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二階層に潜ろう

第十六話 二階層に潜ろう


 「じゃぁ行くわよ。二階層ね」


 俺は今、裏山のダンジョンに来ている。家を買ったら付いてきた裏山、いやね、裏山っていう規模じゃ無く、立派な山なんだ。例えるなら、古里の有珠山に規模が似ていると思うよ。わかりにくくてごめんな。東京で都会人ぶっていたけど、実は田舎者だったんだ。ミコドールっていう田舎がいいなって思うのは俺が田舎人だからだね。


 裏山には最近出来たっぽいダンジョンがあるんだ。スゴイだろ? 個人所有のダンジョンだぜ。なんかね、冒険者ギルドかガレンドールの役所が管理したほうがいい気がするけど、とりあえずは俺のダンジョンでいて貰おうと思う。ドワーフのガッコフルーグが、落ち込んだときはダンジョンじゃ! と息巻いたので潜る事にした。冒険者の人はダンジョンが好きなのか。


 二階層、地下二階に移動する。見まわすと、四角い煉瓦の部屋だ。人工も人工、美しく煉瓦が組まれている。


 「煉瓦張りだわ。慎重に行きましょうか。ね、ガッコ」


 「うむ。そうじゃな」


 「煉瓦だとなにかあるんですか?」


 俺は不思議に思い、問い直す。


 「ほら、ここよ。ここ見て。この煉瓦を踏むとね、落とし穴があくわよ。ちょっと下がってて」


 フレヤは剣先で床の煉瓦を叩くと、床が崩れて落とし穴が空く。落とし穴の床には槍があり、落ちると串刺しになる寸法だ。


 「じゃぁあたいが魔法を掛けるから、ガッコとエージ君で魔物を退治してね」


 フレヤは呪文を唱える。


 「隠れていたもの、姿を現せ」


 フレヤは灯りの呪文と、罠を見つける呪文を二つ同時に発動している。二つ同時って凄いんだろう?二階層は四角い部屋と通路の組み合わせのようだ。フレヤは先頭で歩いて行く。革の鎧に剣を装備した姿は相変わらず魔法使いに見えない。


 「しばらく罠はないわ。次の部屋に行きましょう」


 「よし、いくぞ。エアドール殿」


 ガッコは先頭で部屋に飛び出していった。俺は慌てて付いていく。


 「ひ」


 俺は思わず悲鳴を上げてしまった。八つの目が赤く光り、俺を睨んでいる。八本有る足のうち、二本を高く上げ、牙の生えた口を大きく開ける。体は真っ黒で細かな毛がびっちりと生えている。口の脇に一対の小さな腕があり、くるくると動いている。


 「嘘嘘嘘嘘」


 俺は背筋に悪寒が走り、動けなくなる。蜘蛛だ。巨大な蜘蛛が俺を睨んでいる。蜘蛛がじりじりと俺の方に歩いてくる。


 「蜘蛛嫌い蜘蛛嫌い来るな来るな」


 俺は蜘蛛に押し倒され、足から簀巻きに去れ始めた。おばあちゃんさようなら。向こうでは死んでしまって、折角こっちで命を貰えたのにすぐに死ぬみたいです。ごめんなさいおばあちゃん。蜘蛛は大嫌いなんです。蝉も駄目です。カブトムシは大丈夫ですが、ゴキブリも嫌です。何ですか、ゴキブリ。北海道にはいないんです。初めて見たときは死ぬかと思いました。さようならおばあちゃん。俺は蜘蛛を見て体が動かなくなりました。


 「おい、しっかりするんじゃ」


 蜘蛛は俺の目の前で頭を潰され、嫌な色の体液をまき散らす。俺にべっとりと体液が付着する。自慢の革の鎧に嫌な体液が・・・


 ガッコフルーグは俺に巻き付いた蜘蛛の糸を断ち切ってくれた。


 「なんじゃ、蜘蛛が苦手か。わっはっは。剣は凄くても、やはり初心者じゃのう。ジャイアントスパイダーは低レベルの魔物じゃぞ。冒険者ランクE相当じゃな、エアドール殿は」


 「ほれ、行くわよ。糸腺はいる? ギルドに持って行けばお金になるわよ」


 フレヤはぶよぶよした蜘蛛の腹に剣を突き刺し、手を突っ込んで糸腺を取り出した。ぶよぶよした嫌な感じのものだ。良くわからないが、蜘蛛の糸を造る器官なのだろう。


 俺は首を振ると、フレアは糸腺を投げ捨てた。よく蜘蛛の腹に手を突っ込めるもんだ。俺には無理だ。気を取り直して先に進んで行く二人に着いていく。次の部屋は今までの部屋の倍の大きさだ。奥行きが二倍になり、細長かった。そう、その通りだ! 部屋が二倍と言うことは、魔物も二倍だ! 蜘蛛が沢山いる!


 「か、帰りましょう」


 俺は帰ろうと言うが、フレヤが魔法で一気に燃やしてくれた。爆風と共に蜘蛛の足が沢山飛んできた。うひ。勘弁して。


 「この部屋にはなにもないようね。次行くわよ。次」


 細長い部屋の真ん中から次の部屋に行けた。


 「ち、ジャイアントスパイダーが沢山いるわ。任せて」


 フレアは魔法で一気に燃やす。色即是空、空即是色。俺は心を閉ざす。何を言われようと閉ざす。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。


 「おい、エージ君もう大丈夫だから何かをぶつぶつ言うのはやめなさいよ」


 「本当ですか?」


 次の部屋は小さい部屋で、魔物はいなかった。良かった。


 「エージ君、部屋の真ん中に三カ所、煉瓦が浮いている床があるでしょう。踏んじゃ駄目よ。罠だからね」


 俺はゆっくりと部屋を進む。次の部屋の灯りが差し込んでいる。灯りが差し込んでいる? 焚き火やランプの明かりではなく、明らかに太陽光の明るさだ。


 「わぁ。素敵」


 フレアが声を上げている。俺も中に入ってみる。畑が広がっている。蔓状の植物の畑。竹が格子状に組まれており、蔓が巻き付いている。何故か天井は空高く、雲が浮かんでいる。時折風が吹く。心地よい風だ。


 「あら。苦みの鞠玉だわ。薬の材料になるのよ。もっと北の方にしか咲いていないのだけど・・・ダンジョンだからかしらね。なんで畑になっているのかしら」


 フレヤの声で、実が成っているのを見つけた。実なのか、花なのか良くわからない葉っぱの塊のような果実だ。お? おお?


 「ふむ。薬になるのか。どれ」


 ガッコフルーグは果実をつまむと口に放り込み、食べ始める。


 「んんん! 苦いのじゃ! フレア、水じゃ! 水じゃ!」


 「ガッコったら! 凄く苦いのよ! あんた明日まで苦みで味がしないわよ」


 「馬鹿な・・・水を沢山飲んでも苦みが消えないのじゃ・・・」


 俺は苦みの繭玉を手に取って観察する。間違い無い。ホップだ。


 「エージ君、苦みの繭玉が珍しいのかな? 囓っちゃ駄目よ。ガッコみたくなるわよ」


 「フレアさん。ホップですね。これがあると旨いビールを造れますよ」


 「なんじゃ? こんな苦いもの、食えないぞい」


 ガッコフルーグはまだ苦そうな顔をしている。


 「食い物じゃないです。お酒ですよ。旨い酒が造れるかもしれませんね」


 「なんじゃと? 今すぐ収穫なのじゃ」


 ガッコフルーグはホップを収穫し始めた。背負っているザックから袋を取り出し、中に放り込む。畑の真ん中に小川が流れていた。手と顔を洗う。冷たい。コップですくって飲んでみる。俺は思わずガッコフルーグを呼んだ。つい、嬉しくてね。ガッコフルーグも喜ぶと思ったんだよ。


 「ガッコさん! 軟水だ、軟水ですよ。やりましたよ。透明なビールには軟水です!」


 家の横の水も綺麗だが、比較的硬水だった。ナトリウムとかマグネシウムが多い水だ。日本はほぼ軟水である。記憶では、ピルスナーは軟水だった気がする。濃い色のビールが硬水で、淡い色のビールが軟水。あ、二種類作れるのか。ビールは黒かったり、赤かったりするのだが、日本で飲まれているのはピルスナーという種類のビールな。


 「む。ナンスイがなんなのかわからないが、わかった。今すぐ戻って水を汲もう・・・むむむ。樽が無いぞい!」


 「駄目よ、ガッコ。慌てないの。エージ君、これでお酒が出来るの? 苦いわよ?」


 「正しくはですね、エールを作るときにホップを使うんですよ。泡立ちが良くなって、苦みがでて、透明になって、保存期間が延びます」


 「なんじゃと? 甘ったるいエールに苦みがじゃと? 本当か? 本当か?」


 ガッコフルーグは俺の襟首を掴んで何回も俺を揺する。あわわわわ。ドワーフの力はスゴイ。俺の筋肉じゃ歯が立たない。助けてくれ。


 「ちょっとガッコ。落ち着きなよ。お酒を入れる樽も無いのよ。準備に時間が掛かるわよ」


 ガッコフルーグはようやく俺を離した。助かった。


 「気持の良いダンジョンだし、持ってきたパンを食べましょうよ」


 フレアはザックからヤカンを取り出すと、小川から水を汲んだ。左手に小さな火の玉を発生させると、ヤカンを上に置く。ヤカンはすぐに沸いた。なかなか器用だなと感心して見る。料理でファイヤーボールを炸裂させたとは思えない。


 フレアに紅茶を淹れて貰っている間、腸詰めを炙る。フレアが造っている火の玉を活用させて貰っている。何してやがるみたいな目で見ないでくださいね。魔法って便利だな。俺はパンにバターを塗り、腸詰めを挟む。


 俺はパンを囓る前に紅茶を一口飲んだ。今日も紅茶が旨かった。ガッコフルーグは舌が痺れて味がしないと言っていた。恐るべしホップ。

お読み頂いた方、ありがとうございます。

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