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12/24

教室での過ごし方も色々あるんですよ(牧彦目線)

実在する番組名出しても平気だろうか。分からない。

チャーハンを食べた食器も片付け終わり、三人で団らんをしている。


「へえ~、じゃあ今のところ里菜子が教えてるのは国語が主で、今日英語に取り掛かったばかりだと」

巧がそう言いながら里菜子と牧彦を見ていて、里菜子は頷いた。


「うん。とりあえず母国語が理解できてないとテストの問題も教科書の内容もよく読み取って理解できないでしょ」

「その通りだね」

巧も里菜子の言葉には素直に賛同する。


そして里菜子はふっと微笑んで牧彦を見た。

「予想外に牧彦くんは算数も出来るって分かりましたし」


そんな満面の笑みで俺を見るな、と牧彦はかすかに里菜子から視線を逸らす。

単純にいつも買い物をしに行って、そして何割引きとか何%引きの計算ができるようになった程度のものだ。それだけですべての計算ができると思われても困る。


「ちなみに猿田彦くんは算数と理科、国語と社会だったらどっちが好きかな?」

「…」

巧の質問に牧彦は口をつぐんでやや睨み加減に見返す。


そのすべてが赤点なのだから何が好きもない。すべてが苦手科目だと言っていもいい。


とりあえずこの間図書館で里菜子から猛プッシュされた怖い絵は借りて読んでいるので、国語と世界史の勉強をしている…つもりだ。


「とりあえず国語と世界史は…勉強中っす」

学校のテストで役立つ勉強かはさておき、たしかにあの本は中世ヨーロッパ時代の事や裏事情を知るには色々と目から鱗の事を学べる本だ。


「じゃあ僕からもちょっとしたアドバイスでも送ってあげようかな」

巧の言葉に牧彦は顔をそちらに向ける。


この巧は里菜子の兄でしかもよく似ているし、分数の計算も普通に教えられる。そうなれば里菜子と同じく勉強はオールマイティーにできる人物なのだろう。


「日本史と生物、化学、地理にうっすらと政治経済を楽しく一気に学べる方法がある」


全部が関わりが無さそうなものだが、それが楽しく一気に学べる方法と言われたら俄然興味を引かれたので少し身を乗り出して巧を見る。巧は真面目な顔をして牧彦を見返した。


「ただしこれは、学びたい、覚えたい、という意識がないと何の身にもならないものだ。聞く覚悟はあるかね?」


映画か何かの主人公を手助けする博士的な言葉を言いながら巧が言ってくるので牧彦も頷いて見返す。牧彦の意識がこちらに集中するのを確認するように巧は小さくうなずいて、口をゆっくりと開いた。


「『ブラタモリ』と『鉄腕ダッシュ』を見る」

「…は?」

「『ブラタモリ』と『鉄腕ダッシュ』を見る」


巧は同じ言葉を繰り返し、牧彦は少し口をつぐんでから口を開いた。

「それって夜にテレビでやってるやつっすよね?」

「そうだよ」


ケロリとした顔で牧彦は言うので、牧彦はガッカリした。ブラタモリは見たことは無いが、鉄腕ダッシュなら夕食時に時間があえばチャンネルを合わせることはある。


そんなテレビ番組を見るだけで日本史から政治経済までが学べるというなら今頃自分だってテストでいい点を取っているはずだ。


「あ、馬鹿にしてるね」


巧はこいつはなにもわかってないとばかりに鼻でため息をついて首を軽く横にフルフルと振っている。見ると里菜子も同じ顔をして首を横にフルフルと振っている。


なんだこの似た者兄妹は。


里菜子は口を開いた。

「そりゃただ見るだけじゃ学べませんよ。ただの夕食時の楽しい番組程度にしか思ってないならね」


「…」

その言葉に牧彦はどういうことだ?とばかりに里菜子の顔を見る。


「まずブラタモリ。これはタモさんが日本各地をブラブラする内容なのは知ってるよね?」

見たことは無いが、そんな内容みたいだと言うのはCMなどを見て知っているので頷いた。


「これは凄く理科…特に地学の事について学べる番組だよ。河岸段丘とか砂岩とか。それでいてその地学から地形についてもやるから地理も学べるし、そこにいた昔のお偉いさんがどのように地形を使って町を発展させたか、って事から歴史も学べて、その延長線でそのお偉いさんの政治体制から経済もうっすらと学べる。

それに専門の先生が現れて丁寧に説明してくれて、専門過ぎるものには視聴者用に図解で説明してくれる。これは地学から歴史までの事を専門の先生を通じて分かりやすく学べる番組だよ」


里菜子がそう言うと巧もそうそう、と頷いて続ける。


「そんな専門の偉い人が来ても固くなくてゆるーくいってるのがいいよな。俺、タモさんが職人になるのが好きだな」

「昔はこれが嫌いでねぇ」

二人の兄妹はそう言うと、ふふふふ、と楽しそうに笑い合っている。


ブラタモリは見たことが無いので、職人になるだの昔はこれが嫌いでねぇの意味はよく分からない。しかしブラタモリは何となく日本各地を散歩してるようなよくある旅番組としか思ってなかったので興味を引かれなかったが、そんな番組だったのかと今更ながらに分かった。


それなら今度見てみるか、と思いつつ、

「じゃあ鉄腕ダッシュは?」

と聞いた。


比較的多めにチャンネルを合わせる番組なのでこの二人の話が気になる所だ。


「とりあえず農業を中心にやるから、まずは理科だよね。私も牧彦くんも農業なんて関わりないから見てるだけでこんなふうに米とか野菜が育つんだなってのが分かるでしょ?」


うんうんと頷きながら、

「で?」

と続きを促す。


「この番組って重機も使うけど、基本的に昔ながらのやり方を学びながら実際にその方法でやるんだよね。そこから歴史的な事を学べるでしょう?

それでいて日本各地に行って職人からその方法を学ぶこともあるからそこの歴史と、そこで採れる野菜も学べるから地理と、野菜や食材の流通から経済もうっすら学べるよね?特に植物…いわゆる生物に関しては凄くよく学べる。

あとこれは高校の勉強にはあんまり役に立たないけど、海洋学も学べるよ。これも専門の先生とか専門の職人とか出てきて番組が分かりやすく伝えてくれるし、何よりアイドルが楽しそうに教わりながら実践してるから見てるこっちだって楽しいよね」


なるほど、と牧彦は頷くと、里菜子は続けた。


「私、無人島になにか一つ持って行けるとしたら何を持って行く?って聞かれたら、その五人アイドル連れて行くって必ず言ってるの。凄く心強いと思う」


その言葉に思わず牧彦は吹き出し、巧は、

「五人もアイドルを独り占めにしたらファンが怒るぞ~?」

と笑う。


しかし牧彦はうっすらとそこで自分が選ばれなかったことに対して少しモヤモヤした。いや、別に里菜子とはそのような関係ではないのだから当たり前なのだが、何となくそこで選ばれたかったという気持ちも沸きあがってくる。


いや、テレビの向こうのアイドルに何を嫉妬している…いやこれは嫉妬なのか…?…嫉妬か…。


そんなモヤモヤした牧彦の心の内など知らず里菜子は話題を次へと変えていく。


「という感じで楽しく色んなものが学べるのはいいけど、テレビってのは録画してない限りその場限りのものじゃない?だからただ見てるだけじゃ何にも覚えない。それだけじゃその場を楽しんだだけで忘れちゃう」


牧彦は自分の事を言われているのかと思って口をつぐんだ。

確かに夕飯を食べながら見て、ふふ、と笑って見終わっていることが大半だ。今里菜子が言ったようにそこから何かを学んで何か覚えたかと言われると…楽しかった以外よく覚えていない。中でも覚えてる内容といったら声を出して笑ったシーンぐらいのもので。


「じゃあ録画して繰り返し見ればいいのか?」

牧彦がそう言うと里菜子はふむ、と頷きながらもちょっと違うという顔つきになる。


「それも一つの手ではあると思う。勉強でためになりそうな所を繰り返し覚えるまで見るって方法は」

と言いながら牧彦へと目を移す。


「だけどそれよりだったら録画して覚えたいところをノートにでも書き留めて後から見れるようにした方が良いと思いますよ。耳で聞いて目で見たのを手を動かして書くってのは結構記憶に残りやすいですから。まあ学校の授業がまさにそれなんだけど」


それは授業をろくに聞いていない自分への忠告も含めて言っているのだろうか。


牧彦はバツの悪い思いに駆られたが、里菜子も巧もふふふと笑う。


「それでも先生も毎日の繰り返しだし、その分野の専門の先生だから割と雑な教え方の先生もいますよ」

「そうそう、毎日自分がやってるからなんとなく生徒もこれくらいのレベルは分かってるだろうって進めていく先生もいるよな」


「ちょっと待って!それだとよく分かんない!って感じになるよね」

「そうそう。それでも頭いい奴はそんな授業でも受けるだけでいい点取ってんだから、世の中不公平だよなぁ」


二人の兄妹はそうやって分かる分かる、と話し合っているが、牧彦はそんな先生の教え方などに注目したことなど未だかつてないので、そうなのか、という新鮮な気持ちになった。


そうか。先生とは自分より立場が上の大人、という認識だったが、立場と年齢と知識が上なだけで相手も一人ひとり個性を持った人間なんだ。

その中でも熱心に教える人もいれば、毎日やってて飽きたと思ってる人もいるだろう。教えやすくかみ砕いて教えようとする人もいれば、かみ砕けずにそのまま難しい言葉を使って教える人もいるだろう。


この二人は授業を受けつつそんな先生たちの教え方にも注目しているのか、自分は授業中の話を聞いてもつまらないと思っているが、この二人はきっとつまらない教え方をするその先生のやり方すら楽しんで授業を受けているのだろう。


そう思うとこの二人は自分の考えつかない違う発想でつまらないことを乗り切る視点を持っている、自分はつまらないならその場に行かないという考えしか浮かばなかったのに。

ならこの兄妹と自分はまずそこからの頭の出来が違うんだ、そんな二人の考えを聞いたからと言って二人のように勉強が出来るわけがないという卑屈な考えが浮かんでくる。


「要は楽しんだもの勝ちですよ」

自分の頭の中を読んだのかというタイミングで里菜子が言って来たので牧彦は思わず顔を上げて里菜子を見た。


「牧彦くんは授業内容はつまらないと感じる?」

「そりゃあ…まあ…授業サボってたのもあるから余計何言ってるかわかんねえし…」

後半部分はバツが悪くてモゴモゴとしたものになる。


「そんなにサボってたの、猿田彦くん」


巧が驚いたようにそう言うと、里菜子は学園祭を過ぎた後は一層ひどかったことを巧に伝え、巧は顔をしかめて、

「勿体ないなぁ、授業に出てなかったなんて」

と牧彦を見てくる。


やはり自分より年上で勉強が好きだという人物から見たらそんな授業をサボりまくっていた自分の事は顔をしかめる対象になるのか、と視線を横に動かした。

どうせこういう秀才型の言う事は大体決まってる。授業ってのは毎回でないといけないんだよ、そうじゃないと将来大変になるんだよ、テストが大変になるよ、ここら辺だろう。


巧は顔をしかめながら続けた。

「いいかい?猿田彦くん。授業ってのはね、面白人間とネタの宝庫なんだよ」


「…は?」

てっきり授業はちゃんと出ないとダメだよ、という言葉が飛んでくるかと思いきや、予想外の言葉が飛んでくるので牧彦は顔を上げる。


「先生を見てごらん…ほとんどが淡々と授業を進めていると思うでしょう…?けど先生にも話し方にも特徴のある先生ってのもいるわけだ…。

特に英語の先生…。和訳してって生徒に言ってきて生徒が和訳して『彼はそれを使って』というと、必ず言うよ。『それってなんですか?』って。

これはもう英語の先生の職業病だね。日本語だと曖昧に意味は通じるけど授業だとその物の名前までしっかり言わせないと完全な和訳にならないから、英語の先生は『それ』という日本語には非常に敏感になってしまうんだ…」


巧は楽しそうな顔つきで続ける。


「それに寝ててガックンガックンなってる人も見てると楽しいよね。人の寝方にも色々と特徴があって、突っ伏し方とか微動だにしない人とか頬杖ついて起きてるようにみせかけてたりとか…。

それに猿田彦くん一番後ろの席なんでしょ?だったら後ろから皆が見れるんだから、そういう睡眠と戦ってる同級生の後ろ姿を見て楽しめるじゃん?ついでにそんな寝てる生徒を起こす先生のやり方にも違いがあって楽しいんだよ」


巧は生き生きと力説してくるが、牧彦はもはや敬語をつけるのも忘れ、

「それ授業と関係ねえじゃねえか」

と思わず普通に突っ込んだ。


巧はため口になろうが笑いながら続ける。


「そうだよ。授業とはなんも関係もないよ。だけど楽しいんだからしょうがないじゃん?

そんな一風変わった部屋に数十人が五十分もジッと座ってるような特殊な場所なんてそうそうないんだから、授業のついでにそんな部屋の中で起きてる出来事をなんでも楽しまなきゃ損ってもんだよ」


巧の言葉に里菜子もウンウン、と頷き、

「いくら何でも集中力は五十分も続かないし。だったら先生の言葉が右から左に流れ始めたと思ったら別の所に少し集中して、また先生の話に戻ればいいんですよ。

それに時計を見ると、あと何十分…さっきより五分たった…って疲れるから、時計見るよりだったら人を見た方が楽しいですし」


「…里菜子、お前もか」

その言葉で、里菜子と巧がドッと笑う。


「ブルータス!」

「お前もか!」


二人はそう一言ずつ言うと笑い続けているが、普通の言葉で何をそんなに笑うのかとわけが分からない。


この兄妹と自分は頭の出来が違う、と先ほど思った。だが二人の今の言葉で牧彦は何となく気づき始めた。


頭の出来が違うというより、この二人は一般の人と比べると変わり者の部類なのではと。


思えば里菜子も最初自分を呼び止めて授業に出ろと促した時も、授業を受けないとテストに響くなど説得する以前に、寝ててもいいから授業にでろと言ってきた。

授業をサボってる人間に対してそんな寝ててもいいから授業に出ろと説得しにかかってくる奴がいるか?そしてそんな空間を楽しまないと損だと顔をしかめる人間がいるか?


もう一度言う。


この兄妹は確かに勉強もできるが、ごく普通の一般常識からは外れた位置にいる人種で、そしてかなりトンチンカンな事を言って来る奴らだ。

そう考えると、自分の思考回路はこの兄妹より一般常識の範囲内に収まっていると牧彦は思えた。


だがそのトンチンカンな視点から放たれる言葉は真っ当に授業を受けていなかった自分にとっては新鮮な言葉になる。

そしてこんな頭の悪い自分でも何言ってんだこいつらと思うほどのトンチンカンなことを言って来る。だけどその分、ああ、それくらいの考えで授業や勉強に向かい合ってもいいんだな、と構えないで済む。


授業をサボりまくっていた自分は周囲から見れば一般からはみ出た存在だろうが、物事の考え方や視点の捉え方についてはこの兄妹の方がいい意味でも悪い意味でも特殊にはみ出た存在だろう。


それでもそのトンチンカンな特殊な思考回路の方が耳にもスッと入ってくるし少なからず楽しそうと思えるのだから不思議だ。


未だに「ブルータス、お前もか」とポーズをつけながら言い合って笑っている兄妹を見て、牧彦はふと思った。


…もしかしたら毒されてきてるのかもしれない。

流石に実在するジャニーズグループ名を伏字無しで書く勇気はありませんでした。とりあえず私の中では五人グループです。

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