家具を買おう
第十五話 家具を買おう
馬車から降りた俺は家の中をグエルターク商会のヘンリッキと娘のセリーリアに見て貰い、細かな事を確認していった。薪はすぐ届くらしい。不在だったら置いていって貰うようにお願いした。大工道具はちょっと時間がかかるようだ。これから造って貰うとのこと。ベッドもしかり。しばらくは毛布で頑張るしかなさそうだった。説明が難しかったのはクローゼット。この世界には無いらしい。服をハンガーで吊す部分と、引き出しの部分。引き出しには細かな物を入れる。いまいち理解してくれなかったが、造るという。ハンガーもお願いした。
一通り説明したので、お茶を頂くことにした。セリーリアが俺の竃で火を焚き、湯を沸かしてくれている。セリーリアがバスケットを開けると、お茶セットが入っていた。ポットとカップ、お茶だ。セリーリアは馬車を降りたらすぐに元気を取り戻している。
お湯を沸かしている間、ヘンリッキは紅茶が気になるようだった。鍋に無造作に入れてある。ふふふ気になるだろう。俺のオリジナルの紅茶だからな。俺は手で少量つまみ、ヘンリッキに渡す。セリーリアにも渡す。二人は香りを嗅いでいる。特にセリーリアが興味を示している。
「とても良い香りです。初めてです。お父様、これは何でしょうか?」
無駄だぜお嬢さん。なぜなら俺のお手製だから。
「僕が仕入れたお茶です。飲んでみます?」
「良いんですか? 申し訳無いです。お言葉に甘えさせて頂きますね」
セリーリアは受け取った紅茶をポットに入れ、お湯を注ぐ。俺が良いと言うまで待って貰う。三分と言う時間が難しい。砂時計を造って貰おうかな。
セリーリアは三人分のお茶を淹れてくれた。可愛い子に淹れて貰うお茶は美味しいね。しかもコスチュームはメイドだしね。
「おいしい」
セリーリアがびっくりしてヘンリッキを見ている。ヘンリッキもしきりに香りを嗅いでいる。ハーブ茶も美味しいが、紅茶の方が俺の世界じゃシェアを圧倒していたのよ。
「薔薇のお茶に蜂蜜を入れようと思いましたが、このお茶の方が美味しいですね。お父様もそう思いませんか?」
セリーリアが喜んでくれている。やったぜ。
「何処で入手されたんですか? 私は父の元で商会の仕事をしてからかなり経ちますが、頂いたことが無いお茶です」
ヘンリッキはしきりにお茶の香りを嗅ぎ、少量口に含んでいく。テイスティングしているのか? プロの売り子さんだな。
「それはね、秘密なんですよ。でですね、僕の焼いたパンに蜂蜜を塗るとお茶に合うと思うんですよ」
俺はパンをスライスして、バターを塗った。
「ああ、皿が無いんだった」
俺が言うとセリーリアが皿を持って来て、パンを皿に載せた。
「あら?」
セリーリアは不思議そうな声を出す。そうだろう、軽くて柔いだろう。パン屋で売っている鉄みたいなパンとは違うんだぜ。
セリーリアはテーブルにパンを運ぶと、蜂蜜を塗った。俺はほんの少量、紅茶の茶葉、乾燥した物を振りかける。どうぞ、と言うと二人同時にパンを口に運ぶ。俺もお一つ頂いた。蜂蜜の甘みが、心地よい。紅茶も一口頂く。うん、やはり紅茶には少し甘いお菓子が似合う。パンを切ってバターと蜂蜜を塗ったものがお菓子とは言えない気がするけどね。
「柔い。バターの香りがします。甘くて美味しいです」
セリーリアは喜んでくれている。良かった。でも俺が無スキルだと知ると、俺を罵倒するんだろうな。あの馭者の女の子ようにさ。あ、しまった。紅茶やパンを見せるんじゃ無かったか。でも紅茶を造る加護やスキルなんて無いよね。パンはあるかも知れないけど、これは二次発酵させている全く別種のパンだ。
「驚きました。こんな柔らかくて美味しいパンがあるなんて。驚きです、本当に」
ヘンリッキは次々にパンを食べ始める。
「お父様、駄目ですわよ、食べ過ぎです」
「ああ、申し訳ございません。美味しくてつい沢山頂いてしましました。それにしても、立派なパン釜があると思いましたが、ここまでのパンを焼かれるとは思いませんでした」
ヤバイ。かなり食いつかれた。無スキルで造っていることがばれたら嫌われるか。もしくはお前は人間じゃないみたいな事を言われてしまうか。それにしてもヘンリッキは甘党だったようだ。サトウキビが手に入らないかな? 話の方向を変えよう。
「時にヘンリッキさん。何処か南方で囓ると甘い背の高い植物、サトウキビって言うんですけど手に入りませんかね? ヘンリッキさんの伝手で探して見て・・・」
「メェェェェ」
「あ、こら。入るな」
「メェェェ!」
ヤギが家の中に入ってきた。
「きゃ!」
「ああ、ごめん、話し中に! こら、出なさい!」
フレアが入って来た。フレアを認めると、ヘンリッキは立ち上がる。
「これはこれはフレア様。この度はありがとうございました」
「メェェェ」
「ごめん、置いていったのは悪かったから。外に行こう、外にな。ヘンリッキさん、こいつの小屋も建ててくれませんか!」
助かった。外に出て話を断ち切ってしまおう。俺はヤギをつれて外に出る。頭をよしよししてやるとヤギは落ち着いて来た。やれやれ。でも助かったぞ。
「わっはっは。随分と懐かれたもんじゃな」
ガッコフルーグが笑いながら見ている。ヘンリッキとセリーリアが出て来た。フレヤと何か話し、俺にも礼をして馬車に乗り込んだ。良かった。帰って行った。
「エージ君、グエルターク商会は帰って行ったよ。大変だったんだよ。ヤギが鳴いて鳴いてさ。でもさ、エージ君お茶やパンを振る舞っていたようだけど大丈夫なの?」
「ええ、つい出しちゃいました。助かりましたよ。ヤギが来るタイミングがピッタリ過ぎて」
「むむ? どういう事じゃ?」
ガッコフルーグは不思議そうな顔をする。フレヤの家でお茶を飲みながら話をすることになった。俺はフレヤが沸かしてくれたお湯で紅茶を淹れる。パンも持ってきた。フレヤは炙った干し肉とチーズを持って来てくれた。
俺は紅茶を一口すすり、パンに干し肉とチーズを挟む。二人は真似して同じように挟む。
「ガッコさん。俺ね、無加護で無スキルなんですよ」
「むむ?」
余り理解していないようだ。
「ガッコ、エージ君は召還魂を行った際の巻き込まれなのよ。一緒に召還された娘はもの凄い魔力の持ち主だそうよ」
「むむむ?」
「ガレンドールに来る途中、オーガが出ましてね。俺はスパッと倒したんですけどつい無スキルだっていっちゃたんですよ。そうしたら俺を化け物のような感じで見て、天誅だか天罰がくるから寄るなって本気で言って逃げてったよ。ショックだった。商会の人にお茶やパンをつい振る舞っちゃたんです。無スキルだってばれたらまた化け物とか言われるのかなって」
「むむむ。そう言うことか。あれじゃろ、フレヤだって同じじゃろ。フレアは剣技スキルは持っておらんのじゃよ。でも魔法より剣を使うじゃろ。スキルってなんじゃいといつも思っておるよ。ワシは気にせんから、パンを焼いてくれな」
「あら、そう言えばそうね」
「ありがとう、ガッコさん。フレアさん」
俺は思わず泣き出してしまった。俺は何処にも行くところが無いと思っていたんだ。俺はチーズと干し肉を挟んだパンを四つもガッコフルーグに渡したよ。フレヤは笑ってエールを持って来てくれた。魔法で出して貰った氷でエールを冷やしながら頂いた。世界の片隅で、居場所を得られたと思ったよ。
おかげさまで、自分なりにはかなりの好評を頂いております。
ありがとうございます。
今後とも、本作をよろしくお願いいたします。
なかなかよろず屋が開店しませんね。反省。