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14/24

そんなつもりじゃなかったんです(里菜子目線)

インフルエンザには一度かかりましたが、病院に行く前の一晩で熱が下がりました。けどやっぱりインフルエンザと診断されたので一週間休みました。そりゃそうだ。

「いやぁご心配おかけしまして」

「そんなに心配してねえ」


里菜子は無事に学校に復帰し牧彦に声をかけるが、牧彦は素っ気なくそう言いながら窓の外を見ている。

案外とインフルエンザで辛かったのは一日程度で、次の日になると熱は微熱程度まで引き、三日目くらいで平熱にもどった。


それでもインフルエンザの潜伏期間である一週間は学校に出てはダメと言われているのであまりにも暇で手持ち無沙汰で、ミリやノアに、

『牧彦くん他に話す人いないだろうから声かけてあげて~』

などと送ったら、


『けど今まで里菜子抜きで話したことないから何を話せばいいのか…』

『ちょっと話したらそんなに怖くも悪くもない人って分かってるけど話題がないよ』

と言うので、

『じゃあ授業でわかんないとこあったら私にライン送ってって言ってたよ~的なことから話し始めれば?目は怖いけど特に睨んでるわけでもないから慣れれば平気だよ』


など二人のバス通学中にラインを送っていたが、二人は真面目なので学校に到着するなり電源を切ってスマホはバックに入れたままにする。

だから学校に到着次第はあとは昼休み、そして放課後までやり取りがなくて暇になる。


もちろん牧彦のラインの先も分かるので何か送ろうかと思ったが、牧彦は席が一番後ろで一番端なので授業中にいじって先生に没収されるのではという懸念が浮かび、あえて何も送らなかった。


が、牧彦から、

『具合どうだ』

との一言が飛んできて、心配してくれていたのかと思うと嬉しくてついポンポンとメッセージを送ってしまった。


しかし授業が始まりそうな時間からは既読がつきつつもそのままになっていたので、ああ、授業はどうやら真面目に受けているみたいだなと感じた。


なので暇だし、休み時間の少しだけでもこうやって暇つぶしの相手をしてもらえるのならと、授業で分からない所があれば聞いてもらってもいいと送ったら、寝てろよ、と返ってきた。


ちょっとイラッとさせる冗談をかまそうと、

『牧彦くんが心配で(笑)』

とまで打ち込んだら頭の中にフッと、たった四杯で夜も眠れず~というのが浮かび、そうだ、自分は今四日休んでるんだし、これかけられるな、と思ったので(笑)を消して、

『牧彦くんが心配で、四日だけで夜も眠れず』

と送った。


そのあとはまだ休み時間だというのに全く返事が返ってこず、次の休み時間になっても返事が来なかったのでそれきりになってしまった。


そして暇なのでソファーの肘置きにもたれかかって牧彦とのやり取りをなんとなしに上から見ていって、ふと夜も眠れずの辺りに差し掛かって里菜子は思わず手を止めた。


そして気づいた。


これって、

「牧彦くんの事を思っていたら四日も会っていないだけで夜に眠れなくなってしまいました」

という恋煩いに悩まされているような恋愛風の意味にもとらえられるんじゃないかと。


もしかして牧彦はそっちの意味にとらえて困惑して何も返事を返してこないんじゃないかと。


そもそも自分は夜も眠れず、の元ネタを知っているが、牧彦は知っているだろうか?

運が良ければ小六か中学の時の歴史の授業で先生が雑学程度に教えたかもしれないが、ほとんど基本的な知識が抜けている牧彦の事だ。そんな狂歌のことなんて分かるはずがない。


つまり自分は何も考えず牧彦に恋愛感情持っています的な文を送りつけてしまったのだ。


その事に気づいた里菜子は、

「ッアーーー!」

と叫んでスマホを落として肘置きに頭を押し当ててのけ反っては足をジタバタさせてソファーから転げ落ちた。


いきなりの妹の謎の行動に、近くで漫画を見ていた兄の巧が「うわっ」と言いながら引いた。


「何だよ、どうしたタミフルか?」


巧がそう言いながらソファーから転げ落ちてウネウネと虫のように動いている里菜子を見ていて、里菜子は顔を上げ、

「兄ちゃんは…あなたの事が心配で夜も眠れずってメッセージが送られたらどう思う…?」


「え、女の子に?」

里菜子がうんうん、と頷くと巧は、

「そりゃドキッとするよねえ。え、もしかして僕の事好きなのかなって思っちゃうよねえ」


「うあああああああ!」


里菜子はその場で前転してそのままドターン!と大の字になり、そしてゴロンゴロンと左右に転がりまくる。


「なんだなんだ、どうした里菜子、タミフルか?」

「違うー!見てもいいから見てこれー!」


里菜子はそう言いながら牧彦とのやり取りのラインを巧に見せると、巧はそのやりとりを見て、

「ああ…」

と納得した顔になった。


「返事がないの!返事がないの!きっと引いてるんだ、困ってるんだ、私みたいな女に恋愛感情持たれてると勘違いして困ってるんだー!ああー!何も考えないで送ったらこの始末ぅー!」


巧は里菜子にそっとスマホを返し、

「まあ…送っちゃったもんはしょうがないんだし…いいんじゃない?男ってのは嘘でも冗談でも女の子に好意持たれてると思うと喜ぶもんだよ…」


「そういうんじゃないんだってばー!ああー!」


そして何度もあれはそういう意味で送ったんじゃないと牧彦にラインを送ろうと思ったが、それでも何度も文面を書き直し推敲し、いざ送るという段階になると本当にこれで納得してくれるかと思うと指が動かなくなった。


そしてまた文面を書き直し推敲しているうちに時間は刻々と過ぎていき、次第に、

「先に送りし文、左様な意味合いでは無き候事にて云々…」

などとボケを狙い過ぎて笑えもしないし何を言いたいのか分からない文になってしまい、言い訳するにはよそよそしい日数を過ぎてついには今日に至ってしまった。


案外と対面すれば牧彦もいつも通り声をかけてくれるのでは、とかすかな期待を持ってこちらも変わりなく声をかけてみたが、明らかに牧彦の言葉は素っ気なく、窓から厚ぼったい雲で覆われている空とその隙間から漏れる天使の階段…正式名称、薄明光線という雲の隙間から漏れる光を見ている。


そりゃあいつも三つ編みおさげで、眼鏡という非常に地味な見た目で、性格もミリやノアと比べてもTHE・女の子、というにはかけ離れている。

こんな自分にあんなメッセージを送られた時点でかなり引いたことだろう。


もしかしたら勉強を教えようとしているのだって牧彦を狙っての行為と思われたかもしれない、きっと気持ち悪い女として牧彦の中の自分は上書きされ嫌われたかもしれない。


そう思うと段々と気持ちが沈んできた。


そこまで考えて、里菜子はふと思った。


別に自分は牧彦にどう思われようと関係ないではないか。

そもそも最初に牧彦に勉強を教えようと思ったのだって、このクラスのいけ好かない学級委員長に小馬鹿にされて見てろよ、とばかりに牧彦を更生させようと思ったのだから。


そこまで考えてある疑問が浮かぶ。


じゃあなぜ自分は牧彦に嫌われたと思ってこんなに気分が沈んでいるんだろう。里菜子は窓の外をなおも見ている牧彦の横からの姿を見る。


すると牧彦がチロ、とこちらを見たので、ハッとなって思わず視線を逸らした。

「里菜…」


牧彦が声をかけて来たのでぎこちなくそちらを見た瞬間、

「おはよう!里菜子お帰り!」

「おはよう、元気になって良かったね!」

とミリとノアが後ろから声をかけて来たので思わずそちらの方に首を動かし、自分が戻ってきたと喜んでいる二人に目を向ける。


「あ、あとこれ…」

「ほら、ここ一週間の授業、ノートに取っておいたから写しなよ」


二人がそう言いながら里菜子の机の上にドサッとノートを乗せる。


「ああ…!ありがとう」


「期末テストに出るってところもちゃんとメモしといたからね」

ミリがそう言いながら、感謝して?とばかりの顔で里菜子を見るので里菜子は、ありがたや~と言いながら頭を下げて手をすり合わせる。


そうしているうちにホームルームの時間になったので二人は自分の席へと戻っていった。


里菜子は友達とはありがたい存在よ…と思いながらノートを手に取っていて、ふと牧彦がこちらを見ているので思わずそちらに目を向けた。


その顔を見る限りでは自分に嫌悪感を持っているとは思えない表情で、ただ微妙な顔つきをしてこちらを見ている。


「…」

里菜子はあの夜も眠れずは違うんだという事を伝えようかと口を開きかけるが、牧彦はバツが悪そうな顔で机の中から引っ張り出しているものに目を向けるので里菜子もそれに目を向けた。


見るとノートが机の中から引き出されかけている。


「…?」

里菜子が牧彦の顔を見る。


「…一応、俺もお前が休んでるからって授業内容ノートに取ってたんだが…。二人の分があるなら要らねえな…」

とモゴモゴと言いながらそのノートを机の中にしまおうとする。


「あ、待って、いります、欲しいです!」

里菜子はそう言いながら牧彦の腕をガッと掴んだ。


牧彦は少し里菜子を見て、

「…あの二人のよりだったら読みづれえと思うぞ」

と言いながらノートを渡してくる。


ミリとノアのノートはどんなものなのか分かるので、牧彦のノートをめくってみる。


確かにミリとノアのノートに比べれば字もあまり上手ではないので読みづらいが、あの授業にすら出なかった牧彦にしてはかなりの情報量がノートに書かれてある。


もちろんミリとノアも自分が休みの間の授業に追いつけるようにとノートを書き取ってくれたのだろうが、牧彦までもが自分のためにここまでせっせと黒板に書いていた文字を書き取っていてくれたんだと思うと胸の内が暖かい感情で包まれる。


「…ありがとう牧彦くん」


里菜子がそう言うと牧彦は、ふん、と言いながらあっちの方を見ている。


そんな牧彦を見ていてジワジワと胸の内から暖かい感情と共に心臓の鼓動が大きくなってきた。


もしかしてずっと窓の外を見ていたのもノートを渡すタイミングをうかがっていたんだろうか。


それでいて渡そうとした瞬間にミリとノアがノートを持ってきたのでさっきのあの微妙な顔つきになっていたのだろう。


なんてタイミングの悪い人だ。


そう思うとその不憫さに笑いが込み上げてくる。

「牧彦くんて結構可愛いところありますよね」

「あ?」

牧彦がこちらを見て、そしてイラついた顔で里菜子に向き直る。


「てめえ、いちいち馬鹿にしにかかってくるんじゃねえよ、この間のラインだってなぁ…」

ラインの話が出て、里菜子はカッと顔が赤くなり、

「や、違うんです!あれは…」


「たった四杯で夜も眠れず、だろ。ずいぶんな皮肉だったな」


里菜子はその言葉に驚いて顔を上げる。

「あの狂歌の元ネタ、知ってたんですか」


牧彦は少し口をつぐみ、少し視線を泳がせた後に、

「馬鹿にすんな」

と小さく返してまた窓の外に目を向けた。


またジワジワと胸の鼓動が大きくなってくる。とりあえずあの夜も眠れずの内容は深く取沙汰されていないようなので安心した。


だけどこんな身長も自分の倍で、見るからに可愛いとは縁遠いこんなガタイのいい男子がどうにも可愛く思えるのはどうしてだろう、不思議。

某職場には家族が次々とインフルエンザで倒れ、自身もゲショゲショとクシャミ鼻水が酷い状態なのに働きに来ている人がいたそうです。

仕事熱心だと思いますか?私は周りに迷惑だと思います。

あと明治時代には「インフルヱンザア」表記だったようです。外国の人の言葉がそう聞こえたんでしょうね。

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