんに送った。グリフォンはまだドアの前に居る。
「ほら、これで最後だ」
「クェェェ」
「あはは、喜んでいるよ」
「食ったら戻った戻った」
グリフォンはこちらを眺めつつ厩舎に入っていった。
「あっあっあっうぇぇぇ」
「来たか」
「はぁはぁはぁ、来たよ・・・うぇぇぇ」
「すまん、ゲル・・・」
「もうしないよ・・・」
ゲルは懐から二頭分の馬具を取り出した。ああそうか。
「どうしたの?」
「鐙がないな・・・足を引っかける所だよ」
「足? 馬は両足で胴を挟み込んで乗るんだよ」
「鐙を付けた方がね、馬のコントロールが容易くなるんだ。ロープでいいか」
俺達は馬具を持って厩舎に移動する。
「これから馬具を付けるから、大人しくしなよ」
俺は轡と鞍をバーニクに取り付けた。鞍は大きいから汗びっしょりある。鞍から輪の付いたロープを垂らし、簡易的な鐙にした。
バーニクは少し落ち着かない。俺は頭を撫でてやる。ゲルが騎乗するバーサシにもロープの鐙を付ける。
グリフォン達は興味深そうに眺めている。
「ヒヒン!」
「これでご主人様も落ちないだろうって」
馬に気を使われているのか・・・
翌日、仮設の家を壊すと、俺とゲルはペガサスに騎乗した。鐙があるので容易く乗れる。
「ヴァイシュララナ! 先行して安全を確保! ドュリタラーシュトラは俺達の警護! 行くぞ!」
飛んで行こうか思ったが、練習を兼ねてペガサスに騎乗して行く事にした。俺は威勢のよい声を上げたが、バーニクはゆっくりと歩くだけである。しかし俺は体が上下に揺れて乗っているだけで大変だった。それでも歩くより速いけどね。
「エージ、いいよこれ! 鐙だっけ! 乗りやすい! バーサシ、行くよ! ジャンプして飛ぼう!」
ええ? もう飛ぶの?
ゲルを乗せたバーサシは大空に羽ばたいた。ヴァイシュララナが傍らに控えるように飛び出した。
美しい。
俺は声が出ず、ペガサスに乗るゲルを眺めていた。まるで神話から降り立った女神である。いや、女神の娘なのだから神話から降り立った女神というのは正解なのだけどさ・・・
「クェェェェェェェエ!」
ヴァイシュララナが歓喜の声を上げる。ドュリタラーシュトラがちらりと俺を見る。飛びたいのか? ごめんな。飛ばないよ・・・
「うわっ」
バーサシは釣られて飛び始めた。
「クェェェェエ!」
ドュリタラーシュトラも歓喜の声を上げる。
「おおお、飛んだ飛んだ」
飛ぶと、地上を駆けているより安定していた。でも地上に降りることにする。練習にならないからね。
「ゲル、降りるぞ!」
「わかった! あ、道があるよ!」
大草原の真ん中に細い道がある。俺は道に降り立つと、駆け足で駆けていった。
一時間に一回づつ休憩を取りながら、西のドワーフの洞窟を目指した。
丸一日乗っていると、かなり慣れてきた。まぁ普通の馬と違ってバーニクが気を使ってくれているんだけどね・・・
大山地が大きく見えて着た。道は登りになり、高度を上げていく。大山地は巨大で、山の上には雪がある。万年雪か。
「おっきいね」
ゲルも夕陽に照らされた山脈を眺めていた。
俺達はここにキャンプを張る事にした。仮設の家は建てず、テントである。俺は夕陽に染まる大山地を眺めながら、硬いパンを囓っていた。
大山地は雄大で静かだった。海とは違う、静寂の世界。実際には多数の生き物や魔物が居て、静寂では無いのだろうが。焚き火の火を眺めつつ、山々を見ていると旅をしている実感が湧いてくる。
「あ、誰か来るよ。ドワーフじゃないかな」
「クェェェ!」
「大丈夫だ、静かに」
「クェ」
俺の横のドュリタラーシュトラが静かになり、箱座りをする。俺は頭を撫でてやる。
「ま、魔物だ!」
ドワーフが斧を構える。
「すみません、俺の従魔なんです。大人しいので大丈夫です」
「クェ」
「最近この辺は魔物が多くて大変なんだけど、あんた達は大丈夫そうだな・・・」
「まぁ座って下さい。お茶いかがですか?」
俺が紅茶を勧めると、ドワーフはすみませんといって受け取った。
ドュリタラーシュトラはドワーフの匂いを嗅いでいる。猛禽類の癖に匂いを嗅ぐのか・・・行動は猫が基本みたいだ。体は獅子だからな。猫といっていいのかわからないけど。
「エージ、魔物よ」
「ヴァイシュララナ行け」
「ああ、オーガの群れが!」
叫ぶドワーフを余所にヴァイシュララナはオーガの群れを駆逐していく。ヴァイシュララナが居れば俺は戦わなくていいのか。楽ですね。数回の戦闘音の後、ヴァイシュララナが戻って来た。
「ご主人様、オーガ二体とトロールでした。死体はどうします?」
「何処かに処分してくれ」
「は! ドュリタラーシュトラ、行くぞ!」
「ああ、ゴメン。トロール見てみたい。見に行くよ」




