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秘境迷宮の創造主《クラフター》  作者: 黒狗
2 ‐神々の降臨
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刻まれるモノ『閉幕』

 その名前の宣言で、ネクさんの何かが変わった、という事は一切無かった。

 だが、その名を聞いたその瞬間、劇的な変化があったものが二つあった。


「お、おおおおお……らが……神よっ!」

 

 一つは獣人達の様子である。


 声を聞いていた時点で、崇め奉っていたのだが、ネクさんが姿を現し、そして真の名を口にすることで、尚のこと神の存在を実感できたのだろう。

 今が戦闘中だとか、そんな事を気にせず、皆が膝を着き、涙を流しながら崇めている。

  

 ネクさんの凄さ……と言うよりも、数百とはいえ、この場に居残る者たちが一斉にである。すこし、怖くて引いてしまったのはナイショである。

 

 そしてもう一つ。

 それは、私達の頭上、空に浮いている存在の反応であった。


「ばかな……そんな、馬鹿な。何故、何故だ? 何故、お前が……お前如きが……その名を……世界の名を持っているのだ!?」

 

 その姿は、先ほどまでとはうって変わり、明らかに狼狽し、脅えている。

 世界の名……と口にしていたが、それはネクさんの真の名の事だろうか?


 そう考え、ふと思い出す。


 たしか、父からこの人界の名を昔聞いたことが有る。それは……。


「アムサルク」

 

 ウルスが気がついたように口にする。

 私を含め、あの神ベルクもその言葉に反応し、目を向ける。


 周囲の注目を浴びながらも、ウルスは今理解できたことを口にした。


「そうか、そういう事だったのですね。『かみさまのなみだ』あの絵本、はやり本当にあった出来事だったのですね、だから……『アムサルクティア』……かみさまをネク様に置き換えると……」


 そう言われ理解した。

 この人界は通称『アムサルクティア』と呼ばれている。

 そしてあの絵本に当てはめて考えると、『ネクの涙』と取ることができるのか。


 だが、この話しを聞いて、ネクさんが渋面を作ると、

「さっきから泣いた、泣いたと。いつまでもその話しを蒸し返す。お前ら、それは忘れてしまえ、いいか、コレはお願いじゃない、命令だ」


 やはりと言うのだろうか? 自分が泣いた話を蒸し返され、少し傷ついているようだ。


「……でも。この人界の名がそうなっているんですから、ネクさん、それは仕方ないのでは?」


 そんな私の指摘にうんざりとした表情をつくると、ネクさんは矛先を別に向ける。


「そうだ! そのももの話し、人界のネーミングセンスが悪い。誰だよ、俺の涙なんて安直に付けたヤツは。事後承諾だったんだから……くそっ」


 どうやら、太古の出来事を思い出しているようで、自分のあずかり知らぬところで決まっていた事を思い出し、憤慨している。

 だが、それもつかの間、気を取り戻したようで、空中の神ベルクへ視線を投げる。


「さて……今からお前を処断するわけだが……言い残すことはあるか?」

 

 その言葉に体を震わせると、神ベルクは今だ信じられないと顔を振り、後ずさる。


「そんな事はありえない、ありえない、ありえないっ! 始祖神は全て所在不明のはずだっ! それは大戦を生き抜かれた、あのお方もそう仰っていたじゃないかっ!」


 始祖神とはネクさんの事なのだろうか? 

 だが、あの方と言うのが誰の事かわからないが、その神は本当にネクさんの事を知らなかったのか?


「それが末期の言葉でいいのか? 締まらないな。俺達の所在は旧知の者ならば全て知っている。知らないのは、お前のような三流の神くらいだ」


 ネクさんのその言葉は私の推測も、恐らくは神ベルクの推測を裏付けるものだった。

 神ベルクの背後にいるであろう神。その存在はあの神を利用することでこの状況を作りだしたのだろう。

 だが神ベルクは、その考えに至っていながら、その考えを否定する。

  

「嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だっ! あのお方が……オレを……このオレを捨てるなど……」

「諦めろ、ソレが……現実だ」

「うそだあああああああああああああああっ!」


 そう信じ込もうとしている神ベルクに、ネクさんは容赦なく現実を突きつける。

 しかし、ソレを認めたくない、認めることが出来ない神ベルクは半ば錯乱状態となり、絶叫する。


 その感情に触れてなのか、目の前のオーレア兵の大軍が私達めがけ、一斉に突撃を開始した。


「っ! 皆っにげてっ!」

  

 それを目の当たりにし、ウルスが声をあげるが、軍団は眼と鼻の先。

 獣人たちが逃げる間もなく、オーレア兵は肉薄し、その凶刃を振り下ろす。



 私達はこれから起こるであろう惨劇に眼を逸らそうと、顔を背けようと、眼をつぶり……





「馬鹿が、この俺がここに居るのに。そんな子供だましが通用するわけが無かろう」


 その言葉が聞こえた瞬間。

 甲高い金属音と共に、剣が宙を舞うのが視界の隅に写ったのだった。



「……へ? わしら……生きているのか?」

「なんともない……くも無い……これは一体?」

 

 死を覚悟したのだろう。しかし、獣人には怪我一つなく、逆に振り下ろしたオーレア兵達はその反動と、自身の豪力により、腕が大きく曲がり、ある者は千切れ飛んでしまっている。

 コレはいったい……?


 私だけでなく、周囲に獣人も、そして神ベルクすら、コレの結果に驚き、ネクさんを注視している。


「なんてことは無い、ただスキルを一時的に付与しただけだ。【限定付与(スキルギフト):『外殻』・『鉄壁』・『幻想』】という感じに。コレにより、彼らの体を不可視の堅牢な鎧が包み。殆どの攻撃は無効になる。ただ、それだけの事だ」


 そんな些細な事だ。と言わんばかりにネクさんは説明する。

 だけど、コレは些細では済まない。

 獣人達はあまり理解していないが、一応冒険者の私はコレの規格外さを理解できる。

 オーレア兵の攻撃は強力だ。

 仮にフルプレートの鎧を着込んでいても両断されてしまうだろう。

 近い存在がプチベヒモスだが……恐らく、このスキルは、あのクラスの攻撃を受けてもビクともしないだろう。

 何より凄いのが、衝撃を一切受けて居ない事だ。

 

 吹き飛ぶことも、のけぞることも無く。攻撃が体に届く前に弾かれる。

 ネクさんはスキル三つで実現しているのだが、一体どうやっているのか理解することが出来ない。


 だが、驚くのはまだまだこれからだった。


「獣人にもかなり被害が出ているな、俺の大事な“子たち”だ捨て置けん」


 そう口にしたと思うと、ネクさんは手をかざし、権能を発動させた。


「さて、【修復蘇生(起きろ)()対象-獣人(いつまで)範囲-指定全域(寝ている)】、お前たちにはまだ死は早い」


 その言葉と共に、傷つき、そして息絶えていた者たちが目を覚ます。

 

「そんな、これは奇跡か……」

「お前っ! よく、よく、目を覚ましてっ!」

 

 彼らは口々の喜び、息を吹き返したものを抱きしめ喜びを噛みしめる。

 私達にはなじみが深いのだが、ネクさんはダンジョンでの蘇生同様、この戦いで命を落とした()()()()を蘇生させたようだ。

 おそらく、()()といっていることから、ネクさんの権能はベオのいる戦場にも効果を及ぼしているはずだ。


 だが、この状況を笑えない者が1柱いる。


「そんな……まさか……本当に」


 ネクさんの権能を目の当たりにし、いよいよ顔色を悪くさせている。

 やはり、ネクさんの権能自体、知らなかった。いや、知ろうとすらしていなかったのだろう。

 

 だが、そんな神ベルクを無視し、オーレアの兵達は今も尚、こちらへと襲いかかってくる。

 弾かれも尚、己の体を傷つけても尚。愚直に……いや、ソレしか考えることが出来ないのだろう、ひたすら攻撃を仕掛けてくる。

 そんな彼らを哀れにも思い、私はネクさんへお願いを一つしてみる。


「ネクさん、あのオーレア兵たちは、何とかしてあげることが出来ませんか? アレでは余りにも……」

「……ん~。そうだな、確かにそうなんだが、他所の神の配下に干渉することは基本タブーでなぁ」


 そうか、ネクさんが言っていることを改めて理解する。

 先ほどまで、あれだけ高圧的であった神ベルクですら、私達に直接害をなす事はしなかった。


「とりあえず、取り押さえるか。お前ら、オーレア兵を大人しくさせてくれ、その間にあのハゲと話しをしてくるから」


 そう言うと、ネクさんは視線を神ベルクへと向け、歩き出す。

 でも、待って欲しい。取り押さえるってどうやって?


「ネクさん! どうやって取り押さえるんですか?」

「ん? ああ、そうだな。……し、コレにしよう【限定付与(スキルギフト):『豪力』・『捕縛』】』


 そう言うと、ネクさんは私たちへとスキルの一時付与を行う。

 

 ……また、何か来てはいけないスキルが来てしまっている。

 スキルの『捕縛』は意味がわかるけど、もう1つのって。


「……ネクさん。この『豪力』って……まさか?」

「ん? ああ、そうだな。あそこのハゲの権能と同じものだ。ああ、アイツとちがって一切体に負担が掛からないから安心しておけ」



 その言葉に、いよいよ神ベルクは逃げ腰になっている。

 それはそうだろう。

 自分が至高と歌っていた権能。

 それをネクさんがあっさりと使い、かつ、自分よりも確実に使いこないしているのだから。


 まぁ、“生命”そのものと“筋力”。この差を考えれば当然なのかもしれない。

 これにより、私たちは、敵兵の攻撃を弾き、かつ、彼らと同等以上の出力を発揮することができたのだった。


 

 そんな私たちを横目で見ながら、ネクさんは神ベルクの目の前まで来ていたのだ。





**************************


「さて、おいハゲ。言い残す事は有るか?」


 俺の恫喝めいた言葉に目の前にいるハゲは一気に狼狽する。

 こういう小者というのは、いつの時代も弱いと思う相手には強くでて、形勢不利になったり、強者には下手に出るものなのだ。

 だからこそ、アレフによって唆され、危険思想を強くさせたのだろう。


「そんな……おま……いや、ネク・アムサルク()。オ……()()()もあの神に騙されていたのです! 貴方様が守護している種族とはつゆ知らず、あの神の甘言に騙され、兵を出兵させてしまったのです!」


 ここまでテンプレの小者だと、いっそ清清しい。

 しかし、実際のところ、此処で個神的(こじんてき)に処断することは難しい。

 力量的な問題ではなく、人界への影響が問題なのである。

 

 まがりなりにもコイツは神。

 しかも一都市国家の主神だ。

 それが()()()()()場合、与える影響は小さくない。

 恐らく、コイツが守護している国家および人間から加護が消え失せる。

 ()()この世界、加護無く生き残れるほど優しい世界でないのだ。

 それ故の()()という()()()()なのだ。


 だから、このハゲをどうこうしたいなら、先ずは主神権限を剥奪しないといけない。

 

「お前はこの戦争、敗戦したと認めるのだな?」

 

 俺は単刀直入にコイツへ事実を突きつける。

 案の定、内面が表情へ現れる。

 ……本人は一切自覚が無いのだろうが、戦闘系の神にとって負けることは屈辱であり、存在の否定にも直結しかねない。

 

 本人は隠しきれていると思っているだろう。屈辱を感じ、憤怒に歪むその顔で、俺の言葉に答える。


「は……い。オ……ワタシの守護している、()()()()が仕掛けたこの戦。()()()()()、貴方様に敗れ……ることとなりました」


 物凄く、苦渋に満ち、一切納得していない様子である。

 あくまで仕掛けたのはオーレアであり、自分でない。

 あの言葉にはそういう意思が滲み出ている。

 さらに、負けたのは獣人にではない。俺に負けたのだ。と、負けた相手すら認めない。

 

 コイツに一切期待はしていないが、この期に及んでもこういうヤツなのである。

 だが、敗戦を認めた以上、次の手順に移ることが出来る。

 このルールを知っているのか。

 俺は勝利者として、敗者へ戦利品を要求するのだ。


「では、『代理戦争(ウォー・ゲーム)』の戦利品として、お前の持つ主神権限を徴収する、コレは一切の物言いは認められない。いいな」

「ふっ、ふざけるなっ! アレは俺の庭だっ! 俺の駒だっ! 俺の家畜だっ! そんなこと許されるものかっ!」


 はやり……コイツはわかって居ない。

 自分の発言が俺の逆鱗を刺激しているのを。


「お前の意見は聞いていない、コレは決定事項だ。……ということで。()()ッ! ()()()ッ! どうせ見ているのだろう。手続き任せたぞ」

「なっ……ばかなっ!」


 俺は確実に見ているであろう。神界の頭共に声を投げる。

 コイツ(ハゲ)は理解していないが、あの二柱……主にアレフの目的は俺が再度名を名乗ること。

 既に目的を達している以上、妨害など行わないはずだ。

 

 それを証明するかのように、あっさりの権限の移譲が完了する。

 別に目に見えて発光するとか、そんなものではない。

 ただ、管理神の承認により権限が書き換わるだけである。

 

 まぁ、神界は今混乱の最中であろう。その中で迅速な手続きが出来た事を褒めるべきか。

 もっとも、混乱の原因は観戦していたら、俺が最古神の名を名乗ったことが原因なのだが、そもそも、こんな状況に追い込んだアイツらが悪い。それくらいさせるべだ。


 そして、権限の移譲に伴い、目の前の神は不要となったのだが。


「……逃げた、いや、()()()()()ようだな」

 

 俺がこれから何をするか、把握している神・・まぁ、アレフだろう。

 ヤツの手によって、あのハゲダルマは強制的に送還されたようだ。

 既に利用価値など無くなったと思ったのだが……まだ何か企んでいるようだ。



 ため息をつくと、俺は再度地上へと脚を向ける。

 下では未だ暴れるオーレア兵と、取り押さえる獣人という構図が出来ているのだ。


「仕方ない……このままにしておくわけにも……な」


 あのハゲは完全に使い潰し、捨てる気で居たようだが、俺はそんな事を許さない。

 さっそく、この状況の打開である。


「とりあえず、大人しくさせるか。【解除(クリア):対象-人族・範囲-有視界:『豪力』・『痛覚無視』・『闘士狂奔』】っと」


 暴れている原因でもある、付与されたスキルを全て解除する。

 が、これがまずかった。

 

「がああああああああああああああっ!」

「ぎゃぁぁぁっ!!!!」


 肉体の限界などとうに超え、ボロボロとなった状況で正気にもどり、しかも痛覚も復活したのだ。

 激痛ののたうつことも出来ないほど、体を酷使している。

 恐らくは何人も人間がショック死してしまっただろう。


「あ~、ちと失敗したな。どれ、【修復蘇生:対象-人族・範囲-有視界】……うし」

 

 その効果は獣人達よりも劇的だっただろう。

 肉体が逆再生のように元に戻り、ちぎれたはずの腕は蜥蜴の尻尾のように生えてくる。


 俺はこうして、(ニエ)にされた巫女達と、()()()()()を除き蘇生を完了させた。

 

「お前ら……今の置かれている状況・・理解しているな?」


 俺は蘇生し、傷が治った彼らにそう告げる。

 周囲には獣人。目の前には神を名乗る者。

 いまさら戦うこともしないだろうし、何より、狂奔の間の記憶は残っているようだ。

 

 彼らは剣を置き、うな垂れながらも、命を救った俺へ服従の意を込め、その場に伏せる。

 こいつ等服従なんか要らないが、コレで大きな問題は解決しただろう。



 こうして、数日間に及んだ戦争は一応の幕を閉じるのだった。 

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