刻まれるモノ『観戦』
「クククッハハハッ。見よ、思った通りじゃ。わらわの言ったとおりであろう?」
「ええ、全く。下手な小細工をせず、そのまま叩き潰したほうが良かったのではありませんか?」
開かれた戦域よりもはるか南。
美しい女性が二人、先ほどの一幕を観戦している。
とてもでは無いが、人の目では観ることが出来ないその戦闘を、彼女達は、さも当たり前のように観る。
そんな事が出来る存在はこの世で限られているわけで。
「相変わらず好戦的じゃのう。そんな事をしてみよ、あのハゲ神が問答無用で降臨してくるだけぞ」
「ですが、結局の所、避難民を逃がすくらいなら強制干渉をしてくるのでは?」
「してくるじゃろうな。むしろ、今のネクの行動はソレの時間稼ぎのよなモノじゃ」
彼女達は第三者の立ち位置から、この度の戦争を分析する。
娯楽の少ない神界と魔界。
この様な催しが行われると、許可を取り、観戦限定で人界に滞在する神・魔も多い。
彼女達もその礼に漏れず、観戦の許可申請をして人界に来ている。
ただ、今回はその観戦の目的が違う一派が存在している。
「じゃから……だ。何時、ネクが降臨するかを愉しみにしているのではないか」
「まぁ、そうですし、ソレ目的での神魔もかなり多いですが」
神族側からすれば、この戦争。大半はオーレア軍の大勝という見解だった。
発生した賭けも三五対五と圧倒的にオーレア優勢となっている。
なぜならば、向こうの神は常に人民に過干渉を繰り広げ、巫女の量産など、暴挙ともいえる行動にでている。
そのため、一柱の神の意思がダイレクトに反映する宗教国とも言えるであろう。
対して、フラクペネイト側はといえば。
「アレでも過干渉では無いですからね、ネク様の場合」
神から投入された資材・人員は極僅か。
確かに秘宝を中心に物資提供があったが……。
「装備品や消耗品は全て人界で入手可能な物じゃ。それに物言いをつけることは出来なかろう」
「です。オーレア軍が手を拱いているのは、兵の圧倒的な錬度不足。確かにフラクペネイトの二千を相手にするには問題が無いでしょうが」
「ネクの迷宮に挑んだ“人間”を相手取るには無理が有った、というわけじゃ。詮無き事よ」
方や、迷宮に一度も挑戦したことの無い人間、方や、恐らくは“人界最高難度”の迷宮に挑んだ人間。
この差はハッキリ言って歴然だった。
「それに、お前やネクが手ほどきをしたのだろう?」
そう、傍らに立つ女性、フェリアスに笑いかける。
その笑顔は華こそ有るものの、どこか人の悪い笑顔と言えよう。
「手ほどきと言っても、アーツの基礎だけです。それ以外は…どうもネク様が特訓させたようで」
「……ああ、ネクの特訓か、そりゃ延びるわけじゃ。どうせ、普通の訓練ではしないような特殊なやり方じゃろうて」
彼女達はよくネクの事を理解している。
ネク曰く。
『汎用量産型も悪くない、量が揃うならそれで組むのも面白い。だがっ! だがっ! 完全特化のワンオフ仕様も捨てがたい! 否! むしろ個性を伸ばし、ピーキーなスキル構成を行い、ソレを操れる技量さえあれば……勝てる!』
などと、えらく熱弁を振るっていた時期があった。
勿論、その後で、『誰にだよ!』と皆から突っ込みを入れられていたが。
その実、二柱にはネクが手を加えた場合の特化傾向が非常によく判っている。
「まぁ、ネクの嗜好でどんな成長をしているのか、見ものではあるのぅ。ほれ、もう間もなく、アチラの戦場でも動きがあるようだしのぅ」
二柱が、此処には居ない者を含めれば、数十柱にものぼる、神魔の視線。
今、ソレが一斉に新しい戦場へと向けられる。
そこには、もう間もなく、先行隊と遭遇しそうな、獣人の一団があった。
****************************
複数の荷馬車を中央に配置し、殿を複数の獣人の兵で固めている。
その最後尾、西方を見ながら、難しい顔をしている者がいた。
「まずいっすね。思いのほか、近づかれてるっす」
「いけないのか? こちらの作戦は、“離れず、離されず、一団を引き連れていけ”だったはずだが?」
「そうなんすっけど。今の距離だと、夜戦を仕掛けられかねない距離なんすよ。夜目は効くとはいえ、夜戦はしたくないすからねぇ」
ベオたちが出発してから数日が経過している。
その間に、オーレアの先行隊が放った斥候にわざと発見され、現在、追激戦を受けている。
小さい衝突は何度かあったが、向こうは歩兵、こちらは弓兵。
彼は近づく前に撤退を余儀なくされ、膠着が続くなか、移動が行われている。
「夜戦だと問題なのか?」
「そうっすねぇ~」
元同僚の自警団員の問いにどう答えたものかと悩み
「夜戦で奇襲を受けれるってことは接近されすぎてるって事っす。その場合、此方が避難民じゃないってばれるっすよ」
「そうか。とはいえ、これ以上速度を上げても不自然だな」
「それだけ向こうも必死っす。恐らく、食料の補給が心もとないんじゃないっすかね?」
オーレアからフラクペネイトを抜けて、総勢一万もの兵の運用。
この間、補給が出来て居ないよするのなら、彼らの心境はいかなるものか。
その事に思いをはせる。
恐らく、彼らには引くことも、出来ず、これ以上の追撃も不可能に近づいているのだろう。
「だが、それだと如何する? 少し足止めするか?」
「そうっすね。何人か弓が使えて脚の速い人百名ほど借りるっす。すこし散らしてくるっすよ!」
「わかった、数時間で用意が出来ると思う」
「頼んだっす!」
そう言い、彼を見送ると、ベオは懐に手を入れ小包みを取り出す。
「まだ、コレの使いどころでは無いみたいっすね。皆、無事に逃げ切れれば善いっすけど」
ベオはここには居ない、他のメンバーを思い浮かべる。
精霊のバックアップが有るとはいえ、たった三人で二千を抑えているレクス・カウス・ネーネ。
そして、避難民の本体と共に移動している、巫女様とミア。
こちらも、相手が疲弊しているとはいえ、一万対二千だ。
余裕があるわけではない。
だが、それでも仲間を心配せずには居られなかった。
予定より文章量が少なくなりました。
でも、あの方たちが登場しています。
以降、ちまちま出てきますのでよろしくお願いします。




