守りたいもの
私達はミネルバ達に分かれをつげ、一路、次の目的地のウォッドベーカーへと進路をとる。
ウォッドベーカーまでは此処から十日ほどの旅となる。
皆の温情によって荷台には大量の非常食を積んでいるので食料は十分にもつのだが、馬の飼料をはじめ、水などの物資は限りがある。
果実や野菜なのど生の食料も足が速いので、ウォッドベーカーで補給を行い、そこから一路フラクペネイトを目指す。
「また色んな方に迷惑をかけてしまいましたね」
私は御者台に座るレクスに声をかけた。
「ありがたい話だと、そう思うことだな。まぁ、あの方々からすれば、俺たちへの援助は助力など、些細なことだとは思うけどな」
レクスはそう言いながら荷馬車を走らせる。
そうかもしれないのだが、自分達が、特に私は何も出来て居ない無力感にさいなまれていた。
その様子に気がついたのか、カウスは私に対して
「まぁ、恩義を感じるのなら、今回の避難を無事に達成させることで果たそう」
そうだ……そうする事で皆に応えることができる。
「そうですね、ベオの故郷の避難。完了させましょう!」
私のその言葉に、ベオとネーネも笑顔で頷き、同意を示す。
だが、そこにこの場に居ない者の声が響く。
『張り切ってもらっているところ、悪いが、少し状況が変わった』
その空気を壊す深刻な声。
そして、ネクさんがもたらす情報は私達に絶望を与えるに十分な効果があった。
「その情報は間違いないのですか……」
ネクさんからもたらされた情報に皆が、空気が沈む。
現在、ネクさんが馬車周辺に結界を張り。周囲に情報などが流れないように防いでいる。
なので、今この場では大っぴらな話もして大丈夫だそうだ。
情報源や神族絡みのことは殆ど教えてはくれなかったけれども、現状のフラクペネイトが陥っている状況は把握できた。
一応の活路、オーレア軍を食い止め、その間に住民を戦闘不可能なほど遠くまで逃がすことなのだが、
「つまり、オーレアの軍を足止めしている間に、可能な限り遠くへと避難をする必要があるんですね」
『ああ、しかし、現状、これも隊を二つ以上に分けられたり、先行部隊などが迂回して退路を塞がれると壊滅される危険性が高い』
ネクさんはカウスとレクスを中心として今後の対策を練っている。
声だけしか聞こえないため、会話がしにくいので、私がネクさんの指示に従って地図を見たりしているのだ。
「避難民の退路を考えないといけませんね。フラクペネイトの東に都市がありますが……半月もかかりますからね」
問題なのが避難民の足だろう。
オーレアが支配を目的としているのではなく、獣人の殲滅を目的としている以上、子供や老人などが居る以上用意に追いつかれてしまうとのことだった。
「いっそのこと、勝って追い返すのが一番なきがするっすけど……無理っすかね?」
ここで、話を聞いていたベオが意見を出す。
予想では低く見積もって戦力差が五倍ほどだそうで……しかもオーレアとフラク ペネイト間は街道も整備された平地である。
それだけの戦力差を覆す手段があるのだろうか?
『……』
「ネクさん?」
不意にネクさんが考え込むのがわかり、私は訝しげに声をかける。
何か打開策があるのだろうか?
暫くの沈黙と、周囲の視線の中、ネクさんは重い口を開き、先ほどは伝えなかった情報を語った。
『今回のオーレアからの開戦だが、複数の神族・魔族の思惑が絡んできている。単純な思考な神で言えば、オーレアの主神だ。コイツの思惑はシンプル。十年前の敗戦……まぁ開戦にすらなってなかったから、自滅とも言っていいが。その意趣返しだ。アレの理由を獣人だと考え、怨んでいるんだ。その為、どんな手を使っても戦争自体を起すつもりでいる』
神の扇動が有っているとは聞いていたが、そんな理由で……多くの人を殺すのか……
『当然、そんな事態になれば、アイツ自身は失墜し、咎をうけるのだが。更にその神を扇動する黒幕がいる。ソイツの思惑は別のところに有るのだが、上位神魔が同調していて、開戦前に止めることはできない状況だ』
ネクさんの言葉を皆だまって聞いている。
人界で崇められる、名が知られている神ならともかく。本来、いくら配下とはいえ神界の情報、それも他神の情報を教えるのは禁忌とされているはず。
それでも、私達に教え、何かをさせたいのか……?
ネクさんは逡巡しながらも、本題へと切り出す。
『その黒幕は、この危機的状況で、俺が再度人界で名を名乗り、力を行使することが目的なのだ』
その言葉で私達はこの思惑が少しだけ理解できた。
ネクさんが人界に神として降臨すれば、たとえ、死者が出たとしても用意に蘇生をさせることができる。
私達があの迷宮で体験した蘇生を使えるのだ。
しかし、何故、それが目的なのか……?
私は、いや、きっと皆が何故それが目的に繋がるのか解らないでいる。
と、レクスとカウスが表情を険しくし、ネクさんに
「では、ネクさん。今後の方針としては、住民に死者を出さず、撤退をすることですね?」
「と、するとだ。避難する住民への護衛として俺たちと、自警団を少し回しておく必要がありますね」
あの二人はネクさんが言いたいことが解るのか?
そういえば、ネクさんは名を明かすことを酷く嫌っていた。
『理解が早くて助かる。この状況でも、俺は名を明かすことは避けたいと思っている。が、獣人たちを死なせたくもない、お前達を死なせたくない。だから、少しこの件に介入することにした』
ネクさんが抱える悩みは判らないが、力を貸してもらえるだけでも大きな助けになる。
自分たちの頼りなさが恨めしいが、状況が状況だ。
私達は素直にその提案を受け入れた。
特に喜んだのがベオである。
ベオからすれば、自分達の信仰する神様が助けてくれると、力を貸すと言っているのだ。
顔を歓喜で染め、弾けんばかりに喜んでいる。
だが、よろこんでばかりも居られない。
それでも戦力差は覆せるものではないし、状況が悪いのは変わって居ないのだ。
「では、ネクさん。具体的に俺たちは何をすればいいのでしょうか?」
このレクスの質問に、ネクさんは少しこまった様子で
『そこが問題なのだ。俺が手を出すにしても、大きな加護を与えることは出来ない。あくまでも俺は迷宮の管理者としてしか存在できていない』
その言葉に私達はネクさんの現状を思い出す。
現在、ネクさんが影響を与えることが出来る存在は私達五人だけなのだ。
「つまり……俺たちで何とかするしかない。という事ですか?」
意味を察したのか、カウスは顔をこわばらせ、訊ねる。
この状況に五人で対処するのはいくらなんでも……
『一応の手……正直、使いたくはないのだが、手は有る』
そう言うネクさん。
その思念から、私はネクさんの意識がベオへ向かっているのを感じた。
『だが。あくまでも最後の手段とさせてくれ。当面のプランだが……』
ネクさんの提案としては、フラクペネイトの兵士でオーレアの軍勢を都市へと誘い、そこから出さずに檻とする作戦だった。
作戦の工作兵として、ネクさんの迷宮都市部に存在する木精霊たちを使うことができるそうだ。
迷宮内にいるプチ神獣はあくまで迷宮守護なので、外に出すことはできないそうだが。
「あの精霊たちならぁ~、そのまま援軍として加勢してもらえばいいんじゃなですかぁ?」
私達が思い浮かべたあの受肉した木精霊たち。
一体でプチ神獣相当の力を有するのならかなりの戦力となるはず。
『そこはネーネ、お前の仕事だ。俺が命令して動かすのはかなりマズイ。過干渉にも程があるからな』
この工作兵としての徴兵も、ネーネがあのリンゴの樹……精霊ルイミウォテル経由で依頼を出さないとダメだそうだ。
だが、こういう手段を多様できるようになれば。光が見えてくる。
私達は揺れる馬車の中。ネクさんを中心とて出来ることを探すのだった。
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その日の夜。
俺は皆を寝かしつけた後、ミアの体を借りて外へと歩いていた。
正直、どこまで手を出すのか迷った。
大前提として、名乗らず、獣人たちの前には姿を表さないことだろう。
それ以外の手段。
俺の迷宮内に制限されてないモノは可能な限り提供し、教える。
これ以上、ハゲにも、そしてアレフやその他の観戦気分の浮かれ神魔共の思い通りにはさせてやらん!
故に、俺はまだ出来ることを実行する。
「来たか?」
その言葉を向けた先に青年が二人歩いてくるのが見える。
「呼ばれましたか? ネクさん」
此処には既に結界を張っている。
ミアの意識は既に夢の中、更に眠るよう睡眠状態に調整している。
此処には俺たち三人以外誰も居ない。
「ああ、少しお前達を鍛えようと思ってな。……この先は戦争だ、死人が必ずでる。俺はソレが許せない」
獣人だけじゃない。
襲ってくる人族もそうだ。
俺は命が失われるのが大嫌いだ。
ソレが俺の業。
そのことを再確認したとき、俺はあることを決めた。
「だから、レクス、カウス。皆を守ってやってくれ」
彼らに力を授ける。目に見えるものだけでもいい。守れるように。
俺のエゴに、彼らは力強く、頷いてくれた。
その事に感謝しつつ。
これからフラクペネイトへ着くまで。
彼らを鍛えぬく!




