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秘境迷宮の創造主《クラフター》  作者: 黒狗
2 ‐神々の降臨
93/140

刻まれるモノ『童話』

予約更新 日付間違えましたっ!!!

本来 朝5時更新ですが・・・・

 既に顔や名前が思い出せないでいるが、どのような会話をしたかは思い出すことが出来る。

 ウルスと同じ髪と瞳をした少女。


「助けることが出来なかった……っ!」

「え?」 

 私の呟きに、ウルスは困惑している。


「ミア、大丈夫なの?」

「大丈夫……大丈夫だよ。うん」


 突然、動きを止めた私を心配して、ウルスは私の肩を揺さぶる。

 この喪失感は、その対象を、理由を知っている者だけしか、解らないのだろう。

 

 ウルスはオーレアの巫女に会ったことが無い。しかし、神に仕える巫女である。

 それゆえ、空気が変わったという違和感のみ気がつくことができたのか。

 でも、私は今何が起こったのかを正確に把握することが出来た。

 恐らく、失った者を知っているのと、そして、これは神眼の力なのだろう。

 


 だが、私も悲観にくれている場合ではない。

 先ほどの感じた違和感。

 大気……というか、世界が捩れた感じがした、先ほどの感覚。

 あれはナニカの存在が周囲に影響を及ぼしたのだろう。

 そして、私は似たような経験をしたことがある。

 だが……これほど悪意に満ちたものは初めてだ。

  

「ウルス、急いで此処から退避することを考えよう」

「ひょっとして、さっきの歪んだ感じですか?」

 

 私はその言葉に頷くと、避難民の集団に追いつくべく、踵を返す。

 ウルスは慌てて私の後についてくるが、私はソレ以上に背後を気にしていた。

 

「急がないと、さっき見た兵達はこちらに向かってくる」

「え、何故です? 彼らは私達とは違うルートで南下しているのに」


 先ほど見た限りだと、此方には気がついていないようだった。

 だけど、すでに前提が変わってしまっているのだ。

 恐らく、広域探索とかそういう類でここら辺一帯の情報を得ているはずだ。


 そう。他でもない、オーレアの主神が。


「きっと、向こうでオーレアの主神が降臨したんだと思う、さっきの歪みはその影響のはず」

「っ! 神がですか!? そんな……人の争いに直接介入するなんて」

「私達は、その可能性を示唆されていたから。向こうの神は、自分に都合が悪い、望み通りの結果にならない場合は、介入を開始するだろうって」


 私達は、急ぎ馬で来た道を引き返す。

 だが、既に敵軍が動き出しているようで、馬上より、後方を監視していたウルスは悲鳴に近いの声をあげる。


「ミ、ミア! 先ほどの敵軍が此方へ向かってきています!」

「っ、思ってるよりも行動が早い、ウルス! 後ろの情報を見ながら走れる?」

「やってみます!」


 そう言うと、ウルスは馬を逆向きに跨り。後方に注意をしながら馬を走らせる。


「ち、ちょっと! それ、大丈夫なの!?」

「ええ、馬に走るの任せてますので。あ、私『以心伝心』ってスキルもってますので」


 は?

 話を聞くと、『以心伝心』とは接触している相手と言葉を交わさずに意思疎通が出来るスキルらしい。

 接触、という制限が掛かってはいるが、異種言語の生物ともコミュニケーションが取れるそうだ。

 この場合は、馬に「前の馬を追って走って」とお願いしているそうだ。

 急に後ろを向くので驚いたが、こういったスキルも有るのだと感心してしまった。



「ミア! 感心してないでっ! 全然距離が離れないっ! 向こうは此方を補足してないはずなのに」

 だが、そんな感心も、ウルスの緊迫した表情と言葉から一気に緊張したものとなる。

 

「やっぱり、向こうの神が指揮を執っているんだ・・・」

「そんなっ! ……此方の“命神様”はお力をお貸しくださらないんですか?」

「それは……多分無理」

「……そんな」


 失望を感じたのか。冷たいと思ったのか。

 だが、私はネクさんの性格も、本心もある程度ではあるが判る自負がある。

 そして、過去の事例。ベヒモスの一件、先のオーレアの主神の件を加味すれば、何となく、手を貸さない本心が見えてくる。


「十余年前、オーレアがベヒモスを召喚した時は、私の父を初め、多くの人が犠牲に……生贄となって存在を喰べられた」

「……ミア?」


 ウルスにとっては何を言っているのか解らないだろう。

 でも、私は既に、これを経験しているのだ。


「そして、多分間違いなく。今向こうの神が降臨した際には……複数いたはずのオーレアの巫女が生贄として存在を喰べられたはず」

「え?」


 ウルスは顔を青ざめながら私の話を聞いている。


「だから、うちの神が手を出さないのは、名前を知られたく無いっていうのがあるんだけど。多分、本心としては、召喚されるとなるとウルス、貴女を生贄として喰べないといけないんいじゃないかと……。それが気に入らないから、手を出さないんだと思う」

 

 ウルスは私の言葉に黙り、そのまま、俯き、背を見せる。

 背後を向いているため、その顔を窺うことが出来ないが、恐らく、相当にショックを受けているんだろう。


 “教えない”という選択肢もあったのだけど、このまま、ネクさんが誤解されてしまうのは嫌だった。

 何故なら、開戦してからずっと、ネクさんとの繋がりは断たれておらず、声を出して居ないだけで、この状況をずっとずっと気にして見守っているのだから。


「だから、見捨てて不干渉なんじゃない。手を出したくても、その代償が……」

「ミア、聞いて善いですか?」


 私の言葉を遮り、ウルスは私に尋ねてきた。

 その声には力が感じられないが、今、彼女の声を無視することはできない。


「なんです?」

「……生贄にさえたら、存在を喰べられるって……どうなるんですか?」


 私にはとても答えにくい質問だった。

 でも、これを正確に答えられる人間も、恐らく私くらいしかいないのも事実。

 意を決し、その問いに答える。


「存在を喰べられてしまうと、その存在が居たことすら忘れられてしまうの。唯一の例外が、私やウルスみたいに特別な眼を持っているとか。その例外ですら、顔と名前を思い出すことが出来ない。何となく、そんな人が居たってくらいで、でも、会話の中身とか、その人の大事なものとかそんなのは解るんだけど」


 上手く説明できなかったけど、それがどういうものか、伝えることが出来たはずだ。


「……じゃぁ、おじいちゃんも……私の事、忘れるの?」

「……うん。巫女が存在したことも、ウルスって孫が……女の子が居たことも、皆から忘れられてしまうんだ」


 ウルスは背を向けたまま、「そっかぁ~」と呟く。

 ……私はその様子から眼を逸らし、馬をひたすらに走らせる。

 護衛として着いてきていた勇志の獣人も、私達の様子に口を挟めないでいた。


 どれくらい走らせただろか。

 急にウルスが顔を上げ、声を発する。


「よしっ! 解ったっ! 今はとりあえず皆を逃がすことを考えないとっ!」

「ウルス……。うん、そうだね」


 とりあえずは悲観にくれることをやめ、気を取り直して避難を、後方の見つめる。

 恐らくは、その差は縮まっては居ないのだろう。

 このまま行っても最終的には補足されてしまうだろう


「どのみち、もう直ぐ最後尾に着くから。そこで長老達と対策を取ろう。向こうは今馬で走ってるけど、今の速度で考えても、まだ数時間は余裕があるはずだから」

「数時間……そうか……いろいろ策を練ってきたけど、数時間のマージンしか無いのか」


 これだけの策を練り、手を打ち、色んな人からの強力を得て。ようやく、光が見えた矢先だ。

 盤面を全てひっくり返されてしまった。


「おいっ! 皆が見えたぞっ」

 

 不意に、護衛の獣人が前方を指差し声をあげる。

 私の眼には小さい点でしかないが、もう直ぐ避難民たちと合流できるようだ。

 しかし、今から告げる情報は皆に大きな不安を与えることになるのだろう。







「そんなっ! あと数時間の猶予なのですかっ!?」

 

 戻った私達を出迎えた族長の一人がそう悲壮な声をあげた。

 会議に出ている獣人にも動揺が走り、言葉を失っているものが大半だろう。

 

 今ここに残っているのは最後尾に居た一団数百名と、各部族の長だけだ。

 先頭集団は脚を止めることなく、ひたすらに前へ進めと既に伝令を出している。

 


 彼らには、現在置かれている状況を説明してある。

 神の降臨についても説明はしてある。

 だが、生贄に関しては先ほどの面々には口止めを頼んでいる。

 

 教えておいて無責任と言われるかもしれないが、誰かが巫女を・・ウルスを犠牲にすれば助かると口にだすかわからないからだ。

 それに、神眼を通してのカンだが。

 無理やりネクさんを呼び寄せれば、大惨事を招きかねない気がするのだ。


「……こうなっては仕方ない。女子供だけは先に逃がし、我らで足止めをするしか有るまい」

「そう……じゃな。このまま脅えて逃げるよりかわよかろう」

「っ! そんな! おじいちゃんっ!」


 各族長達の言葉に、長老であるウルスの祖父が首肯する。

 このまま勇志を集め、そのメンバーで脚止めを行おうと言うのだろう。


「長老。私も足止めのメンバーとして残ります。他の仲間と比べれば戦闘力は落ちますが、お役には立つはずです」

「ありがとう。じゃがな、貴女には別に頼みがあります。聞いてはもらえないじゃろうか?」


 別に頼み……?


「なんてことは無い。そこにいるウルス……ワシらの巫女を……連れて避難して貰えんかの?」

「おじいちゃん! 私はここに残るっ! 皆を置いて逃げられないっ!」

 

 長老のその言葉に愕然としつつ、ウルスは長老を掴み必死に訴える。


「それはならん。よいか、巫女は獣人の希望の光なんじゃ。おそらく、そちらのミア殿は知っているのじゃろうが、ワシらの失われた神との唯一の繋がりでもある」

「そんな・・・こんな・・神様なんて・・・」

 ウルスはそれを否定しようとするが、他にいた族長たちにも避難を促がされる。


「それにだ、巫女様。みんな巫女様が大好きなんだ、ここで命を失う危険を冒す必要は無い」

「そうだそうだ。此処からはわし等の出番だ。未来ある子供が、こんな所で命散らすわけにはいかない」

「でもっ! でもっ!」

 それでも、離れたくないのだろう。ウルスは尚食い下がるが、背後よりのウルスを、巫女を呼ぶ声が聞こえてくる。


「巫女のおねぇちゃん……皆……死んじゃ……いやだよぉ」

「とうちゃんも、向こうで戦ってるんだろ……じいちゃんたちも……居なくなるのか……?」

「うぅぅう……ひっく……ひっく……しんじゃやだよ」


 それは巫女を、ウルスを慕う子供の声。

 彼ら、彼女達は最後尾の一団にいた年端も行かない子供達だ。

 彼らは眼を赤く腫らし、泣きながらも、ウルスへ、いや。ここに残る者たちへ訴えている。


 ……“死なないでと”


「でも……私は……っ」

 

 巫女としての責務。

 皆を守るため残るのか。

 皆を守るため逃げるのか。

 

 その思いで揺れるウルス。

 




「辛気臭いのぅ。此処は通夜でも葬式でも無かろう。生きるために足掻かぬのか? のう、ぬしら」


 不意を着いて、初めて聞く声が、この沈んだ場とは無縁の明るい声が私達の耳をうつ。

 振り向いたその先には美しい()()がにこやかに佇んでいた。

 いや、少女と言うには幼い容姿。童女と言っても過言ではないだろう。

 が、その存在に驚いたのは私達ではなかった。


『馬鹿なっ! 何故お前がこんな所に居るっ!?』


 数日ぶりに聞く声、その声の驚き様が、私達にその声の主に名を訊ねることを許さなかった。

 私だけでなく、周囲にも聞こえるネクさんの声。

 声だけ聞こえた存在に驚く獣人たち。

 だが、その驚きはウルスの一言で霧散される。


「まさか……この声……命神様なのですかっ!?」

 

 あれだけ、声を、情報を与えぬよう注意を払っていたはずのネクさん。

 それが声を荒げるほどの存在。

 一体何者なのだろうか?

 

 そんな思いを他所に、その童女は先ほど泣いていた子供達に近づくと、頭をなで、宥めている。


「ほらほら、泣くものではないぞ、そうじゃのぅ……。おお、そうじゃ。本でも読んでやろう。ソレを貸して貰えぬか?」


 そう言いながら、泣いていた子供の一人が沸きに抱えていた一冊の絵本を指差し、手に取る。

 

 周囲の大人も、族長達も、その行動を見るだけで一切動くことが出来ないでいた。

 皆が、本能的にわかっている。


 アレは……人間ではない。高位神魔の類だと。

 彼女は本を手に取りページをめくる。


「ふふふ、ちょうど善いタイミングの話だ、ぬしら、この本は好きか?」

 

 その問いに子供たちは頷き口々に「すき~」「大好きっ!」と答えていく。

 それが嬉しかったのか。

 彼女は笑みを深くすると「そうかぁそうかぁ」と言いながらその絵本を読んでいく。


 見たところ、長い間読み込まれたのだろう。本の装丁はボロボロになっていた。

 タイトルは辛うじて読めるが、私には知らない話だ。


 そこ絵本のタイトルは……『かみさまのなみだ』と書かれていた。 



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