旅立とう
第五十六話 旅立とう
「ガッコさん、それじゃ後はお願いします」
「うむ。手紙を頼むぞい」
「ロキも、お茶を頼むよ」
「任せておいて。お手紙を頼んだわよ」
「ゲルちゃん、エージ君をお願いね。ゲルちゃんの鱗の鎧は作ってあげるからね」
「フレヤさん、任せてください!」
俺ちゲルは大山地にあるドワーフの都、ドルゴグゲークと大森林にあるエルフの都、エンドルフィンに赴く事にした。目的はスカウトだ。ドワーフは工房を立ち上げ、鉄砲を生産する。エルフはロキの手伝いだ。
「エージ君、わかっていると思うけど東にあるラグスドールまでは飛んじゃ駄目よ。ラグスドール以降は誰も住んでいないから」
「じゃ、行ってきます」
「いってきまーす!」
俺とゲルは手を振って皆に別れた後、歩き始めた。ガレンドールの北には山に囲まれた盆地に王国がある。王国の東側は大山地が走っていて、王国の国境となっている。東側の海岸と大山地の間は大平原といって人の住まない地域だ。大平原を北側にドワーフの都、ドルゴグゲークが有るらしい。大山地の北は大森林が広がっている。大森林にはエルフの都、エンドルフィンがあるとフレヤが言っていた。
まずは歩いてラグネドールを目指す。ラグネドールの街へは、フレドール村、ドレフドール村を経由するらしい。歩きの旅はラグスドールまでで、ラグスドールを超えたらゲルに龍になってもらって飛ぶつもりだ。
まずは歩いてフレドール村を目指す。俺は普段通りのスタイルだ。俺の革の鎧はフレヤに預けてある。ゲルの鱗を張っても貰うのだ。ゲルの鱗は硬くて加工が不可能で、魔法で細工するしかないらしい。ゲルはフルプレートメイルだ。ゲルは無手だったが、フレヤから魔剣を貰って来た。剣を振るうと七色に輝き、敵を易々と切り裂くというが、魔力の消費が激しいのと目立つので使いにくいらしい。魔力が底なしのゲル向けの剣だ。俺とゲルはザックを背負っているが、基本的に荷物はゲルの魔法で何処かに収納してある。
一応獣道の様な街道がある。幅は一メートルくらいだ。馬車は通れないであろう。
「だからさ、飛行形態と歩行形態に変形させたいんだよ」
「え? エージあんたゴーレムを飛ばすの?」
俺たちは草原を歩いている。大草原地帯は地図で見ると南北に細長いのだが、実際に歩くともの凄く広い。最初は感動した景色も見慣れてしまい、暇になってきたのだ。俺は一生懸命に変形するゴーレムについて説いている最中だ。ロマンが溢れるな。
「おう。ゲルはどうやって飛ぶの? あれだろ、なにか魔力的な物を噴射して飛ぶんだろ?」
何回かゲルと飛んだが、鳥のように羽ばたいて飛ぶわけではない。羽ばたいて飛ぶには龍の体は丈夫過ぎて重いのだ。白鳥とか、大きいけど凄い軽くて、骨も脆い。筋肉量がとんでもなく多く、骨は信じられないほど軽くて脆いのが鳥類だ。
「どうしてわかるの? お尻の辺りから魔力を燃やすのよ」
「ゴーレムでも同じにすると飛んで行くだろ」
「そりゃ飛ぶけどさ」
「そこでだな、翼を付けるんだ。ベルヌーイの定理で上昇気流が発生するから、飛べる。いいかい、俺の掌を見てくれ」
「なにも無いよ?」
「でもさ、空気という物質で満たされているんだ。酸素という物質が二十一で、窒素という物質が七十九だ」
「ええ? 何も無いんじゃないの?」
「違うんだ。物にはね、個体、液体、気体の三種類が存在するのよ。概ね冷えると気体は液体に、液体を冷やすと固体になるよ。水蒸気を冷やすと水になるだろ? もっと冷やすと氷になるだろ? 水は酸素という物質と水素という物質の化合物だ」
「ふーん。わかったような・・・」
「信じてないな。生き物はさ、空気を吸って呼吸をしないと生きて行けないのよ。魔法で口の周りだけ空気を固体に変えてしまうと息が出来なくなるぞ」
「あそこにゴブリンがいるからやってみるね」
ゲルは呪文を唱えると、五匹いるゴブリンはばたばたと倒れて死んでしまった。ゴブリンの口元には液体酸素と液体窒素の膜が出来ていた。固体ではなく液体だがまぁいいだろう。
「本当だ。凄いね。イチコロだよ」
「そうだろ? あ、そうだ。ゲルは悪意のある存在とか検知できるかい」
レーダーである。
「出来るよ」
「悪意とさ、さっきの空気を液体にする呪文を上手くリンクできないかな。考えなくても魔法が発動して口元の空気を液体に変えればさ、意識しなくても魔物を倒せるだろ」
シーケンシャルだとか、シーケンスだとか、自動制御と呼ばれている仕組みの応用だ。世の中には自動制御という仕組みがあって、動く物は基本的に自動制御されている。考え方だけを応用した形になる。本来は、相手をレーダーにより確認、相手の口元の座標を確認、空気を液体に変換、この三ステップをゲルにやって貰うのである。自動制御でこの三ステップをやろうとするとなかなか大変だ。
「うーん、やってみるね・・・術式は・・・以外と簡単かな・・・」
ゲルは呪文を唱え始める。
「うん、発動したよ」
「早いね」
「魔法としては難しくないよ。簡単な魔法の組み合わせだよ。組み合わせ方の方が難しいね」
「あ、デカイバッタ」
俺が指差すと、ゲルは俺に抱きついてきた。ゲルはバッタを一切見ていない。俺は抱き合いながら、デカイバッタが次々と死んでいくのを見た。
「ありがとう。この魔法があればエージを絶対に守る事が出来るよ」
俺たちは体を離して歩き始める。基本は俺から求めているので求められたのは初めてだ。ちょっと嬉しい。
「なにか飛んでくるぞ」
俺は空を指差す。何かの群れだ。群れは恐ろしい速度で落下し、痙攣し始めている。ゲルの魔法が発動しているのだ。
「おい、可哀想だから殺すなよ」
グリフォンだ。四匹のグリフォンがひっくり返って腹を見せている。グリフォンは体が獅子、翼と頭が猛禽類という極めてカッコイイ魔物だ。一頭一頭が極めて強力な魔物であることが俺でもわかった。
「よし、じゃぁ魔力を漏らして言うことを聴かせるね」
ゲルは口から泡を吐くグリフォンに近づいていった。ゲルに気が付いたグリフォン達は一斉に伏せの姿勢をとった。猫っぽいのに・・・
「あんた達、誰に逆らおうとしていたのかわかっているの?」
ゲルは群れのボスっぽい体の大きなグリフォンに問いただしている。
「え? あ? この魔力は白龍様・・・失礼しました!」
グリフォンが口を開いた。話せるのか・・・
「うちじゃないよ。竜騎士に対して失礼ね」
「え! まじっすか!」
ん? グリフォンの目が輝き始めたぞ。
「そうよ。白龍の竜騎士エージ。うちは騎龍よ」
「失礼しました! 是非眷属にお加えください! お会い出来て光栄です!」
ん? なんだ? 竜騎士って人気有るのか? 魔物に? グリフォンのボスが俺に頭を擦り付けてきた。ちょと可愛い。俺は頭を撫でてみる。羽毛が気持ちいい。
「なぁ、俺の従魔になるか?」
「是非! 名前を頂けるなんて光栄です! しかも竜騎士様に! 願わくは一度、一緒に飛んでいただけませんか!」
ゲルが俺の手を握ってきた。
「従魔にしてあげて。魔力はうちから流すから」
「あ、白龍様は竜騎士様と番いでしたか! これはおめでたい! 飛びましょう!」
「竜騎士様! 強そうな名前をお願いします!」
「よし。俺の名はエージ。お前の名はヴァイシュララナ。俺の故郷の英雄にならった名前だ。常に強くあれ」
「ははっ!」
俺が名前を付けて、グリフォンが受け入れると膨大な量の魔力が流れた。因みにグリフォンは四人いるので四天王の名前にした。ヴァイシュララナ、毘沙門天だ。戦国最強との声が高い、上杉謙信が信仰していた。因みになんとか天とか、なんとか明王とかは殆どインドの古い神様が仏教に取り入れられたのである。
「お前達。竜騎士様よりお名前をいただきなさい」
ん? なんか知的レベルが上がったぞ。俺は残る三頭にも名前を付けた。ドゥリタラーシュトラ。持国天だ。インドの雷帝インドラ、帝釈天の配下だな。ヴィルーダカ。増長天。インドラの配下だ。最後はヴィルーパークシャ。広目天だ。こいつもインドラの配下だ。四天王の内、毘沙門天だけはインドラの配下では無いらしい。よく知っているだろ? 実家がお寺だからな。
「それとだ、俺のことはエージと呼べ。白龍ではなくてゲルと呼べ。俺が竜騎士であり、ゲルが白龍であることは秘密にしろ。人間の街で面倒になるのでな」
「畏まりました。このヴァウシュララナ、命に代えましても」
「よし、じゃぁ飛ぶか。ゲル、いいかい」
「うん」
ゲルは白龍に戻った。相変わらず美しく、気高い。
「お美しい、流石ゲル様」
ヴァイシュララナが感嘆の声を発する。俺はゲルに乗ると、ゲルは大空に羽ばたいた。いや、実際には魔力をジェット噴射させているんだけどね。
「ヴァイシュララナ! 先駆けを許す! 先導せよ!」
「は! お前達は残り三方を守護せよ!」
俺とゲル、グリフォン達と編隊を組んで飛び立った。俺がこの世界最高の航空戦力を持っているのかと思ってしまったよ。
お読みいただきありがとうございます。
運営から指導が入り、全体的に修正を入れています。
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ご迷惑をおかけしています。




