天使をつかまえよう
第六十話 天使を捕まえよう
雨が降り続いている。珍しいというか、こんなに降るのを見るのは初めてだ。キャンプ地で足止めを喰らって二日目になる。時折雷が鳴っている。
「もう少し翼はなめらかにならない?」
「こうかな?」
俺とゲルは暇なので飛行型ゴーレムの開発を行っている。べたべたと翼を触られているグリフォンのヴィルパークシャは嫌な顔をしている。グリフォンの頭は猛禽類なので表情などわからないのだが、明らかに嫌がっている。仕方ないだろ。暇なんだよ。
「いいか、翼って上が盛り上がった形をしているだろ。空気が翼の上と下を通過するんだけど、空気から翼には力が掛かっているんだよ。大気圧っていうんだ」
俺は手を伸ばす。今、この状態でも空気の力が掛かっているんだよ。腕を一周同じ力が掛かっているから釣り合って何も起きないんだ。コレがね、空気の速度差が出ると、速度を出すために力が減って行くんだよ。翼は、上面には上面から掛かる力が減るんだ。すると下面から掛かる力が勝って、浮き上がる力が働く。これが浮力だよ」
「へー。うちもグリパーちゃんも同じ?」
「グリパー? ああ、グリフォンのヴィルパークシャのことか。同じだぞ」
「わかったわ。じゃぁ天使三号の翼の形はグリパーちゃんと同じにしよう」
因みにゴーレムのモデルはセリーリアである。セリーリアに翼が生えた形になっている。
何をしているのかというと、グリフォンを一頭呼んで翼を参考にしつつ、飛行型ゴーレムの開発を行っているのだ。要するに雨で暇なのだ。
「じゃあ次な。ゲルは魔力を噴射して飛んでいるんだっけ」
「うん。そうだよ。グリパーちゃんも同じだと思うよ」
「魔力はこういう風に全方向に噴射されるんだろ?」
おれは円形に広がっていく絵を描く。
「そうね。そのイメージでいいよ」
「これだとさ、横に広がる魔力は無駄なんだよ。筒状の物のなかで爆発させるイメージにならない?」
「うーん、こうかな?」
セリーリアのお腹に長さ五十センチ筒が生えた。直径は十五センチくらいだ。よし、タービンも付けよう。俺は木を削って竹とんぼを作る。
「わぁ、なにそれ」
ゲルが竹とんぼに反応する。俺が竹とんぼを飛ばすとゲルとヴィルパークシャは面白そうに見ている。
「わぁ、飛んだ」
「飛ぶだろ? 秘密はこのプロペラでさ、このプロペラを筒の先端に付けて、空気を沢山筒に送り込むんだよ。沢山の空気で、魔力を一気に爆発的に燃やすと、凄い推進力になると思う」
「こう?」
ゲルはゴーレムのお腹に付いている筒にプロペラを付ける。羽根が二枚だ。少ない。
「もっと、無数に付けてくれ。うん、そんな感じ。じゃあ飛ばそう。まずはプロペラを回して。もっと早く。もっと! もっと!」
ゴーレムのお腹に付いている魔力ジェットエンジンのプロペラ、正式にはタービン、が勢いよく回り、強風を発生させる。ゲルはゴーレムをタープの外に歩かせる。
「よしいいぞ! 魔力装填! ゴー!」
セリーリアそっくりのゴーレムは勢いよく上空へ飛び上がった。
「やったぞ! 飛んだ!」
ゴーレムの腕がちぎれ、足は吹き飛び、ゴーレムが揺れると首がもげた。ゴーレムはバラバラになって地面に落下し、土に戻った。
「・・・・」
「うーん、飛んだけど形状に問題が・・・どうした、ヴィルパークシャ?」
グリフォンのヴィルパークシャが外に出る。
「いい目だ、ヴィルパークシャ! やる気か!」
ヴィルパークシャからタービンが回る音が響き、風が巻き起こる。
「飛べ! 今の君は音を超える!」
俺のかけ声でヴィルパークシャは飛び上がった。もの凄いスピードで消えていった。
「凄い。早い」
上空で轟音が鳴り響いている。ヴィルパークシャは上空で旋回しているようだ。ヴィルパークシャが飛んでから、音が付いてきている。
「あれ? 音が後から付いて来るよ?」
「ああ、今ヴィルパークシャは音の壁を突き破ったんだ。音が伝わる速さを超えたんだよ。マッハだ」
「えええ?」
ヴィルパークシャが戻って来た。
「おめでとう、ヴィルパークシャ! 今日から君は音速の貴婦人の称号を名乗れ!」
「クェェッェェ!」
ヴィルパークシャも翼を広げて喜んでいる。俺とゲルはヴィルパークシャの頭をもみくちゃになるほど撫でる。
「凄いよ、凄く速かったわ」
「よし、ヴィルパークシャ。あの飛んでいる鳥を捕まえて来てくれ」
「クッェエエエ!」
ヴィルパークシャは音速で鳥を捕まえると戻って来た。
「おお、ありがとう。鳩かな? まぁいいや。ほら、ゲル見て。鳥ってなめらかな形をしているだろ」
「うん。そうね」
「流線型といって、飛んだときの風の抵抗を受け流す形だよ。人型だと飛んだときに風の抵抗が大きすぎて、手がもげたりしちゃうよね。ゲルも龍になったらかなり流線型だよ。ヴィルパークシャは流線型ではないよね。魔力で体を覆って流線型になったらもっと速く・・・」
ヴィルパークシャ再び飛び上がった。
「さっきより速いわ」
「やるな・・・流石俺の従魔だ」
マッハ二くらい出てそうである。轟音を響かせながら戻って来た。
「クェ!」
「速かったぞ。音速の貴婦人」
「負けちゃいられないわね。ゴーレム、出でよ」
地面から翼の生えたセリーリアゴーレムが這い出てくる。セリーリアゴーレムはヌメヌメと姿を変え、鳥っぽい形になった。目とか口もヌメヌメと変形して気持悪くなっている。ロケットの胴体上部に目、口、鼻が搔いてある感じだ。
「変形させたわ」
「う、うん」
確かに変形するゴーレムを熱っぽく語ったが、俺のイメージする変形とかなり違うが仕方が無い。
「いくわよ」
飛行形態セリーリアは勢いよく上空に上がり、水平になった。
「飛んだ! ああああ!」
飛行形態セリーリアは最初、綺麗に飛んでいたが、一度揺れ始めると揺れを押さえる事が出来ず、空中分解した。
「うわー。エージ、飛んでいる時の微妙な動きが出来ないわ」
「うーん、難しいな」
「クエェェェ!」
「ヴィルパークシャ、どうした?」
ヴィルパークシャは草むらに飛び込むと何かを咥えてきた。肌色のスライム状の物質だ。
「魔力を感じる。魔物よ。スライムにしては魔力が強いわ。いや、強すぎる。何物?」
「あ、待て。殺すな。たぶん天使だ、そいつ」
「え? 何言っているの? エージ馬鹿じゃないの?」
「多分神の使いか分身だ」
「え? 分身? いや、分身や使いなら天使だけどさ、あれだよ? 翼が生えて、可愛い女の子だよ普通?」
「ほら、家庭教師で神は魔法使いだって言っただろ。当てはまらない神が一人居るんだ。王国の主祭神、太陽の神エスルート」
「え? エスルートは男性じゃなかったっけ」
「神話集には男性と書かれているんだけど、こいつだけ死んでいないんだ。今でも生きてるような感じで書かれている。しかも一切子供を産んでいない。他の神は基本的に魔力が有り余っている人間だから、子供は産むし寿命は長いけど死んで行くよね。でもエスルートは子供もいないし、死んでいない。つまり人間じゃないのさ。永遠の命で行き続けている神、それがエスルートだ」
「永遠の命?」
「うん、ある意味永遠の命。ほら、俺が授業で話しただろ。最初に小さな、命ともいえないような物が産まれて、細胞を持ったって。そいつは多分最初に産まれた細胞一つの生命体だ。正しくは細胞一つの聖目の集まり。アメーバみたいなやつの集合体が魔力を持って記憶を受け継いだもの、それがエスルートの正体だと思う。永遠に生きるのはアメーバとかそんな奴だぞ」
「これがエスルート?」
「言いたくは無いが、そいつは全ての生命はそいつから産まれたんだぞ。なんか嫌だけどな」
「あ、こいつ」
「どうした?」
「魔力で何かと意思疎通しているわよ」
「よし。お前、ゲルやグリフォンみたいに空を飛びたくないか? グリフォンの飛ぶ姿を見ていただろ? 美しいだろ。エスルート、お前じゃないぞ。天使に聴いている。ゲルみたいに大空を自由に飛びたくはないか? 見ていただろ、さっきの飛ぶゴーレムを使えば空を飛べるぞ。飛びたいのならエスルートと遮断しろ」
「意思疎通が止まったよ」
「じゃあ従魔にしてやる。して欲しかったら俺の掌に飛び乗れ」
天使は俺の右掌に落ちてきた。俺は左手でゲルと手を繋ぐ。ゲルが魔力を流してくれる。
「きょうからお前はカロスイだ」
天使はぶるっと震えた。ギリシア神話のイカロスをもじってみた。センスがないな・・・
「うん、テイムしたわ」
「よし、ゴーレムを出してくれ」
地面から翼の生えたゴーレムが生えてくる。翼の生えたセリーリアゴーレムだ。
「カロスイ、お前にこのゴーレムを渡す。行け」
ねばねばしたカロスイはゴーレムに吸い込まれていった。ゴーレムは淡く光った。
「吸い込まれた・・・ゴーレムに命が吹き込まれたよ・・・」
ゴーレムは動き始めた。おお、自立型のゴーレムの完成だ。顔がセリーリアだ・・・いいのかな・・・




