その業《サガ》、神であるが故に・・
※人口数を変更しました。
此処は迷宮区の一角。
普段、お茶を飲んだりと寛いでいる一室である。
俺はオルの話を聞き終わり、現状に把握に努めていた。
状況はかなり悪い。完全に先手を打たれてしまっているいうことか。
『アレフがこの様な手に出るとは想像していなかった。これではベルクを拘束することが出来ない……。恐らく、襲撃は再度あると思っていいだろう』
「いや、魔王がこの件に関与しているということは、向こうにもメリットが有ったのだろうが……」
魔王は魔族のトップ。それが個人的な理由で関与はしないだろう。
という事は、魔族サイドにもメリットが有る。そうではないのならば、もしくは……。
「オル。あのハゲが戦争を起したい。そこは判る。だが、目的は何だ?」
背後に居るアレフは一先ず置いておくとしても。 流石に、手段が目的になってしまっている。という事は無いだろう。
『言いたくは無いが、恐らくは獣人の殲滅だろう。アイツは自身の神としての尊厳を一番に考えている。十年前の怨恨を晴らすため、神獣と、あの時の標的だった獣人を怨んでいるのだろう。
「そうか、よくわかった」
自身の尊厳のため……、そして戦争をしたいという欲望の為に動くのか。
あのハゲが自身の欲望の為、度を越えた干渉を持って他国を攻め入る。
俺はこの一件が起す影響について考える。
脳内でシミレーションを行い、戦時予想を立てる。
攻める国、コレはハゲが主神として君臨くる国。ミアの故郷でもある、オーレル。
攻められる国、コレはベオの故郷、フラクペネイトだ。
戦力差を考えたとしても、元々オーレアは軍国。
10年前の壊滅的被害を差し引いたとしても、あの時、既に出陣していた軍隊はそのまま残っているはず。
現在のオーレアの総人口は不明だが、恐らくは10万と言ったところではないか?
と、すると、何処までの戦力を出してくるかは不明だが、敵兵力はおよそ1万前後だろうか。
対して、フラクペネイトは人口は一万程だろうか。
そして恐らく、戦える者は二割程度だろう……。
(戦力差約五倍か……)
ミア達が開戦前に間に合ったとして、戦争から逃れる為に避難を開始。
一万もの人員の避難、それは簡単なことではないだろう。
そもそも、避難中ソレだけを生かす食料が無い。
普段の生活であれば、狩猟と農耕で生活が出来るだろうが、避難ともなれば、大量の非常食が必要となる。
それだけの量を確保するには一・二ヵ月では足りないだろう。
では、一時的な難民として近隣の都市に受け入れてもらうか?
いや。その場合、矛先がその都市まで及んでしまうだろう。
それを踏まえても、受け入れは無いだろう。
進軍速度次第では有るが、戦える者が殿として時間を稼ぎ、その間に非戦闘民を避難させる。
コレしかないのだが……。
相手の目的が殲滅であれば、それだけの戦力差、2隊に分けられれば、それだけで蹂躙されてしまうだろう。
絶望的な戦力差。
逃げてもダメ。
避難も困難。
間違いない。これは……。
「詰んでしまっているな」
俺は誰とも無く、自嘲した。
全て遅すぎたのか。
俺の行動も、彼らの派遣も……。
そんな俺にオルは声を掛ける。
『そうだな、覆すには…。お前が関与するしかないだろうな』
「ばかな! そんなことをすれば。俺は……俺は……ソレが許される者じゃない」
『だが、お前の事だ、その時になって悔やみ、後悔し。そして手を伸ばす。ああ、アレフの言葉ではないが。確かに、お前を再度地上に降臨させる。ああ、そうか。ハハハ、簡単なことだったんだ……アレフが言った通りだったか』
不意にオルは何かに気がつき、軽く笑いをあげる。
「何を言っている?」
訝しげに俺が尋ねると、オルは何てことは無い、と確信を話す。
『アレフが言った通りだと。深く考えすぎていたのだ。ベルクが己が欲望の為、民を扇動し、獣人を襲う。そして、アレフや魔王の理由も簡単だ。“かつてのお前を見たい”』
その言葉に俺は返す言葉が浮かばなかった。
もうソレは神代の時代だ、幾万もの昔の話だ。
俺のことを知っている、覚えている者など古神や魔族、一部の新神などのはずだ。
「そんなことのために!? それだけの為に、また世界を割る危険を冒すのか!?」
『ここまでお膳立てが出来ているのだ。恐らく、同意し、同調した者も少なくないだろう。それに忘れたのか? 神魔とは……そういう存在だぞ? 享楽の為に、生きる。その側面もまた、神や魔族の業だ』
オルは結局、一人で納得してしまい、そのまま通信は終わった。
結局の所、何一つ解決をしていない。
襲撃の危険性もまだ残っている。
フラクペネイトに着いても移民の用意は出来て居ない。
移民先の此処へ導くにしても距離があるので時間が足りない。
攻めてくる兵を退けるにしても戦力差がありすぎる。
それでも、俺は必ず、皆を生還させ、あのハゲの鼻をへし折る。
そのために、あいつらに出来ることがまだあるはずだ。
そう思い、俺は彼らへの訓練のプランを練り始める。
あくまでも、道程は彼らが選択し、行動も彼らの意思だ。
だが、その為の手段は、俺が必ず用意する。
俺は気がついていない。オルが指摘していたこと。やはり、俺も自身の願望に沿って動く神だという事に。
ソレが、いや、ミア達に出会ったことが、彼らへの関与が、世界への干渉の第一歩だったという事を。
どこの世界においても、神話に出てくる神や魔族は基本自分本位なものです。
そして同時に、象徴する事象に忠実であり、それに関係する欲望のためにうごいています。
戦神であるベルクは、戦争を起こし、勝つことに。
軍神であるアレクは、軍略を練り、ヒトを動かし目標を達成することに。
運命の神であるオルは、他者の運命に介入し、導くことに。
それぞれが断ち切れない、存在意義と同等の業をもっています。
では、命の神であるネクは・・・・・?




