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秘境迷宮の創造主《クラフター》  作者: 黒狗
2 ‐神々の降臨
74/140

外伝:チョコチョコチョコ

本日は・・・バレンタイン!

思いつきからの更新です

※誤字修正しました

 ある昼下がり。

 私は庭先でお茶を楽しんでいた。

 特にやることが無い時には、こうやってお茶をたしなむのが日課となっている。


 私が居る迷宮都市には、神界でもなかなか手に入らない茶葉や、美味しいケーキが揃っているからだ。


 何故かって?


 それは判らない。

 強いて言えば、ここの主の趣味としか言いようがない。

 神族のなかでも最上位に近い階級を持っている癖に、全然神らしく無い神。

 何せ、有る意味究極の趣味神、悪く言えば永遠の引きこもり。


 今の趣味は料理らしく、暇さえあれば・・・いや、暇しかないのだから、ほぼ全ての時間を厨房で過ごしているのが常だ。


 少し前は、迷宮区に人間の挑戦者が来て楽しんでいたようだが、彼らが出立して数日、既に手持ちぶさたなのか、また引きこもって何かをしているようだ。

 まぁ、何をしている定かではないが、どうせ趣味でまた何かしているのだろう。


 そんな事を思いながら、私は紅茶に口をつけ、お菓子に手を伸ばそうとして、空を切った。


「いけませんね、もう無くなってしまいましたか」

 どうやら長い間お茶楽しんでいたらしい。


 お茶を淹れるための湯は、簡単ながらも秘宝(アーティファクト)なので無くなることは無いが、お菓子は別だ。


「確か……厨房に焼き菓子があったはずですね」

 そう思うと私は立ち上がり、居住区の厨房を目指す事にした。

 あの駄神が色々作っていたのを思い出したのだ。

 全く、私に足を運ばせるなんて、あの美味しいお菓子が悪いのでしょう。

「つまり、あの駄神のせいですね」


 他所から聞けば理不尽極まりない思いを抱きながらも、私は厨房にたどり着く。

 そこには先客が居たようで、私に気がつくなりにこやかに挨拶をする。


「あぁ、これはラヒルデ様、いらっしゃってたのですか?」

 そう口に出したのは、此処で唯一の人間、名前はシアと言った。

 事情があり、先の挑戦者、ミアたちと一緒ついて行かなかった者で、今では此処で保護されている形なのだ。


「珍しいな、厨房に居るなんて。……しかし、何だ? この有り様は」


 彼女だけならそうおかしいところは無いのだが、それ以外の光景が明らかに通常と違っていた。

 そこには、倒れた戸板、壊れた食器、焦げ付いた鍋、散乱した食材、何か謎の物体で汚れたシンク等、普段では見ることの無い様相が広がっていた。


「あははは、すみません。ちょっとネクさんにお菓子を作ろうとしたんですけど、()()失敗してしまって」


 ……これで、少し?

 普段、彼女はどうやって生きていたのか?

 だが、それを詮索するよりも先に一つ咎めなければならない。

「シア、貴方はネク神の庇護下に有る身。眷属よりも冒険者としての立場に重きを置いたミアと違い、貴方はネク神の事を“様”と呼ぶべきでしょう」

 そう、私には様と敬称を着けるのに、あの駄……ネク神に“さん”なのだ。


 私の言いたい事を理解したのか、シアは頷くと、

「そうなんですけど、何でしょうか。あの料理をしている背中を見ると、何故か“ネクさん”とお呼びしたくて」

 その言葉聞き、私はため息をつきたくなった。

 この親にして、あの子アリなのか?

 確か、ミアは全てにさん付けだった。

 だが、それは置いておいても、ネク神もネク神だ。

 安易に皆に料理振る舞い、酒を酌み交わし、愚痴交換するような事をするから、威厳が一切感じないのだ。

 本来なら、そんな事あり得無い存在なのに。


「ハァ……。それは解りました。ですが、この惨状は何ですか?此処はネク神の趣味の聖域。これを此処まで汚すなんて。何を作ろうとしていたんですか?」

 私はシアにそう訪ねる。

彼女は申し訳なさそうにしながらも、

「チョコレートを作ろうとしていたんですけど……」

「チョコ? いったいなぜ?」

「それは……」


 その時、呼んでもいないし、来てほしくも無い存在声が高らかに厨房に響き渡る。


「それは! 今日がバレンタインだからさ!」

「あ、フェリアス様」

 呼んでも無い存在。それは魔獣聖母の所の駄犬だった。




「何です、駄犬。ここにはあなたのエサは有りませんよ。巣に帰りなさい」

「はっは! 貧乙女、あんたに言われる事はないね! 私は正式に! 公務として! 此処に居るんだから!」


 公務だって?

 訝しげに窺うと、あの駄犬は嬉々として小さな箱を取り出す。

「私は我が主たる魔獣聖母様より、命神ネク様への贈り物を持ってきてるんだ! 貧乙女のような木っ端神族には用は無いんだよ!」

 全くもって腹立たしい。

 あの印籠のように出された箱を睨み付ける。

 だが、それはそれとして勝手に入り込んだ事は咎めなければならない。


「だからと言って勝手にネク神の私室たる厨房に入り込む等、言語道断です!   まぁ、何時もふらふらしている馬鹿犬には道理等判らないのでしょうけど!」

「言ってくれるね 、この貧……いや、無乳っ! そんな頭でっかちだから、あ?


 ……ああ。胸に行く栄養をそのカチカチ頭が吸ってるんだね? あははは!」

 こ、この犬っ!

 その後、暫く罵り合いが続いたのだが、唐突に漂ってきた異臭に思わず鼻を塞ぐ。


「「焦げくさっ!!?」」


 臭いの発生源を見ると、そこには再び鍋を焦がしたシアが立っており、

「また失敗してしまいましたね。難しいですね、溶かすだけだから、鍋に火をかけて溶かす“だけ”のはずなのに」

 どうやら、言い争う私たちを無視し、再度チョコ作りに挑戦していたようだ。


「さっきから気にはなりましたけど、バレンタインって何ですの?」

 私の言葉にふたりともが勢い良く振り返り、

「バレンタインを知らないのですか!?」

「乙女の一大イベントだよ!? 知らないのかい?」


 こら、そこの駄犬。お前が乙女は無いだろ?

 だが、仕事一筋の戦乙女だった私はこういうイベントは経験がなかった。

 そんな私を察し、シアが説明をする。


「一般的に、バレンタインは愛を伝えた伝道師を称え、愛する人や大切な人にチョコを贈る日の事ですね」

「そうそう。だから私が二柱(ふたり)から預かって来たんだよ」

 いちいち、どや顔が気に入らない。

 が、理解は出来た。

「要は人界のお祭り(フェスティバル)みたいなものですか。そんな事のために騒いで居たんですね」


 私は憐れみを込めて駄犬を見据える。

 が、次の瞬間、それに倍するような憐れみの視線を二人ともにされた。

「そんな、大切な人やお世話になった人に贈るのは大切な事ですよ!」

「ほんとだよ、だから何時までたっても相手にされないんだよ。まぁ、誰にとは言わないけど」

「な、な、な、なにを!」

 ふたりして私を大批判。

 あの駄犬に至っては私の何をしているのか!

「何を行っているのか知りませんし、解りません! だいたい、そんな駄犬もチョコなんて用意していないんでしょうし、出来ないでしょう!  私に言える者でもないはずです!」


 若干ムキになってしまった感はあるものの、私は反論を主張する。

 そもそも、ここに居る全員に料理のセンスなんて無いのだ。

 だが、その指摘に対し、駄犬どころかシアまでも胸を張り否定する。


「ふっ、馬鹿だね、本当に馬鹿だね、だから頭が固いし胸が薄いんだ。いいかい、料理は腕じゃないよ。その気持ち……愛だよ」

「そうですね、腕や出来栄えでは有りませんね、そこに込めた気持ちこそが大事ですね」

「うわぁ。言い切りましたね」


 有無を言わさぬ迫力を感じ、若干冷や汗をかく。

 だが、ここまで言われて引くのでは戦乙女が廃る。

「いいでしょう。そこまで言うのであれば……皆で一品作り、ネク神に味見をして頂きましょう」



 その言葉が切欠となり、この厨房は半ば修羅場と化した。




 半日後……

 私たちは書斎で調べ物をしていたネク神を訪問した。


「ネクさん」「ネク神」「ネク様」

「ん? 珍しい組み合わせだな。どうかしたのか?」


 私たちの呼び声に振り向く。

「実は、コレをネクさんにと思いまして・・」

「まぁ、本意では有りませんが、世話になっているのは間違い有りませんし」

「そうですね。私たちの気持ちです。ネク様、どうか受け取ってください。あ、二柱(おふたり)からも預かっておりますので、どうぞ」


 ネク神は何事か? と思ったようだが。素直に受け取ってくれた。

「何か解らんが、ありがとう」


 その様子を見て私はホッと胸を撫で下ろす。

 だが、こうしているわけにはいかない。

 先度つかった厨房をきれいに掃除しないと……。

「では、我々はこれで。戻るぞ、急ぎ片付ける」

「え。あ! はい!」

「まぁ、汚した以上、仕方ないね。……でもまな板やナベに、オーブンもか、皆使いものに成らないんじやないかい?」


 ……ぁ、()()では仕方ない。

「そこはこちらで手配する、修理(そうじ)できるところだけやるぞ」

 私はそう言うと、皆を連れてネク神の部屋を後にする。

 ……喜んでくれると善いのだが。



背後でネク神が眉をひそめ、箱を凝視していた事には……誰も気がつかなかった。



 その日の夜、都市部の一角にあるシアの部屋。皆の健闘をたたえ、ちょっとしたお茶会を開かれていた。

 不本意だが、あの駄犬も参加している。

 まぁ、今日くらいはあの駄犬の軽口も許してやろう。


 コンコン

「はぁい。どなたでしょうか?」


 と、こんな夜分に誰かの訪問が?

 そこには都市部で守衛をやっている木精霊が手に箱を持って立っていた。

 ドアが開いたことを確認すると、スッとその箱をシアに差し出す。


「まぁ? 何ですかね、こんな時間に」

 木精霊は箱を渡すとテクテクと歩き去っていった。


「箱の中身はなんだい?」

「なんですかね?」

 そういいながらも箱のふたに手を掛ける。


「うぁ~!」

「これは……凄いな!」

「いや、ホントに……」


 中身を見ると、私たちは歓喜の声をあげる。

 中には色とりどり、様々なチョコを使ったケーキが複数入っており、見るものを魅了していった。

 こんなケーキを作れるのはここでは1柱(ひとり)しかいない。

 それを証明するように、中には1枚の紙が。


『ありがとう、食べさせてもらった』


 ああ、ありがとうと言って貰えた。

 私はその文面に胸を高鳴らせながら、次も用意しようと硬く決意をするのだった。

 こんな、バレンタインというイベントも善いものだ。



SSSを作る気で居たんです。

でも気がつけばSSになり。

そして最早本編1話並みの文章量に。

もはや・・外伝扱いで。


※ラヒルデとフェリアスは本気で仲が悪いです。

※ラヒルデとフェリアスとシアはどうすることも出来ない程に、料理が下手です。

※ネクがどうなったかは押して知るべし

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