襲撃を撃退しよう
第六十七話 襲撃を撃退しよう
「どうでした、エージさん」
宿に戻ると、エリヤスエーミル達は夕食を食べていた。俺とゲルの分も貰うことにする。横では黒い蛇の四人も食事をしている。
「上手くいきました。これがフレドール、ドフレドールの両村を閉鎖する命令書です。フレドールの街は明日の正午で門を閉じるそうです。あと、ラグスドール公家は全てペストに感染、会えたのはヴァルッテリという方です。ヴァルッテリも感染して、高熱でした。ゲルに回復魔法を掛けてもらったら症状が軽くなりました。もしかしたら生き残るかもしれません。誘拐の件はSランクパーティ飛龍団、辺境の村に潜んでいるらしいです。まぁ、辺境の村は既にペストが蔓延していると思いますが」
「・・・わかりました。命令書は預かります。ラグスドールの統治、頭が痛いですね。ペストが落ち着いたら一度直轄にして、私が入りましょう」
「危ないですよ」
「しかたありません。エージさんも言われたじゃありませんか。死に時を考えろと。あ、駄目ですよ、エージさんやゲルさんは来ないでくださいね。来たらどうしても頼ってしまいます。最悪はエージさんの領地になっちゃいますからね」
「兄者、行くな」
「マーヤ、今回は非常事態です。犠牲無しで進める事は出来ません。マーヤはガレンドールで父上の補佐を。弟達では今回は乗り切れないと思う」
ん? なんだ?
「エージ、強い殺気よ。表に出ましょう」
俺達が外に出ると、剣士とエルフの魔法使いが立っていた。ただ者ではない。剣士は四十前後だろうか。重そうな金属鎧を軽々と着こなしている。金髪で、髭を生やしている。女はエルフだ。美しい、痩身の女だ。ロキよりも細いかもしれない。
「召還魂、エージだな。訳あって貴様を斬る。悪く思うな」
俺は一歩前に出た。こいつか? 例のSランク。重そうな鎧に重そうな剣。
「名乗れ。で、どういう訳だ。聞くまでは斬られる訳にはいかない。斬るからには教えろ」
ゲルが前に出ようとするが、俺は手で制する。
「なるほど、一理ある。我は飛龍団、Sランク騎士アクセリール・ミルファン。爵位は騎士。天罰により貴様を斬る」
「天罰? そうか、Sランクの仕事は天罰を与えることだったか。聞こう。天罰の中身を」
「貴様はスキルを無視して討伐を行った。太陽神様はお怒りだ。天罰を受けろ」
「天罰・・・? うそ、天罰ってSランクの仕業だったのか?」
ブロルが動揺を隠せない。黒い蛇の他のメンバーも同じ様子だ。
「天罰の中身は?」
「わかっているだろう。コボルド退治だ」
「え? コボルド退治?」
皆がざわつく。そりゃそうだ。
「エリヤスエーミル様! コボルド退治が犯罪になるという法がガレンドールにありますか!」
「エージさん、罪になるのは盗みと殺人です。コボルドを保護する法などありませんよ」
「では、王国には?」
「有るわけ無いでしょう」
「ふむ、Sランク騎士アクセリール、貴様を殺人未遂として捕縛する。大人しく縛に付け」
「何を言っている! 天罰は絶対だ! 貴様は天罰を受けろ!」
「無理を言うな、Sランクの騎士とあろう者が。罪を犯した人間を裁けるのは法のみだ。しかも冒険者に裁く権利はないぞ。騎士達の役目だ。貴様のやっているのは法的には殺人に過ぎない。おおかたエスリールがほざいているのだろうが、エスリールには統治権は無いのだぞ。統治権はあくまでも王国の王族に属していて、執行は王族の命を受けた軍のはずだ。冒険者ではないぞ。頭の悪い貴様でもわかるだろう」
「小僧! 言わせておけば、いい気になって! 大人しく死ね!」
エルフが血相を変えて唾を飛ばしながら、女とは思えない形相を向けてくる。エルフ怖い。
「天罰か。何人も斬ったのだろう。子供や女もいたんだろ。言ってみろ。子供を斬っただろ。どのような罪だ」
「・・・」
「言えないのか? 料理スキルが無いのにパンを焼いたとか、俺と同じようにコボルドを退治したとか、食うに困って小さな畑を作ったとかじゃないのか」
「・・・」
「沈黙か。沈黙は肯定だぞ。何か言え。だいたい、パンを焼いたくらいでどうして罪になるのだ。おかしいと思わないのか」
「・・・ギルドからの指令は絶対だ。逆らえん」
「そのSランク、使い方を間違ったな。その力は正しいこと、おかしな事から皆を護る為に与えられたのじゃないか。命を賭けて、おかしな事をただすのがSランクの仕事じゃないのか」
「・・・貴様にはわかるまい。ギルドの恐ろしさが」
「何を言っている。王国で一番強い癖に、何が恐ろしいんだ? ところで残りの二人はどうした? 今頃辺境の村で体を真っ黒にして死にそうになっているんだろ?」
「・・・何故わかる?」
「それはペストという、神話集に災厄の悪魔と記録された疫病だ。王国で干し肉にされる大鼠が病原を保有している。王国は病気の塊だ。貴様はそうと知れずに病原を運び、ばらまいたのだ。つまり、貴様は用済みだったのだ。死亡率は約半分、治療は回復の魔法で体力を回復させるくらいだ。確実な治療法など無い。この街は半分の人が死ぬ。貴様がペストを運んだためにな」
「私、ギルドで大鼠の干し肉を貰ったわ。飛龍団の差し入れだって」
ロニヤが大声を出した。
「冒険者はほぼフリーパスで国境を行き来する。泊まるのは宿だ。宿は普通一階がパブになっていて、不特定多数の人間が入り込む。貴様はペストを保有し、息や咳に含まれる唾液中の病原をばらまいた。パブで感染した人は家族を感染させる。家族も働きに出たり、友人に会ったりする。そこでも感染させる。感染爆発だ。もう手遅れだ。感染は止められない。貴様は貴様の命まで王国にいいように使われたのだ。女子供までも手に掛け、何万という人を死亡させる」
「やめろ・・・」
Sランク騎士は剣を手から落とす。女エルフは両手を地面につけている。
「この二人、感染しているわ」
ゲルは俺に耳打ちする。
「貴様はペストに感染している。死ぬ前に罪を告白しろ。でないと、後世に大量殺人鬼として記録される。いいのか? 誇り高きSランクではないのか? 女子供を殺し回り、さらにラグスドールの民を数万人殺した人物だと」
「俺は、殺人者として名前が残るのか」
「ああ。殺しすぎだ。これほど殺した人間は歴史には居ないぞ。お前も神話集くらい読んだことあるだろう。神話集に出てくる神々でさえ百人レベルだぞ。昔だからな」
「そ、そんな・・・」
「死を振りまいた黒き悪魔、アクセリールと眷属のセルマとして記憶されると思うよ。」
「三十人だ、俺達が斬ったのは」
「そうか、女と子供の数は」
「半分は女だろ。そういうことだ」
「罪状はなんだ」
「罪状は貴様の言うとおりだと思う。殺すとき目玉焼きがどうして罪になるのかっていわれたからな。教えてくれ。どうして俺達は女子供を斬って回ったのか」
女エルフが耐えられず、胃の中の物を戻している。
「普通、街って、最初は丘に出来るんだ。水害が無いからな。しかし人口が増えてくると食料不足に陥る。貴様のいう太陽神は結界を張り、魔法使いを作っただろ。本当はAランク相当しか存在しない魔法使いを、Bランクとか、Cランクとか。結界内でしか魔法を使えない奴らだ。彼らを使って魔物を狩り、結界内で味覚まで操作して不味い魔物食を行わせる為だ。出来た加護とスキルを護ろうとした結果なんだと思う。いつからか、スキルは絶対という風に変わったんだろう。誰が言い始めたのかわからないけどね。今回の件は、第二王子の画策だろ。王国の変な慣習に巻き込まれ、処分が必要になったのでラグスドールに送り込まれたのだ」
「・・・俺はどうすれば良いのだ」
「潔く自害しろ。心配するな。ゲルの魔法で塵も残さず焼いてやる」
「罪を悔いて、悪魔にならなかったと言って貰えるか」
「ガレンドール大公嫡子、エリヤスエーミル・ガレンドールの名において保証しましょう」
エリヤスエーミルが発言する。
「済まん」
アクセリールは剣を拾うと、エルフのセルマを立たせた。セルマは両目から涙を流し続けている。
「セルマ、済まなかった。俺が逝かせてやる」
アクセリールはエルフの首を刎ねた。皆が目を閉じる。俺は目を閉じたくなるが我慢して見続ける。二人を死に追い込んだのは俺だ。見届ける。
「さらば。ミーアミーサは辺境の村に居る。もし助かるのなら、助けてやって欲しい」
アクセリールは剣で喉を切り、地面に倒れ込んだ。ゲルは火の玉を作り、放った。塵も残らず、遺体は消え失せた。
「お見事」
俺は賛辞を送った。しかし、人が死ぬ事には変わりはない。皆が悔しそうな顔をしていた。
本日、二話駆けましたので配信いたします。




