刻まれるモノ『矛盾』
二日間間が開いてしまいましたが更新です。
「やはり、予定を早めて仕掛けてきたな。カウス、ネーネ、準備は大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
「こっちも大丈夫ですよ~。召喚も完了してますしぃ~、設置もかんりょうですぅ~」
俺は都市の外近くで上がった信号弾を見ると、いよいよ開戦したのだとハッキリと認識した。
俺の声にカウスとネーネが応える。
ネクさんとも話した通り、向こうの神へ情報が流れていたのだろう。
オーレアの騎士団長のアドラと話した時、この国への突撃は少なくとも、あと数日後の予定だったはずだ。
あの時、すり合わせた作戦では、ここに配置された獣人の兵と睨み合わせ、硬直状態にして追撃をれることを防ぎ、避難民は距離の近い南東の都市国家ではなく、東の迷宮都市へと抜ける予定だったはずだ。
そうする事で、神の顕現という事態を回避する。
だが、既に作戦は形を変え、信号弾こそ会ったが、情報どおりで動いていた場合には奇襲に近かっただろう。
「やはり干渉が有ったか。その可能性で動いていたとはいえ、ネーネの索敵が無ければ危なかったな」
「そうだな。しかし、これで予定通りだ。あとはここを切り抜けるだけだな」
確かに、オーレア軍は事前の作戦とは違った動きをしている。だが、それは向こう側だけではない。
「どうしますかぁ? ここで迎え撃ちますぅ? それとも……」
「そうだな……行こう。わざわざ街の中に入れることも無いだろう」
「同感だ。この街を戦闘で壊したくない」
ネーネの提案に俺達は同意し、迫りくる二千もの軍勢に歩みを進める。
だが、歩いて向かう人間は俺達だけ。
そう。本来此処で共に防衛するはずの兵は居ないのだ。
二千対三人
圧倒的不利どころではない。
無謀でしかない筈の戦場へ身を投じる。
「カウス、一番槍は譲るぞ。派手なのを頼む」
「ああ、任された」
そう言うと、カウスは単身前へと進み、腕を上へと突き上げる。
「参るっ! 【轟ケ雷鳴、舞エヨ旋風、束ネヨ閃光。我、始原ノ理ヲ基ニ槍ヲ創ラン】っ!」
掛け声と共に、口から詠唱が紡がれる。
此処までの道中に覚えることができた魔槍系統の魔術。
そして、その修練の成果。
初めはただ槍を創るだけしか出来なかったが、今では3つ追加の詠唱を唱え、強化できるまでに至り、そこから放たれる魔術は、あの時の1撃に迫るほどの威力を放つ。
その一撃を放つに前に、カウスは一番槍として、高らかに名乗りをあげる。
「『クラン:黄金の林檎』が一人、カウス・ホムラビ、一番槍を貰い受ける!」
その声に気がついた兵が数名、こちらの事に気がついたようだがもう遅い。
カウスの手には数メートルもある巨大な槍が携えられ、その名を共に軍勢目掛け投擲される。
「薙ぎ払い、果てまで貫け! 【白キ嵐雷槍】!」
あの時に目にしたネクさんの放った突きを目指し、習得した魔術。
超速で投擲された槍は光のスジとなり。周囲の大気を切裂き、螺旋の嵐を作りながら先頭の軍勢へと直撃する。
収束された嵐とも言えるその槍を受け、騎士たちは、重量のある鎧を着ていながらも纏めて吹き飛ばされる。
だが、それだけでは終わらない。
同時に雷にも似た電撃を周囲に撒きながら、その速度は減衰することなく、多くの騎士たちを巻き込みながら軍勢を貫通していった。
「わぁ~、凄く派手ですねぇ~。今のでかなり数が減ったんじゃないですか?」
「示威行動もかねてるからな。だが、貫通性が高い反面、面での制圧力には劣るな」
ネーネの言うとおり、白く輝くは、放電と共に雷が鳴り響くはで、もの凄く派手だ。
だが、カウスも認めている通り、貫通性が高いので、今の一撃で戦闘不能になった騎士は百名かそこらだろう。
「だが、今ので動揺が広がったな、今がチャンスだ。切り込むぞ!」
「「了解」」
俺はその言葉と共に両拳を握り締めると、先ほどの魔術の破壊痕が残る一団へと突っ込んでいく。
「俺は『黄金の林檎』団長のレクス・ホムラビ! ここから先へは行かせることが出来ないのでな! 大人しく……眠っててくれよ!」
名乗りと共に拳を振り上げ、殴りかかる。
俺と敵兵の距離はまだ離れており、拳が届くような距離ではない。だが、俺の動きにあわせ、敵兵が数名纏めて殴られたように後方へ弾き飛ぶ。
だが、流石に軍国の騎士。
魔術で受けた被害をあっと言う間に建て直し、こちらを包囲するように円陣を組む。
「相手はたった三人だ! いくら魔術士がいようと物量で押せば問題はない! 押し潰せ!!」
恐らくは指揮官だろう。その指示の元、俺を囲い一気に殲滅する気だろう。
「オオオォォォォォッ!」
掛け声と共に数名の騎士が剣や槍を手にこちらへ遅い来る。
俺へ目掛け、振り下ろされ、突かれる武器。
だが、ソレは全て俺へ届くことは無い。
「なにっ!? 何だこれは!!」
振り下ろされる刃は悉く、甲高い金属音を立て、何も無いはずの空中で弾き返される。
その様子を見ながらも、俺は拳を、普通よりもかなり大型の篭手を握り締め魔力を通す
そしてそのまま拳を振り回せば、その延長線上の騎士がまるで見えない巨大な拳で殴られたかのように吹き飛ぶ。
彼らには見えて居ないようだ。
だが、俺達に眼にはハッキリと映っている。
青白く輝く巨兵の腕。その名は【鉄巨人の腕】。
この篭手の秘宝、『神々の城壁』から生み出される隠し技の一つである。
今だに全ての性能を発揮できるわけではない。
発現できる小さい盾も両手合わせて半数の五百にも満たないだろう。
展開速度も遅いし、【鉄巨人の腕】も右拳分しか精製することが出来ない。
だがソレでも、破格の性能を有する秘宝だろう。
見えない盾で防がれ、見えない拳で殴られる。
先ほどの魔術の一撃もそうだが、“見えない”というのは想像以上に対処に困るものなのだ。
まだ全軍には伝わって居ないだろうが、俺の視界に居る騎士たちには明らかに動揺が広がっている。
「くっ……! ひ、怯むな! 相手はたったの……」
「俺を忘れているぞ! 【暴風魔槍】っ!」
指揮官が恐慌になり掛けた兵を推し留め。包囲を徹底させようとした時、上空より声が響き、その声を掻き消す。
声に釣られ、上空を見た兵の眼には、天より降り落とされる槍の姿が見えたはずだ。
上空数百メートルから投擲された魔槍は、嵐を巻き起こしながらも、正確に指揮官を狙い撃つ。
暴風を纏った槍は、先ほどの1撃よりも控えめながら、横ではなく、上から下へ投げられるため、地面に着弾すると弾け、その全てを開放する。
それは面での攻撃。
着弾地の半径十メートルほどに居た騎士は、指揮官ごと薙ぎ払われ、倒れ伏す。
それを確認すると、カウスは再度宙を駆け、別の目標へ向け槍を投擲する。
俺同様。ネクさんより借り受けている秘宝、『天駆ける長靴』の効果により、カウスは縦横無尽にソラを駆ける。
その動きを阻める者などそうは居まい。
カウスはストックで用意していた魔槍を全て使い切り、一旦地上へと着地する。
「っ! 今だ、着地を狙え!!!」
他に居た指揮官だろうか。
その声に反応した騎士が一斉に武器を振り下ろす。
着地のため、一瞬の隙が生まれているカウスには回避が難しいだろう。
だが。
「やらせんよ」
「なに!?」
着地を狙う槍は全て、放った小盾にて弾きかえす。
どんなに離れていようと、俺が認識できるのなら、小盾を操作することが出来るのだ。
不意に受けた硬い感触に体勢を崩した騎士に向かってカウスは高速で迫りくる。
「破っ!」
気合一線、放つ掌底打ちは顎など急所を狙い。突き出される剣を避け、腕をとり相手を投げる。
元々カウスは古流武術を修めていた。
その為、密着した白兵戦や1対多の戦闘に慣れているのだ。
縦横無尽に高速で駆け、遠方には投擲で、近ければ無手であしらわれ、触れることが叶わない。
着地を狙っても、不可視の壁により阻まれ、術者にも触れれず、見えざる拳で殴り飛ばされる。
二身一対。その連携は互いに干渉する事が無く、その矛先は敵に向き、その盾は敵を阻む。
故に“矛盾”が起こることもなく。
ここに、この先名をはせる“矛”と“盾”が誕生した。




