開戦「 」日前④
私たちはフラクペネイトに到着するとすぐ、先行していたベオ達との合流を果たした。
「ベオ、ネーネ。特に問題は無かったか?」
「こちらは問題ないっすよ!そちらは……色々大変だったらしいっすね」
「だいじょうぶですよぉ~」
ネクさん経由で一応の事情知っているのか、私達に労いの言葉をかけてくれた。
「まぁな。だが、ある程度の情報も入っている。ソレを参考として今後の作戦を話し合いたいのだが……この都市の代表は居られるか?」
「案内するっす! 向こうも皆が来たら案内するように言われているっすから」
その言葉と共に、ベオは私達を連れ、街を案内する。
フラクペネイトの街並みは自然石を使った街道や石垣がよく見られ、建築物は木を使った物が多く見受けられた。
オーレアと比べると都市としての規模が大きく違ってはいるが、なかなかに広く感じる。
また、人口数の多いオーレアとは違い、庭園が所々にあり、町の中に自然が溢れている。
私は歩きながらも自然と街が一体となったような街がとても魅力的に思えた。
「善い所ですね、なんだか、暖かそうな家ばかりだし、緑もいっぱいで」
「ありがとうっす! そう言ってもらえるとうれしいっす!」
『そうだな、俺の所は緑がいっぱいって言うよりも、緑しかないし。迷宮としては大きいが、都市部も小さくて手狭だしな』
私のその言葉にベオが嬉しそうに礼を言う。
ネクさんは……自分の領地の都市部と比較しているのか。
流石に人が住んで居ない都市と比べるのはどうかと思う。
『ちなみに、今見た限り、フラクペネイトの都市部は俺の所全域の十倍ほどの面積だろうな。まぁ……農耕地を入れると更に倍近くあるとは思うが』
いや、全域って言っても、あそこ殆ど森林じゃないですか。
私がそんなことを思っていると。
『ミア。失礼なことを考えているな? 俺の土地が狭いんじゃない。フラクペネイトが広いんだ。その証拠に、オーレアの人口は此処の十倍近くあるが、都市部の面積はフラクペネイトの五倍ほどしかないぞ』
いや、その理屈でいえば、ネクさんの土地はオーレアの五十分の一って事になるんですけど。
あんまり、土地が狭いとかその手の話は止めといた方がいいのだろうか?
最近、ネクさんとの念話も慣れてきたので、思考がだだ漏れになることは無くなっている。
だけど、さっきみたいに何を考えているかをよく見透かされてしまう。
そんなネクさんの指摘にベオとカウスが都市の構造について話をする。
「そうなんっすか! 俺はオーレアに行った事が無いんで、どんなとこだったんっすか?」
「まぁ、此処よりか圧倒的に手狭な感じだったな。建物をレンガ造りで同一規格の集合住宅だったし」
「あ~。だったら私にはこういった都市の方がすきですねぇ~。エルフの里はどちらかと言えば、あそこの迷宮都市みたいに森に囲まれてましたからぁ~」
「いや、エルフの里もどちらかと言えば隠れ里とか、秘境寄りな気がするが」
「そうだな。でも、ここは善い所だな。俺達も故郷を思い出すよ。ここまで大きくは無かったがな」
「……だな。ホント、善い所だ、こんな所を戦禍で汚したくないな」
「そうですね。皆で守りましょうよ」
皆、一目でこの街が気に入ったのか、歩きながら街についていろんな話をしていた。
話をして見て。私達の思いはきっと同じになっていただろう。
私達はベオに案内されるままに歩き、この会議所……というか、寄り合い所までやってきた。
『先に言っておくが、俺はこの作戦の立案までだ。お前達には配下だ眷属だと口を出せるが、如何に主神だからといって、獣人に口をだすのも憚られる』
そんな事を言うと、ネクさんとの回線が途切れた感覚が有った。
恐らくは見てはいるのだろうが、口を出すのは控えたのだろう。
ネクさんにはネクさんの理由が有ったのだろうが、表舞台から消え、獣人にも名を残さなかった神だ。いまだ信仰を集めているとはいえ、直接口を出すのは避けたいのだろうか。
私達が室内へ入ると、色んな種族の獣人が囲むように座っており、私達を出迎えた。
その中で、上座に座る老獣人と、その脇に座る獣人の少女が代表して挨拶をした。
「ようこそ、フラクペネイトへ。ワシがこの街の長をしておる、ビューゼ・フェニアと言うよろしく頼む」
「初めまして、巫女のウルス・フェニアです、よろしくお願いしますね」
だが、私は…いや、レクスもカウスもだろう。その少女の姿を見て言葉を失った。
まだ幼さの残る美しい少女。だが、私たちの眼を引いたのは、その美しさでも、愛らしい兎耳でもない。かの地で出会った少女、マリ。彼女や他の巫女たち同じ色の髪色や瞳をしていたからだ。
「その髪の毛……」
「ああ、キレイな髪でしょ?なんでもおじ……、長老が言うには“先祖帰り”だろうって。兎族だったお祖母様の、そのお祖母様が同じ髪色だったって」
巫女に共通する髪の色だったのか。
マリとは違い、先祖が巫女の血を引いていた為に起こった現象のようだ
「そうか、ということは此処の巫女は天然モノなのか」
「そのようだな、彼女は隔世遺伝っていう事か」
レクスやカウスもオーレアで巫女を見ていたためか、小声では有るが巫女について何か話しているようだ。
そんな様子を遠巻きに眺めながら、巫女……ウルスは耳をピクピク動かせながら私達に、いや、私に尋ねる。
「ええと、貴方のお名前を聞いていいでしょうか?」
「私ですか? ミアと言いますけど」
他の仲間には眼もくれず、話しかけるウルス。
「少し聞きたいことが有るのですけど、よろしいですか?」
「ええ。構いませんけど?」
私のその言葉を聞き、にっこりと微笑むと
「貴方のそのクラス……何?」
「え?」
急に何を……?
訝しげに思った矢先、私の視界にネーネの“しまった”と言う表情が入った。
その姿を見て気がつく。そうだった、獣人の主神絡みで来たことは知られている以上、そこに居る『使徒』は間違いなく、彼女達の神に仕える者。
それはつまり。
「使徒って事は……神様に使える存在。私と同じって事ですよね?」
「それは……っ!」
多分、教えるのは不味い。そう思ったのだが、
「そう、『命神』様って言うんだ……私達の神様は」
変化は、彼女がそう呟いた途端に起こった。
今まで『■■の巫女』と表記されていた彼女のクラス。それがその名を呟いた途端、一瞬にして『命神の巫女』へと変わってしまった。
「これで、同じですね」
その時、彼女、ウルスはまるで可憐な華のような笑顔を魅せたのだった。
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「ミア達は無事にフラクペネイトに着いたでしょうか?」
「恐らくは。今頃、避難の準備に急いでいると思います」
私は隣に控えている鎧姿の騎士にそう尋ねた。
私達がオーレアを出発して六日が経った。
此処は天幕の中。私たちは明日に備え野営を行っているのだ。
話に拠れば、目的地のフラクペネイトまであと三日で到着するとの事だ。
休息を入れたとしても、開戦まであと四日程しか無いのだ。
「大丈夫……ですよね……アドラ兄さん」
「巫女様。此処では人目に触れます。今ままで通り、団長とお呼びください」
その言葉に、私は獅子のぬいぐるみ……ブレイズ君をぎゅっと抱きしめる。
今、私の胸の中を不安が渦巻いているのだ。
本来の予定では、フラクペネイトまでもう少し時間が掛かるはずだったのだ。
だが、出立が1日早くなった事と、迂回して北側から攻めるはずが、そのまま真っ直ぐ侵攻と変更になったため、当初の予定よりも数日速い進軍となってしまった。
開戦の合図は此方が特大の信号弾を打ち上げ、奇襲を行う。
だが、それまでにミア達は市民を連れて避難が出来ているだろうか……?
「予定よりも速い。無事に戦争が終われば善いのですけど」
戦争を起す側が、戦争の無事を願う。
大きな矛盾を孕む思考だが、それでも私はこの戦いで多くの命が、兄の命が散らぬ様。ただ一心に祈っていた。
そう、ただ一心に祈り願う。
だからこそ、その言葉は私の耳には聞こえてこなかったのだ。
「絶対に守ってみせる。たとえ、何が起こったとしても」




