ウォッドベーカー②
「外周区に馬車を泊めてからここに出入りしている商人に話しを聞いてくる。お前達は宿を確保して酒場で情報を集めてくれ」
カウスはそう言うと、馬車と共に馬舎へと向かっていった。
エトーリア同様、そこで管理している係りにお金を渡して管理を頼むそうだ。
やはり、衛生管理で外から動物の持ち入れが禁止されているようだ。
私たちは一旦分かれると、宿屋へと向かう。
私も昔、各地を転々としていたが、このウォッドベーカーは中心部が中位ダンジョンとなっていることもあり、周囲にいる冒険者達も高レベルな者が多い。
迷宮都市ならではの活気を感じるのだが、しかし、何故だろうか。どこか緊張めいた空気が漂っている。
私たちが足を向けたのは外周区に程近い、小さな宿屋だった。
一階部が食事兼、酒場となっている構造で、二階が寝室となっている。
この造りが迷宮都市の一般的な宿屋構造であり、先日エトーリアで泊まったあの宿は少数派と言えるだろう。
私たちは中へ入ると、宿屋の主人に宿泊出来るかの確認をとった。
宿屋の主人は40代ほどの女性の方で、私たちが近づいてくるのを見ると、笑顔で話しかけてくる。
「いらっしゃい、泊まりかい? 食事かい? 食事だったら、昼は終わったから、もう少し待てば軽食なら用意できるけど」
「そうですね、では軽食を四人分お願いします。それと、五名分の宿を取りたいのですが、空いていますか?」
カウスは軽食を頼み、宿の空きを確認する。
「部屋は空いてるよ。でも人数が合わないけど? 後から連れが来るのかい? その人の食事は善いのかい??」
「後で追加を頼みますよ。軽食は何ができますか?」
「そうだね、竈の火を落としているから、パンと作り置きの鶏のワイン煮とかならあるよ」
「ではソレをお願いします」
私たちは食事を頼むとテーブルに付き、来るのを待つ。
資金はネクさんから貰っているので、街に居ながら野宿や硬い非常食を食べるといった心配がない。
「お待ちどおさま、これが軽食のメニューになるよ」
そういいながら持ってきてくれたパンと鶏肉は思っていた以上にボリュームがあるものだった。
ベオは久々に保存食以外を食べるので喜んでいる。
食事を受け取ると、カウスがさりげなく、店主に聞き込みを行っていく。
「今日この都市に到着したのですが、表に難民テントが設営されているようでしたが……何かあったんですか?」
「あんた達もタイミングが悪いね、実は、またオーレアが戦争を起すって言うんで、オーレア周囲の農村や小さい村なんかが避難してきてるんだよ」
その店主の言葉に渡したちに緊張が走る。
既に周囲に噂になる程の戦争の話は浸透しているのか。
その話にベオが横から話に加わり、情報を集めようとしている。
「そ、その話は本当っすか! 今度は何処に攻め入るかとか、わからないっすか!?」
やはり、故郷が心配なのだろう。オーレアの思惑が解かっていて尚、聞かずには居られなかったようだ。
そのベオの質問に店主は腕を組み、考えると、
「ん? そうさねぇ。正直あの国が何処に攻め込んだっておかしくは無いからねぇ。周辺には都市国家が四つあるから、その何処かって噂だけど、何処かまでは流石にわからないねぇ」
「そうですか……ありがとうっす」
流石に何処を攻め込む、という事までは知られて居ないようだ。
すでにそこまで情報が回っているのなら、フラクペネイトにも噂は流れていると期待したのだが。
実は、オーレアの周囲には都市国家が4つ存在している。
一つは東北東に位置するフラクペネイト
一つは南に位置するバーリニア
一つは南西に位置するタランブレシア
一つは北に位置するカラブラート
この四つが進行先として候補にあがっているそうだ。
ちなみに、都市国家と迷宮都市との違いだが、最大のモノはやはりダンジョンの有無だろうか。
オーレアが此処を攻め入らないと判断された理由だが、一つはこの都市がそれが大きく影響をしている。
過去、そうやって迷宮都市に攻め入った国も有ったのだが、その際には迷宮内の魔物が外部に湧き出し、また、ボスの魔物が参戦するという事態に陥ったそうだ。
それ以降、リスクが高いという事もあり、迷宮都市に攻める国は出て居ない。
私たちは店主に礼を言うと、カウスが戻ってくるまで体を休める事にした。
揺れる馬車の中と言うのは何もしなくても、かなり疲れるもので。やはり揺れない床というのは善いものだ。
暫くすると、外周区に居る商人などから情報を集めてきたレクスが合流し、得られた話をまとめる事になった。
「ふむ。やはりここでも戦争の噂自体は流れているか。とすればフラクペネイトにも既に噂自体は行っていると考えていいな」
「だと思う。噂が流れ出したのがここ一ヵ月ほどらしいからな。時期的に考えれば間違いは無いだろう」
戦争の噂自体も少し前から流れてきたようなので、そこら辺は問題はないとは思うが。
肝心のオーレアの内情となると途端に数が減っているようで
「オーレアだが、都市内部では既に軍備は済んでいるようだ。だが、その規模自体は情報が少なくてな」
レクスは情報の少なさに頭をかく。
戦争前に自国の軍事力を明かす国がいるとも思えないので、ソレは仕方が無い。
が、一つ気になる情報があるという。
「気になるモノは、あの国でも巫女という存在がいるそうだ。なんでも、その巫女達を中心とした騎士団が設立されているという話だったが……。ベオ、お前の故郷にも巫女と言う存在が居るそうだが、そもそも巫女とは何だ?」
確かに、イメージとしては神に仕える者=巫女ではあるのだが、その詳細については解からない。
だが、私たちの中で唯一、巫女に会ったことがあるベオならば知っているかも?と期待こ込めて聞いてみたのだが。
「すみませんっす。巫女様についてよくわからないっす。ただ、長老達は“先祖帰り”っていってたっすけど」
ベオ本人も良くわからないようで、「あと、神と交信ができるそうっす!」と言っていた。
エルフの里ではどうなっているのか、ネーネに聞いてみたところ。
「そうですねぇ~。特別な血筋の方としかぁ~。ただ、高位の存在と交信ができるっていう話しですよぉ~?」
私たちは結局のところ、巫女についてもオーレアについても何も知らないということか。
これからどうすれば善いのか。
私たちが考え込んでいると、レクスが「ちょっといいか」と前置きをした上で
「これからだが、俺たちは一旦別行動を取ろうと思う」
そんな大胆な提案をだすのだった。
その具体的な案だが、
「俺、カウス、ミアの三人でオーレアまで向かう。そしてそこで情報を収集し、急ぎフラクペネイトへ向かう」
レクスの提案としては私たち3人での情報収集、これは人族であるという点も考慮されていること、そして残りのメンバーの役割にも起因していた。
「そして、ベオとネーネだが、二人でフラクペネイトへ向かう商隊に乗せてもらって先行してほしい。そこで、ベオは街の長などへ避難などの話を、ネーネは木精霊の召喚やその準備を頼みたい」
なるほど、避難などの話をするには、やはり、出身者であるベオの任せるべきか。
ネーネも準備に時間がかかる恐れがある。
私たちはこのレクスの提案を取り入れ、明日、早速二手に分かれることにした。
私の目的地はオーレア。
十年以上経ってはいるが、それは故郷への帰郷を意味する。
無論……楽しい帰郷ではない。
だが、私はまだ知らない。そこで会う一人の巫女との出会いが、私の今後。ひいては戦場をも左右することになるという事を。
これでウォッドベーカーでの話しは終わりです。
手書きの地図などを作成していますが、此処へ投稿できる出来ではないので都市の位置関係が伝わりにくく、申し訳ありません。
この話に出ている巫女とはある特殊な血を引く存在です。
オーレアのソレは少し生々しい話になってしまうので、どこまで書いたものか、悩んでいますが……。




