オークを退治しよう
第五十九話 オークを退治しよう
「エージ、あそこにゴブリンがいるわよ」
ゲルが指差す草原の一角に人影が見える。十匹くらいだろうか。ゲルの声で皆に緊張が走る。
「ゲル、ゴブリンに魔法や弓を使う奴がいそう?」
「ううん、弓はいないわ。ゴブリンメイジや群れを統率する個体もいないようよ」
「エリヤスエーミル様、指揮を。陣形はどうします? まずは二列で良いと思いますよ」
「よし、みんな。二列で槍を構えて下さい」
騎士が前列、エリヤスエーミル、マーヤレーナ、俺とゲルが二列目。二列目は、俺が一列目の間から槍を出すと皆真似をした。俺とゲルは普段着である。ゴブリンは俺達を見つけたようだ。十匹の群れの内、四匹が走って襲いかかって来た。
「ひっ」
ゴブリンに重傷を負わせられたネストリが小さく悲鳴を上げる。
「ネストリさん、槍は長いから小さいゴブリンの得物は届かない。大丈夫ですよ」
俺が声を掛けている間にゴブリンは迫ってきた。ゴブリンは背が低く、子供程度だ。得物も粗末な棍棒だから、リーチは短い。槍の間合いからゴブリンは攻撃を仕掛けることが出来ないはずだ。
ゴブリンが迫ってきた。皆緊張している。訓練はしているが、実戦経験は殆ど無いのだろう。
「槍を構えさせて下さい」
「槍構え!」
俺の言葉で、エリヤスエーミルが指示を出し、皆が槍を構える。ゴブリン四匹が目前に迫った。棍棒を振り上げてくる。
「よし、動かないで接近を待て。陣形を維持」
「全員槍を構えたまま待機!」
皆が動きそうだったので、俺は動かない様に指示して貰った。槍は、陣形が崩れると弱くなる、ような気がしている。
ゴブリンが襲いかかって来た。
「全員、攻撃!」
ゴブリンは長槍に滅多刺しにされて四匹が死んだ。戦闘というより虐殺に近い。
「残り六匹、前列と後列が別れて挟み撃ちだ」
六匹のゴブリンはあっという間に四匹が殺され、動揺している様子だ。良くわからない言葉だか呻きを発している。
「前列は左から、後列は右から挟み込め!」
エリヤスエーミルの指示で前列と後列に別れ、ゴブリンを左右から挟み込んでいく。ゴブリン達はどっちを襲えば良いか迷い、焦っている。左右から挟み、狼狽えるゴブリンを容赦なく刺殺して戦闘は終わる。槍は長く、ゴブリンの攻撃は一切届かなかった。
「どうです? これが槍の陣形の基本、密集戦法と挟み込む戦法です」
「なるほど。槍を用いる訳がようやく理解出来た。戦闘とはつまり間合いの長さなのだな?」
マーヤレーナは槍を眺めながら戦闘の感想を述べている。
「魔法使いの間合いはもっと長いです。ゲル、弓よりも火の玉は飛ぶよね?」
「ええ、飛ぶわよ」
「エージさんが魔法使いを恐れる理由がようやく理解出来ましたよ。あ、エージさん、槍の支払いはどうしたのですか?」
「エリヤスエーミル様、金貨三枚でしたよ」
「わかりました。後ほどお支払いします」
ゲルが草原の向こうを凝視している。
「オークが二匹よ」
「ゲル、魔法で矢を打てるか。強さも軌道も矢そっくりで」
「いいわよ」
「よし、この角度で矢を射てくれ」
俺は右手で四十五度の角度を示す。
「エリヤスエーミル様、まずはこの角度で矢を射ます」
魔法の矢はオークの手前で突き刺さり、消えた。俺達に気が付いたオークは棍棒を構えて突進してくる。
「ゲル、矢を三本同時で。当てろ」
ゲルは魔法の矢を三本射る。三本の矢は正確にオーク一匹に当たり、オークは動かなくなった。
「今のが弓の間合いです。覚えておいて下さい。魔法が無いときの戦は必ず矢を射ることから始まりますから」
一頭になったオークは怒って突進してきた。腰布を巻いた、豚顔で体が大きな魔物である。魔物という言い方はおかしいかも知れない。人類の亜種であるが、魔物と言うことにする。
「よし、槍を構え! 密集陣形! オークの棍棒は槍に届かない! 恐れるな!」
エリヤスエーミルは密集を選択した。突進してきたオークをやはり滅多刺しにして戦闘が終わる。
「一度村に戻りましょう」
俺達は村に戻ると、エリヤスエーミルから金貨五枚を貰った。
「多いですよ」
俺が言うと、エリヤスエーミルが首を振った。
「調練のお礼です。調練なんですよね? 私の。ゲルさんに魔法を使わせないですし」
「そうですね。で、村人を数人雇って前列の槍五、後列の槍四、弓三から四名で討伐したら良い訓練かも知れませんね。実際に戦になれば、トーレ様は大隊を、他の騎士様は中隊から小隊を率いるのしょうから、よく覚えておいた方がいいですよ。あ、これは大きなお世話でしたね」
「いや、剣聖殿。良い機会なので皆に指揮を経験させたい。ガレンドールでは出来ない良い訓練である。弓は村にあるか聞いてみる。確かに弓もあった方がいい」
俺は俺とゲルの槍をトーレに渡す。
「じゃ、俺達は行くから。トーレ様、お二人をお願いします」
「一緒に行きたいが、仕方ないな。我らはこの地で訓練だな。周辺の魔物がいなくなったら次の村に移動だ。ガレンドールに戻ったら屋敷に顔を出してくれよ」
マーヤレーナが手を出してきたので握手をして別れた。
俺とゲルは別れを告げて出発した。歩きで野宿を二泊したらドレフドール村に着くはずだ。半日ほど歩き、周囲に人がいないことを確認する。
「ゲル、グリフォン達を呼べるかな」
「うん。待ってて」
しばらくすると四頭のグリフォンがやって来た。
「我が君、お呼びいただき光栄に存じます。奥方様もお美しい」
ボス格のグリフォン、ヴァイシュララナが代表して挨拶をしてくる。俺は順番に頭を撫で撫でする。
「ヴァイシュララナ、頼みがあるんだ。この一帯、辺境の村までのオーガ以上の魔物を全て駆逐して欲しいんだ。出来る?」
「お安いご用です」
「ゴブリンとコボルドが絶対に手出しするなよ。オークは五匹以上の群れがあったら三匹まで減らしてくれ」
「畏まりました」
ゲルは残り四頭の頭を撫でている。グリフォンは気持ちよさそうな顔で撫で撫でされていた。
「じゃぁ頼んだ!」
「お任せを!」
グリフォン達は飛んで行った。
「エージは過保護ね」
「仕方ないだろ、教え子だし」
「グリフォンって可愛いわね。飼えないかな」
「まぁ飼えなくはないな。セリーリアやエリヤスあたりに見られると軍を派遣されちゃうかな」
「アハハ。そうね。ダンジョンの一階に暮らして貰うかな?」
俺はゲルにテントとタープを出して貰い、設営した。焚き火をして暖かなスープを作る。鶏肉のホワイトシチューだ。ホワイトソースは大量に作って、ゲルに収納して貰っている。
「やっぱり宿よりエージのシチューの方が美味しいね」
ゲルはニコニコしながらシチューを食べている。なんか、ゲルと二人の旅もいいな。食べ終わった俺達はテントで休むことにした。毛布にくるまって、二人で横になっている。ゲルがクスクスと笑っている。
「なんか楽しいね。ミコドールのお家も楽しいけどね」
ゲルも同じ考えのようだ。
「宿に着いたら覚悟してしておけよ。腰を抜かすぐらい抱くからな」
「もう、スケベ」
「ゲルも喜んでいそうだけど?」
「もう! 知らない!」
ゲルがすねたので抱き寄せてキスだけした。俺はそれだけで胸がいっぱいになった。
「ね、うち幸せ。ね、うち本当にエージの奥さんになりたい」
ゲルが上目遣いに俺を見る。俺は再び胸がいっぱいになった。
「いいのか、俺は凄い幸せだけど」
「うん。引き延ばしてゴメンね。グリフォンに奥様って言われて嬉しかったの。やっぱり、エージのものに成りたいんだって」
「愛してる、ゲル。これからも俺を助けてくれ。ゲルがいないと何も出来ないから」
「ウフフ。ありがと。明日から、お料理教えてね。私がエージに作ってあげたいんだ」
俺は胸がいっぱいになり、ゲルを強く抱きしめた。
「痛い痛い。ちょっと」
「あ、ゴメン」
俺は抱きしめる手を緩めた。
「嘘だよ、アハハ。ね、ぎゅっと抱きしめて」




