開戦「 」日前②
私達はネクさんの語った情報に驚きを隠せなかった。
何故なら、あの時私達は今後の計画を包み隠さず話してしまっていたからだ。
「そんな、だったら私達の今後の行動も全て筒抜けに……」
そうだ、折角避難の為に計画した全てがムダになってしまうのか。
そして、私はもう一つ、その可能性に気がつき、ほとんど縋るのような気持ちでネクさんに訊ねていた。
「マリは……知っていたのですか? 私達に……嘘をついていたのですか?」
自身の眼を通して神がこちらを見聞きしている。
それはつまり、情報を収集するために私達を招き入れたということなのか。
「ミア、それは……」
レクスが何か言おうとしていたが、カウスが肩に手を置いて留める。
振り返るレクスにカウスは首を振って制止を促がしている。
私の知らないところで何が有っていたのか。
不安に思う私にネクさんは自身が感じた、認識した先日のマリ達について語った。
『あの二人だが、嘘自体はついていない。マリ自身もあの会話が全て筒抜けだった事を知らないだろう』
その言葉に安堵を覚えるとともに、だったら……と疑問も沸く。
「だったら……」
「だったら、どうしてあの場でこちらの作戦を流すような真似をしたんですか?」
私が言おうとした言葉を制し、代わりとしてカウスがネクさんへと詰問をした。
それはそうだ。あの時、情報が漏れていることを知りながら、今後の計画を話したのだ。
「おい、カウスにミア。今更だろう。それに、ネクさんのことを疑っても仕方が無いだろ? あの神は間違いなく、俺達の、フラクペネイトの事を考えて動いてくれている」
「そんな事は解っている。それこそ、今更そんな事を疑うものか。だが、その真意は知っておかないといけない。そうでしょう? ネクさん」
詰問とは裏腹に、二人はネクさんの事を疑っても居ないようだ。
それは私も同じだ。
だけど。
オーレアの主神ベルクがあれほどの干渉をし、フラクペネイトを侵攻しようとしているのに。ネクさんがもっと力を貸してくれれば、きっとこんなに大変なことにならないで済むのではないか? と思ってしまう。
きっとネクさんには、マリも、そのお兄さんも、それだけではない。フラクペネイトの人たちも簡単に助けることが出来るはずなんだ。
私は、それがどんなに都合のいい考えか、とわかってはいても思わずには居られない。
頼ることしか出来ない自分が不甲斐ないが、コレが神に縋るということなんだろう。
『お前達の思っていることは十分承知している。そしてミア、自分を責めなくて善い。過度の干渉が出来ない理由もあるが、それでも何とかする手は考えている』
ネクさんはそう言うと、今までの作戦の概要を説明しだした。
『当初の予定通では、避難ルートを南東にある都市国家を避け、ほぼ東に位置する迷宮都市を目指すという計画を立てていた。それは皆、理解していると思う』
「ええ、そういう計画でしたので。避難に必要な食料も可能な限り集めては居ますし、多くの商隊にも助力を願い、追加の方々も今フラクペネイトへ向かっている筈です」
ネクさんの言葉にレクスは同意し、私達は頷きで返した。
そう。理由としては、都市国家に難民として避難する場合だと、そのままオーレア軍がその都市まで侵攻してくる可能性がかなり高いこと、そして二つ目として、その都市国家で補給を行い、更に東にある転移門でネクさんのいる迷宮都市まで転移して逃げてしまおう、という作戦だった。
無論、そこには難題も多数抱えていたのは間違いない。しかし、協議の中で、それが最も確立が高いという結論に至ったのだ。
『ああ、確かに確立としては高い。正直、オーレアが今後どういう作戦で来ようとも、兵から逃げるのであれば恐らくは最有力の手段だと、今でも思っている』
「だったら何故なのですか? その作戦をわざわざ相手に教えて。これではオーレア軍もさらに東で展開してこちらに対応してくるのではないですか?」
その通りだ。あの時、マリ達に南東への進路を否定し、東へ向かい避難すると告げ、その為に食料を集め、準備しているていることまで話してしまった。
これでは逃げることが難しくなる。私はそう思い、ネクさんの真意を考える。
と、カウスは何かに気がついたようで、「あ、ひょっとして……」と声をあげた。
「カウス、何か思い当たることが有るのか?」
「いや、可能性の問題なんだが……ネクさんはオーレアの兵糧を可能な限り減らしたいんじゃないか?」
兵糧??
何故そんなことを?
「思い出してくれ。オーレアをはじめとして。周辺の農村の住民は既に近隣の迷宮都市へ、難民という形ではあるが、避難をしている。その影響もあり、オーレアは軍の移動が察知されないのだが、逆に、食料などは既に備蓄に頼っているという事でもある」
確かにウォッドベーカーの外周区には避難してきた難民が多く存在していた。
だが、それとオーレアの備蓄がどう繋がるのかが解らない。
「そして、オーレアの軍は俺達が到着の前日に出立していたそうだが、その際、すでに国内には最低限度の警備兵しか居なかったな?」
「だから、それがどう関係があるんだ?」
「つまり、既に後続の補給隊は出ていると考えられる。残っていた騎士団がその役を担うと思ったが、あの話に嘘が無いなら彼らの仕事はフラクペネイトを襲うこと。だったらだ。先行した軍隊はどうやって一万もの兵の補給を行うんだ? 周囲の農村は既に避難をしている以上、そこでは補給なんてできない」
私はカウスが言っていることの意味がよく理解することが出来なかった。
それは既に持って行っているのではないのか?
『ミア、理解できてないようだが、いかに兵糧を持っていったところで、オーレアから話の作戦地点まで凡そ半月強。それだけの期間、どれほど持っていっているかわからないが、兵糧は足りないだろう。なぜなら、カウスが言ったとおり、道中の農村で補給することが出来ないからだ』
「先日ネクさんからもらった鞄を覚えているか? 何故あの鞄が重宝されるか解るか? あれが有れば物資運搬の概念が変わるんだ。お前が手に入れた『空間収納』あれがどれだけ俺達の常識を壊すものか、解ってないんだろうな」
二人が言うには私は兵糧など食料の重要性がわかって居ないという。
だが、それと作戦とがどう繋がるのかがわからない。レクスはその意味に気がついたのか、ネクさんへ確認をとる。
「だったら、あの二人へ言った情報も囮ですか?」
『ああ、その意味もあるが。最大の点はやはり疲弊させることだろう。大筋は変わらないのだが、なんとか、向こうの神の介入が起こる前に避難を完了させたいのだ』
「という事は、裏をついて避難ルートも変更ですか?」
私を放置して三人で作戦会議を開始してしまった。
話を理解出来て居ない私は焦れたように声を出す。
「結局どういう事なんですか! お願いですから、教えてください!」
「だからな、ミア。食料も無い状況で、軍隊が取る手段は限られるだろ? “現地調達”周囲の農村からは確保できない以上、大量に運び込まれたというフラクペネイトの動向は気になるはずだ」
「さらに言えば、食料が無いのなら国へ帰ることも出来ない。疲弊している以上、軍としてはフラクペネイトを奪取して拠点にしたいはずだ。つまり、騎士団は確実にフラクペネイトを襲い、そこから動かない」
つまり、どういう事なんだろ?
軍隊の食料が少なくなっていると予想されるから、それを補給するため、必ずフラクペネイトを襲うってことか?
でもそれと避難がどう結びつくのか。結局、食料は避難するために必要だから、避難民を襲うついで食料を奪うのではないのか?
『ミア、通常、食料は何で運ぶ?』
「え? 荷馬車ですよね?だから商隊に依頼をだして大量に集めましたし」
『だったら、ソレが移動しているのが避難民の本隊だよな?』
「計画でそうなってますし、皆の食料を確保しないといけませんよね?」
東にある迷宮都市に向かうには馬車でも十日以上かかる工程なのだ。それほどまでの食料だと、徒歩で運ぶのは難しいだろう。
『つまり、先行軍はその荷馬車を目印に進軍するわけだ。命令のため、そして自分達の食料のため。だったら、その荷馬車の周りにいるのが避難民でなかったら?どうなるんだろうな』
その言葉に少しだけ、ネクさんのやろうとしていることが理解できた。
ネクさんは、大量の荷馬車を集め、ソレを囮として使う気なのだ。




