刻まれるモノ『開幕』
「ここまでスムーズに行くとは……驚いたな」
現在、私達はそれぞれの役割を果たすべく、レクス・カウス・ネーネ・ウルス・そして私の五名は、慣れない馬に苦労しながらも、フラクペネイトを周っている。
長老達は各部族へ、そしてウルスは私達について動くとそのまま行動を共にしている。
ちなみに。ベオは他にやるべき仕事があるため、古巣の自警団の面々と共に別行動中だ。
あの会議後。話が纏まってからの動きは早く、その日のうちには避難ルートを含めた話し合いは完了し、明日にでも避難開始ができるほどだった。
ベオ達があらかじめ各部族の長達に話を通してくれていたこともあり、ある程度ではあるが、皆が避難に備えた準備を行ってくれていたことも大きい。
だが、本当の功労者は彼女、巫女たるウルスではないだろうか。
あの会議の後、彼女は各部族を巡り、地道ながらも、民衆への避難の理解を深めてくれていた。
「皆さん、落ち着いて避難をしましょう! 大丈夫ですよ、私たちにはきっと庇護者の加護がありますから!」
そう言って回る彼女の効果は絶大で、巫女と言う存在が、いかに慕われているかがよくわかった。
住民達も、その言葉を聞いてか、必要な荷物を纏め、各部族単位で集合しだしている。
「ウルスのおかげで、かなり時間が短縮できましたよぉ~。コレで明日には順次出立できそうですねぇ~」
「ありがとう、ネーネ。でも私だけじゃないよ、ミアが一緒にいてくれているから。皆、ベオが言った言葉を信じることができているんだよ」
ベオの言葉? それに私は一緒に回っているだけなんだけど。
ウルスの評価に困惑する私だが、レクスがその理由について見当を立ててくれた。
「恐らくだが……クラスに『命神』と名前がついた事が影響しているのだろう。出会ったときは確か、神が解らない状態だったからな」
名前が解らない?
そういえば、オーレアの巫女のマリは『豪神の巫女』というクラス名だった。この『豪神』と言うのが神を表しているのだとすれば、ウルスのクラスにその名が顕れた理由も説明がつく。
「たしか、獣人族には神に関しての伝承が残って居ないのでしたね」
「そうですね、今日ミアに出会うまでは私も神様の事は解りませんでしたから。でも一目見て、そしてそのクラス名を見て解ったんです。きっと私が仕えるべきはこの神様なんだと。そして、ミアも私と同じじゃないのかって」
カウスの言葉に同意し、言葉に頷きながら、ウルスは出会いを振り返る。
「同じ……ですか?」
「ええ、巫女と使徒。確かに違いは有りますけど、同じ神様に仕えているんじゃないかって」
「それで、私にあんな質問を」
「ええ、実は、このクラス。先代の巫女も名前がわからなかったんです。でもきっとそうだっ! って思って言ってみたらクラスの名前までハッキリと変わるんだもの」
やっぱり、あとでネクさんに怒られるんじゃないかな?
でも、ネクさんも巫女と会うことは想定内だとは思う。
ただ、さっきの様子を見る限り、ネクさんがこちらに話しかけてきた場合、ひょっとしたら存在に気がついてしまうかもしれない。
だからだろう。この都市についてから、一度もネクさんの気配を感じないのだ。
恐らく、眼を通してこちらを見ているのだろうけれど。
私はそんな事を思いながらも、ウルスと共に街を巡り、避難を促がしていく。
だが、流石に広い。
人口も一万にもなる都市だ、私達だけではどうしても廻りきらない。
そこで、脚となる馬の出番と言うわけだ。
他の迷宮都市などと違い、この街では馬の乗り入れが許可されている。
なので、日常的に馬やロバなどが移動手段として広く利用されているのだ。
そのおかげで避難の誘導などもかなりスムーズにいってる。
だが五人で全ては回れないので、私達が避難を伝えた人が更に次の人、次の人と、伝言を伝えていくこととなる。
日が暮れかける頃には、都市ほぼ全域に避難命令が伝えられ、明日の朝一番で避難を開始できるにまでに漕ぎ着けることができた。
「なんとか、避難はできそうだな」
「ああ、間に合いそうだな。明日には避難開始できるだろう。ネーネ、周辺情報はどうなってる?」
「え~と、ちょっとまってくださいねぇ~。今接続しますから」
その言葉と共に、ネーネは木で出来た人形を額に当て、静かに眼を閉じる。
当然ながら、ネーネもこの街に来て、何もしていなかった訳ではない。
その成果の一つがコレだ。
暫くして、ネーネは眼を開けると
「聞いていたよりも早く動いていますねぇ~。それでも、進路は予測通りですよぉ~。商隊の人たちを直ぐに避難させて正解でしたねぇ~」
「やはりか。ベオ達の方はどうだった?」
「はいぃ~。こちらも予定通り、偵察兵に発見されましたぁ~。進路も予定通りに進んでいますぅ~」
先ほど、ネーネは此処ではない、遠方の出来事を遠視してみたのだ。
これが、新たに取得したネーネのスキル『感覚共有』だ。
これは自身と相性の善い生物の感覚を共有することで、先ほどのように遠方の物を見ることができたり、また、極めればその周辺の温度、匂いに至るまで把握することができる。
当然、ネーネと相性の善い存在とは精霊である。
フラクペネイトまでの移動、その間の召喚魔術の勉強によって新しくスキルを得ることが出来たのだ。
「これが精霊魔術ですか。遠くの物まで見ることができるなんて、ホントに便利ですね」
ネーネのこのスキルに感心したのか、ウルスがしきりにネーネを褒め称ええる。
なんでもこの都市に来てからネーネとウルスは一緒に行動する事が多く、かなり仲が良くなったようだ。
そんなウルスの褒め言葉に、ネーネははにかみながらも
「でも、まだまだなんですよぉ~。見れる範囲は狭いですしぃ、契約した精霊以外には使えませんしぃ。それに、他の高位の精霊を召喚しているとぉ。そもそも使えませんからぁ~」
ネーネのこの言葉通り、いろいろと不便な点もあるようだ。
でも、私からすれば、斥候要らずで周囲を見れるのは凄く便利だと思う。
「よし、周辺情報はあらかた解った。ありがとう、ネーネ。では俺達は明日からの作戦に備えるとしよう」
「そうだな。ウルスさん、そしてミア。避難民の事、よろしくお願いします」
そう、明日から私とウルスはレクス達と別行動だ。
「解りました。安心してください。皆が不安にならないよう、精一杯努めますので」
「大丈夫、万が一の時の伝令と、非常食の搬送は任せて」
私達にはそれぞれの役割がある、
その役割を果たしてこと、この戦争を切り抜けることができるのだ。
こうして、私のフラクペネイトでの最後の夜が終わりを告げる。
そしてこの三日後、遠く離れてからでも見えるほどの色鮮やかな煙が空を翔るように上り、その瞬間を迎えることとなる
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フラクペネイトを目前に控えた丘。
そこに陣を組み。多くの騎士達が集っている。
「諸君、我ら騎士は国を守る牙である」
「「「「「「オオオオオオオオオオオオオォォォ!!」」」」
二千人にもなる騎士団を前にし、一人の男が開戦直前の鼓舞を行っている。
フルプレートの甲冑を纏い、しかし、指揮のために冑は外している。
その表情からは迷いも、疑念もなく。その瞳が求めるものはただ一つ。勝つことのみ。
ソレこそが、彼の願いを叶える手段でもあり、そして最善策なのだと痛感している。
だが、それでも言わずには居られない。
「かの民達には何一つ、恨みも、妬みもない。だが、それでも尚。国を、民を守るためにも、我らは勝たねばならぬ!」
「「「「オオオオオオオオオォォォ!!」」」」
彼の目の前に居る騎士達。
彼らとて理解している。
この戦いに大儀など存在していないと。
だが、同時に理解もしている。
彼らは十余年前の事を知っているのだから。
最低限度の被害でこの戦争を終わらせる。
それが、彼らにとっての義理であり、彼らへの礼でもあるのだ。
「往くぞ! 隊列を維持し突き進め!目指すは眼下の国、フラクペネイト!」
「「「「「「オオオオオオオオオォォォ!!」」」」」」
あそこには獣人の兵が殿として、背後からの騎士団の攻撃を避けるためにも配置されているはずだ。
聞いた戦力は数の上では互角だろう。
だが、こちらは錬度が違う。
それに……。
背後を見やると、遠く遠く天幕に銀色を見ることが出来る。
表情こそ見ることが出来ないが、不安な顔を浮かべているのだろう。
こんなやり方でしかお前を守れぬ不甲斐ない兄を許せ。
もう後には戻れぬと、覚悟を決め団長として号令を書ける。
「騎士団長、アドラが此処に命ず。全軍、突撃っ!」
「「「「「「オオオオオオオオオオオオオォォォ!!」」」」」」
その掛け声と共に、騎士団がフラクペネイトへと突撃を開始。
この日、世界を大きく変動させた戦争が始まった。
※次回更新は2/26予定です。




