ペガサスを仲間にしよう
第七十一話 ペガサスを仲間にしよう
俺は良い香りで目が覚めた。
「もう夕刻よ。はい、紅茶」
俺はゆっくりと紅茶を飲む。うん、旨い。
「あら? 厩舎に何かいるよ。なんだろ? 敵意はないよ」
俺達は厩舎へ向かう。
「・・・・」
俺は真っ白な馬に見つめられていた。二頭いる。ヴァイシュララナとドュリタラーシュトラが困った顔をしている。
「ご主人様、ペガサスがやって来てどかないのです。こいつ等を殺すと縁起が悪いんで、何も出来ないし、おい、ここは我らの為に建ててくださったのだ。ペガサスよ退くのだ」
「え? ペガサス?」
「ご主人様、そうです。こいつら、翼があるでしょう。飛んだら結構速いですよ」
「あら、聞いた事があるよ。北の方にペガサスの巣があるって。迷いペガかな?」
なんだ迷いペガって。
「まぁ厩舎は広いから仲良くしなよ」
「ヒヒーン」
「まぁ私は構いませぬが、おい、ペガサス、このお方は白龍の竜騎士であられるぞ。当然奥方様は龍の王、白龍様だ。わかっておるのか? 貴様はとんだ無礼を働いているのだぞ? 我らなど、爪の一つ与える間も無く負けたのだぞ?」
「ヒヒン?」
嘶きが疑問形になった気がするぞ。
「ゲル様、こいつ等にすこし魔力を当ててやってください」
「ええ? まぁいいわ。えい」
場に一瞬、強大な魔力が広がった。俺は思わず目を閉じる。俺には馴染みが深い、ゲルの魔力だ。俺にとってゲルの魔力は癒しそのものだ。
目を開けると、ペガサス二頭が泡を吹いて腹を見せていた。ああ、やり過ぎた。
「ああ、ごめんなさい! 別に何もしないから、大丈夫よ。ほら、起きて」
ゲルはペガサスに駆け寄り、頭を撫でる。ペガサスは居心地悪そうだ。
「ゲル様はお優しい。従魔にしてしまう方が良いのではないでしょうか」
「ヴァイシュララナ、いいのか?」
「ご主人様とゲル様の御親征の際、必ず先陣を申しつけていただけるのであれば構いませぬ。我ら二頭、いかなる時も先陣は譲りませぬ」
「先陣って、俺達は竜騎士で戦などしないし、もし龍とか強い魔物だとお前達殺されるぞ」
「本望でございまする。竜騎士と龍の王とは、それほどの存在なのです。おい、ペガサス喜べ、お前達は名前を頂いて竜騎士様の従魔にしていただくのだ」
「ヒヒン!」
ペガサスが勢いよく立ち上がり、俺に近寄ってきた。目がきらきらしている。
「お前を従魔にするぞ。いいのか?」
俺は二頭の頭を撫でる。結構可愛い。どうしよう? 名前が思い浮かばない。馬、馬・・・
「よし、お前の名前はバーニク。お前はバーサシ」
俺はペガサスの額に手を当てる。ゲルが俺の腕に腕を絡め、魔力を流してくれる。
「どうだ? 大丈夫か?」
「ね、ヴァイシュララナ、ペガサスって強いのかな?」
「え? こいつら只飛ぶだけですよ。飛ぶ以外は馬と一緒です。魔物としては弱い部類ですよ」
「エージ、その名前、食べ物のような気がする・・・」
「しっ!」
俺はゲルに口を閉じろと仕草をする。
「ああ、もう」
俺にはバーニクが、ゲルにはバーサシが頭を擦り付けている。
「ね、乗ってみようよ」
「よし、乗ってみようか。ヴァイシュララナ、ドュリタラーシュトラ、先陣を頼む」
俺はペガサスに乗る。翼の根本に足をかけ、背に乗る。うーん、鞍がないが仕方ない。足を翼の根本に置くことになるから、鞍も鐙も要らないかも知れない。というか、鐙を装着出来ないな。
「よし、まずは少し駆けようか。バーニク」
「よろしくね、バーサシ」
「御主人様、人間達は馬に乗るときに馬の顔から紐が出ていますよね。バーニクとバーサシには無いですが、大丈夫ですか? 乗りずらそうですよ」
言われて見ると、もっともだ。乗ってみるが、掴むところがない。鬣を掴むしか・・・
乗ると、昔乗馬体験で乗った馬とはかなり違った。翼があるため、普通の馬の鐙の位置より少し足が高くなる。体育座りに近い形で乗る。カスタムされた車高の低いハーレーに乗った感じだ。ああ、俺のハーレーは錆びているだろうな。
立ち膝だと安定して乗れる。急ぐ場合は立ち膝か。
「よし、少しあるいてくれ」
「ヒヒン!」
バーニクが歩き始めると、俺はバランスを崩してしまった。
「わ! 止まって、止まって!」
バーニクは止まると、悲しそうな顔をした。
「うーん、やっぱり翼が邪魔ね。え? 魔力が上がれば翼は大きくなり、魔法の翼になるの? 魔力ね?」
ゲルは降りてバーサシの頭を抱くと、魔力を流し始めた。バーサシは強く輝くと、巨大な翼が現れた。翼の根元は半透明で、胴体とのつなぎ目は見えなくなっている。体も大きくなった。サラブレッドくらいだ。サラブレッドは走るために改良された巨大な馬で、馬は昔、ポニー程度の大きさだった。いつも暴れている将軍の乗馬は明らかにサラブレッドだけど、江戸時代はもっと小さい馬のはずだ。
「よし、乗ってみるね!」
ゲルが乗ると、普通の馬のように乗ることが出来た。非常に立派な白馬で、美しい。思わず見とれてしまう。
「悔しいですが、ペガサスは美しいですな」
ヴァイシュララナも同じ感想を持ったようだ。
「ヒヒン」
バーニクが頭を擦り付けてきた。魔力が欲しいのか。
「ゲル、サーニクにも頼むよ」
「うん! バーニク、おいで」
バーニクはゲルに頭を抱かれ、魔力を通された。バーニクも体が大きくなり、巨大な翼を持った。
「よし、乗るぞ!」
「ヒヒーン!」
乗れない。背が高くなってしまい、鐙がないから乗れない。
「ヒヒン?」
バーニクが腰を下ろしてくれる。済まんな、バーニク。
俺が乗ると、バーニクは立ち上がった。俺は必死にバーニクにしがみつく。鐙が無いので両足で必死にバーニクの胴を挟む。両手は何も持っていない。
「よし、ゆっくりと歩いてくれ」
「ヒヒン」
傍らではゲルが猛スピードで駆け回っている。流石龍だ。運動神経が半端無い。
「うん」
バーニクはゆっくりと歩く。俺はマスケット銃を持つ振りをして、銃を撃つ仕草をする。うん、手放しを練習する必要がある。俺がこれから作るのはマスケット銃である。ライフリングが付いていない、原始的な銃だ。種子島銃もマスケット銃といえばそうだ。
マスケット銃を両手で持ち、構えながら射撃をするのである。王国とガレンドールが戦争になったら、最初は俺が馬で出陣して王国兵の目の前に躍り出ようと思っている。先駆けというやつだ。ゲルの鱗の鎧を着れば、おそらく死ぬ事は無いだろう。ペガサス用の鎧も作れば完璧だな。相手は銃を知らないので、「なんだ?」と戸惑っているうちに魔法使いを射撃するのだ。初見殺しを行い、相手の魔法使いを倒して戦力を奪う、というのが俺の対王国の戦法だ。
先駆けは、俺が時間を早めてしまう罰だと思っている。戦場の華だしね。仕方が無いだろう。
俺が戦場から離脱したら、塹壕から一斉に射撃するのである。これで勝てると思う。
「エージ、何しているの?」
「竜騎兵の真似さ。銃を持つ騎兵を竜騎兵と言うんだ」
ドラクーンとは竜騎兵の事で、竜騎士のことではない。混同している人は沢山いるだろうが、元居た世界には龍は居ないから、龍に乗った騎士などいないのだ。竜騎兵の名前だが、銃が火を噴く様が龍に例えられたのだろう。銃を持つ兵は基本的に歩兵だ。竜騎兵は馬を下りて戦う事もあるらしい。実は歩兵なのか、騎兵なのか良くわからない運用をされている。
「ええ! 本当! じゃぁうちも竜騎兵になる!」
「戻ったら、矢を射る練習をしようぜ。銃が完成したら本当に竜騎兵の練習をしよう!」
俺は落ちそうになって鬣にしがみついた。ゲルは楽しそうに乗っている。少し悔しい。




