戦神の巫女④
双方の視点で語られた話です。
暗い話になりますので、ご注意ください。
「巫女と言うのは総じて神の血筋、その血を引く者を触媒に使い、神は地上に干渉をします。それが、神託であり、啓示なのです」
自らを神の血筋と言う目の前の少女、マリ。
だが、その神秘的な髪と瞳がそれを頷けるほどの輝きを放っている。
「でも、その話と“お兄さん”とがどう繋がるの?」
私はそう訊ねると自分の出自を話してくれた。
「私には両親が居ません。物心ついた頃には側に兄様しか居ませんでした」
淡々とした口調で語るものの、その言葉の端には懐かしさが感じられていた。
「両親のことは……良くわかりません。ですが、十余年前のあの崩壊の折、両親共々、前線に行って居たんだと思います」
そう言うと一旦言葉を切り、私を見つめる。
「ミア。十余年前、あの場所で何が行われたか知っていますか?」
とっさの事もあり、私はその言葉に答えることが出来なかった。
何故なら、私にも縁が深い事だからだ。
「あそこでは、相手国を滅ぼすために、“神”の召喚を行おうとしていたんです」
私の様子を見ながらマリは淡々と語ってく。
当時、戦争の切札として、神の直接召喚を行おうという研究が進んでおり、その一環として、古来より存在する神獣に目をつけた者が居た。
その実験に、召喚役として巫女が一名、そして護衛として複数の騎士が選出されたのだという。
だが……その結果は。
「結果はミアも知っている通り、召喚した神獣は制御を離れ暴走。その際、召喚した巫女も、その護衛として側にいた騎士も。皆、食べられてしまいました」
ああ、知っている。
そこには私の父も居たのだ。
そして、同時にその場所には、
「そう。そして、その場所には召喚役であった母と、その護衛であった当時の騎士団長の父も居たんです」
そうか……マリも……
「私と同じなんだ……マリも、あの時。家族を無くしたんだ」
私の言葉に頷くと、話を続ける。
「幸いなのか、巫女の血を引いていた私は施設に預けられることになりました。でも……巫女としての力が無い兄様とは離れ離れになってしまった」
過去を思い出しているのか、マリは話しながらも遠くを見ているようだった。
私にも経験がある。
崩壊後、私を育ててくれた老冒険者、否、父と別れ、一人孤独になったあの時を。
この時、間違いなく、私達二人は同じ苦しみ、同じ悲しみを共通していた。
短い間だが、彼女と話していて私達はまるで鏡を見ているような感覚に襲われていた。
「巫女として集めらましたが、この国の人たちは巫女の力を恐れていました。それは神と繋がり、強大な力を発揮できるから。実際に、未熟な巫女が力を暴走させた事案も存在しています」
「そんな……どうして?」
同じ人ではないのか?
そう思いながらも、どうしてマリたちがこんな小さな家で身を寄せ合って居るのかがわかった。
そして市街地で見た住民達のあの行動。
あれは崇めているんじゃない、恐れているんだ。
「でも、数年前。兄様が私の元に戻ってきてくれたんです。そして、その時思ったんです。『ああ。今までの私は死んでないだけで、生きていなかったんだ』と。それ以来、皆の視線など気にならず、私は幸せを感じていました」
私もきっとそうだ。
父と母に再び会えた、周りには仲間がいる。皆に出会うまでの私は、ただ、目的のために生きて居たんだと。
そこまで語ったマリだが、急に表情を暗くさせる。
「でも、そこに舞い込んできたのがあの啓示なんです」
「さっきも聞いたけど、一体何が映っていたの?」
私の言葉に意を決し、ソレを話すマリ。
「そこに映し出されたのは、暗闇に飲み込まれていく私達、そして血を撒き散らしながら慟哭する兄様の姿でした。……私は、あの光景を回避したい! 兄様の話しても大丈夫といって取り合ってくれない! 今回のこの進軍で、何かが……何かが起こるんです!」
その言葉には堪え様の無い恐れが感じられた。
こんな小さな体で恐怖に耐えていたのか。
そして、私には判る。マリが真に恐れているものが。
「自分の身以上に、お兄さんが大事なんだね」
私の言葉を聞いて、ついにマリは泣き出してしまった。
きっと、いままで理解されず苦しかったんだろう。
自然に手が伸び、マリの頭を撫でる。
そうして、私はマリが泣き止むまで、ずっとずっと撫で続けるのだぅた。
*************
時を同じくして、扉を隔てた先でも同様の話が行われている。
だが、こちらの話は更に深く、重いものだった。
「私と妹は……異父兄妹なのだ」
突然のアドラの告白に俺は返答に窮する。
そんなこちらを無視し、彼は話を進めていく。
「そもそも、この都市は異常なのだ。兵を確保するため、強制的に婚姻を結び、子供を生ませる。それを義務化しているのだ。減ったのなら造ればいい、足りないのなら産ませればいい。」
この話は、実はシアさんから少し聞いたことが有る。
あの人も国の方針で結婚相手を決められ、そしてミアを産んだのだという。
「この国の主神は……人を消耗品の駒だと思っている。自分の願望のため、増やせて使い潰せる駒」
その言葉を否定することは出来ない。
少なくとも、この地に居る者がそう感じ、実際に行われているのだから。
彼もこのような話をどう切り出していいのか迷っているのだろう。
話は断片的なモノが多くなっていくが、ソレを繋ぎ合わせ、情報として開示していく。
そして、話はいよいよ巫女について、恐らくは彼の妹の話に入っていく。
「この国では当時より巫女の数が減ってきており、巫女を絶やさぬため、ある恐ろしいことが行われた」
「……恐ろしいこと?」
これほどの男が恐ろしいという事柄……。
俺もそうだが、隣のカウスも一瞬身構えてしまう。
「神が……若い娘を攫うのだ。そして子を孕ませ、新しい巫女を産ませる」
俺たちはその事実に言葉を失う。
そんな事を行うのか? 神が??
「ここの巫女たちに親が居ないのは知っているか? 皆、耐え切れず、心が壊れてしまうのだ」
「それが……神の所業か!?」
言葉を失った俺の代わりにカウスが憤る。
「こんなことが、この国では数十年前より行われていた。無論、昔は頻度も少なかったそうだ。だが、今では十名以上の巫女を産ませ、数を増やしている」
「昔は? 今は違うのか?」
俺の言葉にアドラは頷くと、この国の更なる闇を開示する。
「十年以上前だ。この国で神獣召喚の実験が行われ、失敗に終わった。その失敗を受け、ここの神はある結論に至った」
「ある結論だと?」
今までの話の流れから、恐らくは碌な事では無い。
そして、ソレは俺の予想通りだった。
「意のままに動かぬ神獣などを呼ぶよりも。自分自らが降臨し、相手を蹂躙すればいい」
「……人相手に、か?」
「ああ、そうだ。少なくとも、ここの神はその結論に至ったらしい」
「狂ってるな」
俺達もあの迷宮でネクさんを相手に訓練をしたが、あれは完全に手加減をした上でのレクチャーだった。
それでも、人と神との間に存在する圧倒的な種族差を感じることができた程だ。
「だが、過去の実験より、神の顕現には膨大な存在力が必要とされてる事を知り、そしてソレを補う手段を見つけた」
「おい、待て、まさか……」
違うと思いたい、違うと意って欲しい。だが、今まで聞いたその神物像が否定する。
「ああ、そのまさかだ。ここの巫女達は信仰を集める為の存在ではない。有事の際、自身がこの地に顕現する為の……生贄だ」
胸糞が悪いにも程がある。
神とは此処まで醜悪なモノなのか?
少なくとも、俺が知る神は……あの神は人の為に悩み、憤り、そしてきっと“涙”を流せる存在だろう。
しかし、そんな神が治める国に居る人間はどうすれば善いのか。
「両親は十年以上前の神獣の一件で亡くなった。だが、その直前に生まれたのが妹だ。たとえ、妹の父親がアノ神であろうと。私にとっては掛け替えの無い、妹だ」
「だったら、妹を連れて逃げればいいだろう!」
俺の言葉に彼は、弱々しく首を振る。
「逃げることも出来ない。妹は巫女だ。神はその巫女の行動に干渉することができる。今は神界から前線の様子を眺めているだけだが、こちらの動きがおかしければすぐさま干渉してくるだろう」
神の子……それはこの国では祝福ではない、呪いにも似た何かなのか。
「そして先日、妹が啓示を受けた、それもこの国以外の神からだ。貴殿らの存在を知ることが出来たのもそのお蔭だ。だが、その内容は私の予想を裏付けるものでもあった」
「と、言うとまさか……っ!?」
「ああ、啓示として視た光景には、闇に飲まれる自分達の姿が映っていたそうだ。恐らく、なんらかの理由で神が顕現に踏み切ったのだろう」
その情報は俺達にも衝撃を与えていた。
つまり、最悪の場合には神がこの地に降り立ち、俺達を襲うというのだ。
その事実に流石に顔色を無くす。
神に対抗できるのは……しか居ないのだ。
だが、先ほどの情報が正しいのならば、きっとネクさんはその手段を取らないだろう。
話を終えたのか。アドラは己の切なる願いを口にする。
「この話を聞いた上で、頼みがある。妹を、神の呪縛から開放してくれ!」
多くの情報を得ることが出来た。
だが、解決策も解らず、今だ、光は見えない。
それぞれの場所で語られた、それぞれの視点の話。
持っている知識が違うので、二つ揃わないと事実がわからないようにしています。
一つに纏めると、この都市国家のベルクという神の異常性が際立ちます。
まぁ、こちらの神話の神々のがもっとえげつないんですけど。




