世界樹を見に行こう
第五十三話 世界樹を見に行こう
・・・見て! 左の半島に見えるのはルコドールの街だよ! 右にはキキコの街!
俺とゲルはミコドールから飛び出し、ガレン湾の上を飛んでいる。左側のルコドールの街は細い半島、右側のキキコの街は大きな半島に位置している。龍になったゲルの声が不思議と聞こえて来る。何かの魔法なのだろうか?
・・・あの二つの街が人間の最後の街だよ! 向こうに見える島は誰も住んでいないね! 島に行こう!
俺は久しぶりに見る景色に見散れていた。いつぶりだ? ジャンボジェット機とは違う景色に目を奪われている。
ゲルは白龍。この前、乳歯が抜けたので子龍なのだろう。俺と二人で大人になったんだけどね。俺はゲルの肩に座っている。風はそよ風程度に感じる。温度と風を魔法でかなり軽減してくれているようだ。
ガレン湾はルコドールの街がある細い半島と、キキコの街がある大きな半島に囲まれている。両半島を抜けると大きな島が見えて来た。ゲルは白い砂浜に着陸する。
水鳥が一斉に飛び立った。ゲルの風圧で波飛沫が飛ぶ。
「アハハ! 着いたよ!」
ゲルはワンピース姿の人型になると、俺に抱きついて来る。
「ね、キスして」
俺はゲルを抱き寄せ、キスをした。舌が絡み合う。長いことキスをした。ようやく唇を離す。
「ここには何があるんだい?」
「ええとね、おっきい木があるんだ。行こうよ」
白い砂浜から陸に進むと、若干丘陵になっている。俺とゲルは歩いて上って行く。島の陸地は草原になっていた。俺は草の匂いを肺に詰め込んだ。緑の草原と、蒼い海。白い雲。色のコントラストが美しかった。
「ほら、あそこ! 世界樹だよ」
俺は丘陵を登り終えると、巨大な木に目を奪われた。
「おお、凄い。世界樹か。世界は一つの樹木で出来ている・・・と信じちゃうな。メタセコイヤの木だね。初めて見た」
「世界樹じゃないの?」
「メタセコイヤっていう種類の木だよ。立派だなぁ」
俺は巨木を眺める。確かに世界はこの木で出来ていると信じてしまいそうだ。メタセコイヤとは北米にある巨木だ。どうして一本だけここにあるのだろう?
「幹を一周しようとすると、大人百人はいるかな? 天辺が見えない。凄い」
「ね、上に行こうよ」
ゲルは白龍の姿に戻る。俺は肩に乗り込んだ。ゲルはゆっくりと上昇していく。ゲルの姿に驚いて、枝で休んでいた鳥たちが飛び去っていく。
「鳥のコロニーになっているね」
三十メートル上昇しただろうか? 木の中腹でゲルは上昇を止めた。
「こんにちは! おばちゃん!」
「誰か居るの?」
「ほら、あそこ! あれ? おばちゃんじゃないや」
「こんにちは。白龍さん。お祖母様はもう起き上がれないんです」
小人が枝を歩いて来る。枝は揺れていない。背中の翼が羽ばたいている。
「そうですか・・・」
「白龍さん、気にしないで下さい。妖精にも寿命があるんです。あれ? 白龍さん、とうとう?」
話し相手は五十センチくらいの大きさだ。薄いワンピースを着ている。神は金髪。色白の女の子だ。妖精?
「うん。ブリットマイちゃん。うちの竜騎士、エージ」
「あ、こんにちは」
「はい。こんにちは。白龍さんをお願いしますね。ん? 女神様の匂いがします。うわぁ懐かしいです」
「お母様はエージが大好きなの」
「あらあら。エージさんは大地の女神のご寵愛を受けていらっしゃるのね。それは大変! ちょっと待ってて下さいね」
妖精のブリットマイは両手に植物の実を持ってきた。緑色の実と赤い実だ。沖縄で見た海ぶどうみたいに、細長い房に実が連なっている。
「魔法のお薬の材料、ムルプの実よ。持って行ってね」
妖精がわらわらとやって来た。三十センチくらいの妖精は手に唐辛子を持っている。
「これはカプルーフの実。お薬に使って下さいね。あら、随分一杯もってきたのね。こちらの袋に入れおきますよ」
妖精はわらわらとやって来て、袋に唐辛子と胡椒を入れてくれる。凄い嬉しい。胡椒は赤いやつが熟した実で、植えたら胡椒が生えてくるであろう。少し疑問形なのは栽培が難しいと記憶しているからだ。青い実は乾燥して黒胡椒にしよう。
袋に胡椒と唐辛子をどんどん入れていく。入れるついでに俺をべたべたと触っていく。
「じゃあね! 又来るよ!」
「はーい。又来て下さいね」
俺は大きい袋を抱えてメタセコイヤの木を離れた。
・・・エージは嬉しそうだね! 魔法の薬を作るの? エリクサーの材料だって聞いた事があるよ
「何言っているんだ? 料理に使うに決まっているだろ。食わしてやるよ」
・・・アハハ。フレヤさん腰を抜かすよ!
エリクサー。多分伝説の魔法の薬。どんな病気でも怪我でも治す薬、なのだろう。胡椒と唐辛子を使う様だ。エリクサーはカレーか四川料理に違いないな。
俺とゲルはミコドールの家に帰ってきた。又妖精に会いに行きたい。家に戻ると、少量の緑色の生胡椒と生唐辛子を女神像にお供えする。
「女神様、願わくは胡椒と唐辛子を乾燥させて下さい。胡椒は長期間乾燥と同じにしていただけないでしょうか。美味しい料理を作り、お供えさせていただきます」
無理か? お! 胡椒が乾いて黒くなっていく。唐辛子もあっという間に干からびた。
「ゲル、女神様が乾燥させてくれたぞ。よし、作ろう」
「わぁ。もう良いようにお母様を。アハハ」
「じゃ作るぞ」
俺は小麦粉にオリーブオイルを垂らし、卵黄を入れた。水を少量入れ、混ぜていく。小麦粉が米粒状になったら生地を練っていく。鍋に練った生地を入れ、蓋をしてしばらく休ませる。
生地を取り出して打ち粉を振り、薄く伸ばす。麺棒と板はこの前作って貰っている。俺は生地を伸ばし、包丁で細く切っていく。切ってく・・・上手く切れないな・・・まぁいいか。
「ゲル、お湯を沸かしてほしい」
「わかった!」
ゲルは口から火を噴いて薪に火を付けてくれる。誰もいないときはブレスで火を付けている。
俺はニンニクをみじん切りに、赤唐辛子を輪切りにする。
「お湯が沸いたよ!」
俺はお湯を一回横に置き、フライパンにたっぷりのオリーブオイルを張る。ニンニクと赤唐辛子をオリーブオイルで炒める。ニンニクの匂いがしてきたら火から下ろし、お湯にたっぷりの塩を入れる。塩水になるまで塩を入れるのがコツだ。打ったパスタを茹でる。生パスタだから早いはずだ。コップにゆで汁を取っておき、頃合いでお湯を捨てる。オリーブオイルの倍程度のゆで汁をフライパンに入れ、オイルと混ぜ合わせて乳化させる。塩味はゆで汁だけで十分。逆に言うと、ゆで汁だけで十分なほど茹でるときに塩を入れる必要がある。火から下ろして、茹でたパスタをフライパンに入れてソースを絡めて完成。
「ゲル、皿をお願い。女神様の分もね」
「はいよ! 出来たの?」
「おう。スパゲッティ・ペペロンチーノだ」
「スパゲ?」
俺はペペロンチーノを皿に盛りつける。少量を女神様にお供えをした。
「さぁ食べよう!」
「うん!」
俺は不揃いの太さのパスタを口に含む。旨い。久しぶりのペペロンチーノだ。麺打ちを繰り返したら製麺技術が上がらないかな?
ゲルはどうやって食べたら良いかわからず、俺のフォークを使いを見ながら食べ始めた。
「うわぁ、初めて食べる」
「小麦粉で作ったものはスパゲッティというんだ。ニンニクと赤唐辛子で炒めたものがペペロンチーノさ」
「うん、美味しいよ。食べたことないや」
ゲルの食べたこと無い、は当てにならないはずだ。基本竜体で暮らしていたから、人が作る料理など食べたこと無いはずだ。
「おーい、帰ってきたのかい・・・あ、ずるい!」
ロキが入って来た。
「ゲルちゃん何それ?」
ロキも見たこと無いようだ。エルフ料理ってどのような料理なのだろうか。
「なんじゃ、ニンニクの良い匂いがするのう。鶏を買って来たからあげて欲しいぞい」
「本当ね。でも不思議な香りが混ざっているわ・・・あ、もしかしてムルプとカプルーフの実? 初めて見たわ・・・どうしたの、これ?」
フレヤが机の上の胡椒と唐辛子を見て驚いている。
「さっきね、世界樹に行ったら妖精が済んでいてね、貰って来たんですよ! ウフフ」
ゲルが笑っている。
「ええ? 世界樹? 嘘!」
「いや、魔法の木とかでなく、メタセコイヤっていうとんでもない巨木になる種類の木でしたよ。でも妖精がいましたね。使うのなら持って行って良いですよ。でも料理に使うのと植えるので少しでお願いします」
「ちょっと、エージ君料理って、エリクサーの材料なのよ! あ、あんたカプルーフの実を食べているんじゃない!」
「エリクサーという良くわからないものに使うより、食べた方が良いですって。今から作りますから」
騒ぐフレヤを座らせて、ペペロンチーノを作り、三人に食べて貰った。
「美味しいでしょう? 絶対食べた方が良いですって。植えたらいくらでも収穫出来ますから」
「く・・・美味しいわね・・・でもさ・・・」
フレヤは魔法使いのなにかと戦いながら食べている。
「エージ君、美味しいよ。で、植えるの?」
「ロキ、頼むよ。こっちが胡椒。こっちが唐辛子。育てるのが難しいみたいなんだ。胡椒は蔓だから。南国の作物なんだよ」
「うん、わかったよ。やってみるね」
ロキはペペロンチーノと格闘しながら安請け合いしてくれた。
俺は胡椒をゴリゴリと潰し始める。一所懸命潰して細かな粉状にする。
「ああ、ムルプの実まで・・・」
フレヤは胡椒を潰す俺を見て諦めに入っている。
俺は鶏肉を薪を裂いた串で刺し、塩と胡椒を振る。ハツ、ボンジリ、キモ、砂肝、精肉。見ているだけで涎が出てくる。焼くぞ!
俺は焚き火で焼き鳥を焼き始める。煙が部屋の中に充満する。懐かしい、焼き鳥の匂い。
「旨そうじゃの」
「済みませんがビールが残ってましたよね。ビールに良く合うんですよ」
「わかったのじゃ! ロキ、氷を出すのじゃ!」
俺は焼き上がった焼き鳥をテーブルの上に置いていく。ビール片手に焼き鳥だ。旨いに決まっている。
「どれどれ・・・ほう、焼いただけなのに旨いの」
ガッコフルーグは平然と食べている。ロキは言葉もなく食べている。
「エージ、ビールが美味しいね、このチキン」
ゲルはほくほく顔だ。
「今日はゲルが一番の功労者だからどんどん食べて。フレヤさん、ほら食べて下さいよ」
「ムルプの実を・・・食べるのか・・・旨いんだけどさ・・・」
「フレヤさんもう要らないって。みんなで食べよう」
「ちょっと! ゲルちゃん、あんたの彼が非常識なのはわかった! あっしも食べるから! よこしなさい!」
「アハハ。沢山有るから大丈夫ですよ!」
ゲルが笑っている。皆で楽しく食べて、飲んで。ここが俺の家だ。
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