考察、そして舞台は移り・・
ミアたちは今後の打ち合わせをした後に早急にフラクペネイトを目指し出発した。
オーレアからのはおよそ1週間だが、少し北よりに迂回しながらの移動になるので少し到着が遅くなる可能性がある。
だが、それ以上に先行している軍隊との遭遇を避けるほうが優先だ。
俺はミア達が出立するのを確認すると、俺は迷宮都市に意識を戻し、こちらで出来る対策を行うことにした。
「ルイミウォルテ、少し善いか」
「はい、こちらに。御用でしょうか?」
即座に管理精霊のルイミウォテルを呼び出し、伝言を頼むことにした。
「ネーネからの交信があったときに伝言を頼みたい。出来るか?」
「容易い事でございます。それで、何をお伝え致しましょうか」
その言葉に俺は手に入ったオーレア軍の動きを伝える。
「オーレアの軍勢だが、向こうで入手した情報だと、フラクペネイトの南東部に分散して配置されるようだ。当初の予定通りに東部にある迷宮都市を目指してくれ」
「了解いたしました」
ルイミウォテルは伝言を聞くと、溶けるように姿を消していった。
俺は書斎まで移動し、一息入れるため、お茶を用意する。
紅茶の良い香りが漂う中、最大の懸念事項を考える。
実のところを言うと。
たった一点の懸念事項を除き、今回の避難計画は既に完了したも同然なのである。
だが、その懸念事項が全てをひっくり返してしまう恐れがあるのだ。
俺は通信を開くと、少しでも情報を集めるべく、ある神物を呼び寄せた。
程なくしてドアをノックすると共に、一柱の神族が顔をだす。
それは元神族の主席補佐にして、現この迷宮の補佐官でもある神物
「お呼びですか? ネク神」
「ああ、すまんな。ラヒルデ、お前はオルの補佐として議会にも参加した事があると思うが。単刀直入に言って、ベルクについて、どういう神と認識している?」
俺は神界に居た頃から、あの神とは接点が全くといって善いほどない。
むしろ、俺と接点を持っていた神の方が少ない程だ。
その為、アイツがどういう神かはよくわかって居ないのだ。
無論、権能だとか、そういった内容に関しては十分に解っている。
俺が知りたいのは内面。性格や志向などの事だ。
ラヒルデもその点は理解しているようなので、自分から、政敵として対峙していた頃から見ていた感想を述べていく。
「そうですね。率直な感想を言えば、“小物”ですね」
「ほう? それはまたどうして?」
普段から毒舌な点が見受けられるラヒルデだが、ここまで断言するのは珍しい。
「基本的にかの神は、短絡的な脳筋で、力に固執する気があります。権力には靡き、弱者には過剰なまでに力を誇示する傾向にあります。特に自身の権能の種類が『力』なこともあり、単純な戦闘力、それも腕力に劣る者を下に見る類のようですね」
オーレアでの所業から最悪の評価だったが、どうやら本気で最低の神のようだ。
だが、神獣の件といい、獣人の件といい、狙いは俺のような気がする。
恐らくは、背後にいる神共が画策したのだろう。
そこで、俺は今抱えている懸念事項をラヒルデに尋ねてみた。
「今回の戦争だが、自身の目的が達成できない状況に陥ったとき。ベルクは人界に介入すると思うか?」
そう、これこそが俺の懸念事項。
獣人を避難させる事が出来たとしても。ソレを不服とし、ベルクが力ずくで介入してくるのならば、一気に分が悪くなる。正直なとこと、マリの夢からその可能性は高いと踏んでいる。
だが、それでも手を拱くわけにはいかないので、知恵や装備など、過干渉にならない範囲での手助けを行っているのだが。
ラヒルデは俺の問いに少し考えたが、迷いがありながらも答えをだした。
「その可能性は極めて高いと思われます。ただ、本人もソレを行う場合のデメリットを認識はしているとは思いますので、干渉といっても極限定的だとは思いますが」
「そうなんだが。ああ、言っていなかったな。先ほどオーレアでな……」
そうか、ラヒルデは前提を知らなかった。
俺はオーレアで見た量産された巫女や、あの都市の現状。そして、戦場での軍の動きなどの情報を話した。
俺の話を聞き、少し驚いた表情をしていたものの、話を聞くにつれ、次第に納得のいった表情を見せていった。
「なるほど、その条件下であるのならば、ベルク神が人界に降臨する可能性は低くありません。むしろソレが彼の切り札なのでしょうから。元々自尊心が著しく高い神です。自身の思い通りに行かない場合は盤上ごとひっくり返そうとするでしょうから」
「そう……か、わかった、ありがとう」
俺は礼を言いながらラヒルデを下がらせる。
現時点ではベルクの降臨を防ぐ手立てが無い。
もしも降臨した場合には対抗できる手段は限られてしまうのだ。
「神が、神に祈るなんて、な。無事に避難を達成できれば善いのだが」
祈る相手など居ないし、仮に聞く存在が居てもこの一件の黒幕の一柱な気がする。
だが、それでも俺は祈らざるを得ないほどの心境だった。
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時を同じくし、フラクペネイトへと向かう馬車上。
エルフの少女が話をしている。
だが、周囲には彼女の仲間が一人いるが、その彼は手にしている小包みをしげしげと眺めている。どうやら話している相手は別に居るようだが、他の者にはその姿が見えない。
先ほどまで、ここには居ない誰かと話してたエルフの少女ネーネに、その獣人ベオの問いかけに答える。
「わかりましたぁ~。……いいえぇ~、はい、はい。種は預かっていますので。はいぃ~ご心配なくぅ~。ではぁ~」
「交信終わったっすか。それで、向こうはどうだったんすか?」
私はベオの言葉に答えた。
「軍の動きは予想通りだったみたいですねぇ~。ただ、先発隊が既に出ているという事なのでぇ、着いたら即座に長老に知らせて避難の用意をしてくださいねぇ」
「ああ、やっぱりそうなったっすか! 了解したっす!」
そう元気な声を上げるとベオは懐に小包をしまう。
先日もらった物だが、いまだその中身は確認していないそうだ。
「着いてからがいそがしくなりますからぁ~。今のうちに休んでおいてくださいねぇ~」
「了解っす! ネーネはまた読書っすか?」
「ええぇ~。見たことの無い本がいっぱいありますからぁ~」
そう言うと、私は積荷の中から本を適当に見繕い、手に取る。
この馬車はウォッドベーカーの外周区に居た商隊の一つで荷台には書籍をはじめ、日用品が積載している。
他にも数台の馬車が走っており、皆一路フラクペネイトを目指している。
彼らはある目的のため、レクスを経由してネクさんが雇い入れた商隊なのだ。
「今日はどれを読みましょうかねぇ~」
私は普段、魔術の勉強や練習をしているのだが、ここが自分達の馬車でないことや、魔術がある程度形になったこともあって、魔術の勉強以外のときは積んである 書籍を読むのが息抜きとなっているのだ。
「今日はこれにしましょうかねぇ~。ん~、絵本のようですがぁ、見たことがありませんし、それにこのタイトル……」
数ある本の中、1冊の児童向けの絵本を取り出した。
「ああ、懐かしいっすね! 俺も昔よく読んでたっすよ!」
「でもぉ~、コレって出回って大丈夫なんですかねぇ~? これってぇ、神様のお話でしょぉ?」
そう。私が手に取った本はタイトルからして、神のことを題材にした絵本のようだ。
心配しているのはその為である。
本来、神は、自分の支配圏無いに、他神の存在を入れたくない。
その為、たとえ絵本であっても、自分以外の神を書いた本は販売自体を規制している。
にも関わらず、迷宮都市経由とはいえ、他の神の土地に本を販売している。
ベオが知っていたということは、有る程度昔からフラクペネイトには伝わっていたということだろうか?
とても気になるので、その事を聞いてみると
「ああ。大昔から伝わっているみたいっすよ。長老の小さいころにもあったらしいっすから」
昔から伝わっている絵本。大変に興味がある。
と、御者台からも声が届き、
「ああ、その本な。俺の小さい頃にも有ったな。この土地だけでなく、かなり広い範囲で読まれているようだぞ? ただ、まぁ、オーレアとかああいった手合いの都市国家では規制が厳しいんで全然流通してないらしいけどな」
その話を聞きながらも、私の小さい頃を思い出す。
私のそだったエルフの里も排他的だったため、こういった他所の神の話は聞いたことが無い。
ソレなのに、多くの国に流通しているという神を描いた絵本。
わたしは、わくわくしながらもその絵本を開き読んでみる。
そのタイトルは“かみさまのなみだ”と書かれていた。




