舞台の裏側で
俺は肉体の主導権をミアに返した後、一度拠点の迷宮区に戻った。
向こうではミネルバの協力の下、明日の出発に備えた準備が行われているだろう。
今回の攻略で手に入れていた素材などは全て売り払い、出立の資金にするそうだ。
それでも大幅に金額が不足しているが、そこはミネルバからの融資で賄うことになった。
あいつらのお金の巡りの悪さ……このまま行けば、“金欠”や“貧乏”などのマイナス称号が付きかねないな。
他の派閥の下部クランなどは資金面では不自由はしてないのだが。
この件が片付けば金策も考えてやら無いといけないようだ。
その為にも、俺が出来ることをやるか。
俺は現状の説明と対策の為、オルへと連絡を取った。
既にミネルバや魔族側から連絡が行っている筈なので、一旦あのハゲを拘束して事情説明をさせることが出来るはずだ。
そうすれば、かなりの期間時間稼ぎをすることが出来る。
物的証拠が無い為、処罰は出来ないが、今はソレで十分だ。
俺はそう考えていた。
しかし、現状は思っている以上の速さで推移し、既に止めることが出来ない程にまで進んでしまっていたのだった。
『すまん。全て後手に回ってしまった。今回の一件は更に裏で別の思惑が動いていたようだ』
俺がソレを知るのはオルのこの言葉を聞いてからだった。
話は少しさかのぼる。
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先ほど、ミネルバからの秘匿回線により、ネクの眷属と配下を襲撃する計画が動いていることを知らされた。
彼女とは幾つかの公的な回線の他、緊急時などに備えた秘匿回線も設定してある。
友の娘である。有事の際はいつでも影から助力できるよう用意をしていたのだ。
「それでは、一両日中には刺客が動くわけだな?」
『はい、オルおじ様。標的はフラクペネイトへ向かうと思われる冒険者。とりわけ、ミアはお父様の眷属になったようですので。逆恨みもあり、標的とされたようです』
回線越しに、ソプラノの可愛らしい声が聞こえてくる。
何度か直接会ったこともあるが、父の親友として見てくれており、おじ様と呼んでくれる。
女性らしい趣味を持ち、すばらしい女性だとは思うのだが、俺から見ても、かなりのファザコンなのが唯一の欠点だろう。
まぁ、そこは俺の娘たちも変わらないのだろう。
全員が全員、見事な……いや、何と言うか、短絡思考というか……大雑把というか。
男の影も全く無く、仕事一筋に育ってしまった。仕事中は姉妹関係無く、先輩・後輩としか扱わない有様だ。
まぁ、最近は三女がある男を気にしだしたようで。しかも相手が相手である。
俺としては上手くいってほしい。と、どちらの立場からも思うのだが……本人次第であろう。
と、思考が逸れた。
兎にも角にも、ネクの眷属が襲撃される。
かなり急を要する事態なのだろうが、まだ起こって居ない上に、これは秘匿回線。証拠として提示できない。
「一度襲撃をさせて、証拠を取るしかないな。囮のようで悪いが。ミネルバ、襲撃後、なんとか彼らを逃がせるか?」
『やってみます。都合が善いことに、ミアはそのクラスもあってかなり注目を集めていましたので、称号を付与していますよ。刺客はそれを目掛けて襲撃してくるでしょうから、網を張っておきます』
誰に似てしまったのだろうか? エモノを狩るかのように、淡々と罠を仕掛けていく。
この面は間違いなく、父親ではない。アノ母親の影が見え隠れする。
俺は囮として使われる眷属に心の中で詫びると、その作戦を了承する。
「それで行こう。ただ、わかっていると思うが……くれぐれもその眷属の者を害されないように」
『承知しております。それに、私の迷宮でお父様の眷属が被害を受けると……合わせる顔が有りませんので』
理由としては後者が強いようだが……危険性はわかっているようだ。
ネク本人は手を出さない、出さないと言っているが、あれでいて情に厚い。
眷属が手を出されとなれば、相応の報復を考えるはずだ。
なんとか最悪の事態だけは回避しなければ。
その時、そう思い、動いていたのだが、襲撃後、ミネルバからの連絡があり、事態は急変した。
「なに!? 眷属が殺され、ネクが降臨しただと!」
『もうしわけ有りません。ただ幸いにも、眷属を依代としての小規模なものでしたので、私の迷宮内なこともあり、情報は外には漏れていません』
その事に一先ずの安堵をしたが、事態は悪いほうへと進んでいた。
眷属が害された以上、ネクは神罰を発動させたはず。
名と共に封印している権能の半分。
これの封印を解く鍵を手に入れてしまったことになる。
このままでは本当に終末戦争を引き起こす引き金に成りかねない。
「俺はこのまま直ぐに臨時議会を開き、対応を取る。そちらも大公に連絡をとって魔族サイドからこちらへ提議してくれ」
『わかりました。間もなく、お父様がこちらへ来られることになっておりますので、その前に済ませてしまいます』
「頼んだ」
回線を切ると、俺は急ぎ、議会を開くための人員の召集に取り掛かる。
臨時議会を開くには、俺たち『ベララスカ』ともう1派閥『タルダロス』双方含め過半数の承認か、双方の議長承認が必要となる。
議長だが、片方は俺、もう片方には軍神のアレフが就任している。
半数の承認をあるつめるよりも、アレフに連絡を取って議会を開く手続きをしたほうがいいだろう。
そう思い、俺はアレフへと連絡を取った。
そして、俺はようやく、事態の深刻さを理解することとなる。
普段隠してはいるが、アレフともネク同様、古い付き合いになる。
交流があるのを隠すため、会話は秘匿回線で行った。
「アレフ、緊急事態だ、時間を貰うぞ」
『なんだい? そんなに慌てて』
まだ耳に入っていないのか?
襲撃を企てた神は彼の派閥に属する者。
なのに、一切慌てることなく、余裕が感じられる。
その事に一抹の不安を感じさせながら、俺は事の顛末を告げ、事態打開のため、臨時議会を提案した。
「臨時議会を開き、第一級神のベルクに対し、他勢力の迷宮区への襲撃に関し、話を聞きたい。用意してもらえるか?」
これで一時でも拘束することが出来れば事態はこれ以上悪い方向へは進まないはずだ。
が、アレフの返答は俺の予想していないものだった
『その要請だが……らせて貰おう。理由は……そうだな。そんな襲撃など発生していないから、と言っておこう』
「なに!?」
馬鹿な! 内容を確認するでもなく、ただ、そんなものは無かっただと?
「直に魔族サイドからも事情説明の要請がくるぞ、それを無かったと……」
『いやいや、オル。そんな襲撃なんて、無かったんだよ。そういう話なんだよ、コレは』
っ、まさか!?
そして、この見計らったように、このタイミングでミネルバからの秘匿回線が掛かる。
『おじ様! 既に先手を打たれていました! こちらではこの件は無かったことにされています! しかも、対応が魔王さまから圧力が掛かっているようです!』
俺はミネルバとの回線を切ると、アレフに問質す。
「お前、魔王と何の交渉をしたのだ。わかっているのか!? このままだと……」
『このままだと、ベルクが望むままに暴走し、いよいよネクの逆鱗に触れる……かな?』
分かって、分かっていて何故……わざわざ魔族の王たる魔王にまで話を通したのか?
その為に……再び世界を砕く危険を孕むのか!
「何故だ。このままでは終末戦争が引き起こされるんだぞ!?」
『いいじゃないか。そのおかげで、かの神は再びその名を掲げ、地上へと再臨する。……最古の守護者の1柱。その復活だ!』
アレフはその後、一言残し、俺がその言葉に反論する間もなく、回線を切った。
……いや、時間が有ったところで、俺は反論をすることが出来ただろうか?
“お前も、本心ではソレを望んでいるんだろ? 皆そうさ”




