緊急事態『警告』
突然上がった悲鳴に私達は一瞬気を取られる。
が、その後の判断は早かった。
「いくぞ! そんなに遠くない!」
「「「了解!」」」
レクスのその一言で私達は直ぐさま戦闘を中断。移動の用意を行う。ベオは腰のベルトに着けている金具を起し、それを踏み台変え、ネーネを背負う。
先ほど悲鳴の上がった場所へ走り出す。
走りながら、襲い来るモンスターたちをかわして行く。
狭い通路だが、モンスターもあのプチ神獣ほどではない。
コレまでの経験を活かし、皆、今までにない速度で走ることが出来るのだ。
走り出してから1分も立たないうちに目的の場所へと到達した。
そこは少し開けた分岐路で、私達全員が散開しても余裕がある広さだった。
着いた私達が目にしたのは、悲鳴を上げた要救助者ではなく。
あたり一面に散らばった夥しい血痕と、壊れた装備品だった。
……ここで何が有ったかは想像に難しくない。
が、肝心の悲鳴を上げた冒険者達が居ない。
そして、ここのダンジョンで発生するのは小型の蟻型のみのはずである。
事態の全体像が一切見えてこず、そのことに不安が募る。
「誰もいない!? いったいどうなっている?」
カウスも事態を掴んでおらず、周囲を警戒している。
私はあまり直視したくは無いが、血溜りを視る。
神眼での解析によれば、ここで複数人の冒険者の血が流れたのは間違いない。
が、悲鳴からここまで1分もかかって居ない。
私はその事をみなに報告しようとした瞬間。
「た、たすけてくれぇぇぇ……ぐぎゃあああぁぁ!!!」
「いやぁぁぁぁ!!! ごぶぅぅ・・」
再び、悲鳴……や、最早断末魔と呼んでいいだろう。その叫びが聞こえてきた。
先ほどよりも近い。
だがコレは異常だ。
私達はこの先へ向かうことが正しい選択かわからないでいた。
(―――てく―――だ―――い)
その僅かな逡巡が。
(にげ―――く―――さい)
決定的なモノとなって、
(―――にげてください!!! ミア!)
私達に降りかかる。
「え?」
不意に聞こえた警告。
その何処かで聞いたことが有る声を脳裏で聞きながら。
私達は通路から血まみれで歩いてくる冒険者を見つめていた。
「おい、大丈夫か! 何があった!!」
レクスが周囲を警戒しつつも身を案じ、飛び出す。
「――――――――ままに」
目の前の冒険者は、虚ろな表情で何かを呟いている。
聞き取れないが、その冒険者が顔を上げこちらを向く。
その冒険者と『眼』が合った瞬間、私の脳裏に警笛が鳴り響く。
私はとっさに思っていることを叫んでいた。
「にげて! レクス!!!」
「我等が神の御心のままに!!!!!!!!!!!!!」
しかし、私の警告とその絶叫は同時であった。
その冒険者が叫んだ瞬間、彼の肉体が急激に膨張。
まるで風船のように膨らんだかと思った瞬間。
周囲に血を巻き散らし、破裂した。
「レクスっ!」
カウスがレクスの身を案じ叫ぶ。
血の煙が晴れると、そこにはレクスが盾を構え、立っていた。
アレだけの爆発だったのに血が1滴たりとも着いていない。
レクスの周りにはうっすらとだが、球形の青白く輝る膜が見える。
この時私は知らなかったのだが、コレはレクスが新規で取得したスキルだった。
名は『城壁』
自身は動くことが出来ない反面。自分中心に防御フィールドを形成。
“有る程度”の攻撃を弾くことができるそうだ。
有る程度の範囲は、盾の強度、自身の技量、守る範囲で変わるそうだ。
「無事だったっすか!」
「来るな! ……戦闘の用意だ」
安心し、近づこうとするベオを制し、警告を発するレクス。
私達はその言葉に気を引き締め、武器を構え周囲を……いや、レクスの眼前を注視する。
先の爆発で冒険者は血肉となり粉々になったが、目の前のモノを残していたようだ。
暗いなか、それは蠢き這いずる。
一見すれば……ソレはヘビなのだろう。
数多のヘビが纏まって蠢いている姿。
最大の違いは頭は多いのだが、尾は1つだけなのである。
全長およそ3mほどか?
コレがどうやって人の身に入っていたのか?
私は、ソレがあの冒険者の体内から出てきたという非常識を受け入れ、ほぼ無意識のうちに、その異形を解析する。
『メデューサワーム』
解析ででたその名前に聞き覚えは無い。
が、ソレを視た私は皆に警告を発する。
「おそらく高位魔獣です! 気をつけて!!」
その言葉が引き金になったのだろうか?
異形の蛇は私達に襲い掛かってきた。
数多ある頭が個々にレクスへと殺到する。
レクスは『城壁』を解除し、バックステップでその蛇頭を回避する。
どんな勢いで襲い掛かったのか。その頭1つ1つが頑強なはずのダンジョンを抉る。
私は襲い来るその魔獣を視ながら、さらに情報を集めようとする。
と、どれだけの眼があるのか判らないが、その魔獣の瞳が1つ、また1つと私を見据える。
それに気がついたレクスが、注意をひきつけようと挑発を繰り返す。
「チッ! オラ、こっち向け! 俺が相手だ!」
盾と片手剣を使った攻撃で蛇頭をいなしながら声を上げる。
が、魔獣は私から視線を逸らさない。
次の瞬間、魔獣の蛇頭が口を開き、紫色の霧を吐き出す。
その霧を私の視界に捉えた瞬間、ソレが何か理解する事が出来た。
「神経毒のブレスです! 吸わないだけじゃだめです! 触れないようにしてください!」
私のその声に危険性を察知したカウスが指示を出す。
「ネーネ! 風壁でブレスを寄せないようにしてくれ!」
「わかりましたぁ~。クーちゃん~、出番ですよぉ~」
ネーネの抱えるあのクマもどきのぬいぐるみが両手を振り、ネーネの声に応える。
そのぬいぐるみから精霊の力を感知したと思ったら、即時に私達個人の周りに風が巻き起こり、毒のブレスを吹き飛ばしていく。
神瞳で解析した結果、あの魔獣。神経毒で相手を麻痺させたあと、頭部の奥に隠れている大きな口で生きたまま丸呑みにしてしまうようだ。
逆に言えば、毒のブレスさえ防ぐことが出来れば、警戒の必要があるのはあの頭部である。
あの威力と速さを見る限り、防げるのはレクスくらいだろう。
魔獣は私を見据えたまま、こちらに這い寄って来ている。
(なんで? レクスの挑発が効いていない??)
私を完全にターゲットにしていることに疑問を、若干の恐れを感じつつも、私は短槍を構える。
既に、皆配置を完了し、レクスは私の正面で守りに徹し、カウスは短剣を構えて壁面を走りながら接敵している。
ベオは弓を構え、デバフ系のスキルと併用した魔力矢を射る。
ベオが放った矢が魔獣に直撃する。
あまりに頭部の数が多いため、ヘッドショットを狙わず、胴体狙いである。
しかし、矢を受けた魔獣には肉体的ダメージを与えられない。
予想していたことではあるが、私達が魔力で身体を覆い、障壁としているのと同様、上位の魔獣も同様に魔力の膜で身体を覆っている。
その魔力の膜を突破できるほどの火力か、障壁を貫通できる攻撃でないと直接ダメージを与えることはできないのだ。
当然ながら、これはプチ神獣にも当てはまり、先日の訓練の際、ネクさんから教えてもらったことだ。
私達の技量では障壁の突破は無理。
辛うじて、カウスの攻撃が突破できるかどうか、と言ったところだ。
なら、どうするか。
障壁そのものを破壊、若しくは部分的にでも脆くすればいい。
そのために、ネクさんがベオに教えたアーツがある。
そして、見事ベオはそのアーツをスキルとして習得した。
『減殺』
着弾した箇所周辺の魔力を拡散さえ、総量を減らすことができるスキルである。
コレにより、その部分に障壁を解除させ、脆くすることができれば……。
「いまっす!!!」
「「応」」
私とカウスの攻撃は届く!!
カウスが先手を取り、脆くなった障壁周辺へ左手で掌底を放つ。
インパクトの瞬間、空気が破裂する音と共に、衝撃波が波紋を打つ。
あの訓練の時、ネクさんが使った掌底打。
スキルとしてではなく、威力は落ちるものの、カウスは再現に成功。
そして、コレを受けることで更に障壁にゆがみが生じる。
更に続く右の短剣による剣舞。
魔力を帯び、スキルと併用されたソレは容易に魔獣の身体を切り付ける。
『GIIIIIIIIIIYAAAAAAAAAAAAAAA』
初めてその魔獣が中央に隠れたその口から叫びを上げる。
私はこの隙にレクスの影から飛び出す。
怯んでいる魔獣は私に対応できず、私はそのまま、その大口を貫くように槍を突き刺すのだった。
スキル裏話を活動報告に記載しました。




