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経済の話をしよう

第五十五話 経済の話をしよう


 「え、では昼の講義です。これが最後の講義です。良く聞いてください」


 昼からの講義もギャラリーが沢山いる。仕事はいいのだろうか?


 「え、最後ですか?」


 「はい。私の仕事は概論を述べ、エリヤスエーミル様に考えていただく事です。私は考え方と概略の知恵を与えるにすぎません。あ、ご心配なく。技術開発はワイヴァーンアックス商会でも請け負います。この講義後、ドワーフの里を訪れて助力を請おうと思っています」


 「それであれば後で相談に乗ってください」


 「わかりました。では始めます。最後は経済というものです。一つ、質問です。ガレンドールは建国から百二十年経過しています。平和な時代と言っても良いでしょう。トーレ様、トーレ様のお給金は先祖代々同じなのでしょうか?」


 「うむ。同じである」


 「ありがとうございます。では、ご先祖様より生活で使えるお金が少なく、おかしいなと思っていませんか?」


 「うむ。昔はメイドが居たと聞いているが、とても雇えないのである」


 ああ、やっぱり。武士は食わねど高楊枝、だっけ。徳川幕府と同じ状況に陥っている。平和が進んでインフレになるのだが、幕府からのお給金が変わらないので生活が苦しくなるのだ。


 「ありがとうございます。ミセコール卿、このような状況でまさか倹約しようとしてませんよね?」


 「ん? 支出は切り詰めになるぞ。仕方なかろう」


 「成る程。ではこれから説明していきます。世の中には物価、物の値段というものがありまして、売り手と買い手を比較して、買い手が多いと値段が上がっていきます。一方、売り手の方が多くなってしまうと値段は下がっていきます。基本的に、平和な世の中になると『経済』と言う物が活発になって、値段が上がっていきます。本当は値段の上昇分だけお給金を増やさないと行けないのです。騎士の方々がおかしいな、と思っているのはこういう事です」


 「じゃぁ値段を下げればいいのですか?」


 「そうも行かないんです。まずですね、最近ミセコール卿に紅茶をお買い頂いています。金貨一枚分買ったとしましょう。ワイヴァーンアックス商会は金貨一枚儲かりました。私は引っ越したばかりですので、家具が欲しい。グエルターク商会に家具を金貨一枚分頼みました。本来利益が入って来るのですが、ちょっと単純に考えます。グエルターク商会は木工屋さんに金貨一枚を払って家具を買います。家具職人は金貨一枚ぶんの道具を買います。どうです? ミセコール卿が払った金貨がぐるぐると色々な人を回ります。お金が常に動いている状態、これが景気が良い状態なのです。お金があるので、物が買える。物が買いたいから値段が上がっていきます。物が買えると裕福になりますから、子供を沢山産もうか、とか景気がいいからガレンドールに住もうか、となり、人頭税も増える訳です」


 江戸末期の田沼意次はこの辺の経済の動きがわかる人間だったらしい。江戸幕府は商売はクソ、人間のやる事じゃないみたいな感覚の政府であった。経済を活性化しようとした田沼は賄賂政治とかレッテルを張られて殺されてしまう。


 「逆の場合です。ワイヴァーンアックス商会は紅茶が売れないと、家具が買えません。家具が買えないと、家具職人の収入も減ります。お金が無いので物が買えないのです。当然、ワイヴァーンアックス商会には紅茶が余る訳です。値引きしないと売れません。ほら、価格が下がりました。価格が下がるということは、欲しい人にお金が無い状態なんです。つまり、お金が循環していない状態です。これが景気が悪い状態の真相です。この状態で倹約令を出すと、益々お金が回らなくなり、みんなお金が無くなって行きます。景気が悪い時に倹約令を出すと、益々困窮していきます」


 江戸時代の天保の改革とか享保の改革は基本的に倹約令で、失政である。不景気こそ財政支出をしなくてはいけないのである。吉宗が名君だったというのは幻想だ。これ以降、江戸幕府は滅亡へひた走る。


 「難しいですね」


 「エリヤスエーミル様。その通り。まさしく生き物で難しいです。で、王権を失う理由の一つでもあります。お金がどんどん無くなると、食えなくなった人達が離農し、街でスラムを作ります。民の不満も増えて来て、暴動へ発展していきます。前の講義で物価を調べれば色々わかる、と言ったのは経済状況もわかるからです。景気が悪くなると戦争して奪う事を考えます。戦争の可能性が高くなって来るのです」


 「非常に大事じゃないですか・・・」


 「さらに軍が兵糧として小麦を買いあされば一気に小麦の値段が上がるはずです。色々なことが見えてきます。諜報は秘密の情報を調べなくても、かなりのことがわかるんです。あ、話がずれましたね。じゃあどうすれば景気が良くなるか。お金を使うことです。お金が回り始めれば、景気が上がって来るんです。スラムの人に仕事を与える意味で、土木工事も良いかもしれません。堤防、橋、水路等、治水工事ですね。治水を行えば耕作地も増えますし、新しい街も作れます。人口が増えますね。税収が増えれば騎士団も増えて軍が強くなりますよね」


 「家庭教師殿、お金は無限にあるわけではないぞ。言いたいことはわかるが」


 「マーヤレーナ様、流石です。実はここまでは前振りです」


 「前振りですか・・・」


 「はい。エリヤスエーミル様。ガレンドールの立地を考えますと、北に王国がありますが、南側は未開地が広がっています。国を大きく出来る可能性があります。ガレンドールには立派な港があるので、交易をして儲けを考えた方がいいと思うんです。とりあえずはリコドールとキキコですね。定期で船を出して交易をすべきです。あ、してました?」


 「いや、全くしていないです」


 「エリヤスエーミル様、ありがとうございます。次の段階はリコドールとキキコを拠点に違う大陸を目指します。珍しい物を買い、ガレンドールで捌く。王国に売りつけても良いです。交易先に無い物を輸出します。交易は基本的に非常に儲かります。私の講義の最後として、ガレンドールを中心とした交易網を作ることをおすすめします。ミコドールまで、全て港にする事が出来ます。もの凄い大きさの港を作る事が出来ますよ。交易をすれば、小麦を売ってくれる国や街があるかもしれません。冷害や干魃に強い芋が手に入るかもしれません」


 「干魃に強い作物があるんですか?」


 エリヤスエーミルの質問に皆がざわついた。


 「ええ。芋と呼ばれる作物ですね。地中にこれくらいの実が成ります。干魃に強いので、手に入れたいですね。こちらから何を輸出するか、考えないといけませんね。紅茶やお酒類が一つの答えかも知れません。蚕という虫を手に入れて絹という布を作っても良いかもしれません」


 「絹? 聞いた事ないぞ」


 「絹は最上級の肌触りの布です。薄くて強くて暖かいです。何処かで絹を生産しているかもしれません。交易をすると、色々な物が入って来ます。ガレンドールが中心になれば、ガレンドールを中心とした交易圏がが出来上がります。これは、既に交易圏を支配していると同じ意味になります。戦争しなくても属国化が可能なのです」


 「凄いな・・・」


 「ええ。マーヤレーナ様。注意点が一つあります。交易をして人の動きが活発になると、病気が入って来ます。十分に注意してください。病人が居る場合は四十日の停泊が必須です」


 「・・・なるほど、全てが繋がりました。質問なのですが、諜報活動での注意点はありますか?」


 「エリヤスエーミル様、何を調べるか。明確に指示する事です。最初は小麦の価格、集落の数、想定人口、でしょうか。行商人や薬売りに扮すると良いと思います」


 「ありがとうございます。これからも色々話をさせていただけませんか」


 「グエルターク商会に言伝願えば、参上いたします」


 「王は軍の司令官であること、軍のうごかし方、技術革新による王国との戦争準備。いろいろ有りましたね」


 「あ、エリヤスエーミル様、大事な事を忘れていました。一般市民に読み書き計算を教える学校を作ってください。一般市民の教養の差が、国力に響いてくるんです。是非お願いします」


 「わかりました。考えます」


 「ありがとうございます、エリヤスエーミル様。一応、短期間でありますが王の責務を話させていただきました。判断に困ったときはこの神話集ですとか、この国の歴史を振り返って見てください。過去の人がどのように考えたのか、見えてきます。特にこの神話集、一定の真実が書いてあります。神話集をどのように解釈するかで読み取れる情報が違うんです。コツは、どういう状況が発生したか、誰が何をしたか、結果はどうなったか、の3ステップで調べると良いですよ」


 「午前中の病気の件も神話集から見つけたんですよね」


 「ええ。恐らく、国に発生した大きな事は神の試練だとか御業とかに書き換えられて書かれているはずです。全てが真実ではありませんが、真実をベースに神話が書かれているはずです。特に自然現象、水害だとか火山だとかは神の怒りとか書かれています。研究すると面白いと思いますよ。水害が起きやすい場所がわかるかもしれませんよ。では、私の講義はこれで終了です。ありがとうございました。少し体を動かしましょうか。投げ技と剣の稽古をしましょう」

本日二回目の更新です。

家庭教師シリーズはひとまず終わります。

ブックマークありがとうございます。

大変嬉しいです。

明日、明後日とキャンプに行くため更新ができません。

よろしくお願いいたします。薪ストーブキャンプの予定です。

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