旅を続けよう
第五十七話 旅を続けよう
「ヴァイシュララナ、元気でな」
俺はボス格のグリフォンの頭を抱いている。
「いつでも呼んでください。参上しますので」
グリフォンを四頭も従魔にしたのだが、実際に連れて行くわけには行かない。残念だ。ミコドールでグリフォン牧場を作れないかな?
「人を襲うなよ」
「わかっております」
「従魔を取り消してもいいんだぞ。取り消しても友達でいてくれるだろ」
「いや、従魔でいさせてください。力の湧き具合が違うんです。では、ご武運を」
四頭は飛んで行った。南へ行くという。俺は少し寂しくなってしまい、大きな木の幹に座り込んだ。
「あら、寂しいのね。ウフフ。私は何処にも行かないから。っていうか、エージが戦に出るならうちも行くよ」
「戦争なんかに行かないよ」
「本当? まぁ今日はここでキャンプね。さ、火を焚こうよ」
俺は立ち上がると枯れ枝を探してくる。薪になりそうな手頃な枝を集める。ゲルはコットンの幕を出して貰った。四メートル四方の布で、周囲と、布の真ん中に数カ所、紐を通すループが縫い付けられている。元の世界ではレクタタープと言っている。レクタタープは張り方が自由で、テント状に張ったり、単に雨や夜露を凌ぐように三角形に張ったり出来る。
「今夜の天気はどうかな?」
「雨よ。風が湿っているよ」
「そうか。明日は移動できずにテントで雨宿りか。じゃぁ作って貰ったテントを張るか」
俺はタープを三角形に張った。タープをフライシートにするのである。作ったテントはA型テントというものだ。木で出来たフレームにコットンの幕で覆ったテントだ。タープとテントを見たグエルターク商会のヘンリッキは目の色を変えて量産化の指示を出していた。お金の話は面倒なのでフレヤとしてくれと言ってある。
折り畳みの椅子とテーブルも作って貰っている。テントを立てて、タープを張る。テントは長さ二メートル五十センチなので椅子やテーブルを置くスペースが出来る。コットンのテントとタープでキャンプ、実は凄く贅沢な事なのである。元の世界で良くキャンプに出かけたが、コットン製品は買えなかった。高いのだよ。コットンテントは高級品だったな。
俺とゲルで、椅子に座りながら焚き火を見ていたら雨が降り出した。タープがあるから平気である。
「タープを持って来られて良かったよ。ゲルの収納の魔法は凄いね」
「便利過ぎて注目されちゃうから、二人の時以外はつかわないよ。残念ね。ね、どうしてエージは魔法を使わないの? うちとかフレヤさんとかさ。それにエージは竜騎士なのに」
「ええ? 俺は組織とか人間関係とか嫌いだから、どうでもいいよ。魔法だって使って貰っているよ? 大麦を焙煎したりさ」
「アハハハ。あんなの使っているっていわないよ。エージは欲が無いのね」
「ああ、欲か。俺はさ、元の世界で、こっちで言う商会で働いていたんだよ。ワイヴァーンアックス商会は従業員四人だけど、元の世界の働き先は二十万人いたな」
「ええ? そんなに?」
「それだけ人がいると合う人もいるけど合わない人の方が多いし、仕事が人間を食いつぶす感じがしてね。正直、ガッコさんが作ってくれたワイヴァーンアックス商会が助かっているよ。みんな俺の言うとおり動いてくれるしね」
「エージは凄いと思うよ。うちは龍なのに負けた気がするもん。いや、龍なのに口説き落とされちゃってるし。アハハ。でも一人でお酒を造る指揮とかしてるけど、大変だなって思うよ」
「え? 楽勝だよ? 向こうの世界ではもっと人を使っていたし、お金も問題にならないくらい使っていたよ。気分も体も楽かな。ゲルもいるしね。俺の欲は、ゲルがいて余り大きくないワイヴァーンアックス商会で色々な物を造れたらそれでいいな」
「なるほどね・・・でも段々と面倒が起きているよ。まぁうちは覚悟したから。ちょっとやり過ぎたかな? まさか家庭教師でガレンドールの二百年の計を授けるとは思わなかったしね」
「ん? なかなかだろ? 読み間違えは無いと思うんだ」
「まぁその点はいいと思うよ。まず助かったのが指輪。エリヤス様が私の指輪を見てがっかりしていたよ。そしてセリーリアちゃんも見て、残念そうな顔をしていたよ」
「?」
「え? わからない? あ、そうか。エージはやっぱりこっちの常識に疎いよね。アハハ。エリヤス様はうちを妾に欲しかったのよ、多分。指輪を見てエージの女だって判断したのよ。エージはお茶を淹れるためにセリーリアちゃんもを連れ回しているから、セリーリアちゃんもエージの女と判断したはずよ」
「え?」
「まぁヘンリッキさんもそれを狙っているというか、手を付けて欲しいと思っていると思うよ。ちょっと未婚の女性と行動を共にしすぎだよね。多分セリーリアちゃんは結婚できないと思うよ」
「なんで?」
「もう! エージはやり過ぎたの! グエルターク商会にとっても、ガレンドール大公家にとっても最重要人物なのよ! エージの重要さから見ると、恐らくマーヤ様くらい与えてもいいかくらい思っていると思うよ。マーヤ様もがっかりしていたからね。うちの指輪を見てね」
「嘘だろ?」
「マーヤ様は良いとしてもセリーリアちゃんよね。まぁ仕方ないよ。アハハ」
「マジかよ。いたた・・・胃が痛くなってきた」
「アハハ。まぁパンを焼いて食べようよ。エージは変なところで硬いよね。そこが良いところだけどね。アハハ」
俺とゲルは紅茶とパンを食べた。パンは大量に焼いてゲルに収納して貰っている。
「まぁ気にしないでいいよ。さ、膝枕してあげる。テントに行こう」
俺はモヤモヤした気持を残したままテントでゲルの膝に頭を載せる。ゲルの良い匂いを堪能する。俺はいつの間にか寝てしまっていた。
朝、目を覚ますとゲルと二人で横になっていた。いつの間にかゲルは俺の左腕を枕にしていた。
「おはよ。さぁ出発! 今日はフレドール村ね。さぁ行くよ」
タープとテントを片付けると、俺たちは歩き始めた。
「ん? 何かいるな。人かな?」
「違うよ。ゴブリンよ。あれ? 普段はもっと山の方にいるのに。まぁいいわ。火の玉でやっつけてしまうわね」
「待て。人も混じっているな。仕方ない。剣で斬るか。『神の怒り』は使うなよ。俺が襲われている人の安全を確保するから、その後に火の玉を頼む」
「神の怒り? ああ、昨日の無差別魔法ね。わかったよ」
俺たちは走ってゴブリンに向かって行った。ゴブリンは二十匹だ。多い。ゲルはワンピース姿に戻っている。襲われている人を確認する。剣士が倒れている。違うな。騎士だ。ん? 剣を振るっているのはトーレだ。馬に乗っているのはエリヤスとマーヤじゃないか。
「エリヤスとマーヤだ。助けるぞ」
「うん!」
状況が見えてきた。トーレと剣士四人がゴブリンからエリヤスとマーヤを護っている。
「火の玉を打てるか? エリヤスに当てないように!」
ゲルは頷くと、掌に火の玉を発生させ、投げつけた。呪文なしだ。本気のゲルは凄い。
火の玉はゴブリンの隊列の後ろで炸裂した。ゴブリンは不意を突かれ、半数が燃えて塵となった。半数が何が起きたのかわからなく、うろたえ始めた。
俺は剣を抜き、ゴブリンを袈裟斬りしにた。返す刃でとなりのゴブリンの頭を落とす。
「トーレ、二人を逃がせ! 残りの三人は俺とゴブリンを殲滅する! ゲル、怪我人を治療してやってくれ!」
「かたじけない!」
トーレは二人の手綱を引き、安全を確保する。ゲルは倒れている騎士に赴き、魔法で治療を行い始めた。
「俺を中心に広がってゴブリンを包囲! 行くぞ!」
うろたえるゴブリンを囲み、一気に包囲の輪を狭める。ゴブリン達は我を失って潰走し始めた。俺たちは無抵抗のゴブリンを次々に屠っていった。
「よし、もういい。戻るぞ」
三匹ほど逃げたが、俺たちは逃がすことにした。治療をしているゲルの元へ赴く。
ゲルは鎧を脱がしていた。
「エージ、血止めはしたけど鎧を脱がして傷を見てみないと!」
倒れている騎士に、同僚達が駆け寄り、鎧を脱がして行く。腹に大きな血が付いているが流血はしていない。腹をやられたのか。
「か・・」
「ヤバイ!」
俺は騎士に飛びより、指に騎士が脱がされた衣類を巻くと、騎士の口をこじ開け、横臥させる。口から血が流れ出る。騎士の顔が白くなっていく。俺は胸を見る。止まっている。鼻に手を当てる。息をしていない。俺は騎士の顔を拭うと、人口呼吸をする。二回息を吹き込む。胸に手を当て、二十回押し込む。肋骨が折れるくらい押し込んだ。まだ息はしてない。二回目の人工呼吸と心臓マッサージ。三回目。皆は諦め始めている。四回目で息を吹き返した。
「おおおお! ネストリ! しっかりしろ!」
騎士達が騎士の名を叫んでいる。
「ゲル、息を吹き返した。お腹と頭に回復魔法を頼む!」
呼吸が止まって数秒だから、脳にはダメージが無いはずだが、念の為に脳にも回復魔法を掛ける。息が止まると、脳に酸素が行かなくなり、脳細胞が駄目になっていくはずだ。脳細胞は、一回死ぬと再生しないはずだ。回復魔法で再生するのかわからないが・・・
ゲルが丁寧に何回も回復魔法を掛ける。皆が息を殺して見守る。
「おおおお!」
騎士が目を開けた。左右を見まわしている。
「ネストリ! よくぞ息を吹き返した!」
「エリヤス様・・・マーヤ様まで」
エリヤスエーミルとマーヤレーナはネストリの手を取り、涙を流している。
「家庭教師殿、申し訳無かった。水を用意するので、血を洗って欲しい」
俺とゲルは申し出を受け、水で血を洗い、上品なタオルで綺麗に拭き取った。
「エージさん! 危ないところをありがとうございました!」
エリヤスエーミルが俺の手を取って礼を言っている。トーレは俺を知っているが、皆が戸惑っている。
「大公家の嫡子が一般人に敬語を使うな。皆戸惑っているぞ」
俺は面倒なので敬語を使わない。エリヤスエーミルはにやりと笑う。
「皆に紹介する。私の人生の師匠にして、戦斧物語の著者、そしてガレンドール最強の剣士、剣聖のエージさんだ」
「おおお! 剣聖殿! お会い出来て光栄です!」
「剣聖殿! ネストリをありがとう御合いました! 腹をやられていたので助からないと思いましたよ!」
俺は三人の騎士に握手攻めにあった。
「おい、剣聖ってなんだよ」
「良いじゃないですか。ガレンドールで一番の剣士だから、剣聖です」
「うむ。剣聖殿の剣は素晴らしく、知恵は深く、医術にも優れている。剣聖と言う称号がふさわしい。ネストリは戻ったら結婚だったのだ。本当に礼を言う、家庭教師殿・・・ではないな。剣聖殿と一緒の旅とは心強い。ドワーフの里に行くのだろう? 辺境の村まで一緒だな」
マーヤレーナが剣を捧げる敬礼をしている。俺はどうして良いかわからず、エリヤスエーミルを見ると、エリヤスエーミルも捧げ剣を行う。
「辺境の村まで一緒とは光栄です。剣聖様」
「おい、ゲル助け・・・」
ゲルはにこにこと笑っている。
「剣聖様、さぁ先を急ぎましょう! アハハ」
「しかし、家庭教師でクレープを運んでくれていたメイドが強力な魔道師とは凄いです。しかも回復魔法まで」
ん? ゲルの正体がばれ始めてきたのか?
お読みいただきありがとうございます。




