戦神の巫女①
私たちはオーレアに入ると市街地へと足を運ぶ。
そこにはレンガ畳の街道にほぼ同一様式の建造物。
十年前の私の記憶にある街並みと殆ど変わらぬ姿が映っていた。
しかし、戦争間際という事なのに、周りには他の都市と変わらぬ日常が広がっている。
いや、それとも私たちがその日常の中にある異常を見極められないだけなのか?
「此処に来るまでもそうだが、何故だ? 兵の姿が殆ど見えない。開戦間際であるなら市内も此処まで穏やかでは居られんはずだが?」
周囲の様子を伺っていたカウスがそう呟く。
無論周囲に漏れぬ様、私たちにしか聞こえぬ声ではある。
それでも周囲の住人からすれば私たちは異物なのか。
好奇や怪訝な視線が私たちに向けられている。
「しかし、旅人を装っているんだが……やはり此処では目立つのか?」
「そうなんでしょうか?私たち以外にも旅行者はいるようなのですが……」
原因が解からない私たちがコソコソとそんな話をしていると
『あほぅ。ミアの称号で強制的に注目を集めているだけだ』
久しぶりに聞くネクさんの声が私たちに聞こえてきた。
「ネ……ん。……ココで声を出して大丈夫なんですか?」
危うく名前を呼びそうになった私は慌てて声を小さくし、訊ねてみる。
『はぁ……。コレはお前達の頭へ直接話しかけているんだ。普通の人には聞こえないよ』
その言葉に安堵をする私。
が、レクスとカウスは急に立ち止まると警戒を強める。
え? 私がそう思い、前を振り返ると、
『……もしも万が一、俺の言葉が聞こえる存在が居るとすれば、ソレは』
ネクさんの言葉を聞きながらも前方から来る一団に目を奪われる。
彼らの登場に、周囲の住人は膝を着き、頭を垂れる。
そうしないのは私たちをはじめ、この都市に縁の無い者なのか。
『そう、そんなモノが居るのなら、ソレは人から既に踏み外して、いや、踏み外れてしまっている』
一団は私たちの眼前まで来ると足を止め。左右に開き、花道を作る。
私たちは何事か、と思っていると。
その花道より、小さな女の子、年頃は私より少し幼いくらいか?
白髪……よりも銀に近い紙色。その瞳は金色をしており、私の眼で視ても神秘的なオーラが滲み出ている。
その少女がお供の屈強な騎士を一人引き連れ、私たち、いや、私の目の前まで歩いてくる。
「ごきげんよう。初めまして、異教の使徒さま。戦神たるベルク様の巫女を司っております、マリミュースと申します」
私たちにそう名乗ると優雅に一礼をしたのだった。
が、その後の発言で私たちは更に驚かされる。
「それと、そちらの背後の居られる神族の方。私のような小さな者に、踏み外しているなどと。失礼ですわよ?」
その眼は私を見ているが、明らかにその奥にいるネクさんい視線を向けている。
そんな様子を見てネクさんは
『ハっ! 笑わせるな、その歳で俺を幻視するなど、もはや人の領分ではない。なるほど、既に事態はココまで来ていたのか……、もはや憤りを通り越して哀れではあるな』
その少女、マリミュースへそんな嘲りとも取れる発言をする。
だが、私はその言葉に込められている深い悲しみを感じてしまう。
なぜ、ネクさんはこんなに悲しんでいるのか?
「……まぁ、立ち話もなんですので。私たちの住む聖堂までご案内いたしますわ」
彼女もネクさんの言葉に何かを感じたのだろうか?
発言を咎めることも無く、私たちを自分の住まいへと案内しようとする。
「……ここは着いていく以外の選択しは無いようだな」
私たちは既に複数の騎士に囲まれた状況である。
ここで断り、去る手段を持ち合わせて居ない。
虎穴に入らずんば虎子を得ずだ、この国の情報を手に入れないと、わざわざ二手分かれた意味が無い。
私たちは彼女に案内されるまま、着いていくとこになった。
だが、慌てていたため、ネクさんが呟いた言葉を私は聞き逃していた。
『私……たちだと……? あのハゲめ……まさか』
私たちが連れてこられたのは聖堂・・と呼ぶには小さい場所だった。
例えるなら、小さな町の教会とでも呼ぶべきか。
小さな庭こそあるが、建物を簡素な作りで、とても先ほどの仰々しい登場をした人物の住まいとは考えられない。
建物に到着すると、巫女、マリミュースは連れ立ってきた騎士団に向かい一礼すると、
「本日はありがとうございました。騎士団長様、皆様によろしくお伝えください」
「はっ! ありがたき幸せ。しかしながら、素性の知れぬ者をここに留まらせて我々が帰る道理がございませぬ。僭越ながら、私がココへ残り警護を務めさせて頂きたく思います!」
力強い立ち居振る舞いとその威厳。騎士団長と呼ばれた者は私たちを睨むとはっきりと宣言した。
その姿に何をおもったのか、レクスとカウスは言葉を無くし、彼を凝視している。
『ほう、あの男、見ただけで解かる。なかなかに腕が立つな。しかも、クラスに溺れて居ない。自己の鍛錬でスキル使いこなすツワモノだ。クックッ、どの立場など関係ない。こういう存在が居ることを快く思う。レクス、カウス、お前達が目指すべきはこういった存在だ』
ネクさんの言葉を聞きながら、その騎士団長を観察する。
私には大きな違いがわからないが、立つその姿は様になっていると思う。
この言葉はやはり、マリミュースにも聞こえているのか。
「そうですね、こちらの騎士団長様はここの周囲の迷宮を制覇してお方ですので。頼りになる方ですのよ」
我がことのように喜んで、彼の武勇を自慢する。
騎士団長も誇らしげにそれを受けているようだ。
「まぁ立ち話も何ですし、こちらへどうぞ」
そう言うと建物の中へと案内をする。
建物の内部も外壁同様、簡素な作りとなっていた。
一応礼拝堂のような構造にはなってはいるが、イスなどは傷ついた長いすが数個あるだけで、光も壁際にあるステンドグラスから差し込むだけしか確保されていない。
私たちがその事に驚いていると、更に部屋の置くから小さな子供がこちらにやってきた。
恐らくは全員が十歳にも届いて居ない少女達だが、驚くことに全員に共通の特徴が顕れている。
白銀の髪の毛に金色の瞳。
彼女達の全てがマリミュースと同じ特徴を有していたのだ。
「これは・・・?」
レクスもカウスも私と同じように驚き、息を呑む。
少女達は私達を見た後、マリミュースへ
「マリおねぇちゃん、おきゃくさま?」
そう聞くのだった。
彼女達は姉妹なのだろうか?
そんな思いを浮かべていると
「うん、そうなの、ごめんね。ほら、ブレイズくんと一緒に遊んでいてね」
そう言いながら何処から出したのか。獅子を模した大きなぬいぐるみを彼女達に渡していた。
「ありがとう~! ブレイズくんいこぉ~」
少女達はぬいぐるみを持って奥の部屋に戻っていく。
そんな様子を見ていた私達にマリミュースは頬を染め、
「あのブレイズ君は、私の兄様から貰ったぬいぐるみなの。一人でも怖くないように、勇気を持てるように、そんな思いを込めてブレイズって名前を付けたのよ。……いまでは私たちの宝物なの。みんなの勇気になってくれるから、あの子達にも大人気で」
ぬいぐるみを持っていたことを恥ずかしくおもったのか、そんな言葉を口にした。
マリミュースは話を逸らすように、別の部屋を指し、
「さ、さあ。お話したいことがあるんです。こちらへどうぞ!」
私達を部屋へ案内する。
しかし、促がされるまま部屋へ行こうとする私達にネクさんが口をだす。
『カウス、レクス。お前達は席を外せ。あとで概要は教えてやる。そうだな、あの騎士団長に用が有りそうだったろ? 話でもしていろ』
そう言うと、二人に席を外すよう指示をだす。
二人ともネクさんから何かを感じたのか、部屋には入らずに外で待機するようだ。
私は促がされるまま部屋へと入る。
そこで何の話が行われるのか。
私はまだ知る由も無かった。




