修練の成果
誤字と一部修正しました。
酒場のテーブルに着き、一先ず落ち着いた私達は軽い食事を注文し、次の予定を話す。
しかし、周囲からは相変わらず好奇の視線を向けられているので、あまり大っぴらに話しはできない。
「多少は好奇に晒されるとは思ってはいたが・・予想以上だったな」
「ああ、しかし、コレでは情報収集も満足に行えないな、やはり、予定通り暫くダンジョンに篭っての金策を行うか」
レクスとカウスはこの現状を事前に予想していたようで、あっさりと今後の計画を話す。
というか、事前に予想をしてたのなら話して欲しい……。
「こんな事態になることが判ってたんだったら、一言教えてくれていても良かったんじゃないですか?」
思わず恨み言がでてしまう。
私達が仲間と話しているからか、先ほどのように、酔っ払って絡んでくることは無いが、遠巻きからの視線は減る気配が無い。
「こうなることも判っていたし、どう言った所で避けることなどできないだろうからな」
それをあっさりとカウスは言ってしまった。
確かにそうだろうけども。
「それにだミア。今後、この好奇の視線はずっと着いて回るぞ。それが、お前のそのクラスの意味だ。それは再度よく考えておけ」
確かに、コレは私が背負ったものだ。
人目に触れたとき、どうなるかを考えてもいなかった。
……なんだか、ネクさんもその片一切考えてなかったんじゃないかとも今になって思う。
コレで、神の存在を隠せなんて無理が有る気がする。
私は大きくため息をつき、現状を受け入れるのだった。
軽食が終わってから私達はその足でダンジョン区まで進む。
これからダンジョンに潜り、素材を集めて換金することで資金を得るのだ。
無論、その間に先ほどの酒場のマスターがオーレル周辺の情報を仕入れてくれるよう、カウスが頼んである。
ここも含め、この都市の酒場は全て『ギルド:知恵の梟』の傘下だそうだ。
つまり、此処の主、ミネルバの庇護下にある。
下手に注目を集める私達よりもよっぽど適任だろう。との事だった。
なので、私達はお金の、明日以降の生活費のため、素材を集めるのだ。
この素材、いろいろと種類がある。
1つはダンジョン素材。
魔素がたまりやすく出来ているダンジョン。
そのため、この中の素材は全て高濃度の魔素を含む。
無論、溜まり過ぎるとそこからモンスターが発生してしまうが、その手前のモノを採取し素材として売ることが出来る。
もっとも、天然素材なので、取り過ぎるとそのダンジョンに資源がなくなってし まうので、暗黙の了解で、狙うのは魔素の結晶体や薬草といったモノになる。
一部ダンジョンでは、採取用の部屋を作っているところもあるそうだ。
2つ目はモンスター素材
倒したモンスターは時間が立てば魔素に分解され、再びダンジョンに拡散する。
しかし、倒した後、鱗や甲殻が素材としてその場に残ることが有る。
通称、ドロップアイテムだ。
落とすのも100%ではないため、手に入りにくいのだが、色々と検証結果が上がっており、肉体の損傷を抑えることで残る可能性が揚がるそうだ。
また、生きている最中切り取ったもの。例えば、腕を1本落とすなどした場合、 その部位が高確率でそのまま残ることも確認されている。
なので、コレを狙う冒険者は切断などで部位欠損を起し、その部位を狙うか、モンスターに傷をつけず、倒すそうだ。
更に専門の冒険者は捕獲し、ダンジョンの外に持ち出すことで1体丸々素材にするそうだ。
ダンジョンの外に出れば魔素の拡散が起こらないことを利用した行動らしい。
そして3つ目、魔核である。
モンスターは魔素から生まれ出でた存在。
そしてその発生には必ず核となるモノが存在している。
普通は小石などに魔素が溜まり、それが許容量を超えて魔核となるのだ。
この魔核だが、始めは指先大の小石であってもモンスターの内部にあるときはその数倍の大きさまで魔素の結晶で覆われる。
その為、この魔核は高濃度の魔素を含んだ触媒として錬金術や魔術などに重宝される。
採取は倒した直後、拡散する前のモンスターから剥ぎ取ること。
また、この魔核はモンスターの弱点でもあり、これが損傷するとモンスターそのものが弱まり、破壊されることでその場で魔素に戻り、拡散される。
今回、私達が狙うのは2と3だ。
ここの蟻型モンスターは硬い甲殻を有しているのでコレを防具に使いたがる冒険者は多い。
また、魔核は薬品の製造をはじめ非常に重宝されるので常に需要があるからだ。
それを踏まえた上で、ダンジョンである。
前回はネーネの炎系魔術を主軸にしたため、損傷が激しく、採取どころではなかった。
だが、あれから私達も成長したのだ。
フェリアスさんから教えを受け、アーツを使えるようになり、そして何度と無く死ぬ思い(……実際に死んでしまったが)を経験し、ネクさんの鬼のシゴキを受けたのだ。
……本当に鬼かと思った。
肉体の疲労で動けなくなっても、強制的に起すのだ。
怪我をしても、強制的に癒すのだ。
挫けそうになれば、より恐ろしい叱咤が飛んできて挫ける心を更に粉砕する。
『お前達は実力も全然んだが! それ以前に経験が絶対的に足りない!!』
思い返すだけで、へんな汗がでる。
だがそのおかげで前回苦戦したこのダンジョンをスムーズに進んで行く。
「レクス、そちらに3匹いったぞ!」
「了解した、おら、こっちこいや!」
カウスが遊撃として前線で踊る中、そこから漏れた数匹がこちらへ襲い掛かる。
だが、間にレクスが割り込み、挑発をかけ、注意をレクスに向ける。
その隙に、私とベオとで蟻の頭部を狙い、仕留めるのだ。
蟻型モンスター、私の眼で見たところ、名前は“ソリッドアント”となっている。
恐らく、これがネクさんとリンクすることで得られる知識というモノだろう。
更に良く眼をこらし、頭部の急所に向かって短槍で一突きにする。
訓練の時に言われたのだが私には剣が向いていないそうだ。
厳密にいえば、細剣など突きに適したものなら。「まぁ、なんとか」らしいが、片手剣をはじめ、斬ることを念頭に置いた武器では「う~ん。どうだろう?」といった感じらしい。
なので、私は使用している武器を片手剣から突き主体の武器に変更している。
今回持ち込んだのは短槍である。
細剣だと、魔力コーティング状態でも蟻の装甲に負ける可能性があるからだ。
なので、取り回しのし易い、1M程度の短い槍を使用している。
片やベオは弓を構え、魔力で練った矢を番えている。
任意でボルト系魔術が発動出来るようになったが、まだその射出が上手くいかないそうだ。
なので、形だけの弓を構え、実際に撃つ動作を取ることで発射している。
威力の方もかなりのモノで、通常の矢だったころは弾かれていた装甲もなんなく貫通している。
射撃には「速射矢」のみをボルトとリンクさせているそうだが、ゆくゆくは複数を並列リンクさせたいそうだ。
盾になっているレクスも更に硬くなっている気がする。
複数から襲われてもその場から1歩も下がっておらず、また、後ろへ逸れていかないよう、適度に盾でモンスターを弾いている。
レクスは今回の旅に向け、盾を新調している。
前よりも小ぶりになってはいるが。片手で十分扱える軽さをもっている。
その分、守備面積が狭くなるが、そこは歩法とアーツでカバーするそうだ。
なにやらさらに奥の手があるそうだが、秘密と言って教えてくれなかった。
秘密といえば、怪しいのがもう1人。
単騎で複数のモンスターを相手にしているカウスである。
もともと、スキルの立体駆動をもっていたので、機動力が高かったのだが、ネクさんのダンジョン攻略の際、瞬動術を会得し、ソレを「ダッシュ」とリンクさせているそうだ。
その為、高い機動力を有し、ダンジョンを縦横無尽に走り回っている。
ベオほどのスタミナが無いはずだが、走り方なのだろうか、始動時に大きく蹴り込み、後は滑るように移動している。
「シッ!」
掛け声とともに大ぶりのナイフがきらめき、蟻の頭部を切り落とす。
攻撃の1つ1つにアーツとスキル、そしてナイフの技が組み込まれている。
つまり、その攻撃1つ1つが奥義というわけだ。
カウスは攻撃をかわし、当たりそうになれば、それを「パリィ」とリンクさせた反撃により迎撃している。
恐らく、ネクさんとの特訓で一番伸びたのがカウスなのだろう。
「みなさんすごいですねぇ~」
と後方でネーネが応援を掛ける。
ネーネか今回は素材を回収する係りだ。
ネーネの魔術では蟻を木っ端微塵にしてしまうし、燃やしてしまう。
なので、今回は手を出さず、候補支援に回っている。
「いきましょう。クーちゃん」
そう言うとネーネは手に持って……いや、腕にしがみついている、クマ?……“クマのようなナニカ”へ声を掛ける。
私が言えないことだろうが、なかなかに前衛的な、“クマのようなナニカ”はネーネを風で包むと、ネーネは宙を滑るように滑空する。
一応の完成はしたようだが。アレは断じてクマじゃない。
あれだけ悩んでいたのに、名前もクマのぬいぐるみだから“クーちゃん”という、なんだか安直なネーミングだ。
まぁ、本人も精霊も喜んでいるようなので善いのだろう。
ちなみに、あくまでもクマのぬいぐるみに入ってるからクーちゃんらしく、別のぬいぐるみに入れば名前は再度付けるそうだ。
……それでいいんだろうか?私はわからない。
2・3時間狩り続け、かなりの量の甲殻と魔核があつまった。
「なかなかに集まったな……コレで金貨数枚分はあるだろう」
「うわぁ~凄い成果っすね! 少し前だと考えられないくらいっす!」
戦果の多さに私たちは顔を緩める。
このペースならあと1・2日で十分な額が溜まるだろう。
そう考えていたその時、
「ぎゃあああああああああああああっ!」
辺りに響く、冒険者の悲鳴。
その悲鳴と共に感じる濃厚な殺気。
ソレが、私達を再び修羅場へと誘う引き金となるのだった。




