刻まれるモノ『騎士』
※文面がおかしい箇所がありましたので変更しました。
戦場は移り、此処はフラクペネイト西部。
騎士団と木精霊との激しい死闘……いや、木の大精霊の怒りと言えば善いのか、それを受けて騎士団の半数以上は既に戦闘不能にまで追い込まれている。
古来より神に近いと言われる精霊。その中でも特に力の強い、大精霊クラスからの怒りを受けてしまったのだ。
本人達にその気が無く、恐らく見たものの“九割九分九厘”がそう言うとしても、彼女の妹に等しい精霊達に対して、失言だったのだ。
『不埒者の仕置もずいぶんと済みましたね。これならば全員を仕置くのにさほど時間は掛からないでしょう』
「て、手心はくわえてくださいねぇ~」
自身が友とする精霊の、底冷えするような迫力の篭った声に、さすがのネーネも少し引いてしまっている。
だが、ネーネからそういわれたことに憤慨したようで、精霊ルイミウォテルはキチンとそこを指摘する。
『それは心外ですよ、ネーネ。私は手心を加えて手加減はしています。それに我が主はこういった事でも殺生を好みませんから』
「そ、そうだったのですかぁ~。それは申し訳有りません~」
先ほどまでの問答無用の様相を見ていると、手加減しているとは到底思えない。
直接攻撃をしかけて、植物の蔓での鞭打ちをされる等、軽いほう。蔦や根を這わせ、全身を拘束した後、“絶対に危ないだろう”そう思われるような花粉を浴びせ、幻覚状態にさせていく。
そうした上で、兵達を軸として、根が張り捕獲していく。
その姿はまるで人間に寄生して、栄養を吸って成長していく寄生植物か何かを連想させていく。
だからだろうか、必死に仲間を助けようと数を減らしながらも、こちらに向かってくる。
そのたびに、凄く不気味なオブジェが出来上がっていく様は……精神的に来るものがある。
手加減はしないが容赦はしない。そういったスタンスなのだろう。
『こちらは問題ないようですけど、向こうはどうなんでしょうね。あの騎士団長、かなり腕が立つって聞いてますよ』
「そうですねぇ~、それは聞いてますけどぉ。二人を信じるしかないですよねぇ~」
騎士団員達の悲鳴や阿鼻叫喚を聞きながら、彼女達は激しい戦闘を繰る広げているであろう、二人の元へと視線を向けるのだった。
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後方でそんな悲惨な状況になっているのはお構いなく、彼らの戦いは激しさを増していく。
「どうした! そんなものでこのオレを止めようとでも言うのか!」
強烈な気当てと共に、アドラは剣を振りぬく。
「くっ!……なんだよなんだよっ、へへ。素が出てきてるじゃないかよ! ああ!! 騎士団長さまっ!」
レクスはソレに物怖じもせず、小盾を複数展開し、その一撃を受ける。
だが、受けた衝撃はすさまじく、防ぐことは出来ても、勢いは殺せず、そのまま、数m後方へと吹き飛ばされてしまう。
無理も無い。
騎士団長アドラが振るうその剣は、すでに“剣”とカテゴライズしていいか解らない代物なのだ。
刀身はおよそ二メートル、幅も三十センチ以上は有るだろうし、厚みもかなりの物。柄の部分では一メートル弱はあるだろう。それを片手でスムーズに扱うのだ。
所謂、『斬馬刀』。
しかし、超重量のソレを軽々振り回し、しかし、その動きには、長い得物や重量武器を扱う際の隙を感じない。
吹き飛ばされるレクスだが、そのまま倒れる事はせず、再度小盾を展開し、アドラへの特攻を敢行する。
この光景が、このやり取りが、既に難度と無く繰り返されているのだ。
俺が接近して攻撃しようにも、アドラにはそれだけの隙が存在せず、その隙を作りだそうにも、あの“剣”というにはおこがましい鉄塊にて、はじきかえしてしまう。
一度、高度からの魔槍の投擲を実行したものの、その剣で弾き、逸らしてしまった。
故に、迂闊な攻撃も出来ず、レクスに防戦まがいの戦いをさせ、情報を集めているのだ。
その様子を見ながらもアドラの力量を、その持つであろうスキルの系統を推測する。
「本来で有れば、それだけの重量。いかなる剛力で振り回そうとも、慣性が働く。如何にスキルで筋力を補強しようとも、人間としての物理限界を超える事はできない。ならば、どうやってその馬鹿みたいな重量の武器を振り回しているのか」
肉体強度の件はミアの前例で把握済みである。
これも確認を取った話だが、肉体強度は高める手段がある事には有るのだが、それは人体改造の域になるので、通常のダンジョンでは不可能だそうだ。
故に、人が限界を超える膂力を得る手段は無いとの事だった。
では、この場合はどうか?
あの時、夜の特訓の際、ネクさんから座学に近い話を聞いたことを思い出していた。
『人が生物上の限界を超えてまで膂力を得ることはできないが、類似の現象を引き起こすことは出来る。その一つが秘宝」
「秘宝……。装備で補うってことですか?」
そうだ、あの時は装備で補えって……だけど。
『そうだ、だが、少し惜しいな。補うんじゃない、任せるんだ。いいか? 補ったところで、限界を超えられないのなら意味は無い。なら、限界を超えれる“腕”を“脚”を“体”を用意すればいい。これが外鎧計画、いうなれば“強化外骨格”というモノだ』
「外骨……どんなものなんですか?」
アドラはどうだ?? 確かに重装備だが。アレは秘宝などではない。
『いろいろあるが……簡単な例で考えると、鎧だな。一の出力で十の力を発揮する鎧とでもいえばいいのか、装備者本人はあくまでも細かい制御と調整を行えばいい。類似したものでいえば、その『神々の城壁』も似たようなことが出来るぞ?』
「え? これがですか?」
アドラはあのデカイ剣を巧みに操っている、指先も使ってだ。装備関係は消えたか?
『ああ、ほら、『鉄巨人の腕』ってあるだろ? アレだよ。アレで物を扱うのと同じ感じだぞ』
「あ~なるほど。確かに、人の腕以上の力が出せますね」
直接操作している以上、不可視の篭手ではないな。
『だろ? んで、もう1つだが、コイツは制御が難しい。人間で持っているのなら稀有なレアスキルだな』
「え? ネクさんが言うくらいですか?」
という事は。あのレアスキルか?
『ああ、そのスキルは……』
「確かめてみるか」
俺はそう呟くと、回想を取りやめ、アドラの攻撃に合わせ短剣を投擲する。
そう、限界を超えた膂力の類似効果。
自分を強化し、超重量の剣を振り回しているのではないのなら。
俺が投げた短剣は、レクスの脇を通り抜け、今振り下ろされようとしている剣の腹に当たり……そのまま真《・》下に落ちて、そのまま地面に埋もれてしまった。
「っ!? 今の現象は?」
「カウス! 何かわかったのか?」
そのまま、アドラの攻撃を回避し、バックステップで距離を取るレクス。
俺は先ほどの短剣を、そしてアレだけの重量の武器を振るう、アドラの足元を確認する。
先ほどまで、攻撃を受けたレクスは吹き飛ばされ、その度に地面を踏みしめ削ってきた。
が、ソレを振るうアドラの足元は、ほぼ足跡が残っておらず。僅かに残るソレはとても超重武器を振るうものの踏み込み跡ではない。
そこから得られる結論。
「アドラの持つスキルは剛力などではない。『重力』か『質量』のどちらか、あの剣を軽くして振るい、当たる直前で重くしているんだろう」
ネクさんとの座学、ムダにはならなかった。
俺はアドラへとスキルの種をそう予測したのだった。




