フレドール村に行こう
第五十八話 フレドール村に行こう
ゴブリン戦で瀕死の重傷を負ったネストリをエリヤスエーミルの馬に乗せ、一行はフレドール村へと進んで行った。
「何しに行くんです?」
「エージさんの言っていた調査の練習ですよ。国内の調査も兼ねています。私とマーヤの国内視察も兼ねていますね」
「そうだぞ、剣聖。それよりも村にこんなに近いところにゴブリンが出るのが普通なのか?」
「剣聖は止めてほしいな」
「諦めろ、剣聖は剣聖だ」
「マーヤレーナ様、ちょっと普通じゃ無いですよ。山から押し出されているんでは無いでしょうか? 王国の結界が広がりましたよね。結界を嫌がった魔物が降りてきているんじゃないでしょうか」
「ゲル、やっぱりそうかな?」
「そうね、あの子達もそうじゃない?」
ゲルは四頭のグリフォンが草原に降りてきた事を言っているのだ。
「エリヤスエーミル様、討伐しますか」
いざとなったらゲルの魔法、『神の怒り』を使えば良いが、ガレンドールに関する事には魔法は使うつもりはない。
「すみません、お手数を掛けます。エージさん」
俺、ゲル、エリヤスエーミル、マーヤレーナ、トーレ、騎士四名。総勢九名に増えた一行は無事にフレドール村に到着した。村は簡単な柵で覆われ、門には衛兵が立っている。
「ガレンドール公御嫡子、エリヤスエーミル様、マーヤレーナ姫の到着である、門を開かれい!」
トーレが大声で叫ぶ。
「お疲れ様です!」
門が開かれ、エリヤスエーミル達は中に入っていく。俺とゲルも最後に入る。村は木製の家が立ち並んでいる。以外と大きい村だぞ。無論ガレンドールの街より相当小さいが。
「エージさんはどうします? 私たちは村長の家にやっかいになりますが」
「俺達は宿へ行きますよ。あるのかな?」
「ええ、一軒有るはずです。明日の朝から討伐に行きましょう。門で待っています」
「それでは明日の朝に」
俺はエリヤスエーミル達と別れ、村の中をぶらぶらと歩く。中央の通り沿いに家々が立ち並んでいる。中央の交差点で店があり、宿らしき建物も見えた。鍛冶屋が見えので入ってみた。
「よう、坊ちゃん。なんか用か」
鍛冶屋の親父は手を止めて俺の方に来た。
「槍があれば欲しいんだ。九本」
「九本もか! 済まないが五本ならあるぞ。長槍だがいいかい。村の連中は剣を扱えないから、長槍を持たせているんだよ。後四本は明日には完成するから。金三でどうだ」
俺は懐から金貨を出すと、鍛冶屋の親父は笑って五本の槍を持ち出してきた。長槍だ。槍の有効性をわかっている鍛冶屋だ。
「これで明日の朝までもう四本お願い出来ないか?」
おれは金貨を一枚弾き、親父に受け取らせる。
「しゃーない。朝取りに来い」
「ありがとう! これで魔物討伐がはかどるよ」
「なに? 魔物の討伐に使うのか? なら追加はいらん。明日朝には必ず仕上げる。済まない、討伐を頼む」
「礼は俺じゃないよ。エリヤスエーミル様に言うんだぜ。かなりやる気だよ」
「なに? 御曹司様が? 本当か?」
「ああ。エリヤスエーミル様とマーヤレーナ様、お付きの騎士五人だ。魔物は何が出るかわかるか?」
「ああ。西の山から来るらしいな。ゴブリン、オーク、オーガも出たらしいぞ。十分注意してくれ。グリフォンの群れも目撃されている。見かけたら逃げろよ」
グリフォン・・・あいつらかな?
「槍は明日取りにくるよ」
俺とゲルは鍛冶屋を後にする。
「槍の方がいいの?」
「うん。リーチが長いからね。あと習得が極めて簡単なんだ」
「ふーん。わかったような、わからないような」
宿は村の中心部にあった。一階が酒場になっている。一泊は二人で銀貨一枚。とりあえず二泊分の料金を払った。二食付きだ。まだ夕食には早いので、二階の部屋で休む事にした。女将さんがお湯を持って来てくれた。
「体を拭いてあげる」
俺は服を脱ぐと、ゲルはタオルで綺麗に体を拭いてくれた。さっぱりする。ゲルも服を脱ぎ、体を拭いていく。俺はベッドで美しいゲルの後ろ姿を眺めていた。
ゲルは全裸で俺に抱きついてきた。夕食まで二人で愛し合った。
夕食は硬いパンと塩味のシチュー。肉は鶏肉だった。王国は良くわからない干し肉だったので、王国よりはマシであったが、美味しくは無かった。
翌朝も硬いパンを食べて門へ行く。既にエリヤスエーミル達は準備が出来ていた。
「エリヤス、鍛冶屋で槍を用意した。今日は槍の訓練だ。覚悟しろよ」
「あ、そうか。前に言われてましたよね。軍の武器は槍の方がいいと」
「槍を受け取りに鍛冶屋へ行きますよ」
皆、長槍を鍛冶屋から受け取る。
「じゃぁ使い方を教えます。使い方は簡単です。両手で持って、突くか、上から叩くかです。槍の味噌は、集団で固まって運用する事です。ちょっとやってみましょうか。俺とゲル、エリヤスエーミル様、マーヤレーナ様が槍です。後の五人は剣です。向かい合って並んでみてください」
「剣聖なのに槍を進めるとは・・・」
騎士からは不思議そうな声が上がる。
「そこ! いいから剣を抜く」
俺が睨むとひ! という声を上げて並ぶ。向かい合った二列が出来る。俺の列は槍を構えている。騎士の列は剣を構えている。剣のリーチは精々八十センチくらいだろうか。対する長槍は百五十センチはある。倍のリーチだ。
「トーレ様、どうです? 長槍の間合いに入れますか?」
「無理だな。なるほど、得物の長さが聞いて来るのか」
「トーレ様、その通りです。トーレ様、刺さないので槍の間合いに入って貰えますか」
「刺すなよ?」
トーレは俺の槍の間合いに入って来る。俺はトーレに刺す真似をする。その次は上から叩く動作をする。
「槍は相手が攻撃出来ないうちに刺すか上から叩き切るかどちらかです。簡単ですよね」
まぁ俺も初めて槍を持つからな。槍は誰でも扱えるところが優れているゆえんだ。
「わかりました? では基本陣形を決めましょうか。前列と後列に別れましょう。前列五人、後列四人」
「うむ。前列は我々が引き受けよう。エリヤスエーミル様、マーヤレーナ様、剣聖殿達は後列でお願いする」
トーレが前列を受け持ってくれた。ありがたい。
「ありがとうございます。では指揮はエリヤスエーミル様で。矢や魔法を打つ敵の場合は散開したり、待つか、突撃か決めて下さい。お分かりかと思いますが横や後ろを攻撃されると弱いですから、囲まれそうなら槍を捨てて散開するのも手です」
エリヤスエーミル様は頷く。俺達は村の外に出た。
「剣聖殿、済まないがこいつ等と剣で立ち会っていただけないだろうか。おいお前ら、剣聖殿の剣を受ける事が出来たら俺が酒瓶だすぞ。一本じゃなくて、剣聖殿が打ち込んできた剣を剣で受ける事が出来たらの話だぞ」
「隊長、それは余りにも我々を侮辱した台詞ですね。今晩の酒瓶は隊長の奢りですよ」
一番若い騎士が出て来た。剣は長く重い。両手の長剣だ。若い騎士はゆっくりと上段に振りかぶる。皆同じだ。剣が重いため、上段から振るしか攻撃方法が無いのだろう。
「抜かないんですか? 行きますよ!」
騎士は剣を振ってきたが、剣の動きは既にわかっている。俺はステップで右に避けると、右手で騎士の肩を掴み、肩を回しながら踏み込んで来た足を払った。騎士は倒れる。俺はすかさずギロチンチョークを決め、剣を喉元に当てる。
「あれ? あれ?」
騎士は目を白黒させている。
「今晩の酒はミストラーネだな。見たか? 今のが鎧騎士の首を確実に取る術だ。覚えておけ。次、コログ」
「お願いいします」
騎士が真剣な目で長剣を構えた。やはり上段に構える。
「行きますよ」
言うやいなや俺は居合いで騎士の首筋に剣を当てる。余りの速さに騎士が目を見開いている。呆然としたまま後ろに下がっていく。
「剣聖殿の奥義を間近で見れるとは、コログも果報者だ。次アリエフ」
「行きますよ!」
騎士はすぐさま剣を振り下ろしてきた。俺はステップで躱しながら籠手をたたき込む。
「ぐ!」
騎士のうめき声と同時に剣が地面に落ちる。
「む。やはり剣聖殿と渡り合えるのがおらぬか。最後はネストリ。お前はまず助けていただいた礼を言え」
若い騎士が出て来た。昨日重傷を負った騎士だ。
「もう大丈夫ですか?」
「ええ。ありがとうございました」
ネストリは体が他の騎士より細く、力が無いようだ。剣も細い。ネストリはやはり上段に構えようとする。俺も上段に構えた。
「実はですね、先ほどからガレンドールの方々は必ず剣を上に構えるんですよ。そこから振り下ろすだけなので剣筋が見え見えなんです。ですが、間違ってはいないんです。全身全霊で打ち込むと必殺の剣になります。今から打ち込みますのでしっかりと受けて下さい」
薩摩示現流だ。薩摩者の初太刀は躱せと、幕末では恐れられたそうだ。
「キェェェエエ!」
俺は声を上げながら思いっきり右足を踏み込み、全力で上段から斬り降ろした。普通は二撃目、三撃目と連続して振り下ろすので全力で打ち込むわけには行かない。初太刀で必殺の示現流の剣だ。
俺の剣はネストリの剣を弾き飛ばした。おれはなんとか踏ん張って剣を止める。
「わかっていても騎士が受けられないんですね。エージさんの剣は。さ、皆行きますよ。トーレ、やはり皆の剣が重すぎませんか?」
「エリヤスエーミル様も思いますか。戻ったら装備を検討しましょう」
エリヤスエーミルを先頭に皆は歩き始めた。




