刻まれるモノ『生贄』
いきなりの展開過ぎて、俺も理解が及んで居ない。
急にオーレアの巫女、マリから男の声が聞こえたと思えば。いきなりの神宣言だ。
いや、最低限の事は解る。
ネクさんがミアの体を操るのと同じ要領なのだろう。
俺はあの巫女の体を使い、向こうの神が攻撃を仕掛けてくる可能性を考慮し、臨戦態勢を整える。
後方に居るカウスも同様に、いつでも対処できるように身構えている。
だが、さっきの言葉は何だ?
アイツは巫女に命を捧げよって言ってなかったか?
俺はその言葉に訝しげに眉を寄せると、巫女の足元に居るアドラは残った命を振り絞り、目の前に降り立った神に懇願する。
「ベ、ベルク様っ……それだけは……それだけは何とぞ……っ!」
だが、そんな懇願を巫女の体で、顔で、まるでゴミを見据えるように見下すと、
「黙れ、役立たずの屑め。お前があの小汚いケダモノ共を始末できないから、俺様がわざわざ、脚を運んだんだろうが。あぁ?」
その言葉とともに、巫女はアドラを踏みつける。
「ぐはぁっっ」
「お前たちが! 役に! 立たないっ! からだろうがっ!」
その言葉の合間にも、ガスガスと、倒れているアドラを踏み付け、痛めつける。
「チッ、感謝の言葉を言う立場にあるだろうがっ! 泣いて喜べ、このデク共が」
トドメとばかりに蹴りを入れ、アドラを仰向けに蹴り飛ばす。
「ガッ……ゲフッゲフッ」
辛うじて息がある。その状況のアドラに……いや、自国で自身を崇める民への仕打ちなのか!?
「貴様。如何に神で有ろうが、狼藉はそこまでにしろ。貴殿も庇護者を守る神だろう? 何故、そのような仕打ちを行うのだ?」
その言葉に、巫女は俺の方を振り向くと、心底おかしな話を聞いた、と言わんばかりに嗤い声をあげる」
「カハハハハハッヒッッ! 何おめでたい事をいってんだ? 人間? 庇護? 馬鹿な事言うなよ。お前ら人間なんて、放っておいても数が増える家畜だろうが」
「か・・家畜・だと?」
「おお、そうだ。なんだったら、使い潰しの効く消耗品の駒でもいいぞ。所詮、人間なんてこの箱庭で、神が愉しむ為の道具みたいなもんだからな」
これが……神なのか?
これが……あの方と同じ神なのか?
目の前の巫女はそう言いながらもアドラを踏み付け、更に言い放つ。
「ポコポコ生まれては死ぬんだ。たかだか数十万の駒、大したことないだろうが」「わかった、よく判った。だからその男から脚をどけろ、この外道」
背後から、高速で【魔槍】が飛来し、先ほどまで巫女が居た箇所を通り抜ける。
視なくても解る。
我慢の限界に達したカウスが速攻で槍を投げたのだろう。
だが、やはり神と言うべきなのか。
運動をしないであろう、巫女の体で、あの【魔槍】を回避すると、大きく距離を取っている。
「頭が高いぞ、下賎なゴミ共。そもそも、俺が目の前に居るのだ、貴様らなぞ、須らく自害するのが道理であろう」
ああ、良くわかった。
どうしてアドラが助けてくれと、あの時願ったのか。
どうしてネクさんがあの神を語りたがらないのか。
こんな……こんなヤツが主神を務めていたのか……オーレアは。
「カウス行けるか?」
「ああ、とっとと倒して皆と合流しよう」
俺達の不遜とも言える発言。
そも言葉に激怒したのか、しかし、表面には見せず巫女は言い放つ。
「はっ! 倒すだと? 高々人間風情が。調子に乗るなよ」
「黙れよ、三流。お前から感じる気配も、威圧感も、うちの神様よりも圧倒的にしょぼいんだよ」
その言葉がきっかけだったのだろうか?
巫女は、その顔を憤怒でゆがめると
「この俺が! あんな造物神に、神獣を造るか、ただ、傷を癒すくらいの力しかない神に劣ると!?」
その言葉に俺は少し戸惑いを感じた。
この神……ネクさんの能力を……意味を理解していない?
だが、既に激昂している神は止らない。
「善いだろう! 見せてやろう。どの道そのつもりだったし。すこし早くなっただけだ」
そう言うと、手を胸に当て、宣言する。
「本当に神の権能と言うモノ……とくと味わえ!」
その瞬間、まるで世界が歪んだかのような。そんな感覚が、俺達を襲う。
例えようも無い。一瞬にして前後不覚になる感覚。
そして、気がつけば、目の前に居たナニカは唐突に姿を消す。
そして、はっと思う。
俺は今、神と話をしていたが、一体それはどんな顔をしていたのか? 何と話をしていたのか?
「だが、今はアドラが先だ」
俺の中で急に起こった記憶の不整合さ。
それを一旦置いておいて。俺はアドラの元へと走る。
アレだけ蹴られて……いや? 蹴られた? 誰にだ???
走りながら、俺は背筋がぞっとする思いを感じ、脚を止める。
そうだ。今、アドラは何度も踏まれ、最後に蹴り上げられたはずだ。
いや、それだけではない。
俺はアドラに助けを求められていた。
そこは解る。
妹を助けてくれと言っていた。
ここも大丈夫だ。
だが……アドラの妹は……誰だ?
知っていたはずだ、直接会っているはずだ。それは間違いない。
だが、顔を、声を、名前を一切思い出せない。
そして、俺は、俺達はこれと同じ経験を一つ覚えている。
「カウス、これは!」
「ああ。“喰われた”というヤツだな。ミアの父上と同じ現象だ。何かを思い出せるか?」
「幾つかは。だが、アドラの妹というのが思い出せない。そっちは?」
「この陣営には巫女と言われる存在が後方にいたはずだが……その存在が見当たらない。神が生贄に捧げるのならその存在のはずだ」
「ってことは……失われたのはその辺の存在ってことか」
俺達がそう分析していると、不意に悪意が降り注ぐ。
「カッハハハ! ゴミ虫共が、そんなどうでも善いことを考えてないで、少しは自分達の心配をしたらどうだ?」
ついさっきまで聞いていた虫唾の走る声。
この声は忘れて居ない。
だが、そこに居たのは俺達の記憶には該当しない存在だった。
一言でいうならば、肉塊。
2mは優に超える身長。それでいて、横にも全てが規格外なほどの大きい。
最近で思い出す姿でいえば、プチベヒモスだが。アレはこんなに醜悪な筋肉の塊ではなかった。
小山を思い出させるような上半身裸の筋肉。
そう、人が話しているとか、神が話しているとか、そんなイメージではない。
筋肉の塊が話している。
俺からすると吐き気を催す生理的な嫌悪感を伴っていた。
だが、それ以上に問題なのは、先ほどまで倒れていたアドラが立ち上がり、此方へあるいてくることだろう。
「アドラ……?」
しかし、呼び声にが応じず、旗から視ても理性のある瞳をしていない。
そんな此方にはおかまいなしに、その筋肉塊は声をあげ、神の宣言を下す。
「さぁ! 従順な生贄により貴様らの神はここ降り立った! さぁ、立ち上がり全てを薙ぎ払い、ひねり潰せ!」
ここから、最悪の戦いが幕をあげる。
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その歪みは遠く離れたこの地でも感じ取れた。
「何? 何が起こったの?」
「解りません……っ!でもこれは……!?」
フラクペネイトより南。
現在、避難民の誘導に務めていた私は、その異変を感知することが出来た。
恐らく、はっきりと感じられたのは私とウルスの2名だけだろう。
遠く、北の地より発生された人を圧倒するような威圧感。
そして同時に、私の中から何かが消えていく、そんな消失感。
不意に……誰かは解らない……そんな笑顔が頭をよぎる。
「あ……」
「ミア!? 一体如何しましたの?」
あれは……? 私は一体誰を思い出そうと?
「ちょっと、ミア! しっかり!」
私を心配してか、ウルスは肩を揺さぶる。
と、私の眼の中に、輝きを放つ白銀を髪を写し……。
唐突に、私は、誰を失くしたのかを理解した。
はい、超外道です。
神託むなしく、マリミュースは、それ以外の巫女達もサクッと贄にされてしまいました。
此処からはしばらく外道のターン&それを凌ぐレクス&ベオ&ミア




