緊急事態『帰還』
残りのメディューサワームだが、あの後、ものの数分で駆逐を完了した。
確かに一般の冒険者には強敵であり、しかも数が揃っていると相当の火力が無いと、あの再生能力のだ、かなりの消耗戦になってしまうだろう。
俺を除くメンバー……この場合はミアも除くと言ったほうがいいのだろうか?
で、コイツを攻略しようとするならば、移動速度が遅いことを利用し、レクスにヘイトを取らせてネーネの風精霊と炎魔術の併用で焼き払うべきだったのだろう。
それには、やはり、詳細な解析能力が必要なのだろう。
事前に再生能力と毒性を把握できていれば、近接で挑むことを避けていたはずだ。
コレに関してはミアの神眼では少し荷が思い。
アレはあくまでも世界書からの検索でしかない。
神眼でその事象を見て初めて検索を実施するため、高性能ではあるが、どうしても後手になってしまう。
もう少し、その辺も学ばせるべきなのであろう。
「まぁ、いざとなれば専用の特訓メニューを用意すれば善いか」
『何か……危ないこと考えていませんか?』
イヤイヤ、ソンナコトハナイ。
「後々の事を考えていただけだ。ソレよりも、一旦迷宮を抜けて安全を確保するぞ」
『は~い。わかりました!』
俺はミアとやり取りをかわしながら、出口へと向かう。
現在、迷宮区は封鎖されているので、周囲には仲間のメンバーしか居ない。
「え~と、この場合、何とお呼びしたらいいのですか……とりあえず、ミア(?)でいいでしょうか?」
はたから見れば独り言を言っているようにしか見えないであろう、俺に、レクスはそう尋ねてくる。
名を伏せるよういい含めていたので、ソレをしっかりと守っているようだ。
「周囲の耳に触れないのであれば普通で構わん。特に今は誰も居ないからな」
俺の言葉に安堵のため息をつくと、改めて、レクスは礼を述べる。
「ネクさん。このたびは救援をしていただき、ありがとうございました。……ところで、ミアの方は無事なのでしょうか?」
『皆! 私は無事ですよ!』
ああ。皆にはミアが死んだ後、中身が俺に切り替わったため、安否がわからないのか。
ミアのこの声も周囲には聞こえず、俺にしか届かないからな。
だが、この状態は何かと不便だ。
俺は少し思案すると、ミアにスキルを1つ付与する。
……ここまで複数のスキルが追加されてしまったのだ。いまさら汎用のスキルくらい構わないだろう。
そう思うと、俺はミアに『思念共有』を与えることにした。
これは一報通行ではあるが、考えていることを他者へと口に出さず伝えることが出来るスキル……まぁ、簡単に言うと。送信のみのテレパシーだ。
これによってミアの言っていることが皆にも伝わるだろう。
「と、言う事で、ミア。再度、無事の報を伝えろ」
『はい。皆!心配を掛けましたが、無事蘇生していただきました!』
おいおい。なんだ、無事蘇生してもらったって……?
歳相応……いや。なんだか、かなり幼い思考な気がする……。
いや、これ以上深く考えるのはマズイ気がする。
強いて言えば、俺の精神衛生上よくない気がするのだ。
一応の無事の報を受け、皆安堵したようだ。
ついでに、どうして俺がミアの体を使っているのかも説明しておく。
「さて、安堵したところで、この迷宮から帰還する。恐らく、街にも奴らの仲間が居て、お前達が寄った宿屋はマークされているだろう。無論、移動手段で使った馬車もだ」
俺は簡単ながら状況を説明する。
俺の言葉に息を呑む面々。
騒がしかったミアもこればっかりは黙り込んでしまった。
ヤツらの目的が、獣人に組する……要は、これから起す戦争の障害になりかねない者の排除であるならば、襲撃はコレだけではないだろう。
セカンドプランとして、移動の道中での襲撃か、あるいは罠か。
いずれにしても、一度撒く必要があるだろう。
それに、彼らには腰を落ち着かせてから今後を話す必要も、休息も必要だろう。
「とりあえずは、俺の知っている宿屋に行く。そこなら外部に干渉されることはないだろうからな」
彼らは俺の言葉に頷き、同意を示す。
そうと決まれば、とっとと戻ろう。
俺は先導し、出口へと進むのだった。
迷宮から出た俺たちは、封鎖された混乱に乗じて、移動を開始した。
一時的とはいえ、迷宮が封鎖され、中から逃げ帰ってきた冒険者たちはその惨状を口々に語っていた。
緘口令などは布いて居ないので、その情報は直ぐに広まったようだ。
迷宮管理者側から正式な発表があるまでこの混乱は続くだろう。
今、俺が移動しているのは、中央区。所謂上層区だ。
通常の迷宮都市は管理している神魔が住む居城を中心に城下町のような造りに なっており。中心部に行けば行くほど高級な商店や立派な建造物が見受けられる。
レクスたちが普段取っていた宿は、外周区に近い酒場兼宿屋だったそうだ。
なので、彼らの財布事情を加味しても、中央区には足を運んだことがないのだろう。
周囲も冒険者よりも、商人などの比率が増えてきており。身なりも相応である。
この雰囲気に落ち着かないのか、少しソワソワしながら着いて来ている。
迷宮を出てから数十分歩いたところに目的の宿屋があった。
総レンガ造りの美しい様式。
言うなれば、宿屋ではなく、ホテルといったところなのだろう。
「こ、ここって……この都市で一番高い所じゃないですか……?」
この建物を見て、完全にレクスとカウスは腰が引けている。
残念なことに彼らは根っからの貧乏性なようだ。
「大きいっすね! こんなデカイ宿屋初めてみたっすよ!」
「ほんとですねぇ~。部屋もどれだけ有るんでしょうかぁ~?」
『あ、みてください! 入口に人が立ってますよ! あれって警備兵なんですか?』
他三人は初めて見るモノに瞳を輝かせ、はしゃいでいる。
……一応命を狙われたはずなんだが……タフと言うべきなのか、怖いもの知らずというべきなのか……?
それと、ミア。あれは警備兵じゃない、全然違う。せめてドアマンと呼べ。
「ほら、行くぞ。撒いたとはいえ、生存が知れ渡るのも時間の問題だ」
俺はそう言うと先に宿へと向かっていく。
そんな様子を見て、慌てて俺の後ろを歩いてくる。
入口まで来ると、そのドアマンは恭しく礼をした後、目的地の案内を告げる。
「ようこそいらっしゃいました。主がお待ちです、最上階の広間まで、お越しくださいませ」
「分かった。こいつ等の分の部屋と食事の用意は大丈夫か?」
恐らくはすでに手配が出来ているとは思うのだが、一応の確認をしておく。
「はい、お食事の方は既にご用意をいたしております。お部屋の方はご用意いたしますので暫くお待ちください」
お? 食事は既に準備済みだったか。部屋も今から用意するようだし、まぁ、問題ないだろう。
「ありがとう。何かあったらまた頼む」
「はい、何なりと御申しつけください。それでは、ご案内いたします」
その言葉と共に、俺たちを最上階まで案内する。
外観と同じく、内装も相当に凝っており、高級感がただよっている。
レクスとカウスは終始小さくなっていたのが少し笑えてしまった。
逆に残り三人は終始はしゃいでいたのだが……
俺たちは案内されるまま、最上階へと足を運ぶ。
最上階はこれまで以上に華やかな造りとなっていた。
だが、成金のようなケバケバしさや、くどさなど一切無く、洗練され、落ち着きの有る美しさを演出している。
最上階、そこはVIPルーム。
限られた存在の為だけに作られたある種、プライベート空間なのである。
通路の横にはテラスへと続く道があり、よく、ここで焼き菓子と紅茶でもてなされたものだ。
ほんの数日前にここに来て……ここから脱走した記憶が蘇る。
俺の複雑な心境を感じてか、ミアが心配そうに
『だいじょうぶですか?』
と聞いてくる。
む……らしくないな。
俺たちは、案内された広間の前にたどり着き、その扉を開ける。
目の前には大きなテーブルと料理が並び、そして美しい女性が立っている。
外見の年齢的にはまだ少女と呼んで善いだろう。
茶色に白いメッシュが入った髪。西洋人形を思わせる美しい素顔。
クラシックなドレスを見事に着こなし、その少女は華を思わせる笑顔でこう告げた。
「よくお越しくださいました! お父様!」
皆が驚愕の視線を向けるなか、その少女、ミネルバは俺に笑顔を向けるのだった。
これで緊急事態を抜けることができました。
……ネクにとってはある意味で緊急事態の発生なのかもですが。




