紅茶をロキに任せよう
第五十話 紅茶のロキに任せよう
朝、皆の前でロキが鍋の蓋を開けた。
「どう? エージ君」
俺は良い感じに発酵した茶葉を見る。
「良いと思うよ。火で発酵を止めよう」
ロキは鍋を火に掛け、発酵を止める。出来上がった紅茶を朝食で頂くことになった。
「ロキ、折角だからお茶を淹れてよ」
俺はロキに紅茶を淹れて貰うことにした。紅茶に関することは一切ロキにお願いする事にする。ビールは皆で仕込む必要があるね。
ロキは恐る恐るお茶を淹れてくれた。うん、美味しい。
「うん、美味しい。合格です。ロキ。これから紅茶をよろしくね」
皆で朝食を食べながら紅茶を飲んでいる。俺が合格を出すと、ロキは緊張した顔から一気に破顔した。
「本当? 本当に?」
「うん、これからは紅茶と言えばロキ、ロキと言えば紅茶だ。あ、そうそう。お茶の葉って、春と夏と秋では味が変わるから。春はファーストフラッシュ、夏はセカンドフラッシュ。秋はサードフラッシュ。春はあっさり目、秋は味が濃い感じになるんだ。とりあえずは無理だけど、一年を通して収穫が終わった後に混ぜて出荷するか、ファーストフラッシュとして出荷するか決めて欲しい。半分半分でもいいかもね。混ぜても春の茶葉が半年も寝かせるよね。おいしさがどうなるか、良くわからないから研究もお願い」
「そ、そうなの?」
「うん。そうしてね、お酒から酒精を蒸留して、薔薇やベルガモットの花のオイルと混ぜてフレーバーを付けたいんだ。紅茶が広がり、他の産地が出来たらブレンドしたい。紅茶って同じ葉なのだけど、植えられた土地で味が変わるんだよ。ブレンドしたら、カッコイイ名前を付けてくれよ。プリンス・オブ・ガレンドールとか、他には人の名前でもいいかもね。これが紅茶の長期的な戦略。恐らくこれだけでもの凄い大きな商会になると思うのだけど」
「エアドール殿実行じゃ。今すぐやれ」
「なんです? 何が?」
「決まっておる。酒精を取り出すのじゃろ? 当然途中で取り出せば強い酒が出来るじゃろ。今すぐやるのじゃ」
「ちょっと・・・遅かったわ・・・」
フレヤがやれやれと言う顔でガッコを見ている。俺にウィスキーを作れと・・・
「わかりました。じゃぁ泥炭と蒸留器を手配願えます? ついでだから大麦と小麦も大量にお願いします」
「任せるのじゃ」
お酒が絡んだ時のガッコフルーグの行動力は凄い。ワイヴァーンアックス商会はビール、葡萄酒、ウィスキーの会社になりそうだ。ウィスキーは持ち運びしやすいから、いいかもね。
「作れるの?」
ゲルが不思議そうな顔で俺を見る。
「うん、ビールの時と同じなんだ。乾燥を泥炭で行うんだ。泥炭でフレーバーを付けて、発酵させるんだ。その後二回ほど蒸溜して十年樽に詰めておけば出来る。ウィスキーというお酒だよ。でも醸し石を使えば一ヶ月で出来るかな」
「こうしちゃおれん! 行くのじゃフレヤ!」
「ちょっとガッコ、ガッコ!」
フレヤは食べかけのパンを持ってガッコフルーグの後ろを付いていった。
「フフフ。ガッコさんお酒好きね」
ゲルが笑う。
「ああ。良いことだと思うよ。酒が好きな人間が酒を造る。これほど良いことは無いよね。妥協もしないだろうし。ロキは紅茶好きかい? 好きじゃないと辛いからね」
「うん。大好きよ。ビールより紅茶かな。でさ、さっきのフレーバーってどうやるの?」
「あれはね、酒精に花のオイルを溶かして、茶葉に向かって霧を吹くんだよ。俺はベルガモットの花のフレーバーを付けて欲しい」
ベルガモットのフレーバーを付けたのがアールグレイだ。俺はアールグレイが好きなんだ。
「おはようございます! グエルターク商会です!」
セリーリアが来た。今日は家庭教師は無いはずだ。
「どうした?」
「あ、忘れてますね。クローゼットが出来上がりましたよ。凄いですよ、私も欲しいんです! こっちです! こっちに持って来て下さい!」
「何々? エージ君なんかきたの?」
グエルターク商会の男二人でクローゼットを運んできた。
「頼んでおいた服を入れる家具だよ。ほら、見てごらん。ドアを開けると、服を掛ける事が出来るんだ。下に小物をおくんだ。スカーフだとかだね。シャツなんかは下の引き出しに入れても良いよね」
「エージ、素敵ね。いいなぁ」
「俺服無いからゲルが使って良いよ。あ、二階に運んでくれます? ゲル、置く場所に案内して上げて。空き部屋をゲルの部屋にしよう」
「ええ? 本当に?」
ゲルが喜んでいる。良かった。嬉しそうに二階へ上がっていく。
「いいなぁ」
「ね、フレヤさんとロキの分もお願い出来るかな」
「え? いいの?」
「わかりました! うふふふ、良いですね。私も欲しいんです!」
「幾ら? 金貨四枚くらい?」
「あのですね・・・クローゼットをグエルターク商会で販売させて欲しいのです」
「ああ、ロイヤリティーか。まぁ良いですよ。ウチじゃ造らないしね。フレヤさんと話して決めてよ。あ、あとね、二人用のテーブルと椅子を一セットお願いできるかな。鏡台はある?」
「鏡台? なんです?」
ないのか・・・造って貰おう。何となくだが、十世紀から十二世紀くらいのヨーロッパ、という感じの世界だな。物が増えるのは十六世紀以降。芸術もそう。ルネッサンス以前のヨーロッパは何も無いのだ。
「一人用のテーブルがキャビネットになっていて、上に鏡を置くんだ。椅子に座って鏡を見ながらお化粧をするんだよ。お化粧道具をキャビネットに置いておくんだ。その辺は女の人同士で細かく決めて欲しいな。もちろんゲルとロキとフレヤさんの三人分ね」
俺は羊皮紙に絵を描いて渡す。
「私も欲しいです・・・」
「クローゼットはさ、サイズを変えたり引き出しの数を変えたりして何個か作ってさ、展示会をやると良いと思うよ。使い終わったらフレヤさんとロキに売って欲しいな」
「あの・・・」
「鏡台を売りたいのならいいよ。フレヤさんと話をしてロイヤリティーとか決めて貰えればいいよ。うちは家具はやらないしね。クローゼットも鏡台も、チークかウォールナットで造ると高級感がでていいよ」
「エージ、これ忘れていない?」
ゲルは本を四冊俺に手渡した。
「あ、そうそう。マーヤレーナが本を欲しいと言っていたでしょう。書いたんだ。三冊納めるから、マーヤレーナに納めて欲しい。たぶんミセコール卿にも小さな娘さんがいるようなので、マーヤレーナ様に一冊、ミセコール卿に一冊、グエルターク商会の保管用に一冊かな」
「うわぁ。見て良いですか?」
セリーリアは楽しそうに本を読み始めた。本は魔法少女アップルマーヤである。俺はマーヤレーナが年をとったらこの本はどうするのだろうと心配するのだが、本人が欲しいというのだから仕方が無い。
「あ、絵だ。かわいい・・・」
ぱらぱらと本をめくるセリーリア。にこにこしながら本を読んでいる。
「面白いです! 続きは・・・」
「まぁそのうち書くよ。当分は書かないけどね」
「エージさんが書いたんですか? 絵も。見た事が無い絵です。絵の複製は難しいです・・・」
「絵は版画で行けないかな。やってみてよ。俺は四部も書いたから、もう書かないかな」
「わかりました・・・売れると思うのですが・・・あ! そうそう! あの本は何ですか! びっくりしましたよ! とんでもない本です!」
「ああ、読んだんだっけ。フレヤさんに無理矢理書かされたんだよ。ちょっと頭来たからガッチリ書いたよ。お気に召した?」
「もう? スケベ! なんで書いた本人が恥ずかしく無くて私が恥ずかしいんですか! もう!」
「はっはっは。楽しんでいただけたようだね。ほら、運んできてくれた人が待っているから行った方がいいよ。あ、あとベルガモットと薔薇のオイルが欲しいんだ」
「あ、はい。わかりました。じゃぁ帰ります!」
セリーリアが帰って行った。
「じゃぁ私も戻るね。紅茶のことを良く考えてみるよ」
「頼んだよ!」
ロキもダンジョンに戻って行った。
「ね、エージ。飛ぼうよ」
「うん。行くか」
本日二回目です。
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