ルート
ダンジョンから戻ってきて、その翌日。
私達は慌しく出発の用意をしていた。
と、いっても、馬車の荷台への積み込みなどは私達はタッチしていない。
私達は各自個室を使わせてもらい、昨晩はそこで休み、そこで準備をしているところである。
今行っているのは、今後のためのポーション類の用意や携帯できる装備の点検などだ。
ネクさんは、昨日食事が終わると、私に体の主導権を移し、接続を切ってしまっている。
一度接続してからというもの、繋がっているかどうか、何となく把握できるようになった。
神界サイドから対応をするらしい。
私たちにとっては雲の上の話過ぎてどうすることも出来ない。
なので、堅実に出来ることをやることにしている。
目下、私の悩みは装備品の調達だ。
ショートランスは魔獣に飲み込まれ、エストックはネクさんの技で蒸発した。
鎧も穴だらけであり、ネクさんが帰ると同時に衣服が元に戻ってしまった。
そのため、私の装備は現在、一切無い状況であり、一応必要なものとして用意をして貰ってはいる。
そしてもう一つ、昨日手に入ったスキルの確認だ。
コレまでに無いほどの大量のスキルだったのだが、その大半……いや、ほぼ全部と言っていい量が封印されていた。
一応、使うことができるスキルも有るのだが、どうも、ネクさんが使ったときよりも効果が低下しているようだ。
使えるようになったスキルは
『思念共有』『超速再生』『高速思考』『空間収納』『装備変更』『居竦む眼光』の六つだけだ。
『思念共有』は相変わらず、送信しか使えないが、緊急の連絡には使えそうだ。ただ、有効距離がどのくらいあるのか……。
『超速再生』は試してないのでわからないし、そうそう試したいものではない。
『高速思考』は思考速度は速くはなるが、ネクさんの時のように時が周りが止ってしまうほどではなく。周囲がスローモーションで流れていく程に落ち着いてしまった。
『空間収納』に関しては、いろんな物を入れることが出来るようだけども。私が入れようとしても、空中に小さな口、直径十センチ程か?
それだけしか開かず、大きいものは入れられないのと、どれだけの収納量があるのかまだ不明。
『装備変更』は……そんな理由もあり、中に物を収納出来て居ない状況だ。
『居竦む眼光』はまだ試して居ない。これは……人に使ってはいけない。なんだろう、そんな気がする。
この六つ以外は全て使用できないようで、スキルのリストを見ようと意識を集中し、一覧を脳内に表示させると、通常白く表示されるスキルが、それらのスキルだけ黒く表示されていた。
それでも、使えるこのスキルは全てEXスキルであり、使いこなせるようになれば、今までのように……皆に迷惑を掛けないですむのではないか? そう思っている。
きっと私がそう言うと、皆は『迷惑なんて思って居ない』と言うだろう。
でも、私だけが自分の力で何も出来て居ないような気がする。
「ミア~。用意はできましたかぁ~?」
「ゴメン!すぐ行くから!」
そんなことを思っていたからか、思っていた以上に用意に時間をかけてしまった。
私は声を掛けると、ポーションなどをしまい、ネーネと合流をする。
装備がまだ用意出来て居ないので、今は用意してもらった服を着ている。
丈の短い厚手の白いワンピースの上から短めの黒いジャケットを羽織り、下は厚手の黒いハーフパンツを穿いている。
けっこう可愛い感じのする服で、機能性よりもどちらかといえば、デザイン性を重視しているのではないだろうか?
それでも、動きやすさはあり、このまま胸当てや篭手、脛当てなどの軽装備を着用できれば機動力を損なうことなく、装備を整えられると思う。
やはり、レクスのような盾や鎧での防御力かを求めるのは無理がある。
カウスのように機動力で回避を目指すべきなのだろうが、どうやればああいう風に動けるのだろうか……。
そんな思いを浮かべながら、私達は昨日食事を取ったホールに集まる。
「みなさん、良く休めましたか?」
そこにはこの都市の主しにして、魔神のミネルバがお茶を飲んで寛いでいた。
「はい、部屋をご用意していただき、ありがとうございました。必要な食料も含め、何から何までお世話になって、なんとお礼を言っていいモノか」
ミネルバのその言葉に、私達を代表し、レクスが感謝を伝える。
頭を下げ礼を言うと、私達もミネルバへ礼をする。
事実、お金が乏しい私達にこの援助はありがたい話だった。
テーブルに着き、簡単な食事を取りながらのミーティング。
私達の今後のルートと、スケジュールの確認である。
本来だと昨日のうちに行うべきだったのだが、どのみち、この都市以降の食料調達が厳しいことから、一月分の非常食は馬車に積んでおくことになった。
それ以上の量は馬の負担が増えるということから、レクスのバッグに収納予定である。
私の『空間収納』がもう少し口が大きければ、もっと応用が出来たのだが……。
「それで、どのようなルートを通る予定ですか?」
「はい、当初の予定のオーレアを経由して……というのは難しいようですので、別ルート通りたいと思っております」
レクスはそういうと、地図を取り出し、進行ルートを記載していく。
進行ルートを線で引き、大きく分けて四通りのルートが出来上がった。
「フラクペネイトはここから見て、若干西によってはいますが、ほぼ北。最短の直線およそ二十日前後で到達できるでしょう。しかし、無補給での直通はリスクが大きすぎます。そこで、迂回ルートを四つ計画しました。」
そう言うとカウスはそのルートの解説を行う。
「一つ目はこの都市より北北西に位置する街を経由するルート。距離的には此処から十日ほど、さらにそこからフラクペネイトまでは北に十三日前後でしょうか」
「二つ目は真北にある都市を経由するルート。こちらはそこまでの距離があり、おおよそで十九日。さらにそこから北西に進んで六日ほどフラクペネイト」
「そして三つ目ですが、二つ目の迂回ルートになります。ここから東北東に進み、街を1つ経由。ここまでは一週間程でしょうか。そこから半月ほどかかりますが、北北西に進めば、二つ目と同じ街につくことができます。あとは先ほど同様のルートを通ります」
「そして四つ目、可能な限り、オーレアから距離を取って進むルートで、三つ目のルートから更に一つ街を経由します。ただ、このルートを通れば、一月を越えるほどの期間移動に費やさないといけなくなります」
レクスの説明を聞きながら、私達は地図を見る。
当初のオーレルを経由するのは私の故郷だから、という理由だけであった。
故に、危険と判断した以上、迂回するのは当然だろう。
では、残りのルートの中からどれを選択するのか。
無論、これはある程度の大きさの街を通った場合であり、地図に載って居ない小さな農村などいくらでも有るだろう。
だが、ある程度の補給を考えるなら、都市は経由したい。
若干唸りながら考えていたベオが、ミネルバに知恵を借りるべく、質問を投げかけた。
「どこを通れば安全か、判りませんっすか?」
確かに、ミネルバの知恵を借りることができれば、ルート選択は安全になる。
が、ミネルバの答えは私が期待したようなモノではなかった。
「すみませんが、あくまで私の知恵は踏破報酬なので、通常はお教えすることが出来かねるのです。今から皆さんが試練に挑まれるのでしたら。迷宮は免除して、試練のみを受けることができますが……いかがしますか?」
なんでも、ダンジョンに潜らなくとも、主と話すことさえ出来れば、その場で試練を受けることができるという。
私はどうするのか? とレクスを見つめ、判断を待つ。
皆の注目が集まる中、レクスはミネルバに目をやると、レクスは試練を受けるの断る。
「いや、ここで試練を受けることは出来ません。二度目は手を抜いてくれるほどに、貴女は甘くないとお聞きしますが?」
「ふふ、そうですね。それが懸命だと思います。ですが、強いて助言を言わせてもらえれば、待ち伏せを行うほどの余裕があの国にあるでしょうか?」
レクスの言葉に笑いながら答えるミネルバ
そんな二人にやり取りを見ながら、さきほどのミネルバの言葉を考える。
余裕が無い?
「そうか、俺たちは有効化出来てないが、フラクペネイトの東南東に転移門がある。そこからだと街を1つ経由しても1ヶ月は掛からずフラクペネイトまで行けるのか」
地図を見ながらカウスが気がついて答えを出す。
そうか、いくら警戒をして、密偵や刺客を放っても、そもそものフラクペネイトと交易をしている国が有る以上、人の流れを止めることができず、軍そのものを動かせば、見つかる可能性も有り、開戦に支障がでるのか。
つまり、どの道全てのルートで網を張ることが不可能ということか。
「ふむ。という事は、あまりオーレアから距離を取って軍を警戒をせず、最短のルートを通っても大きな危険性は無いということか」
「あくまでも可能性だけどね」
じゃあ、ルートはどうするのか?
「決めました。一つ目のルートを通っていきます。次の目的地はこことフラクペネイトのほぼ中間に位置する都市」
カウスが地図を指差し、その名を告げる。
「迷宮都市:ウォッドベーカー」
この都市から約十日の位置にある迷宮都市だ。
間もなく、旅路が再開しようとしていた。




