商会に行こう
第十四話 商会に行こう
「む? 何か知らんが何か出来たのか?」
ドワーフのガッコフルーグが髭をさすりながら覗き込んでくる。
「紅茶です。紅茶を造りました。早速飲みましょう。フレアさん、お湯とお茶のポットあります? あとカップをもう一つ」
「お茶なの? わかったわ。持ってくる」
俺は持って来てくれたポットに茶葉を入れ、お湯を注ぐ。三分待つ。最初の一杯目を新しいカップに注ぐ。
「ガッコさん、一杯目は大地の女神様に」
ガッコフルーグは手を引っ込める。
「綺麗な色ね」
俺は三人に紅茶を注いでいく。俺はどうぞと手で合図する。
「うむ。ちょいと渋いけど、良い感じじゃぞ」
やはりちょっと渋いか。抽出時間は短めで良いのだろうな。では俺も頂いてみますか。飲んだ感じはダージリンより渋めで、アッサムよりスッキリした感じだ。ダージリンでもアッサムでも無いんだな・・・ってミコドールで採れた茶葉だからミコドールの味だよね。うん。銘柄名はミコドール。きちんと紅茶になっていて嬉しい。
「おいしいわ。初めて飲むわよ。いつもは笹を乾燥させて飲んでるから」
Aランク冒険者が笹を飲んでいたのか・・・体に良さそうであるが、紅茶にはかなわない。
「エージ君は今日はどうするの?」
「俺ですか? 買い物しにガレンドールに行きますよ」
「そう? じゃあたいも行くかな。ヤギを卸そうかな」
「むう? じゃぁワシも行くとするか」
みんなでガレンドールに行くことに決まるとフレアが食器を方付け始めた。全員のカップが空になっている。無論、女神様に入れたお茶も空だった。女神様は本当に存在するのだと思う。敬っているのは俺だけかな? 女神様にも紅茶を美味しく飲んで頂けたようだ。
俺は家に戻り、買い物の用意をする。ヤギが付いてきた。めぇーとしきりに鳴いている。よしよし。頭を撫でるとめぇーと鳴いた。フレヤさんから買い取るかな。家の前で待っていると、めぇーめぇーと声が聞こえてきた。フレヤは馬に乗っている。ガッコフルーグは歩きだ。ヤギは良く慣れていて、集団で歩いていく。先頭はガッコフルーグだ。
「フレヤさん、ヤギを売っちゃうんですか?」
「うん、そうなのよねぇ。ヤギの乳を取ろうとか、チーズを造ろうとか思ったんだけどねぇ。結局ペット扱いで終わっちゃったわね。あ、エージ君にはその懐いたヤギあげるからね。雌よ」
「お? エアドール殿の嫁御はヤギじゃったか。わっはっは」
「メェー」
「こいつ名前有るんですか?」
「食べようと思っていたから名前は付けていないのよ。でもヤギって美味しくないって言われてね。ショックだったわ。じゃ、あたいは門の前にいるから、エージ君は買い物しておいで。門にいなかったら帰っていてもいいわよ。あ、そうそう、少し高いけど、グエルターク商会に行くのも手よ。ベッドだとか、布団だとか、鍋だとか手配してくれるし、運んでくれるのよ。ギルド街の手前にあるからね。ヤギもグエルターク商会に売るのよ」
お、これは良いことを聞いた。早速行ってみよう。確かに各ギルドの手前に大きい建物があったよね。俺は早速入って行った。
「いらっしゃいませ」
身なりのいい服を着た、三十才前後の男がやって来た。黒髪でオールバック。顎髭が生えている。白いシャツにクリーム色のベスト。黒いズボン。腰まであるジャケットを羽織ると貴族みたいだ。
「私はグエルターク商会のヘンリッキと申します。本日は、どのようなご用命で?」
「ミコドールに家を買ったエージといいます。今日はフレアさんの紹介で来ました。引っ越したばかりなので、家具をそろえたいのです」
「おお、Aランク冒険者のフレア様にはお世話になっております。本日、フレアさまにはヤギをお売り頂ける事になっているんですよ。ちょうどヤギが欲しい方がいらっしゃって、感謝されております」
俺がフレアさんが待っていると伝えると、丁稚っぽい若者が走って出て行った。商会の建物の大半は倉庫で、商会の中は事務所っぽい。商品は置いていない。通されたのは会議室っぽい部屋だ。メイドさんがお茶を運んできてくれた。ミントティーである。この辺の人のお茶はミントティーなんだろう。
俺は欲しい物を伝える。乾燥した薪壁一面。薪は乾燥しないと使えないので、これから採取して乾燥させるまでの期間用だ。ベッドと布団、シーツ。シーツは四枚頼んだ。キングサイズを指定。四人用のテーブルと椅子を二セット。材質はチーク材をチョイス。オイル仕上げ。チークは船にも使われる木材である。硬くて丈夫なのだ。棚も注文する。大工道具、金槌、鋸、薪割り斧、手斧、釘三百本、定規。定規は長い奴と短い奴。大きめの鍋がみっつ。パンを焼く石の板と、木の蓋。フライパン。石鹸も頼んだ。
「うーん、結構ありますね・・・お値段も相当になりますよ・・・チーク材はあるかな? おい、ギルドに行ってチーク押さえてこい。ダイニングテーブル二セット分だ」
ヘンリッキの指示で丁稚が走っていった。なんか面倒な事をしているのか、俺?
「とりあえず、手付けを払いますね。金貨五枚でいかがです? その石版良いですね。欲しいな。もっと大きい奴。あ、寝室にクローゼットが欲しいですね」
ヘンリッキは壁の石版にメモを取っていく。うむむ。やはり字が読めない。話せるけど読めない。字を覚えよう。
「クローゼットって何ですかね・・・ちょっとわからないですね。本日お時間があればお伺いしたのですが」
俺は構わないと告げると、馬を用意してくれるという。俺は乗れないのだが、大丈夫かな?
「エージ様。馬車を呼びますから、お待ちになってください。案内は娘にさせますので」
ヘンリッキは事も無げに言い放つ。馬車は高価だ。
「いや、馬車って、高いでしょう」
「気にしないでください。うち専属です。今日は予定が入っていないんで、使わないと勿体ないのですよ」
ヘンリッキは席を立つと、事務所に戻っていった。大商会はスゴイねぇ。
「エージ様、ご準備が出来ました。私当商会のヘンリッキの娘、セリーリアです」
セリーリアはスカートを持ち、挨拶してくれた。おもわずどうも、と声を発してしまう。黒髪のメイドさんだ。胸も豊かで、愛嬌があって可愛い。大きなバスケット、網籠のトランクを持っている。なんだろう?
外に出ると、小振りの馬車が待っていた。四人乗りかな?
「フレアさんの家の手前ですから」
「なるほど、あのお屋敷ですか。ちょっと狭いので、私は馭者台に乗っています。何かあれば、声を掛けてください。さ、セリーリア、失礼の無いように」
セリーリアはドアを開けてくれた。俺が乗り込むと、セリーリアも乗り、ドアを閉める。中は狭く、どう見ても二人乗りだ。俺とセリーリアは向かい合って座った。馬車は密閉性が高い。ヤバイ。良い匂いがする。体が若返ったので、すぐに反応してしまう。落ち着け俺。
「エージ様はミコドールのお屋敷をお買いになったのですね? あの大きなお屋敷が売れたって評判でしたんです。まさか私と同じくらいの方とは思いませんでした」
セリーリアは気軽に話しかけてくれる。
「私実は馬車が苦手でして、今日は割合近いので父に乗れと言われまして。あ、付きましたらお茶を淹れさせて頂きますね。きゃ」
馬車が跳ねた。跳ねたというか、馬車は基本的に跳ねっぱなしだ。乗り心地が悪い乗り物だ。今度は少し大きく跳ねた。
「きゃぁ!」
セリーリアは飛ばされ、俺に向かって飛んできた。客である俺は進行方向に座る。セリーリアは逆方向だ。俺はセリーリアを抱き留める。柔らかいし、良い匂いがするよ畜生。俺の若い体がどんどん反応するが、般若心経を唱える事で心を静める。実家はお寺だったんだよ。観自在菩薩・行深般若波羅蜜多時・・・静まれ俺の息子。頑張るんだ。
「あの、済みません」
青い顔をしている。酔ったようだ。
「気分が悪くなった? 大丈夫かい」
俺は背中をさする。ほぼ抱き合った状態だ。たまらん。なんて言ったら良いのだろう? キャバレーのセクシータイムだ。膝の上に跨るあれな。数年前にいった事があるけどちょっとぼられたんだよなぁ。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。頑張れ俺。知っているか。色即是空ってこの世のものは実体が無く因縁によってのみ発生するという意味なんだぜ。
セリーリアは本当に顔が青く、動けないようなので小一時間介抱し続けた。残念ながら抱きっぱなしじゃなかった。残念。
馬車がようやく止まる。着いたようだ。
「大丈夫かい。着いたようだよ」
「あ、本当にごめんなさい。なんて言ったらいいか」
「あの、ずっと介抱して、頂いたこと、お父様には内緒で・・・私ったらはしたなくて、ごめんなさい」
「色即是空」
俺は思わず口に出してしまったが、セリーリアには聞こえなかったようだ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
エージは文字が読めないことに気が付くのでした。




